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二章
レイラとメリッサ
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――カランカラン。
豪華な扉を開いて、店の中に入る。
扉を開けた瞬間、耳障りの良い鐘の音が響いた。扉の上部に備え付けられた鐘が鳴ったのだ。
(何か緊張するな。別に女を抱きにきたというわけではないけど……)
高級娼館の持つ雰囲気は、華美かつ享楽的であった。その独特の雰囲気に呑まれ、少しだけ緊張する。
ちゃんとした娼館に入るのはこれが初めてだ。エデン村でも娼婦を買ったが、あれは宿に娼婦を派遣してもらうという形だったからな。
あの時はあまり緊張感はなかったが、こういったお店だと慣れてないせいか緊張する。
「いらっしゃいませ。お待たせしました」
緊張を解しながら待っていると、店の奥から店員が出てきた。
「当店は初めてでございますか?」
「ええまあ」
「当店は前払いとなっております。最低1ゴルゴンからです」
「そうですか」
最低で1ゴルゴン金貨とは結構するな。エデン村では一人3シルバニ銀貨だった気がするが。まあここは高級娼館みたいだし、それもそうか。
「それじゃとりあえず2ゴルゴンで。二人ほどお願いします」
血を吸いたいだけで、実際に女を抱くつもりはない。余計なサービスやオプションなどを選択する必要はないだろう。最低価格で払っておく。その代わり二人指名することにする。
「えっ、二人でございますか?」
「ええ。俺は凄い絶倫なのでね」
「か、かしこまりました」
二人も買うことにしたので、店員に驚かれてしまう。エデン村の時と同様、適当なことを言って誤魔化しておく。
童貞なのに絶倫ってどういうことやねん。
「どういった娘をご所望で?」
「任せます」
指名料がとられそうなので、店員のお任せにした。今はお金に余裕があるわけではないので、なるべく節約するに越したことはない
ただし、注文はつけさせてもらおう。合計2ゴルゴンも払うんだしな。
「ああでも、なるべく若くて、元冒険者の子とかだと嬉しいですね」
若い血の方が美味しい場合が多い。元冒険者であれば珍しい役に立つスキルとか持っているかもしれない。
加えて美人であることも付け加えようかと思ったが、ここは高級娼館だから美人以外はいないだろう。余計な注文をつける必要はないので黙っておく。
「冒険者ですか。わかりました。ではお先にお部屋へとご案内いたします」
「頼みます」
店員に導かれ、宛がわれた部屋へと向かう。高級ホテルのような廊下を通りながら、二階の一室へと案内された。
「しばしお待ちくださいませ」
店員が退室したので、俺はエリザを胸ポケットから解放した。そして話し始める。
「凄いなエリザ。流石高級ホテルって感じだ」
「そうですわね」
天井にはシャンデリアのような照明がある。質の良いベッドは勿論のこと、部屋の片隅にはトイレとバスルームまであった。蛇口を捻れば水やお湯が出る。
照明設備や給水設備は全部魔道具で出来ているらしい。どうやら部屋全体がお高い魔道具で飾られているらしい。
どの魔道具も高級そうでぶっ壊したら大変そうだな。
ここだけ中世の世界とは思えない。まるでダンジョンの中にいるように思える。魔法文明独特の異世界の姿がそこにあった。
――コンコン。
エリザと豪華な部屋の観賞をしていると、戸がノックされた。
エリザをベッド下に隠してから、「どうぞ」と応答する。
「失礼します」
お臍が丸出しの艶かしい衣装を着た若い女の子が二人、部屋に入って来た。
二人共、見覚えがある。先ほどのレストランで見かけた二人だな。
「レイラです。本日はよろしくお願いします」
最初に挨拶してくれたのは“レイラ”という子だ。
燃えるような赤の長髪、それに反するようなクールな表情が印象的な女の子だ。スレンダーな引き締まった体型をしている。
なんとなくスポーツ美少女って雰囲気のある子だね。健康的で爽やかな血の味がしそうで楽しみな子だ。
「メリッサです。よろしく」
もう一人は“メリッサ”という子だ。
茶髪で、盛りに盛った髪が特徴的な子である。キリっとした表情でかなりの美人だが、特徴的な髪型で化粧が濃い目なので、不良ギャルに見えるな。レイラと比べてむっちりとした体型をしている。
やや不健康そうだが、こってりとしたジャンクフード的な血が楽しめそうな子だ。
「へー、二人共、冒険者だったんだね」
「はい。私は剣士でメリッサは魔法使いです」
「ふぅん、そうなんだ」
二人はこのミッドロウの町で出会い、同じチームを組んでいたらしい。
鉄等級のそれなりに優秀な冒険者チームだったようだが、貴族筋の依頼をドジって、それで奴隷階級に落ちたようだ。
哀れなもんだ。人生万事塞翁が馬というやつか。
「ん?」
よく見ると、二人の下腹部には薄っすらと紋様が浮かび上がっていた。蝶のような形の紋様である。
ダンジョンマスターの眷属であることを示す刻印にも見えるが、常時浮かび上がっていることから考えて、それとは違うようだ。
「ねえその下腹部の紋様って何?」
「ああこれですか……これは“契約の印”ですね」
「契約の印?」
「はいそうです」
尋ねると、レイラが説明してくれた
「奴隷に施される印ですよ」
「へえそうなんだ」
契約の印とは端的に言えば、魔道具によって奴隷に施される、対象の行動を縛る魔法印のようだ。
その印が施されている対象は、契約満了するまで契約主の言うことを聞くしかなくなるらしい。契約内容によっては、例えば、この町から出られず契約主への危害や自分自身に危害を加える自傷行為などができなくなるらしい。
(そういや、昼間の農奴の腹にも似たような刻印があったっけか)
レイラの話を聞き、昼間エリザをいやらしい目で見て俺を苛立たせた農奴の男の腹にも似たような刻印があったことを、俺は思い出した。
「その魔道具を使ったら一方的に奴隷にできるの?」
「いえその心配はありませんよ」
対象の動きを縛ることができるなんて、恐ろしい魔道具があるもんだ。
そんな恐ろしい魔道具があるなら、こっそり使われたら怖いなと思ったが、そう簡単にホイホイ使えるシロモノではないようだ。
「強力な魔道具はそれなりの手順を踏まないと使えないことになっていますから」
「へえそうなんだ」
契約の印を使うには、かなり複雑な手順を経る必要があるようだ。契約者双方の合意も必要らしい。仮に寝ている隙にその魔道具を一方的に使われたところで、効果は発揮しないらしい。そうと聞いて一安心だな。
「ちなみに二人共、借金ってどれくらいあるの?」
「私は87ゴルゴンです」
「アタシはあと85くらい」
レイラが87ゴルゴン、メリッサが85ゴルゴンの借金が残っているようだ。つまり、その金貨の数と同じくらい売春しなきゃいけないってことか。宿屋に差し引かれる分を考えると、もっとか。あれま大変だね。
「ありゃー、そんな借金がねぇ、まあ可哀想に。若くして苦労してるねぇ」
「まあそうですね……」
「テメエ、何だその言い方、馬鹿にしてんのかよ!」
「やめなよメリッサ」
心にもない慰めの言葉を言ったので、その気持ちが表に出ていたのだろう。二人の表情がむっとしたものに変わる。
メリッサの方は喧嘩っ早いようで、俺に文句を言ってきた。
「ごめんごめん悪気はないんだ。つい本音がね」
「本音だったらもっと悪いだろうがよ!」
「やめなってメリッサ」
前世の俺だったら、人の不幸話を聞けば心を痛めて心からの労わりの言葉をかけていただろう。
だが今の俺は吸血鬼だ。吸血鬼だから人の痛みには鈍感になってしまっている。
昼間に農奴を怒らせてしまった時もそうだが、常に態度を取り繕っていないと、トラブルの原因になる発言をしてしまうな。
俺ったらうっかりだぜ。こんなんじゃ社会人としてビジネスマンとして失格だな。直ちに謝罪せねば。
「本当に申し訳ない。謝罪するよ」
「ちっ、客だからって調子に乗ってんなよ」
「メリッサ、謝ってくれてんだからもういいでしょ」
申し訳ない顔を取り繕いながら謝罪すると、二人は許してくれた。心の広い優しい子たちのようだ。
そんな子たちの血を吸うのは悪魔のやる所業であるが、吸血鬼である俺たちには何の抵抗もない。お喋りも済んだし、早速血を吸わせてもらうとしよう。
「そうか。可哀想な子たちだ。俺たちが救ってあげよう。一晩の夢を見せてあげるよ。なあエリザ」
「そうですねご主人様。哀れな子羊ちゃんたち、今晩は良い夢を見るといいですわ」
「「え?」」
俺とエリザは本来の吸血鬼の姿になると、すぐさま全力でスキル【魅了】を発動させた。
二人はそれなりに腕の立った元冒険者のようだが、俺たちのスキルに抗えるほどの力はなかった。
「あう」
「あぁ」
二人はあっという間に魅了され、呆けた表情になる。夢見心地の虚ろな表情となる。
今頃は幻術世界に囚われ、良い夢を見ていることだろう。
彼女たちが夢見心地で呆けている間、血を吸わせてもらうとしよう。
「さてどっちにする? エリザに先に選ばせてあげるよ」
「では、私はこっちの小生意気そうな子にしますわ」
「メリッサちゃんね。それじゃ俺はレイラちゃんの方にしよう」
まずは俺がレイラ、エリザがメリッサの血を吸うことになった。
それじゃ、早速吸わせてもらうとするか。それなりに腕が立った元冒険者の血、どんなもんかね。
「いただきまーす」
「いただきますですわ」
食事前の挨拶をしてから、俺たちはそれぞれの獲物の首筋に優しく牙を突き立てる。そして血を吸っていく。
「んん! 美味しい!」
レイラの血は、見た目通り爽やかなものだった。苦界に落ちているので身は汚れているものの、魂は汚れていないようだ。
きっと冒険者としての再起を夢見ながら前向きに頑張っているのだろう。
酸味が強く感じられるものの、栄養満点で不味くはない。
まるでトマトだ。爽やかなトマトジュースのような味がするな。
――スキル【吸血】発動。経験値獲得。
――初めての対象であるのでボーナスを獲得。
――スキル【天才】を獲得。
天才:戦闘、スキル経験値ともに取得率上昇。戦闘時、HPとMPを除く全てのステータス上昇。
おお、何だか凄そうなスキルをゲットできたぞ。天才だなんて凄いな。
吸血鬼は吸血行為以外では成長できない種族のようだから、スキル内容の前半部分の効果(経験値云々)はほぼ意味ないだろう。だが、後半部分の効果は意味ありそうだ。戦闘時に強くなれそうだ。
やった、強そうなスキルをゲットできたぜ。これでまた、最強の存在に向けて一歩成長することができたぞ。
「エリザ、レイラちゃんはなかなか美味いぞ。良いスキルもゲットできたし最高だ。そっちはどうだ?」
「こっちも悪くない味ですわ。この子、見た目と違ってそこまでアバズレではないようです。意外と純な子みたいですわね」
「酷い言い草だな。スキルはどうなんだ?」
「魔法が使えるようになりましたわ。スキル【火球】というのを覚えました」
「おお! そりゃ最高だ!」
元冒険者で魔法使いのメリッサの血を吸ったことで、エリザは魔法系スキルをラーニングできたらしい。俺も吸ったら魔法が使えるようになるかもな。
「どれ、俺にもメリッサちゃんの血を堪能させておくれ」
「ええどうぞ」
エリザと抱えている女の子を交換する。レイラをエリザに引渡し、俺はメリッサを受け取る。
そして今度はメリッサの首筋に歯を突き立て、血を吸っていく。
「うん、こっちの子も美味しいや」
予想通り、油っぽい味の子だ。カロリーの高い血である。だが嫌な感じの味ではない。
癖があるのだが、悪くない味だ。例えるのならチーズのような味かな?
「濃厚で美味しいねぇ」
癖のある中にも味わい深いものが感じられる。食後に飲む血ではないが、空腹時に飲んだらめちゃくちゃ美味しいと思える。
メリッサの血は、そんな濃厚で味わい深い味だった。
――スキル【吸血】発動。経験値獲得。
――初めての対象であるのでボーナスを獲得。
――スキル【火球】を獲得。
火球:火の球を飛ばす火炎魔法が使えるようになる。
おお、やはり魔法系スキルをゲットできたようだ。火の球を飛ばす攻撃魔法が使えるようになったらしい。
後で広いところでこっそり試してみるか。
「ふぅごちそうさま」
「ごちそうさまでしたわ」
吸血し終わった俺たちは、レイラとメリッサをベッドの上に寝せると、彼女たちをより深い魅了状態にして眠らせた。
これでしばらく、二人は目覚めることはないだろう。
「ご主人様、もっと色々な子の血を頂いていきましょう。この宿にはきっと美味しそうな子がいっぱいいますわ」
「そうだな。満腹になるまで楽しませてもらうとするか」
レイラたちが眠っているその間に、俺たちは宿のあちこちを歩き回って血を頂くことにしたのだった。
♦現在のヨミトのステータス♦
名前:ヨミト(lv.47)
種族:吸血鬼(ノーマル)
HP:288/288 MP:281/281
【変化】【魅了】【吸血】【鬼語】【粗食】【獣の嗅覚】【獣の視覚】【獣の聴覚】【獣の味覚】
【剣術】【我慢】【起床】【睡眠】【威圧】【料理】【伐採】【裁縫】【農耕】【投擲】
【風刃】【天才】【火球】
豪華な扉を開いて、店の中に入る。
扉を開けた瞬間、耳障りの良い鐘の音が響いた。扉の上部に備え付けられた鐘が鳴ったのだ。
(何か緊張するな。別に女を抱きにきたというわけではないけど……)
高級娼館の持つ雰囲気は、華美かつ享楽的であった。その独特の雰囲気に呑まれ、少しだけ緊張する。
ちゃんとした娼館に入るのはこれが初めてだ。エデン村でも娼婦を買ったが、あれは宿に娼婦を派遣してもらうという形だったからな。
あの時はあまり緊張感はなかったが、こういったお店だと慣れてないせいか緊張する。
「いらっしゃいませ。お待たせしました」
緊張を解しながら待っていると、店の奥から店員が出てきた。
「当店は初めてでございますか?」
「ええまあ」
「当店は前払いとなっております。最低1ゴルゴンからです」
「そうですか」
最低で1ゴルゴン金貨とは結構するな。エデン村では一人3シルバニ銀貨だった気がするが。まあここは高級娼館みたいだし、それもそうか。
「それじゃとりあえず2ゴルゴンで。二人ほどお願いします」
血を吸いたいだけで、実際に女を抱くつもりはない。余計なサービスやオプションなどを選択する必要はないだろう。最低価格で払っておく。その代わり二人指名することにする。
「えっ、二人でございますか?」
「ええ。俺は凄い絶倫なのでね」
「か、かしこまりました」
二人も買うことにしたので、店員に驚かれてしまう。エデン村の時と同様、適当なことを言って誤魔化しておく。
童貞なのに絶倫ってどういうことやねん。
「どういった娘をご所望で?」
「任せます」
指名料がとられそうなので、店員のお任せにした。今はお金に余裕があるわけではないので、なるべく節約するに越したことはない
ただし、注文はつけさせてもらおう。合計2ゴルゴンも払うんだしな。
「ああでも、なるべく若くて、元冒険者の子とかだと嬉しいですね」
若い血の方が美味しい場合が多い。元冒険者であれば珍しい役に立つスキルとか持っているかもしれない。
加えて美人であることも付け加えようかと思ったが、ここは高級娼館だから美人以外はいないだろう。余計な注文をつける必要はないので黙っておく。
「冒険者ですか。わかりました。ではお先にお部屋へとご案内いたします」
「頼みます」
店員に導かれ、宛がわれた部屋へと向かう。高級ホテルのような廊下を通りながら、二階の一室へと案内された。
「しばしお待ちくださいませ」
店員が退室したので、俺はエリザを胸ポケットから解放した。そして話し始める。
「凄いなエリザ。流石高級ホテルって感じだ」
「そうですわね」
天井にはシャンデリアのような照明がある。質の良いベッドは勿論のこと、部屋の片隅にはトイレとバスルームまであった。蛇口を捻れば水やお湯が出る。
照明設備や給水設備は全部魔道具で出来ているらしい。どうやら部屋全体がお高い魔道具で飾られているらしい。
どの魔道具も高級そうでぶっ壊したら大変そうだな。
ここだけ中世の世界とは思えない。まるでダンジョンの中にいるように思える。魔法文明独特の異世界の姿がそこにあった。
――コンコン。
エリザと豪華な部屋の観賞をしていると、戸がノックされた。
エリザをベッド下に隠してから、「どうぞ」と応答する。
「失礼します」
お臍が丸出しの艶かしい衣装を着た若い女の子が二人、部屋に入って来た。
二人共、見覚えがある。先ほどのレストランで見かけた二人だな。
「レイラです。本日はよろしくお願いします」
最初に挨拶してくれたのは“レイラ”という子だ。
燃えるような赤の長髪、それに反するようなクールな表情が印象的な女の子だ。スレンダーな引き締まった体型をしている。
なんとなくスポーツ美少女って雰囲気のある子だね。健康的で爽やかな血の味がしそうで楽しみな子だ。
「メリッサです。よろしく」
もう一人は“メリッサ”という子だ。
茶髪で、盛りに盛った髪が特徴的な子である。キリっとした表情でかなりの美人だが、特徴的な髪型で化粧が濃い目なので、不良ギャルに見えるな。レイラと比べてむっちりとした体型をしている。
やや不健康そうだが、こってりとしたジャンクフード的な血が楽しめそうな子だ。
「へー、二人共、冒険者だったんだね」
「はい。私は剣士でメリッサは魔法使いです」
「ふぅん、そうなんだ」
二人はこのミッドロウの町で出会い、同じチームを組んでいたらしい。
鉄等級のそれなりに優秀な冒険者チームだったようだが、貴族筋の依頼をドジって、それで奴隷階級に落ちたようだ。
哀れなもんだ。人生万事塞翁が馬というやつか。
「ん?」
よく見ると、二人の下腹部には薄っすらと紋様が浮かび上がっていた。蝶のような形の紋様である。
ダンジョンマスターの眷属であることを示す刻印にも見えるが、常時浮かび上がっていることから考えて、それとは違うようだ。
「ねえその下腹部の紋様って何?」
「ああこれですか……これは“契約の印”ですね」
「契約の印?」
「はいそうです」
尋ねると、レイラが説明してくれた
「奴隷に施される印ですよ」
「へえそうなんだ」
契約の印とは端的に言えば、魔道具によって奴隷に施される、対象の行動を縛る魔法印のようだ。
その印が施されている対象は、契約満了するまで契約主の言うことを聞くしかなくなるらしい。契約内容によっては、例えば、この町から出られず契約主への危害や自分自身に危害を加える自傷行為などができなくなるらしい。
(そういや、昼間の農奴の腹にも似たような刻印があったっけか)
レイラの話を聞き、昼間エリザをいやらしい目で見て俺を苛立たせた農奴の男の腹にも似たような刻印があったことを、俺は思い出した。
「その魔道具を使ったら一方的に奴隷にできるの?」
「いえその心配はありませんよ」
対象の動きを縛ることができるなんて、恐ろしい魔道具があるもんだ。
そんな恐ろしい魔道具があるなら、こっそり使われたら怖いなと思ったが、そう簡単にホイホイ使えるシロモノではないようだ。
「強力な魔道具はそれなりの手順を踏まないと使えないことになっていますから」
「へえそうなんだ」
契約の印を使うには、かなり複雑な手順を経る必要があるようだ。契約者双方の合意も必要らしい。仮に寝ている隙にその魔道具を一方的に使われたところで、効果は発揮しないらしい。そうと聞いて一安心だな。
「ちなみに二人共、借金ってどれくらいあるの?」
「私は87ゴルゴンです」
「アタシはあと85くらい」
レイラが87ゴルゴン、メリッサが85ゴルゴンの借金が残っているようだ。つまり、その金貨の数と同じくらい売春しなきゃいけないってことか。宿屋に差し引かれる分を考えると、もっとか。あれま大変だね。
「ありゃー、そんな借金がねぇ、まあ可哀想に。若くして苦労してるねぇ」
「まあそうですね……」
「テメエ、何だその言い方、馬鹿にしてんのかよ!」
「やめなよメリッサ」
心にもない慰めの言葉を言ったので、その気持ちが表に出ていたのだろう。二人の表情がむっとしたものに変わる。
メリッサの方は喧嘩っ早いようで、俺に文句を言ってきた。
「ごめんごめん悪気はないんだ。つい本音がね」
「本音だったらもっと悪いだろうがよ!」
「やめなってメリッサ」
前世の俺だったら、人の不幸話を聞けば心を痛めて心からの労わりの言葉をかけていただろう。
だが今の俺は吸血鬼だ。吸血鬼だから人の痛みには鈍感になってしまっている。
昼間に農奴を怒らせてしまった時もそうだが、常に態度を取り繕っていないと、トラブルの原因になる発言をしてしまうな。
俺ったらうっかりだぜ。こんなんじゃ社会人としてビジネスマンとして失格だな。直ちに謝罪せねば。
「本当に申し訳ない。謝罪するよ」
「ちっ、客だからって調子に乗ってんなよ」
「メリッサ、謝ってくれてんだからもういいでしょ」
申し訳ない顔を取り繕いながら謝罪すると、二人は許してくれた。心の広い優しい子たちのようだ。
そんな子たちの血を吸うのは悪魔のやる所業であるが、吸血鬼である俺たちには何の抵抗もない。お喋りも済んだし、早速血を吸わせてもらうとしよう。
「そうか。可哀想な子たちだ。俺たちが救ってあげよう。一晩の夢を見せてあげるよ。なあエリザ」
「そうですねご主人様。哀れな子羊ちゃんたち、今晩は良い夢を見るといいですわ」
「「え?」」
俺とエリザは本来の吸血鬼の姿になると、すぐさま全力でスキル【魅了】を発動させた。
二人はそれなりに腕の立った元冒険者のようだが、俺たちのスキルに抗えるほどの力はなかった。
「あう」
「あぁ」
二人はあっという間に魅了され、呆けた表情になる。夢見心地の虚ろな表情となる。
今頃は幻術世界に囚われ、良い夢を見ていることだろう。
彼女たちが夢見心地で呆けている間、血を吸わせてもらうとしよう。
「さてどっちにする? エリザに先に選ばせてあげるよ」
「では、私はこっちの小生意気そうな子にしますわ」
「メリッサちゃんね。それじゃ俺はレイラちゃんの方にしよう」
まずは俺がレイラ、エリザがメリッサの血を吸うことになった。
それじゃ、早速吸わせてもらうとするか。それなりに腕が立った元冒険者の血、どんなもんかね。
「いただきまーす」
「いただきますですわ」
食事前の挨拶をしてから、俺たちはそれぞれの獲物の首筋に優しく牙を突き立てる。そして血を吸っていく。
「んん! 美味しい!」
レイラの血は、見た目通り爽やかなものだった。苦界に落ちているので身は汚れているものの、魂は汚れていないようだ。
きっと冒険者としての再起を夢見ながら前向きに頑張っているのだろう。
酸味が強く感じられるものの、栄養満点で不味くはない。
まるでトマトだ。爽やかなトマトジュースのような味がするな。
――スキル【吸血】発動。経験値獲得。
――初めての対象であるのでボーナスを獲得。
――スキル【天才】を獲得。
天才:戦闘、スキル経験値ともに取得率上昇。戦闘時、HPとMPを除く全てのステータス上昇。
おお、何だか凄そうなスキルをゲットできたぞ。天才だなんて凄いな。
吸血鬼は吸血行為以外では成長できない種族のようだから、スキル内容の前半部分の効果(経験値云々)はほぼ意味ないだろう。だが、後半部分の効果は意味ありそうだ。戦闘時に強くなれそうだ。
やった、強そうなスキルをゲットできたぜ。これでまた、最強の存在に向けて一歩成長することができたぞ。
「エリザ、レイラちゃんはなかなか美味いぞ。良いスキルもゲットできたし最高だ。そっちはどうだ?」
「こっちも悪くない味ですわ。この子、見た目と違ってそこまでアバズレではないようです。意外と純な子みたいですわね」
「酷い言い草だな。スキルはどうなんだ?」
「魔法が使えるようになりましたわ。スキル【火球】というのを覚えました」
「おお! そりゃ最高だ!」
元冒険者で魔法使いのメリッサの血を吸ったことで、エリザは魔法系スキルをラーニングできたらしい。俺も吸ったら魔法が使えるようになるかもな。
「どれ、俺にもメリッサちゃんの血を堪能させておくれ」
「ええどうぞ」
エリザと抱えている女の子を交換する。レイラをエリザに引渡し、俺はメリッサを受け取る。
そして今度はメリッサの首筋に歯を突き立て、血を吸っていく。
「うん、こっちの子も美味しいや」
予想通り、油っぽい味の子だ。カロリーの高い血である。だが嫌な感じの味ではない。
癖があるのだが、悪くない味だ。例えるのならチーズのような味かな?
「濃厚で美味しいねぇ」
癖のある中にも味わい深いものが感じられる。食後に飲む血ではないが、空腹時に飲んだらめちゃくちゃ美味しいと思える。
メリッサの血は、そんな濃厚で味わい深い味だった。
――スキル【吸血】発動。経験値獲得。
――初めての対象であるのでボーナスを獲得。
――スキル【火球】を獲得。
火球:火の球を飛ばす火炎魔法が使えるようになる。
おお、やはり魔法系スキルをゲットできたようだ。火の球を飛ばす攻撃魔法が使えるようになったらしい。
後で広いところでこっそり試してみるか。
「ふぅごちそうさま」
「ごちそうさまでしたわ」
吸血し終わった俺たちは、レイラとメリッサをベッドの上に寝せると、彼女たちをより深い魅了状態にして眠らせた。
これでしばらく、二人は目覚めることはないだろう。
「ご主人様、もっと色々な子の血を頂いていきましょう。この宿にはきっと美味しそうな子がいっぱいいますわ」
「そうだな。満腹になるまで楽しませてもらうとするか」
レイラたちが眠っているその間に、俺たちは宿のあちこちを歩き回って血を頂くことにしたのだった。
♦現在のヨミトのステータス♦
名前:ヨミト(lv.47)
種族:吸血鬼(ノーマル)
HP:288/288 MP:281/281
【変化】【魅了】【吸血】【鬼語】【粗食】【獣の嗅覚】【獣の視覚】【獣の聴覚】【獣の味覚】
【剣術】【我慢】【起床】【睡眠】【威圧】【料理】【伐採】【裁縫】【農耕】【投擲】
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これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
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