Fatal scent

みるく汰 にい

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8話

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"ちょうどいい関係"が始まって約2週間、ちょうどいい、つまりは都合の良い相手だと解釈していたのにあれ以来接触はない。頭を撫でられたり外で手を繋ぐことはあっても、それ以上はされていない。会うのは仕事終わりの食事くらいで、ホテルに誘われることもなかったうえに、清水から誘っても良いのかさえわからなかった。藤堂は清水から積極的になることを嫌っていたことが原因で常に受け身でいる癖がついてしまっていたからだ。
けれどそれでも外で手は繋ぎたかったしヒートでなくとも恋人として体を合わせたかったことを思い出す。東雲なら許してくれるだろうか、恋人じゃないし、都合のいい関係なわけだし。


『今日は俺の家くる?金曜日だし、ゆっくりしようよ』


東雲からのメッセージ。家に行く、ということはそういう事?
清水が言わなくてもメッセージはすぐに返ってくるし手は繋いでくれる。週末に会えなくても埋まっていくメッセージに距離の遠さなんて感じなかった。東雲の"都合が良い関係"はこんなにも優しいのだろうか?今の関係でこれなら恋人なんて甘すぎて溶けてしまうだろうな。

__もしかしてぼくは、藤堂に大切にされてなかったのかな

そう考えてしまうほど、清水の"普通"と東雲の"都合が良い関係"がかけ離れていたのだ。



「清水お待たせ、行こう」

いつもの待ち合わせ場所、会社から少し離れた居酒屋の前で落ち合う。普段ならここでどこ行くかを相談して食事に向かっていたが、今日は片手にピザを持った東雲が清水の右手を握り歩き出す。

向かっているのおそらく東雲の家で、繋いだ手からじわりと熱くなる体温に少しの期待がバレてしまわないか心配だった。きっとこの期待はオメガの本能で、アルファがいるからだと自分に言い聞かせ、握り返す。



東雲の家は思っているより近く、すぐに見た事のある景色が広がった。相変わらず部屋の中は綺麗に整頓されていて東雲らしい。「ゆっくりしてて」と言いながらお皿やコップを準備する東雲に近づく。

「ぼくも手伝う、なに出せばいい?」
「ほんと?ありがとう。じゃあこのお皿並べてて、ピザ温めるからさ」
「わかった、東雲何飲む?コーラ?」
「コーラかな、ピザだし?清水は?緑茶とかならあるけど」
「ぼくもコーラにする」

この二週間で東雲との関係はがらりと変わり、他愛ない会話まで出来るようになった、この他愛ない会話になんだか心がふわふわする。それでも東雲の匂いがする部屋の中はなんだか落ち着かない。

「今日は映画見ようかなって思ってさ、ちょうど再放送するみたいだし、清水これ好き?」
「これ?あぁ、これか、普通かな?」

それは藤堂と見に行った映画で、面白くないと言っていた映画でもある。清水は好きだったが藤堂があまり好きじゃないと言うので誰にも感想を話せずじまいで好きとは言えず、一人で楽しむだけにしていたのにまさか好きとか聞かれるなんて。そういえばこの映画のパンダがいきなり歌い出すとこ、面白いんだよなあ

「俺ね、このパンダが歌いだすとこ好きなんだよね。なんで歌ったらムキムキになるんだろうって」
「え、ぼくもそこが一番面白いと思ってた!他はどこが好き?シマウマが池に落ちちゃうのに意外と泳げるってとこも良いよね」
「あははわかる、あれ?俺意外と泳げるじゃん?って顔たまんないよね」

誰かと意見を言い合うって楽しいのか、初めて気付いた。好きなものを好きと言えるのも、共有するのも、誰であろうと楽しい。
純粋に好きなものを食べて好きなものを見て話す時間が過ぎていく、一人でも楽しんでいた映画が今日は特に面白くて楽しかった。

「この映画、続編出るらしいよ。一緒に行かない?」
「いつ?行きたい。久しぶりに見たけど面白かった」
「ね、また公開したら一緒に行こう。そうだ、お風呂も準備出来てるから入っておいでよ」
「え、あ、うん。わかった、ありがとう」
「片付けしておくから、タオルとかも置いてるし自由に使って」

東雲の家でご飯を食べてだらだらしているともう23時前、お風呂ってことは…やっぱり今日はするのだろうかとか、いつも東雲から香る柔らかな匂いはこれか、なんて思いながら使うシャンプーやボディーソープに変な緊張をしてしまって手が震える。

お風呂から上がり、ふかふかのタオルで体を吹いていると明らかに東雲のものではない小さなサイズの部屋着が置かれていることに気付く。これは誰のだろうか、薄く水色がかったシャツには可愛らしい犬のイラストが描かれていて着るのが少し申し訳なくなる。

まぁこれしか着るものがないなら仕方ないか



「東雲、出たよ」

リビングへ向かい声をかけるが返事はなく、見るとソファの上で東雲は眠っていた。最近忙しかったもんな、と落ちているブランケットをかけソファの前に座った。
小さな吐息が聞こえて、テレビの音が部屋に響いている。この空間は5年間喉から手が出るほど欲しかった穏やかな空間だった。眠ってる顔すら美しいなんて、と目元にかかる前髪を掬い、肌に指先を伝わせる。東雲の肌はさらさらでとても綺麗だった。



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