吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

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二章

鉄等級昇級試験3/3

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「おめでとうございます。筆記試験の結果次第ですが、ヨミトさんたち、合格は間違いなさそうですね」
「ありがとうパープル君。君も合格間違いなさそうだね」
「ええ。三人共合格できそうでよかったですよ」

 俺たちの試験が終わるなり、パープルが声をかけてきた。

 パープルは自分の試験が早めに終わったものの、すぐに帰らずに試験会場に残っていたようだ。他の受験者の様子をじっくり見ていたようだな。

「ヨミトさんたち、鉄等級に無事昇級できたら、よければ僕とチームを組みませんか?」
「え、チーム? チームなんて組む必要あるの?」
「はい。鉄等級になると町の外での任務を受けることもあるので、その際はチームで動かないと危ないんですよ。チームじゃなきゃ受けられない依頼もありますし。まあ基本個人で活動してて、必要に応じてどこかのチームに助っ人で入るということもできますが、それはそれで色々と大変なので。鉄等級になれば、普通、同期の人たちと固定チームを組むのが一般的ですよ」
「へえそうなんだ」

 なるほど。パープルがわざわざ試験会場に残っていたのは、仲間を見つけるためだったのか。試験の様子を見ながら、戦力になりそうな、人格に問題なさそうな人間の目星をつけていたわけだ。

 賢いね。今後のことは特に何も考えずに試験を受けていた俺たちとは大違いだ。

「いいよ組もうか。エリザもそれで構わないか?」
「ええ勿論ですわ」
「そうですか。ありがとうございます。これからよろしくお願いしますね」

 チームを組むのは、俺たちとしても渡りに船だ。パープルの提案を、俺たちは二つ返事で受けることにした。

「パープル君、それで、俺たち以外の人員は決まってるの?」
「いえまだです。これから声をかけていこうかと」
「そっか。どんな人を選ぶつもり?」
「実は僕、風の魔法も使えるんです。後衛もできますので、攻撃的な後衛はもう一人くらいいればいいかなと。あとは前衛一人、欲を言えば回復魔法が使える人も欲しいですが、回復魔法使いは貴重ですからね。ギルドや教会や貴族が囲い込んだりしますから、なかなかチームには誘えない場合が多いです。代わりに前衛を増やしてもいいかもしれません」

 パープルは考えていることを怒涛のように述べる。

「ええと、つまり、あと三人くらい必要なんだな?」
「はいそうですね。そうすれば一応、チームとしての形が整います。冒険者界隈では一小隊六名で構成されることが多いですから」
「へえそうか」

 前衛一人と後衛一人に関しては、当てがないわけではない。レイラとメリッサだ。
 ただ彼女たちを身請けするには今しばらく時間がかかる。すぐにはスカウトできないな。

「一応、俺に当てはあるよ。優秀な鉄等級の先輩冒険者だ」
「鉄等級の先輩ですか。それは頼りになりますね」
「ただ、今は休業中なんだ。復帰するにはもう少し時間がかかりそう」
「そうですか。となれば、まずは他の人員を探した方がいいですね。チームの人員は多いに越したことはないわけですし。チームの皆の予定が常に合うとは限りませんし、人員は六名より多めに確保した方がいいでしょう。まずはその先輩たち以外の人員を見つけ、チームの体裁を整えましょう。後でその先輩冒険者を迎え入れればいいだけですから」
「そうだね」

 パープルは頭の回転が速いようで、ぺちゃくちゃと思いついたことを捲くし立てるように述べていく。どれも理に適っていることだ。
 レイラとメリッサが加わるまでの間、当面のメンバーを確保しておかねばならないらしい。

「とりあえず、このまま試験の続きを見て、良さそうな人材を見繕いましょう。ヨミトさんとエリザさんには、ここをお願いしてもいいでしょうか? 僕は後衛試験の方の様子を見に行きたいと思います」
「ああわかったよ。ここは俺とエリザで見てるよ」
「ではお任せします」

 パープルは駆け足で後衛部門の実技試験が行われている会場へと向かっていった。忙しない子だ。

 まあ真面目で優秀で素晴らしいけどね。チャンスがあるならば眷属にしたいところだな。あの子、美味しい血を持っているしな。

 パープルが去った後、俺とエリザはチームメンバーの候補を探していく。

「うーん、なかなか良い子がいないなぁ」
「ですわね。小物臭のする奴らばかりですわ」
「こらこら小物とか言わないの。一応冒険者としては俺たちの同期だぞ」

 試験の続きを見学しているが、良さげな人材は見当たらない。あっという間に時だけが過ぎていく。

「――次で最後だ。受験番号百二、ノビル!」
「お、あの子だ。あの子も昇級試験を受けてたのか」
「そのようですわね」

 前衛実技試験の最後の受験者は、あの無能少年、ノビルだった。

「うおおお! 今回こそ受かってやる!」

 ノビルは自分の顔をバシバシと叩いていて、かなり気合が入っている様子だった。まるで取組前の力士のようだ。何かやってくれそうな期待感がある。

「よっしゃ、今日最後の仕事だ! 気合入れていくぞ! ノビルとかいう坊主、殺す気でかかってこいや!」
「ああッ! 言われなくても!」

 ノビルは斧を得物にしているようだ。木斧を構えて試験官に突進していく。そして射程距離に入ると、大きく振りかぶった。
 ノビルは渾身の一撃を放った――かに見えた。

「――へぶしっ!」

 ノビルは振りかぶった斧の重さに負け、後ろへと倒れ込んでしまった。倒れた際に後頭部を強打したようで、意識を失いそのままダウンする。
 一太刀も交えずして試験は終わった。

「ギャハハハ!」
「何だよアイツ!」
「噂の万年デックの無能っぷりだぜ! 笑えるぜ!」

 試験の見学者たちが一斉に沸き立つ。笑っちゃいけないギルド職員ですら笑いを堪えられずにいた。

「ぷふっ、ああっ、ダメですわっ、お腹がよじれますわっ、ぷひひっ」

 エリザも淑女にあるまじき顔で笑っていた。意外と笑いのツボに入ったらしい。
 珍しい表情だ。そんな表情も素敵だぜエリザ。

「問題外だ! 今すぐ冒険者辞めろ! 死ぬだけだ!」

 試験官のおっさんは厳しい表情で、倒れているノビルにそう告げた。当のノビルは気絶しているので、聞いちゃいない。

「これにて前衛の実技試験を終える! 皆、ご苦労だった!」

 試験官のおっさんは誰に向かって言うでもなく、大きな声でそう宣言する。そしてこれで仕事は終わりだとばかりに、足早にその場を後にしていった。
 試験官のおっさんが去るのに合わせ、記録係や救護係りのギルド職員も撤収していく。見学者たちも硬くなった腰をゆっくりと上げてその場を去っていく。

 会場に残るのは、気絶しているノビルだけだ。命に別状はないと判断され、そのまま放置されているらしい。直に目を覚ますだろう。起きたら誰もいないとか戸惑うだろうな。

「ご主人様、あの少年、笑えるほど哀れですわね」
「ああ本当だな。無能の二つ名は伊達じゃないらしいな」

 俺たちは未だ気絶しているノビルを眺めながら苦笑するのであった。
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