吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

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二章

書類審査、きな臭い噂

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「使えそうなのは、元鉄等級冒険者“天才”のレイラ。同じく元鉄等級の“爆炎”のメリッサか」

 元冒険者の若い娼婦レイラとメリッサ。書類をざっと見た感じ、有用そうな人材はその二人だった。

「あの子たちか。美味しい子だったなぁ」

 二人は、俺が初めてこの宿に来た時に指名してエリザと一緒に血を吸った子たちだね。中々美味しい血の持ち主だった。やはり優秀な子たちだったようだ。

 レイラはスキルの習熟と戦闘面で恩恵のある【天才】という優れたスキルを持っていて、冒険者時代はそのまま“天才”という二つ名で通っていたようだ。
 メリッサは優秀な火炎魔法の使い手で、それで“爆炎”なんて二つ名が付いていたらしい。

 鉄等級で二つ名が付く人間は珍しく、二人共、かなり有望な冒険者だったらしいね。
 カーネラの人物評でも、至極真面目で信に厚い、と書かれている。信頼できそうな人材みたいだ。

「二人は凄い冒険者なのに、鉄等級の仕事でしくじっちゃったんだ。鉄等級って下から二番目の階級でしょ?」
「ええその通りです。ですが鉄等級からは町の外に出る危険な依頼もこなすようになりますので、優秀ゆえに実力を過信して道を見誤るというのは、それほど珍しい話じゃありません」
「なるほどねえ。鉄等級から冒険者稼業の厳しさに晒されるわけか。二人とも、優秀だからって調子に乗りすぎて無理しちゃったんだ?」
「かもしれません。ですが、私が見た限り、二人とも、そういう性格じゃないんですけどね。実は、彼女たちが落ちぶれた理由については、きな臭い噂があります」
「きな臭い噂?」
「ええ、あくまで噂なのですが」

 カーネラはあくまで噂だと前置きした上で話をしてくれた。

「ヨミト様とエリザ様は冒険者に擬態して活動していらっしゃいますよね。でしたら、“冒険者狩り”という連中をご存知でしょうか?」
「冒険者狩り? いや、聞いたことないね。俺とエリザって、まだ登録したばっかで木等級だからさ。農場で草取りの仕事とか、そんなつまらない仕事ばっかやってんのよ。町の中の情報以外はさっぱりだよ」
「そうでしたか。ではご説明させていただきます。冒険者狩りとはその名の通り、冒険者を狩る犯罪者、もしくはその集団のことです」

 カーネラは冒険者狩りについて説明してくれる。
 この世界には冒険者を狩る組織なんてものがあるらしい。冒険者を殺して直接的に金品を奪う輩もいれば、冒険者を捕まえて非合法奴隷にして裏市場に流したり、あるいは合法的手段によって合法奴隷に落として奴隷市場に流したり、間接的手段で金を稼いでいる輩もいるようだ。

「そんな悪い奴、ギルドや国が取り締まってないの?」
「勿論、取り締まられておりますよ。定期的にそういった話を聞きます。ですが、犯行がバレずに闇に消えていくという話も多く聞きます」
「なるほどねえ」

 どこの世界にも悪い奴はいるもんだね。
 前にウチの宿の備品を根こそぎパクろうとする奴もいたし、色んな悪い奴がいるもんだ。

 本当は魔物でダンジョンマスターなのに人をたぶらかして町に拠点を作っている悪い奴もいるし、宿に宿泊している客の血を勝手に吸っておいて不味いだの何だのと失礼なことを言う悪い奴もいるしな。
 ホント、世の中には色んな悪い奴がいるな。

「まさか、レイラたちはその冒険者狩りって奴らにやられたのか?」
「ええ。優秀で真面目な彼女たちがしくじるなど、それ以外に考え難いです」
「ふぅん。その根拠は?」
「実は最近、この町で元冒険者の奴隷が増えているのです。レイラとメリッサもそうですが、他にも似たような境遇な人は多いようです。裏では冒険者狩りが関わっていて、新人冒険者を奴隷に落としているのではないかともっぱらの噂です」
「なるほど。花宿経営で奴隷売買にも多少関わってるカーネラだから、そんな疑いを持てたってことか。でも、レイラたちがその被害に遭ったっていう証拠はないわけでしょ? レイラたちがその被害者だっていうのは短絡的すぎる見方じゃないか?」
「ええ。ですからあくまで根拠の薄い噂というわけです」

 カーネラはあくまで尾ひれのついた噂話だと断言する。

 レイラたちが冒険者狩りの被害に遭ったかどうかはひとまず置いて、話を整理しよう。

 色んな噂が飛び交っているようだが、確かに言えることは一つだ。
 レイラとメリッサみたいに冒険者稼業でしくじって奴隷に落ちる子が、最近のミッドロウの町では増えているらしい。それは確かなようだ。

 そういや、農場で働いている農奴たちもいっぱいいたな。
 彼らもレイラたちと似たような境遇なのだろうか。たぶんそうだろう。
 冒険者稼業でしくじると男は農奴で、女は娼婦に落ちる、とか農奴の一人が言ってたしな。彼らも元冒険者かもしれん。

(冒険者狩りか。あり得るかもな)

 農場で会った奴らはアホそうだったから普通に調子乗って仕事で大失敗したとしてもおかしくないけど、優秀で真面目なレイラたちが失敗したとなると、確かに冒険者狩りが暗躍しているという噂の信憑性も増してくるだろう。

(あの二人の子、美味しかったもんなぁ。優秀なスキルも持ってたしさ。そんな子が大ポカをやらかすかね?)

 俺とエリザは血の味からその人物の強さなどをおおよそ推定できる。
 レイラとメリッサの血は、前に血を吸ったことのある鋼等級の冒険者よりも、よっぽど美味しく感じられた。

 つまり、二人はかなりの強者と言える。鉄等級というあまり大したことないランクの冒険者なのに二つ名があったことからもそれは伺える。

 そんな優秀な二人が、鉄等級の冒険者の仕事で大失敗なんてするとは思えないんだよなぁ。

 冒険者狩りが絡んでいるという噂は、あながち嘘じゃないかもしれない。

「冒険者狩りについて、ギルドは調査していないの? 事実だったら大問題でしょ?」
「ええ。勿論調査はしているようでございます。ですが、今の所、そんな存在は確認できないとのことです。我が宿のお客様であるギルド職員の方からそれとなく聞いた情報ですが」
「なるほど。現状、証拠はなく、根拠のない噂でしかないというわけか。でも火のないところに煙は立たないっていうし、あながち嘘でもなさそうだな」

 冒険者狩りは、巧妙に存在を隠して犯行を重ねているのかもしれないな。ギルドの目を欺くくらいだから、かなり上手く闇に紛れているようだ。
 まあそんな存在が実際にいるとすればの話だが。

「冒険者狩りか。興味が湧いてきたな。レイラとメリッサが奴隷落ちした際の話とか詳しく聞いてみたいな。そこらへんの話、カーネラは聞いたことある?」
「いえ、聞いておりません。過去の事情を色々と聞くのはご法度なので」
「そっか。じゃあレイラとメリッサを眷属に勧誘するついでに、色々と聞いてみるとしようか」
「わかりました。では、二人の勧誘は私から事前に話を通しておきましょう。おそらく、借金を肩代わりすると言えば、二人はすぐに落ちるでしょう。二人はこの仕事を真面目にやってくれていますが、心の底では嫌気がさしていると思いますので。借金を肩代わりして苦界から拾い上げてくれる人は、救いの神に見えることでしょう」
「そうか。それじゃ俺がその救いの神とやらになるとするか。お金は俺が用意するよ。ダンジョン産のアイテムを横流しすれば簡単に金は作れると思うからさ。横流しする先はカーネラに任せてもいい?」
「お任せください。長年この町を拠点にしているので、そちらの伝手もございますので」
「じゃあよろしく頼むよ」

 レイラたちのスカウトと金策について、カーネラとしばらく話し合う。
 邪悪な吸血鬼と徳目知らずの忘八と呼ばれる女郎主の会話は、傍から見れば中々悪そうな会話に見えるだろうな。

「それじゃ、俺は一旦ダンジョンに帰るよ。カーネラたち、お仕事頑張ってね」
「ええ」

 必要な話が済んだので、俺はカーネラたちに別れを告げ、ダンジョンへと戻ったのであった。
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