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第二部
8,マナポーション
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続けてケビンが言った。
「初級ポーションはほぼこちらの狙い通りですが、中級、上級となるとカーサイト公爵家が強いですね。あとはマナポーションもですが」
「マナポーション、か」
白蛇とヘビ男のレシピは初級ポーションだったが、中級、上級のレシピではなかった。
おそらく、初級、中級、上級というポーションというよりは標準ポーションのようなものが白蛇たちの知っているレシピなのだと推測している。現にそれ以外のレシピは知らなかった。
中級、上級はそのレシピの情報を開示して確認しても初級のものとは大きく異なっており、再現することは不可能だった。それに再現したとしても中級、上級ポーションも酷い味のようである。一応原材料の一部を取り寄せてみたが、混ぜ合わせてできたものを想像するだけでもその酷さがわかる。
ただ、カーサイト公爵家も原材料の確保が難しいのか、市場には流していない。おそらくは本当に特定の客にしか売っていないのだろう。そしてそれは高価なのだろう。
魔法を使った時には疲弊するのだがこれは体内にあるという魔法の素のようなものが消費されるからであるらしく、このような魔法の素の補充、回復をするのがマナポーションである。
「マナって何だ?」とカーティスに訊いても「マナはマナです」と言われて、天才子役かふたりっ子かみたいな答えだったが、たぶん魔法や魔法の素という意味になるのだろう。
人体の構造はある程度アーノルドたちが明らかにしたが、この魔法の素が貯まっている場所や臓器がどこなのかは特定ができていない。
魔法を使いすぎて欠乏すると確かに脱力感があるのだから、身体に何らかの異常を引き起こす要因があるはずであるが、因果を示す部位がわからない。
アーノルドたちは諦めずに研究をしているのだが、契約をして魔法を使える人間を解剖なんてできない。
契約すると寿命が延びるという不思議な事実がある。契約するからなのか、魔法が使えるからなのかはわからないのだが、この事実もアーノルドたちには謎のようであるし、私も謎に思う。
カーサイト公爵家は、このマナポーションの開発もしている。
だが、これも冥界の泥水という噂だ。
ケビンを通じてわざわざ取り寄せるまでもなかったし、マナポーションのレシピが手に入った時に購入すればいいだろうと思っている。
地獄の毒薬ポーションがあれだったんだから、とてもじゃないが呑めたもんじゃないのだろう。
それでも購入する者はいて、需要はある。
主にダンジョンと呼ばれる奇妙な洞穴や長期間の遠征をしなければならない場合にいくつか用意をしておくらしい。魔法が使えなくなったら、剣術や体術を学んでいない単なる魔法使いには魔物に対してなす術がないというのはわかる。
ダンジョンの内部には貴重な財宝や資源があったり、魔物がいるという話で、他国でも突如としてダンジョンが現れて、そこを制覇するということらしい。一攫千金を夢見るのだそうだ。
バラード王国にもそういうダンジョンが出現して何カ所かあるのだが、それはバカラが生まれる前の話である。
何をもって制覇というのかはわからないが、最初に最奥部に辿り着いた者にはご褒美があるようだ。
これも不思議だが、ダンジョンの中では勝手に魔物が生まれて、討伐してもまた時間が経つと現れると聞く。だから、ダンジョンが近くにあると資源の宝庫と見る者もいれば、魔物がそこから出てきて危険だと考える者もいる。
マナポーションのことだが、このレシピは白蛇たちは知らないようだった。
「うーん、その飲み物は見たことはあるんだけど、あの不味い水と同じようなものだと思ったのよねぇ」と白蛇が、「そんな人間の飲み物知ったこっちゃねぇ!」とヘビ男も言っていた。
そんな人間の酒をたらふく呑んでどの口が言うかと思ったが、とにかく、マナポーションのレシピを入手することはできていない。クリスが白蛇たちのために酒樽を持ってくる。
「あら、これもいいわね」
呑めればなんでもいいんだろう。どうせ最初の2、3杯でもう酒の味なんてわかるまい。
私たちにとってはポーションという同じ括りなのだが、精霊にとっては同じというわけではないようだ。人間の勝手ということなのかもしれない。偶然回復ポーションのことをどこかで知ったということなのだろう。それに回復ポーションもそうだが、マナポーションというのは精霊には必要のないものなのだろう。
ただ、以前にモグラが妖精たちの存在を示唆して、ポーション作りが上手い、という話があった。もしかすると私たちが作ったポーションは元々妖精たちのレシピだと言えるのではないか。「うーん、どこだったかしら」「そんなもん覚えてるわけねえだろ!」という次第である。
あれ以来、妖精のために美味しいお菓子は開発しているが、出会っていない。
「ここからだと迷いの森にいると思うけどねぇ、うん」
王都の本邸にまでわざわざ土を食いにやって来たモグラが言っていた情報だ。土研究者のレイトがいるから、こちらにまでやってきているのだろう。このモグラが好む土で意外と作物が育つのが不思議である。
モグ子の土をカミラが持ってくると、「おいしい、です」とぱくぱくと食べる。モグ子も部屋で一人で食べるのではなく、モグラの隣でもお構いなしに食べるようになった。
このモグラの妖精情報については王都内でも調査をすると数件だけ確認できた。キャリアの情報網にもそういう話があった。
森の奥深くではなく、比較的浅いところで見たという確認情報だった。ただ、それは数年前のことである。
どこまで信憑性のあるものかはわからないが、妖精がやって来て「なんか珍しいものをくれ」という話である。人との接触はあまりないと言いつつも、猫も杓子も精霊も妖精も何かと物をねだる。
ただ、何らかの精霊と契約している場合、妖精は気づくらしい。そして興味を抱いて近づいてくるようだ。だから、契約者は遭遇率は高い。
どういう原理で妖精が気づくのかはわからないが、契約している身体とそうではない身体には、やはり何かしらの違いがあるということになるのだろう。そして、妖精が興味を抱くものを持っていれば、交渉が始まる。まるでどこかのモグラや白蛇である。
「初級ポーションはほぼこちらの狙い通りですが、中級、上級となるとカーサイト公爵家が強いですね。あとはマナポーションもですが」
「マナポーション、か」
白蛇とヘビ男のレシピは初級ポーションだったが、中級、上級のレシピではなかった。
おそらく、初級、中級、上級というポーションというよりは標準ポーションのようなものが白蛇たちの知っているレシピなのだと推測している。現にそれ以外のレシピは知らなかった。
中級、上級はそのレシピの情報を開示して確認しても初級のものとは大きく異なっており、再現することは不可能だった。それに再現したとしても中級、上級ポーションも酷い味のようである。一応原材料の一部を取り寄せてみたが、混ぜ合わせてできたものを想像するだけでもその酷さがわかる。
ただ、カーサイト公爵家も原材料の確保が難しいのか、市場には流していない。おそらくは本当に特定の客にしか売っていないのだろう。そしてそれは高価なのだろう。
魔法を使った時には疲弊するのだがこれは体内にあるという魔法の素のようなものが消費されるからであるらしく、このような魔法の素の補充、回復をするのがマナポーションである。
「マナって何だ?」とカーティスに訊いても「マナはマナです」と言われて、天才子役かふたりっ子かみたいな答えだったが、たぶん魔法や魔法の素という意味になるのだろう。
人体の構造はある程度アーノルドたちが明らかにしたが、この魔法の素が貯まっている場所や臓器がどこなのかは特定ができていない。
魔法を使いすぎて欠乏すると確かに脱力感があるのだから、身体に何らかの異常を引き起こす要因があるはずであるが、因果を示す部位がわからない。
アーノルドたちは諦めずに研究をしているのだが、契約をして魔法を使える人間を解剖なんてできない。
契約すると寿命が延びるという不思議な事実がある。契約するからなのか、魔法が使えるからなのかはわからないのだが、この事実もアーノルドたちには謎のようであるし、私も謎に思う。
カーサイト公爵家は、このマナポーションの開発もしている。
だが、これも冥界の泥水という噂だ。
ケビンを通じてわざわざ取り寄せるまでもなかったし、マナポーションのレシピが手に入った時に購入すればいいだろうと思っている。
地獄の毒薬ポーションがあれだったんだから、とてもじゃないが呑めたもんじゃないのだろう。
それでも購入する者はいて、需要はある。
主にダンジョンと呼ばれる奇妙な洞穴や長期間の遠征をしなければならない場合にいくつか用意をしておくらしい。魔法が使えなくなったら、剣術や体術を学んでいない単なる魔法使いには魔物に対してなす術がないというのはわかる。
ダンジョンの内部には貴重な財宝や資源があったり、魔物がいるという話で、他国でも突如としてダンジョンが現れて、そこを制覇するということらしい。一攫千金を夢見るのだそうだ。
バラード王国にもそういうダンジョンが出現して何カ所かあるのだが、それはバカラが生まれる前の話である。
何をもって制覇というのかはわからないが、最初に最奥部に辿り着いた者にはご褒美があるようだ。
これも不思議だが、ダンジョンの中では勝手に魔物が生まれて、討伐してもまた時間が経つと現れると聞く。だから、ダンジョンが近くにあると資源の宝庫と見る者もいれば、魔物がそこから出てきて危険だと考える者もいる。
マナポーションのことだが、このレシピは白蛇たちは知らないようだった。
「うーん、その飲み物は見たことはあるんだけど、あの不味い水と同じようなものだと思ったのよねぇ」と白蛇が、「そんな人間の飲み物知ったこっちゃねぇ!」とヘビ男も言っていた。
そんな人間の酒をたらふく呑んでどの口が言うかと思ったが、とにかく、マナポーションのレシピを入手することはできていない。クリスが白蛇たちのために酒樽を持ってくる。
「あら、これもいいわね」
呑めればなんでもいいんだろう。どうせ最初の2、3杯でもう酒の味なんてわかるまい。
私たちにとってはポーションという同じ括りなのだが、精霊にとっては同じというわけではないようだ。人間の勝手ということなのかもしれない。偶然回復ポーションのことをどこかで知ったということなのだろう。それに回復ポーションもそうだが、マナポーションというのは精霊には必要のないものなのだろう。
ただ、以前にモグラが妖精たちの存在を示唆して、ポーション作りが上手い、という話があった。もしかすると私たちが作ったポーションは元々妖精たちのレシピだと言えるのではないか。「うーん、どこだったかしら」「そんなもん覚えてるわけねえだろ!」という次第である。
あれ以来、妖精のために美味しいお菓子は開発しているが、出会っていない。
「ここからだと迷いの森にいると思うけどねぇ、うん」
王都の本邸にまでわざわざ土を食いにやって来たモグラが言っていた情報だ。土研究者のレイトがいるから、こちらにまでやってきているのだろう。このモグラが好む土で意外と作物が育つのが不思議である。
モグ子の土をカミラが持ってくると、「おいしい、です」とぱくぱくと食べる。モグ子も部屋で一人で食べるのではなく、モグラの隣でもお構いなしに食べるようになった。
このモグラの妖精情報については王都内でも調査をすると数件だけ確認できた。キャリアの情報網にもそういう話があった。
森の奥深くではなく、比較的浅いところで見たという確認情報だった。ただ、それは数年前のことである。
どこまで信憑性のあるものかはわからないが、妖精がやって来て「なんか珍しいものをくれ」という話である。人との接触はあまりないと言いつつも、猫も杓子も精霊も妖精も何かと物をねだる。
ただ、何らかの精霊と契約している場合、妖精は気づくらしい。そして興味を抱いて近づいてくるようだ。だから、契約者は遭遇率は高い。
どういう原理で妖精が気づくのかはわからないが、契約している身体とそうではない身体には、やはり何かしらの違いがあるということになるのだろう。そして、妖精が興味を抱くものを持っていれば、交渉が始まる。まるでどこかのモグラや白蛇である。
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