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一章
ステータス確認&ダンジョン作成
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「――ダンジョンについての大まかな説明は以上です。細かい説明についてはその都度お話しますね。では他の要素についてご説明いたしますわ」
「よろしく頼むよ」
エリザの説明は続く。
ダンジョンの説明はひとまず置いておいて、今度は他のことについて話してくれるらしい。
「では、ご主人様。“メニュー”と念じてみて下さい。声に出してみても構いません。今のご主人様なら、私の言っていることが理解できるはずですわ」
「えと、こうか。メニュー! うおっ! 何か現れたぞ!」
言われた通りにすると、俺の目の前に、ゲームのメニューウィンドウのようなものが現れた。
そのウィンドウの中には、幾つかの項目が並んでいる。こんな風にである。
①ステータス
②眷属一覧
③ダンジョン作成
④ショップ
⑤ダンジョンログ
⑥閉じる
「メニューはご主人様しか開けず見ることができません。この世界の住人は基本的に、自身のステータスを自由に見たりなどはできません。ご自身と眷属のステータスを覗けるのは、ダンジョンマスターであるご主人様だけの特権ですわ」
「なるほど。メニュー操作云々はダンジョンマスターの特権ということか。基本的に、とはどういうことだ?」
「一部、特殊なスキルを持っている者などは他人のステータスを覗いたりできるそうです」
「なるほど。例外的な存在はいるということか」
他人のステータスを覗ける奴がいるのか。
それほど数が多くいるとは思いたくないが、そういう奴がいたら、とにかく要注意だな。
「まずは現在のご主人様のステータスを見てみましょう。①を選択してみてください」
「わかった」
エリザに言われた通り、①を選択するように念じた。
するとメニューウィンドウが切り替わり、俺の現在のステータスが現れた。
そこにはレベル、HP、MP、保有する能力などの情報が記されていた。
どうやらこの世界にはレベルやスキルといった概念が存在するようだな。うん、完全にゲームだわ。
――ステータス・オープン。
名前:ヨミト(lv.1) 種族:吸血鬼(ノーマル)
HP:10/10 MP:10/10
能力:【変化】【魅了】【吸血】
変化:自らの種族・姿形を偽ることができる。
魅了:自身の魅力で対象を惹きつけ、幻覚を見せる。簡単な記憶操作も可能。
吸血:吸血によって経験値を得る。初めて血を吸った対象からはボーナスとしてスキルをラーニングできる。ラーニングできない場合は、ステータス値が上がる。
どうやらこれが今の俺のステータスらしい。
ステータス値はレベル、HP、MP、力、魔力、耐久、敏捷、体力、精神、知力、器用、魅力の十二項目あるらしい。
だが、レベル、HP、MP以外の項目はマスクデータのようでダンジョンマスターの俺でさえ見れないようだ。
レベルは経験値によって成長する数値、HPはゼロになると死亡する生命力を表す数値、MPはスキルの発動で消費されるエネルギーの数値。
力は肉体的な能力、魔力は魔法的な能力、耐久は防御、敏捷はスピード、体力は状態異常のかかりやすさや回復力、精神は精神作用系の状態異常のかかりやすさや回復力、知力と器用はスキルの取得、魅力は説得などの交渉系――に関わる数値らしい。
マスクデータの数値が見れない以上なんとも言えないが、レベル、HP、MPの値を見る限り、率直に言って今の俺は弱いな。すぐにやられてしまいそうだ。まあ転生した直後だから仕方ないのかもしれないが。
というか、俺は吸血鬼だったようだ。種族欄にそう書かれている。今更だがそれに気づき、慌てて確認してみる。
「うぉ、俺にも翼が生えてやがる……。俺ってモンスターだったのか……」
手を背中に回して触ってみると、確かに翼が生えていた。
翼があるとわかると、翼の感覚が生じてくる。翼を手足と同じように自由に動かせることがわかった。
俺とエリザ、二人とも同じような見た目ということは、エリザも吸血鬼なのだろう。
メニューの眷属一覧でエリザのステータスを覗いてみる。
――ステータス・オープン。
名前:エリザベート(lv.1) 種族:吸血鬼(ノーマル)
HP:10/10 MP:10/10
能力:【変化】【魅了】【吸血】
やはりエリザも吸血鬼で間違いないようだ。俺の時と同じような情報が並んでいる。
「吸血鬼の種族特性として、僅かな時間だけ滞空することができます。今の我々は生まれたての赤ん坊のようなものなので、それほど長い時間の飛行は無理ですし、高いところを飛ぶことも無理ですが、進化すればもっと高度な飛行ができるようになりますわ」
「へーそうなのか。進化するともっと凄い吸血鬼になれるのか。進化ってどうやればできるんだ?」
「我々モンスターには“クラス”というものがあります。種族名の隣のカッコ内に書かれているのがそうです。そのクラスが上がることを進化と言いますわ」
「ああ“ノーマル”って書かれてるな」
「ええ。今の我々はノーマルクラスの吸血鬼です。レベルが百に上がりますと、レベルが一に戻り、クラスがワンランク上がります」
「へえ。その際にステータスが下がったりはしないのか?」
「下がるのはレベルの値だけで、その他の項目は下がりませんわ。むしろ進化することで上がったりします」
「そうか。それなら安心だな」
俺たちモンスターは成長して進化することでどんどん強くなれるらしいな。
「クラスは何種類あるんだ?」
「クラスは全部で七種類ですわ。下からノーマル、ハイ、ナイト、ジェネラル、キング、ロード、ゴッドという風に順繰りで進化できます」
「目指すは最強のゴッドヴァンパイアってことか。うん、強そうだな」
目指すは最強の吸血鬼ってことだな。今の俺は赤ん坊並みに弱くても、いつかきっと強くなって見せるぞ。
「進化するともっと飛べるようになるけど、今のままでもある程度は飛べるのか。どれどれ」
少しだけだが飛べると聞いて、俺は早速部屋の中を飛んでみることにした。
「おお! 本当に飛んでるぞ!」
翼を動かすと、フワフワと漂うように飛ぶことができた。さっきのエリザみたいに天井に蝙蝠みたいにくっ付くこともできた。
元人間だった俺としては、楽しすぎる。空を自由に飛び回るって、人間にとっての一種の夢だからな。
「うはは! こりゃ楽しいや! 俺、空飛んでるよ!」
「うふふ。無邪気で可愛らしいご主人様ですこと」
俺が飛んではしゃいでいるのを見て、エリザは微笑ましいものを見るような目で笑っていた。
「それにしても、吸血鬼って、完全に魔物じゃねえか。こんなん見つかったら即討伐されちまうよ」
しばらくして飛ぶことに飽きた俺は、ベッドに座り直し、ポツリと呟く。
こんな姿をしていたら人間界じゃ暮らしていけなさそうだなと思った。
「大丈夫ですわご主人様。【変化】というスキルを使ってみてください。今のご主人様ならスキルの使い方が自然と理解できるはずですわ」
「ああ。こうか?」
エリザに言われるがまま、俺は自らに備わっている【変化】というスキルを使った。
不思議と、その力の使い方に戸惑うことはなかった。MPを消費し、自らの身体を変化させる。
「おー、人間になれたな」
【変化】を使うと、前世と同じような人間の身体になることができた。翼が生えていない、違和感も何もない人間の姿だ。身に着ける衣服すら自由に創造できるらしい。
触って確認してみても、普通の人間だとしか思えない。凄いぞこれは。
「【変化】は時間経過で自然に解けますので、延長したい場合は再度かけ直してくださいね。長時間持続させたい場合は、予め多くのMPを消費して変化してください」
「わかったよ」
とりあえず、この【変化】というスキルがあれば、見た目を誤魔化せるらしい。この世界の冒険者みたいな存在と遭遇しても、魔物だからとすぐに討伐されるようなことはなさそうだ。
ひとまず安心だな。
「どうすればレベルアップすることができるんだ? モンスターを倒せばいいのか?」
「残念ながら、我々吸血鬼種族は普通の手段では経験値を得ることができません。戦闘経験値もスキル経験値も得ることができないのですわ」
「え? じゃあどうすんだよ?」
「我々吸血鬼は、吸血行為によってのみ成長することができます。種族問わずに吸血しまくってレベルを上げましょう」
「え、吸血? 血を吸えばいいのか?」
「そういうことになりますわ」
どうやら俺たちは普通にモンスターを倒したりして成長することはできないらしい。吸血鬼とはそういう種族のようだ。吸血することによってのみ成長できる種族らしい。
「吸血する他にも、強くなる方法は一応ございます。ダンジョンマナを使ってステータスを強化することもできます。メニューのステータス欄からご主人様の能力を強化できますし、眷属一覧から私たち眷属の強化も行えます」
「なるほど。ダンジョンマナでも強化できるのね」
ダンジョンマナを使えば、自身や配下モンスターを強化できるらしい。
まあでもダンジョンマナはダンジョンの拡張など他にも使い道があるし、無闇矢鱈に強化に使わない方がいいだろうな
「――ではご主人様。今度は外に出てみましょう」
「ああわかった」
俺はエリザに促されるまま、部屋から出る。
部屋から出ると、そこは森だった。森の中の一画が切り開かれており、そこに俺たちがさっきまでいた建物が立っている。
森の中に佇む一軒のログハウスって感じだな。部屋から出たらすぐ外が森っていうのは、凄い違和感あるぞ。
「今はボーナス期間なので、ここら一帯の開けたエリアが“聖域”として指定されています。ご主人様とその眷属以外は近づくことはできません。しかし一週間後には、誰でも侵入できるようになるのでお気をつけくださいませ」
「なるほどな。その一週間の間、俺たちは聖域の外に出ることはできるのか?」
「それは可能です。ですが、レベルが低いまま外に出ることはあまりオススメできませんわ」
「まあそうだな。強いモンスターにでも出くわして死んだら終わりなわけだしな。慎重にいかんと」
とりあえず、ダンジョン近場をうろつく分には問題ないらしい。
聖域に逃げ込めば、相手は追ってこれない。ダンジョン近くをうろついてて万が一強いモンスターに出くわしても、聖域になってる場所に逃げ込めばいいわけだ。
「ご主人様、一週間のうちにこの世界の仕組みについて理解を深め、ダンジョンの防備を整えましょうね」
「そうだな。しっかりとやらないとな」
一週間経つと、聖域が取っ払われ、モンスターなどの襲撃がある。
確かにそれまでに色々と防備を整えておかないとマズイだろうな。
「ここはこの世界の地図的にはどういった位置に属するんだ?」
「ここはロキリア王国領の北西に位置する森の中です。“トロの森”と呼ばれ、周囲にはゴブリンの集落が点在するのみです。一番近い人里は開拓民の村だそうです」
「ゴブリン以外には具体的にどんなモンスターがいるんだ? “ロキリア王国”とは何だ? どんな王国なんだ? 開拓民の村とは?」
「すみません、それ以上はわかりません。それ以上の知識はインプットされてないので、お役に立てず申し訳ありませんわ」
「そうか。まあそれだけでもわかったからいいか」
エリザは最低限の知識しか与えられてないらしい。
後は自分でどうにかしろというのが、俺をこの世界に転生させた神様の思し召しというやつなのだろう。
まあ何もかも教えられてもつまらないしな。自分で色々と情報を集めて学んでいった方が面白いか。
「ご主人様。初期ダンジョンマナとして、1000DMが与えられています。これを使って早速ダンジョンの体裁を整えましょう」
「そうだな。一週間後にはモンスターとかが侵入してくる可能性があるんだもんな」
エリザの勧める通り、俺はダンジョンの作成に取りかかることにした。
メニューを開き、メニュー欄の“ダンジョン作成”という項目を選ぶ。そこからダンジョン作成作業に移る。
「ダンジョンって、後で引越しさせることはできるのか? 例えば、こことは違う森の中にこの家をそのまま移動させるとかってできるの?」
「丸ごと引越しということはできません。ですが、こことは違う地表部分を新しくダンジョンに指定し、そこに内部ダンジョンへの入口を設定し、元の入口部分を閉鎖することで、実質引越しのようなことはできますわ」
「よくわからないんだが、どういうことだ?」
「ダンジョンの領域というのは、大きく分けて二つあるのです。一つは地上に露出し、この世界と繋がっている窓口の部分――言うなれば、ダンジョンの外部分です。もう一つは、そのダンジョン外部に転移魔方陣を設置することで繋がる特別な空間――ダンジョンの内部分に当たる所です。ダンジョン内部はこの世界の空間とは違う場所にあるので、無限に拡張可能です。この世界の気象条件などに左右されない空間を作ることができますわ」
「なるほど、ダンジョンは外部と内部に分けられるのだな。新しいダンジョンの外部分(入口)をどこか別の場所に作り、それでいらなくなった元の入口を閉鎖することで、実質ダンジョン内部の引越しのようなことができるということか。異空間に作られた不思議な蟻の巣みたいなもんだな?」
「そういうことになります。蟻の巣のように幾つも入口を作ることも可能ですわ。ただし、入口は必ず一つは作らねばなりません。ダンジョンの外部分は周囲の地形などによって臨機応変に整備し、リスクが高いと思った場所は損切りとして閉鎖するのがよろしいかと。ダンジョンの内部分は永続的に使えるように整備し、使い勝手がいいものにした方がいいでしょう。長期戦も考え、畑を作って作物を植えたりするのもいいですね」
「内部の整備は基本的に無駄にならないから存分にコストをかけて整備した方がいいってわけか。いわゆる食料生産エリアとかを作ったり、いざという時に篭城するための防衛施設も作った方がいいということか」
「そういうことですわ。さすがご主人様。理解がお早いですわ」
ダンジョンの入口部分が多ければ多いほど侵入者は多くなり、ダンジョンマナの稼ぎが良くなるが、その分侵略されるリスクも大きくなる。対応しきれないとなって入口を閉鎖となれば、その入口部分の整備に使ったダンジョンマナが丸損となる。
ダンジョン内部分は基本的に無駄になることはないみたいだから気ままに改造すればいいと思うが、外部分の整備は色々悩ましいな。
まあ入口を増やすにしても、ある程度ダンジョン内部が大きくなければ、話にならないだろう。最初のうちは、ダンジョン内部の拡張に注力する方がいいかもしれない。
「さて。どうするかね……」
とは言うものの、どういったコンセプトのダンジョンにするか非常に悩ましい。
初期の1000マナだと大した改造はできないからな。吸血鬼という種族もネックだ。
俺は悩んだ末、一つの答えを出した。前世の俺の夢を叶えつつ、この世界で不自由なく生きていくためにベストだと思われる答えだ。
「そうだ。こうしよう」
まず、外から入ったら寝室であるというへんてこな構造をしたログハウスを、平屋の一軒家に拡張改造する。
その家の俺の部屋の床下収納のところに転移陣を設置し、そこからダンジョンの内部分に移動できるようにする。
ダンジョン構造の分類上、一軒家とその周辺の敷地はダンジョンの外部分(入口)に当たり、俺の部屋の床下の転移陣から先の空間がダンジョンの内部分に当たる。
今はまだダンジョンマナが足りないので、ダンジョンの内部分は3^3立方メートルくらいの何もない空間である。灰色のプラスチックの板が張られたような無機質な空間だ。
今後、この何もない空間(ダンジョン内部分)を大きく拡張していく予定だ。
まあこれでとりあえずはダンジョンの雛形が完成した。
続いて家の周りを軽く整備する。
家からちょっと離れたところに小さな物置小屋を設置する。周辺に堀と柵を設置し、申し訳程度にモンスターの侵入を防ぐようにする。
続いてダンジョンモンスターを創造して配置してみる。
ダンジョンマスターが眷属を生み出す場合、コストとして、その生み出す魔物に対応する魔石とダンジョンマナが必要になるらしい。
ただし、吸血鬼のダンジョンマスターの場合、蝙蝠と吸血鬼を生み出すのに関しては、魔石はいらないそうだ。ダンジョンマスターの種族によって、生み出すモンスターの魔石の要る要らないが変わってくるようだ。
蝙蝠:空中を飛び回り噛み付いて攻撃する魔物。創造コストは1DM。
吸血鬼:闇夜を支配する夜の貴族。吸血鬼。創造コストは10000DM。
「今は魔石がないから蝙蝠と吸血鬼しか生み出せないのか。それにしても吸血鬼の創造コスト高すぎだろ……。何だよ一万って……」
現状、蝙蝠しか創造できないないらしい。
それにしても、吸血鬼のコスト、一万コストってなんだよ。とてもじゃないがマナが足りない。
まあその分、吸血鬼は強いってことなのかもしれないが。
「とりあえず蝙蝠を生み出すか」
仕方ないので、蝙蝠を十匹(♂♀五匹ずつ)創造して敷地周辺に住まわせることにした。
ダンジョンマナ的にはもっと創造できるが、食料がかかるのであまり考えなしに大量に創造したくはない。一週間は敵が侵入してくることはないのだし、とりあえず十匹だけ創造して様子見だ。
「ご主人様、これからここを要塞のように改造していくのですね?」
「いや違うよ」
「違うのですか?」
「ダンジョン内部はどんどん増やしていく予定だけど、外部分は大きく変えない予定だよ。要塞みたいに過剰な防衛設備を設置しても、警戒されてモンスターや人が寄ってこないだけだからな。そうなると、ダンジョンマナの獲得に四苦八苦するだけだろ? 警戒されて討伐隊とか組まれても困るし」
「なるほど。見た目上、敵を油断させるようにするのですね? それで大勢の冒険者を引き寄せると」
「ああ。それで俺たち吸血鬼種族の特性を大きく活かせる施設に改造していく予定さ。基本的には、ダンジョンに近寄ってくる人間たちとは友好的に接するつもりだ」
「吸血鬼を活かせる? 友好的?」
首を傾げるエリザに対し、俺は胸を張って答える。
「宿屋だよ。宿に人を泊まらせるんだ。油断して眠ってる宿泊客から、こっそり血を貰えばいい。血を奪えるし、この世界の金も稼げるし、DMも稼げるし、一石三鳥だ。何より、ホスピタリティ系のお仕事するのは俺の前世の夢だったしな。俺的には一石四鳥だ」
吸血鬼は普通に戦ってもレベルが上がらない。となると、何かしらの方法で訪れた敵に吸血してレベリングする必要がある。
ダンジョンを宿屋に偽装し、訪れた敵(客)が眠っている間にこっそり血を奪うのが、一番警戒されずにいい方法だと思った。
ダンジョンに滞在するだけでも、ダンジョンマナは微量であるが獲得できるみたいだしな。
殺すほうがマナの獲得量は多いみたいだけど、殺したら警戒されちゃうからね。あえて殺す必要はないだろう。
開拓民の村が近いとなると、聖域指定が取っ払われれば、いずれここに人間が頻繁にやってくることだろう。開拓するからには、その村はどんどん発展するだろうし、人の往来は激しくなっていくはずだ。ここに宿屋を開業する利点は大きいはずだ。
ここを旅人たちの憩いの場に変えてやろう。
それでダンジョンだと気づかせず、金と血とダンジョンマナを獲得し続けていってやる。
そうしてダンジョンを拡大していき、いずれは全世界中に俺の拠点を作り出し、世界を支配していってやろう。
「なるほど。それは妙案ですね。さすがご主人様」
「だろ。俺は宿屋の支配人で、エリザは副支配人な」
「ええ夢があって楽しみですわ。二人で経営を盛り立てていきましょうね」
この世界で吸血鬼のホテル王になってやる。配下の魔物を使い、のし上がってやるぜ。ふはは。
「――よし、とりあえず完成したな」
それから一時間ほど使い、家の細かい内装を整えていった。
この世界は中世ヨーロッパ風の世界らしいから、そういった世界をイメージして施設を作った。
残念ながらダンジョンマナが足りず、現状ではトイレとか風呂は設置できなかった。トイレと風呂がない宿泊施設なんてかなり残念だが、現状仕方ないだろう。
水周りの設備は、追々稼げるようになったら整備していくことにしよう。
「森の中の宿か。鄙びた感じがするが、それがまた情緒があるな。悪くないぞぉ」
宿屋というよりは、鄙びたところにある民家って感じだな。いずれ拡張していきたいが、ひとまずはこれでいいだろう。
いきなり森の中に立派な建物が現れても警戒されるしな。立派な建物を作るより、民家の一部を民泊として貸し出しているくらいの方が自然体でいい。
「小さな店だけど、これで俺も立派な宿屋の主だな」
完成した一軒家を眺め、俺は笑みを深めるのであった。
ここから俺の物語は始まるのだ。俺の宿屋、記念すべき一号店のオープンである。
お客さん、いっぱい来るといいな。
「よろしく頼むよ」
エリザの説明は続く。
ダンジョンの説明はひとまず置いておいて、今度は他のことについて話してくれるらしい。
「では、ご主人様。“メニュー”と念じてみて下さい。声に出してみても構いません。今のご主人様なら、私の言っていることが理解できるはずですわ」
「えと、こうか。メニュー! うおっ! 何か現れたぞ!」
言われた通りにすると、俺の目の前に、ゲームのメニューウィンドウのようなものが現れた。
そのウィンドウの中には、幾つかの項目が並んでいる。こんな風にである。
①ステータス
②眷属一覧
③ダンジョン作成
④ショップ
⑤ダンジョンログ
⑥閉じる
「メニューはご主人様しか開けず見ることができません。この世界の住人は基本的に、自身のステータスを自由に見たりなどはできません。ご自身と眷属のステータスを覗けるのは、ダンジョンマスターであるご主人様だけの特権ですわ」
「なるほど。メニュー操作云々はダンジョンマスターの特権ということか。基本的に、とはどういうことだ?」
「一部、特殊なスキルを持っている者などは他人のステータスを覗いたりできるそうです」
「なるほど。例外的な存在はいるということか」
他人のステータスを覗ける奴がいるのか。
それほど数が多くいるとは思いたくないが、そういう奴がいたら、とにかく要注意だな。
「まずは現在のご主人様のステータスを見てみましょう。①を選択してみてください」
「わかった」
エリザに言われた通り、①を選択するように念じた。
するとメニューウィンドウが切り替わり、俺の現在のステータスが現れた。
そこにはレベル、HP、MP、保有する能力などの情報が記されていた。
どうやらこの世界にはレベルやスキルといった概念が存在するようだな。うん、完全にゲームだわ。
――ステータス・オープン。
名前:ヨミト(lv.1) 種族:吸血鬼(ノーマル)
HP:10/10 MP:10/10
能力:【変化】【魅了】【吸血】
変化:自らの種族・姿形を偽ることができる。
魅了:自身の魅力で対象を惹きつけ、幻覚を見せる。簡単な記憶操作も可能。
吸血:吸血によって経験値を得る。初めて血を吸った対象からはボーナスとしてスキルをラーニングできる。ラーニングできない場合は、ステータス値が上がる。
どうやらこれが今の俺のステータスらしい。
ステータス値はレベル、HP、MP、力、魔力、耐久、敏捷、体力、精神、知力、器用、魅力の十二項目あるらしい。
だが、レベル、HP、MP以外の項目はマスクデータのようでダンジョンマスターの俺でさえ見れないようだ。
レベルは経験値によって成長する数値、HPはゼロになると死亡する生命力を表す数値、MPはスキルの発動で消費されるエネルギーの数値。
力は肉体的な能力、魔力は魔法的な能力、耐久は防御、敏捷はスピード、体力は状態異常のかかりやすさや回復力、精神は精神作用系の状態異常のかかりやすさや回復力、知力と器用はスキルの取得、魅力は説得などの交渉系――に関わる数値らしい。
マスクデータの数値が見れない以上なんとも言えないが、レベル、HP、MPの値を見る限り、率直に言って今の俺は弱いな。すぐにやられてしまいそうだ。まあ転生した直後だから仕方ないのかもしれないが。
というか、俺は吸血鬼だったようだ。種族欄にそう書かれている。今更だがそれに気づき、慌てて確認してみる。
「うぉ、俺にも翼が生えてやがる……。俺ってモンスターだったのか……」
手を背中に回して触ってみると、確かに翼が生えていた。
翼があるとわかると、翼の感覚が生じてくる。翼を手足と同じように自由に動かせることがわかった。
俺とエリザ、二人とも同じような見た目ということは、エリザも吸血鬼なのだろう。
メニューの眷属一覧でエリザのステータスを覗いてみる。
――ステータス・オープン。
名前:エリザベート(lv.1) 種族:吸血鬼(ノーマル)
HP:10/10 MP:10/10
能力:【変化】【魅了】【吸血】
やはりエリザも吸血鬼で間違いないようだ。俺の時と同じような情報が並んでいる。
「吸血鬼の種族特性として、僅かな時間だけ滞空することができます。今の我々は生まれたての赤ん坊のようなものなので、それほど長い時間の飛行は無理ですし、高いところを飛ぶことも無理ですが、進化すればもっと高度な飛行ができるようになりますわ」
「へーそうなのか。進化するともっと凄い吸血鬼になれるのか。進化ってどうやればできるんだ?」
「我々モンスターには“クラス”というものがあります。種族名の隣のカッコ内に書かれているのがそうです。そのクラスが上がることを進化と言いますわ」
「ああ“ノーマル”って書かれてるな」
「ええ。今の我々はノーマルクラスの吸血鬼です。レベルが百に上がりますと、レベルが一に戻り、クラスがワンランク上がります」
「へえ。その際にステータスが下がったりはしないのか?」
「下がるのはレベルの値だけで、その他の項目は下がりませんわ。むしろ進化することで上がったりします」
「そうか。それなら安心だな」
俺たちモンスターは成長して進化することでどんどん強くなれるらしいな。
「クラスは何種類あるんだ?」
「クラスは全部で七種類ですわ。下からノーマル、ハイ、ナイト、ジェネラル、キング、ロード、ゴッドという風に順繰りで進化できます」
「目指すは最強のゴッドヴァンパイアってことか。うん、強そうだな」
目指すは最強の吸血鬼ってことだな。今の俺は赤ん坊並みに弱くても、いつかきっと強くなって見せるぞ。
「進化するともっと飛べるようになるけど、今のままでもある程度は飛べるのか。どれどれ」
少しだけだが飛べると聞いて、俺は早速部屋の中を飛んでみることにした。
「おお! 本当に飛んでるぞ!」
翼を動かすと、フワフワと漂うように飛ぶことができた。さっきのエリザみたいに天井に蝙蝠みたいにくっ付くこともできた。
元人間だった俺としては、楽しすぎる。空を自由に飛び回るって、人間にとっての一種の夢だからな。
「うはは! こりゃ楽しいや! 俺、空飛んでるよ!」
「うふふ。無邪気で可愛らしいご主人様ですこと」
俺が飛んではしゃいでいるのを見て、エリザは微笑ましいものを見るような目で笑っていた。
「それにしても、吸血鬼って、完全に魔物じゃねえか。こんなん見つかったら即討伐されちまうよ」
しばらくして飛ぶことに飽きた俺は、ベッドに座り直し、ポツリと呟く。
こんな姿をしていたら人間界じゃ暮らしていけなさそうだなと思った。
「大丈夫ですわご主人様。【変化】というスキルを使ってみてください。今のご主人様ならスキルの使い方が自然と理解できるはずですわ」
「ああ。こうか?」
エリザに言われるがまま、俺は自らに備わっている【変化】というスキルを使った。
不思議と、その力の使い方に戸惑うことはなかった。MPを消費し、自らの身体を変化させる。
「おー、人間になれたな」
【変化】を使うと、前世と同じような人間の身体になることができた。翼が生えていない、違和感も何もない人間の姿だ。身に着ける衣服すら自由に創造できるらしい。
触って確認してみても、普通の人間だとしか思えない。凄いぞこれは。
「【変化】は時間経過で自然に解けますので、延長したい場合は再度かけ直してくださいね。長時間持続させたい場合は、予め多くのMPを消費して変化してください」
「わかったよ」
とりあえず、この【変化】というスキルがあれば、見た目を誤魔化せるらしい。この世界の冒険者みたいな存在と遭遇しても、魔物だからとすぐに討伐されるようなことはなさそうだ。
ひとまず安心だな。
「どうすればレベルアップすることができるんだ? モンスターを倒せばいいのか?」
「残念ながら、我々吸血鬼種族は普通の手段では経験値を得ることができません。戦闘経験値もスキル経験値も得ることができないのですわ」
「え? じゃあどうすんだよ?」
「我々吸血鬼は、吸血行為によってのみ成長することができます。種族問わずに吸血しまくってレベルを上げましょう」
「え、吸血? 血を吸えばいいのか?」
「そういうことになりますわ」
どうやら俺たちは普通にモンスターを倒したりして成長することはできないらしい。吸血鬼とはそういう種族のようだ。吸血することによってのみ成長できる種族らしい。
「吸血する他にも、強くなる方法は一応ございます。ダンジョンマナを使ってステータスを強化することもできます。メニューのステータス欄からご主人様の能力を強化できますし、眷属一覧から私たち眷属の強化も行えます」
「なるほど。ダンジョンマナでも強化できるのね」
ダンジョンマナを使えば、自身や配下モンスターを強化できるらしい。
まあでもダンジョンマナはダンジョンの拡張など他にも使い道があるし、無闇矢鱈に強化に使わない方がいいだろうな
「――ではご主人様。今度は外に出てみましょう」
「ああわかった」
俺はエリザに促されるまま、部屋から出る。
部屋から出ると、そこは森だった。森の中の一画が切り開かれており、そこに俺たちがさっきまでいた建物が立っている。
森の中に佇む一軒のログハウスって感じだな。部屋から出たらすぐ外が森っていうのは、凄い違和感あるぞ。
「今はボーナス期間なので、ここら一帯の開けたエリアが“聖域”として指定されています。ご主人様とその眷属以外は近づくことはできません。しかし一週間後には、誰でも侵入できるようになるのでお気をつけくださいませ」
「なるほどな。その一週間の間、俺たちは聖域の外に出ることはできるのか?」
「それは可能です。ですが、レベルが低いまま外に出ることはあまりオススメできませんわ」
「まあそうだな。強いモンスターにでも出くわして死んだら終わりなわけだしな。慎重にいかんと」
とりあえず、ダンジョン近場をうろつく分には問題ないらしい。
聖域に逃げ込めば、相手は追ってこれない。ダンジョン近くをうろついてて万が一強いモンスターに出くわしても、聖域になってる場所に逃げ込めばいいわけだ。
「ご主人様、一週間のうちにこの世界の仕組みについて理解を深め、ダンジョンの防備を整えましょうね」
「そうだな。しっかりとやらないとな」
一週間経つと、聖域が取っ払われ、モンスターなどの襲撃がある。
確かにそれまでに色々と防備を整えておかないとマズイだろうな。
「ここはこの世界の地図的にはどういった位置に属するんだ?」
「ここはロキリア王国領の北西に位置する森の中です。“トロの森”と呼ばれ、周囲にはゴブリンの集落が点在するのみです。一番近い人里は開拓民の村だそうです」
「ゴブリン以外には具体的にどんなモンスターがいるんだ? “ロキリア王国”とは何だ? どんな王国なんだ? 開拓民の村とは?」
「すみません、それ以上はわかりません。それ以上の知識はインプットされてないので、お役に立てず申し訳ありませんわ」
「そうか。まあそれだけでもわかったからいいか」
エリザは最低限の知識しか与えられてないらしい。
後は自分でどうにかしろというのが、俺をこの世界に転生させた神様の思し召しというやつなのだろう。
まあ何もかも教えられてもつまらないしな。自分で色々と情報を集めて学んでいった方が面白いか。
「ご主人様。初期ダンジョンマナとして、1000DMが与えられています。これを使って早速ダンジョンの体裁を整えましょう」
「そうだな。一週間後にはモンスターとかが侵入してくる可能性があるんだもんな」
エリザの勧める通り、俺はダンジョンの作成に取りかかることにした。
メニューを開き、メニュー欄の“ダンジョン作成”という項目を選ぶ。そこからダンジョン作成作業に移る。
「ダンジョンって、後で引越しさせることはできるのか? 例えば、こことは違う森の中にこの家をそのまま移動させるとかってできるの?」
「丸ごと引越しということはできません。ですが、こことは違う地表部分を新しくダンジョンに指定し、そこに内部ダンジョンへの入口を設定し、元の入口部分を閉鎖することで、実質引越しのようなことはできますわ」
「よくわからないんだが、どういうことだ?」
「ダンジョンの領域というのは、大きく分けて二つあるのです。一つは地上に露出し、この世界と繋がっている窓口の部分――言うなれば、ダンジョンの外部分です。もう一つは、そのダンジョン外部に転移魔方陣を設置することで繋がる特別な空間――ダンジョンの内部分に当たる所です。ダンジョン内部はこの世界の空間とは違う場所にあるので、無限に拡張可能です。この世界の気象条件などに左右されない空間を作ることができますわ」
「なるほど、ダンジョンは外部と内部に分けられるのだな。新しいダンジョンの外部分(入口)をどこか別の場所に作り、それでいらなくなった元の入口を閉鎖することで、実質ダンジョン内部の引越しのようなことができるということか。異空間に作られた不思議な蟻の巣みたいなもんだな?」
「そういうことになります。蟻の巣のように幾つも入口を作ることも可能ですわ。ただし、入口は必ず一つは作らねばなりません。ダンジョンの外部分は周囲の地形などによって臨機応変に整備し、リスクが高いと思った場所は損切りとして閉鎖するのがよろしいかと。ダンジョンの内部分は永続的に使えるように整備し、使い勝手がいいものにした方がいいでしょう。長期戦も考え、畑を作って作物を植えたりするのもいいですね」
「内部の整備は基本的に無駄にならないから存分にコストをかけて整備した方がいいってわけか。いわゆる食料生産エリアとかを作ったり、いざという時に篭城するための防衛施設も作った方がいいということか」
「そういうことですわ。さすがご主人様。理解がお早いですわ」
ダンジョンの入口部分が多ければ多いほど侵入者は多くなり、ダンジョンマナの稼ぎが良くなるが、その分侵略されるリスクも大きくなる。対応しきれないとなって入口を閉鎖となれば、その入口部分の整備に使ったダンジョンマナが丸損となる。
ダンジョン内部分は基本的に無駄になることはないみたいだから気ままに改造すればいいと思うが、外部分の整備は色々悩ましいな。
まあ入口を増やすにしても、ある程度ダンジョン内部が大きくなければ、話にならないだろう。最初のうちは、ダンジョン内部の拡張に注力する方がいいかもしれない。
「さて。どうするかね……」
とは言うものの、どういったコンセプトのダンジョンにするか非常に悩ましい。
初期の1000マナだと大した改造はできないからな。吸血鬼という種族もネックだ。
俺は悩んだ末、一つの答えを出した。前世の俺の夢を叶えつつ、この世界で不自由なく生きていくためにベストだと思われる答えだ。
「そうだ。こうしよう」
まず、外から入ったら寝室であるというへんてこな構造をしたログハウスを、平屋の一軒家に拡張改造する。
その家の俺の部屋の床下収納のところに転移陣を設置し、そこからダンジョンの内部分に移動できるようにする。
ダンジョン構造の分類上、一軒家とその周辺の敷地はダンジョンの外部分(入口)に当たり、俺の部屋の床下の転移陣から先の空間がダンジョンの内部分に当たる。
今はまだダンジョンマナが足りないので、ダンジョンの内部分は3^3立方メートルくらいの何もない空間である。灰色のプラスチックの板が張られたような無機質な空間だ。
今後、この何もない空間(ダンジョン内部分)を大きく拡張していく予定だ。
まあこれでとりあえずはダンジョンの雛形が完成した。
続いて家の周りを軽く整備する。
家からちょっと離れたところに小さな物置小屋を設置する。周辺に堀と柵を設置し、申し訳程度にモンスターの侵入を防ぐようにする。
続いてダンジョンモンスターを創造して配置してみる。
ダンジョンマスターが眷属を生み出す場合、コストとして、その生み出す魔物に対応する魔石とダンジョンマナが必要になるらしい。
ただし、吸血鬼のダンジョンマスターの場合、蝙蝠と吸血鬼を生み出すのに関しては、魔石はいらないそうだ。ダンジョンマスターの種族によって、生み出すモンスターの魔石の要る要らないが変わってくるようだ。
蝙蝠:空中を飛び回り噛み付いて攻撃する魔物。創造コストは1DM。
吸血鬼:闇夜を支配する夜の貴族。吸血鬼。創造コストは10000DM。
「今は魔石がないから蝙蝠と吸血鬼しか生み出せないのか。それにしても吸血鬼の創造コスト高すぎだろ……。何だよ一万って……」
現状、蝙蝠しか創造できないないらしい。
それにしても、吸血鬼のコスト、一万コストってなんだよ。とてもじゃないがマナが足りない。
まあその分、吸血鬼は強いってことなのかもしれないが。
「とりあえず蝙蝠を生み出すか」
仕方ないので、蝙蝠を十匹(♂♀五匹ずつ)創造して敷地周辺に住まわせることにした。
ダンジョンマナ的にはもっと創造できるが、食料がかかるのであまり考えなしに大量に創造したくはない。一週間は敵が侵入してくることはないのだし、とりあえず十匹だけ創造して様子見だ。
「ご主人様、これからここを要塞のように改造していくのですね?」
「いや違うよ」
「違うのですか?」
「ダンジョン内部はどんどん増やしていく予定だけど、外部分は大きく変えない予定だよ。要塞みたいに過剰な防衛設備を設置しても、警戒されてモンスターや人が寄ってこないだけだからな。そうなると、ダンジョンマナの獲得に四苦八苦するだけだろ? 警戒されて討伐隊とか組まれても困るし」
「なるほど。見た目上、敵を油断させるようにするのですね? それで大勢の冒険者を引き寄せると」
「ああ。それで俺たち吸血鬼種族の特性を大きく活かせる施設に改造していく予定さ。基本的には、ダンジョンに近寄ってくる人間たちとは友好的に接するつもりだ」
「吸血鬼を活かせる? 友好的?」
首を傾げるエリザに対し、俺は胸を張って答える。
「宿屋だよ。宿に人を泊まらせるんだ。油断して眠ってる宿泊客から、こっそり血を貰えばいい。血を奪えるし、この世界の金も稼げるし、DMも稼げるし、一石三鳥だ。何より、ホスピタリティ系のお仕事するのは俺の前世の夢だったしな。俺的には一石四鳥だ」
吸血鬼は普通に戦ってもレベルが上がらない。となると、何かしらの方法で訪れた敵に吸血してレベリングする必要がある。
ダンジョンを宿屋に偽装し、訪れた敵(客)が眠っている間にこっそり血を奪うのが、一番警戒されずにいい方法だと思った。
ダンジョンに滞在するだけでも、ダンジョンマナは微量であるが獲得できるみたいだしな。
殺すほうがマナの獲得量は多いみたいだけど、殺したら警戒されちゃうからね。あえて殺す必要はないだろう。
開拓民の村が近いとなると、聖域指定が取っ払われれば、いずれここに人間が頻繁にやってくることだろう。開拓するからには、その村はどんどん発展するだろうし、人の往来は激しくなっていくはずだ。ここに宿屋を開業する利点は大きいはずだ。
ここを旅人たちの憩いの場に変えてやろう。
それでダンジョンだと気づかせず、金と血とダンジョンマナを獲得し続けていってやる。
そうしてダンジョンを拡大していき、いずれは全世界中に俺の拠点を作り出し、世界を支配していってやろう。
「なるほど。それは妙案ですね。さすがご主人様」
「だろ。俺は宿屋の支配人で、エリザは副支配人な」
「ええ夢があって楽しみですわ。二人で経営を盛り立てていきましょうね」
この世界で吸血鬼のホテル王になってやる。配下の魔物を使い、のし上がってやるぜ。ふはは。
「――よし、とりあえず完成したな」
それから一時間ほど使い、家の細かい内装を整えていった。
この世界は中世ヨーロッパ風の世界らしいから、そういった世界をイメージして施設を作った。
残念ながらダンジョンマナが足りず、現状ではトイレとか風呂は設置できなかった。トイレと風呂がない宿泊施設なんてかなり残念だが、現状仕方ないだろう。
水周りの設備は、追々稼げるようになったら整備していくことにしよう。
「森の中の宿か。鄙びた感じがするが、それがまた情緒があるな。悪くないぞぉ」
宿屋というよりは、鄙びたところにある民家って感じだな。いずれ拡張していきたいが、ひとまずはこれでいいだろう。
いきなり森の中に立派な建物が現れても警戒されるしな。立派な建物を作るより、民家の一部を民泊として貸し出しているくらいの方が自然体でいい。
「小さな店だけど、これで俺も立派な宿屋の主だな」
完成した一軒家を眺め、俺は笑みを深めるのであった。
ここから俺の物語は始まるのだ。俺の宿屋、記念すべき一号店のオープンである。
お客さん、いっぱい来るといいな。
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