吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

文字の大きさ
43 / 291
二章

飲み食い

しおりを挟む
 大通りには、多くの出店が立ち並ぶ。幟旗とかも立っていて、とても賑やかな雰囲気だ。
 エデン村では見られない光景だね。人口が多い町ならでは、といった感じだ。

 周辺の店の客足は疎らである。お昼時が過ぎているせいだろう。
 一時休業している店もある。夜に向けての仕込みでもしているらしい。

 そんな中、営業している屋台を見つけたので、俺とエリザはそこで飯を食うことにした。

 近くに来るまでわからなかったが、どうやら串焼き屋さんらしい。
 炭火で炙られたお肉の美味しそうな匂いが周囲に立ち込めていた。その匂いに誘われるようにして屋台に向かう。

「いらっしゃい」
「1シルで二人分、適当に頼みます」
「へい。酒も出せますが?」
「じゃあお願いします。エリザもそれでいいか?」
「構いませんわ」

 一食分にしては多めの金を出したので、酒も出してくれた。
 まあまあ良いお酒だ。肉や野菜の串焼きを食べながら、異世界のお酒の味に酔う。

 真昼間から酒を飲んでいることになるが、今日の仕事は終わっているからいいだろう。

 それにこれも仕事の一環だ。これからこの町に宿屋三号店をオープンしようというのだ。これはそのための事前調査とも言えるから、単なる飲み食いではなく仕事みたいなもんである。

 だから昼間から酒を飲んでいても、決して駄目社会人というわけではない。立派に仕事をしているのだ。

「ところでこれって何の肉ですか?」
「それはラビンの肉。そっちはビッグラットの肉だ」
「へー、なかなか美味いですね」
「なかなかじゃなくて超美味いだろ? ウチは仕込みを丁寧にやってるからな。余所じゃこの味は出せねえよ」
「うんうん、超美味いです」
「ラビンはともかく、このビッグラットの肉は職人の腕の違いが出るからな。酷いところのだと臭くて食えたもんじゃねえ」

 店主は俺たちと談笑しつつも、串焼きを焼き上げる手を止めない。その手さばきは見事だった。長年この町で商売やってるだけあるな。

「次はオーク肉の串焼きってやつをください」
「はいよ」

 要望すると、店主はオーク肉の串焼きを焼いてくれた。
 オーク肉は油ののった豚肉みたいな味がして非常に美味であった。出された肉の中じゃ一番美味かった。ご馳走様でした。

「さて。次はどこに行こうか」
「昨日は夕方に到着したので、あまり町を見て回れませんでしたからね。明るい内に色々と見て回りましょう」
「そうだなそうしよう」

 エリザと共に、ミッドロウの町を巡っていく。色んな出店で買い食いしたり、新規オープンする店の候補地などを調査していく。
 そんなことをしていると、夕方になった。

「エリザ、夕飯は屋台じゃなくて店舗を構えてる店で食べようか? そっちの方も調べないとだしな」
「ご主人様のご随意に。私は特に希望はありませんわ。強いて言うならば、昨日の酒場みたいに下郎のいるところは嫌ですわ」
「ハハ、そうか。じゃあ下郎のいなさそうな、ちょっとお高そうな店にでも行くか」

 メイン通りには安っぽい大衆向けの店しかなかった。人に聞けば裏通りには高級店もあるというので、そちらへと向かう。

「こりゃまたドスケベだな」
「下品ですわね」

 夜の裏通りは妖艶な雰囲気を醸し出していた。エッチなサービスをやるお店もあるようだな。客引きに立っているお姉さんもいる。

 そういった大人向けの店は、桃色や紫色の派手な色のライトみたいなもので照らされていた。
 電灯ではなく、“魔道具”というらしい。この世界にある科学的な道具は全て、魔道具と呼ばれているらしいな。

「ここにするか」
「ええ」

 変なサービスをする店を避け、食事のみを提供する高級っぽい雰囲気のあるお店に入る。
 レストランっぽいお店だ。高級そうな給仕服に身を包んだスタッフが給仕してくれるみたい。

「それじゃこのブル肉のステーキを」
「私もそれで」
「かしこまりました」

 俺とエリザはブル肉のステーキというものを頼むことにした。

 ブル肉というのは、ブルという魔物の肉で、牛肉っぽい見た目のお肉だ。
 値段的には、オーク肉以上にお高い。ドラゴンの肉ほどではないが、この世界では高級品に分類されるらしい。

 ブル肉のステーキなんて、今日の農場の仕事で得た報酬では到底払いきれないが、お金は持ってきているので大丈夫だ。
 迷うことなく注文する。ついでにお酒も。

「んー、美味いな」
「ええそうですわね。良いお肉ですわ」

 やがて配膳されたステーキを口へと運ぶ。肉を噛み締める。高級肉だけあって舌が蕩けそうなくらい美味い。最高だ。

「お水をどうぞ」
「どうも」

 いつもおもてなしする側だが、たまにはおもてなしされる側もいいな。異世界のレストラン最高だ。

 そんな幸せなひと時を過ごしていると、新たな客が来店してきた。

「今日は私が奢ってあげるわ。アンタたち、今日もうんと稼ぐのよ」
「はい。ありがとうございます。カーネラお姉様」

 俺たちの近くの席に、綺麗どころのお姉さんの一団がやって来た。妙齢の美女に引き連れられた、若いお姉さんたちの集団だ。

「何だろうあの人たち」
「さあ。堅気っぽくはありませんね。でも美味しそうな子たちですわ」

 エリザは若い女の子たちを見ながらペロリと舌なめずりする。
 吸血衝動が湧いているようだな。つられて俺まで血を飲みたくなっちゃったぞ。

「よし、後をつけて血を頂いちゃうか。食後のデザートとして彼女たちの蜜を頂くか」
「ええ是非そうしましょうご主人様」

 俺とエリザはひそひそとそんな会話をして邪悪に笑った。

 先に食事を始めていた俺たちであるが、女の子たちの食事が終わるのに合わせるため、追加注文をしてゆっくりと過ごす。

「レイラ、何してんだい? パンなんて袋に入れて?」
「……猫にやろうかと」
「やれやれ、猫じゃなくてどうせあのノビルとかいうガキだろ? あんな無能なガキなんて放っておけばいいのにさ」
「……昼も夜も潰れたトマンばかりだと流石に可哀想なので」
「無能は潰れたトマン食えるだけでも有難いってもんでしょ」

 若いお姉さんたちの内の一人、レイラという赤髪の女がパンを袋に詰めようとしていた。それを見て、他の女たちが口を挟んでいた。

「それにしても、あのノビルってガキ、本当に使えないわよね」
「本当。ガキの使いより酷いわよ。この前なんて掃除用具壊してカーネラお姉様に怒られてたし」
「レイラ、あのガキと同郷なんだって?」
「ええまあ」

 お姉さんたちの会話には、ノビルという名が頻繁に出てくる。どこかで聞いた名だな。

 ああ思い出した。昼間の農場にいた隈取少年と同じ名だな。同一人物だろうか。まさかな。

「――食べたならさっさと行くよ。準備してお客さん迎えないとね」
「はーい。カーネラお姉様」

 女たちは手短に食事を済ませると、店から出て行く。

「出るようだな。俺たちも行くかエリザ」
「ええ」

 俺たちはその後を追うことにした。

「――なるほど。この店の従業員たちだったか」

 女たちを尾行した先にあったのは一軒のお店。“ミッドロウの宵蝶”という名前のお店だった。いわゆる夜のお店だ。
 大きな洋館みたいな面構えの店である。

「かなりの高級店みたいだな」
「ええ。建物が大きいですし、この町最大の宿といった感じですわね」

 綺麗どころの女の子と一晩過ごせる花宿といった感じか。大きい町だからこういう形態の宿もあるんだな。勉強になるぜ。

「ご主人様、どうされます?」
「そうだな。店の中がどうなってるか調査したいところだし、あの女の子たちの血も吸いたいところだしな。店に入ってみるか」
「お客として入りますか?」
「うん。でも二人で馬鹿正直に入店する必要もないな。無駄に金かかりそうだし。俺が客として入店するから、エリザはいつもの小動物形態で付いてきてくれ」
「かしこまりましたわ」

 俺たちは物陰に隠れ、スキル【変化】を使う。俺は商人風の男へと変身し、エリザは小さな蝙蝠に変身して俺の胸ポケットに隠れた。

「さて行くか」
「ええレッツゴーですわ」

 それから、俺たちは店の中に入っていったのであった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美醜逆転世界の学園に戻ったおっさんは気付かない

仙道
ファンタジー
柴田宏(しばたひろし)は学生時代から不細工といじめられ、ニートになった。 トラックにはねられ転移した先は美醜が逆転した現実世界。 しかも体は学生に戻っていたため、仕方なく学校に行くことに。 先輩、同級生、後輩でハーレムを作ってしまう。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺

マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。 その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。 彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。 そして....彼の身体は大丈夫なのか!?

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

処理中です...