59 / 291
二章
福祉事業
しおりを挟む
ホウの村でのスライム捕獲任務を終え、ミッドロウの町に帰還した。
来る時は俺たちのチームとライムのチームを合わせて十一人だったけど、帰る時は三人減って八人となった。インディス、トライ、オバールの三人がいなくなったからね。
三人が忽然と消えて、ライムたちは困惑していた。同業者に危害を加えようとした悪質な輩をギルドに突き出せなくて残念そうにしていたが、ギルドに事の仔細を報告した後は、あまり気にしていないようだった。冒険者は割り切りが早いね。
ギルドへ報告した結果、トライとオバールはギルドのお尋ね者となったが、捕らえられることはないだろう。何故ならば、二人はインディスの手によってスライム谷へと突き落とされて、スライムたちの餌となったからね。永遠に見つかることはない。
インディスの悪事に関しては、ギルドに報告されなかった。ライムたちは彼女の悪事について知りようがないし、俺たちは自分たちの秘密(吸血鬼であることなど)に関わるので、当然ながら真実など話さなかった。だから事の真相はギルドへ報告されず、闇へと消えることになった。
ギルドには、インディスが失踪したという結果だけが報告されることになった。
失踪というよりかはトライとオバールが逃げ出したついでに彼女を連れ去ったんじゃないか、という風に報告された。トライとオバールに謂れのない罪が加わることになってしまったが、まあいいだろう。死人に口なしだ。
実際にインディスを連れ去ったのは俺なんだけどね。
彼女の意識を刈り取った後、ダンジョンマスターの力を使って近くに仮の転移陣を設置し、その転移陣を経由してダンジョンに運び入れた。ダンジョンにインディスに運び入れた後は、そこで必要な情報を抜き出した上で、お嫁さんを欲しがっていたタロウたちに引き合わせ、スキル【洗脳】を使って彼女を眷属とした。
新しく手に入れたスキル【洗脳】。実験も兼ねてインディスに使ったら、効果覿面だった。
彼女はタロウたちを理想の旦那様と認識し、俺のことを神様だと思って尽くすようになった。【洗脳】はえげつないスキルだね。
その後インディスで色々と人体実験してスキル【洗脳】の効果を詳しく検証した。その結果、【洗脳】は【洗脳状態】というバッドスキルを他者に与えるスキルだと判明した。
【洗脳状態】は、思考力その他が奪われて誤った認識を植えつけられている状態になる、という効果を持つバッドスキルだ。
【洗脳状態】はパターンによって【洗脳状態(オン)】と【洗脳状態(オフ)】の二つあるらしい。【洗脳状態(オフ)】の時はあんまり言うことを聞かせられず、オンの状態を維持できる数は限られる。
俺の場合、オン状態を維持できるのは十人程度らしいね。その人数はステータス値の魅力の値に左右されるみたいだから、ステータス値がもっと成長すれば、もっと大勢を洗脳維持できるのかもしれない。
【洗脳状態】はバッドスキルなので、カーネラたちの【老化】を剥がした時と同じように、俺の眷属にしてダンジョンマナを注ぎ込んでバッドスキルを剥がしてやれば、洗脳状態を解くことも可能だと判明した。
インディスに洗脳されて脳みそを破壊されたような状態になっちゃった人たちも、俺の眷属になれば元に戻ることもできるってわけだ。
スキル【洗脳】の検証後、ミッドロウの町の裏社会でインディスに洗脳されたと思われる人を何人か見つけたので、人体実験がてら助けてみたりもした。いつぞやに血を吸ったことのある六人娘がそうだった。
「やあやあみんな。精が出るね」
「あ、ヨミトさん」
ダンジョン内の農場で、六人娘たちがゴブリン娘たちに交じって農作業に精を出している。
俺が話かけると、彼女たちは笑いながら答えてくれた。その笑顔はまだぎこちなく影があるが、以前よりもだいぶマシになった。
彼女たちは、先日まで変わり果てた姿で、場末の安い花宿で働いていた。働いていたというよりかは、働かせられていた、と言った方が正しいか。インディスたちに調教されて洗脳されて売られてしまったらしい。
ギルド隣の宿で俺とエリザが血を吸った時は、田舎から上京して来たばかりの夢と希望に溢れた若人って感じだったのに、たった数ヶ月かそこらで酷いことになっていた。都会って怖いね。
そんな状態の彼女たちは安く身請けできたので、そのままお買い上げしてダンジョンにお持ち帰りして色々調べた。
結果、彼女たちはバッドスキル【洗脳状態】に加え、【欠損】と【性病】というバッドスキルまで持っていた。よほど劣悪な環境で働かせられていたのだろう。それはもう酷い有様だった。都会って本当に怖い。
六人娘を助けて冒険者に復帰させたらインディスたちが抜けた穴を埋められる。そうなれば鉄等級の任務が受けられなくて嘆いているパープルを元気付けられるかな――なんて呑気に考えて助けたんだけど、そんな単純にはいかなかった。
洗脳状態を解除した六人娘は発狂して叫んだり、それはもう大変な騒ぎとなった。六人娘は心をぽっきりと折られたらしく、冒険者に復帰できる状態じゃなかった。
無闇矢鱈に洗脳状態なんて解くもんじゃないと思ったよ。
面倒臭かったけど、一度手を貸した以上、彼女たちのことは最後まで面倒をみることにした。彼女たちはダンジョン内でしばらく療養してもらうことになった。
メンタルが回復しても冒険者復帰は無理だろうから、その後はダンジョンに永久就職してもらおうかと考えている。
「ヨミトさん、こんな大きなトマンの実がとれたんですよ」
「そうかそうか、それは重畳だね。今日のご飯はトマンスープにでもしようか。エレーナに頼んでおこうね」
「はい。楽しみです」
農作業で身体を動かして規則正しい生活を送り、ダンジョン内の優しい人たちに囲まれて過ごす。そんな身心共に健康的な生活を重ねているおかげか、六人娘は徐々にメンタルを回復しているようだ。
(うんうん。六人とも精神的に安定し始めたようだな。良かった良かった)
意図してやったわけじゃないが、こういうのを農福連携というのだろうか。そういや福祉もホスピタリティ事業の一つだな、とそんなことをふと思った。
六人娘のメンタルケアに成功したら、それを先行事例として、福祉分野に事業の幅を広げてみても面白いかもしれない。俺は社会に貢献できる吸血鬼なのだ。
まあ俺が一番やりたいのはホテル業なので、ホテル業を一番に頑張りたいんだけどね。俺が店長を務める一号店は相変わらず客がまったく来なくて、ホテル業以外のことばっかりしてるけどさ。
オーナーの俺自らが店長を務める一号店の売り上げがゼロ(ダンジョンマナ収入もゼロ)で、エレーナとカーネラの宿(二号店と三号店)の売り上げとマナ収入に寄生している状態だなんて、オーナーとしてのプライドが酷く傷つけられるぞ。
(全部あのクソ冒険者たちのせいだ。あいつらのせいで俺は副業の冒険者の仕事ばかりさせられるハメになってんだ。畜生)
一号店の客がいないのは、全部あのクソ冒険者たちのせいだ。確かスッチーとか言ったか。
あいつらが一号店のお得意様である近隣住民のゴブリンの皆様を皆殺しにしやがったせいで、今の俺はオーナーなのに直営店の売り上げがダントツビリという惨めな思いをしているのである。
くそ、思い出す度に腹が立つな。全部あのクソ冒険者たちのせいだ。
(いかんいかん。過ぎたことは忘れよう)
畑の視察を終えた俺は、六人娘たちに挨拶をしてから、畑エリアを後にする。
次に向かうのは、最近ダンジョンに設置したばかりの育児施設だ。インディスがタロウたちの子を産みまくるので、そのために整備した施設だ。
ゴブリンの子は妊娠から出産までの期間が一週間で済むので、インディスは毎週末に多胎児を出産しまくっている。
妊娠出産は一週間で済むものの、成長個体になるまでは一ヶ月くらいかかるらしいので、それでダンジョンではゴブリンの幼児が溢れ、ちょっとしたベビーブームになっている。インディス一人によって引き起こされたベビーブームだ。
その事態に対応するために生み出されたのが、この育児施設というわけだ。
ちなみにどうでもいいことだが、ゴブリンはおよそ9:1の割合で雄の方が多く生まれるらしいね。生まれてきた赤ちゃんの統計をとるとそうなった。野生のゴブリン娘を見かけないわけだね。巣の奥で大切に匿われているのだろう。
ゴブリンに関するどうでもいい知識がまた増えてしまったぞ。
「あ、ご主人様」
「やあ。赤ちゃんたちの調子どう?」
「みんな元気ですよ。元気すぎるくらいです」
育児施設に顔を出すと、責任者のゴブリン娘が出迎えてくれた。
育児作業に当たってくれているのは、確保していたゴブリンの魔石を使って最近新しく生み出したゴブリン娘たちである。
「あのきしょいゴブリン三兄弟共、またインディスさんを孕ませたんですよ。昨日出産したばかりだというのに。母体への負担が大きいから期間を空けない妊娠はやめてくださいって何度も言っているのに。ご主人様から褒美で頂いたポーション使えば大丈夫だ、とか言って聞かなくて……」
「まあ確かにポーションを使えば母体へのダメージはすぐに回復できるからね」
「あのきしょいゴブリン共、ご主人様の手足となる子をいっぱい作るんだとか何とか言ってますけど、本当は自分が快楽を味わいたいだけのくせして。ホント、きしょい……」
保育士ゴブリン娘は表情を歪めてタロウたちを侮蔑する言葉を吐く。
新しく生み出したゴブリン娘だからタロウたちへの偏見はないはずなのだが、いつの間にか嫌っているようだ。
タロウたち、同種族の女の子には嫌われる宿命にあるようだな。インディスがお嫁さんにやって来なければ一生結婚できなかっただろうな。
「ご主人様、先週も先々週もインディスさんは十つ子を出産されましたので、施設が少し手狭です。施設の拡充と人手も少し増やして頂けないでしょうか?」
「わかった。すぐに対応するよ」
「よろしくお願いします」
施設責任者の要望を聞き、すぐに対応する。
ダンジョンマスターの権能を使い、施設を増やし、確保してあったゴブリンの魔石とDMを消費してゴブリン娘を生み出す。
メニューを開いてコマンド操作をパパッとやって終わりだ。ダンジョンマスターってチートな存在である。
「それじゃ俺はこれで。お仕事よろしくね」
「はいお任せください」
保育士ゴブリンたちに見送られて、保育施設を出る。
(保育環境もだいぶ整ってきたな。この一ヶ月でだいぶダンジョンが発展したぞ)
ゴブリン娘たちによる保育は上手くいっている。これを先行事例として、託児所事業に乗り出してもいいかもな。託児所もホスピタリティ事業だしな。新しい事業を始めても面白いかもしれない。
まあモンスターに子供を預けてくれる人がいるとは思わないので、絵に描いた餅であるが……。
まあそれならウチのダンジョンで働く社員専用の保育施設にしてもいいだろう。福利厚生は重要だしな。働くパパさんママさんのために環境を整えなくていけない。
俺はたまに血を吸うけど、基本、社員に優しい吸血鬼だからな。
来る時は俺たちのチームとライムのチームを合わせて十一人だったけど、帰る時は三人減って八人となった。インディス、トライ、オバールの三人がいなくなったからね。
三人が忽然と消えて、ライムたちは困惑していた。同業者に危害を加えようとした悪質な輩をギルドに突き出せなくて残念そうにしていたが、ギルドに事の仔細を報告した後は、あまり気にしていないようだった。冒険者は割り切りが早いね。
ギルドへ報告した結果、トライとオバールはギルドのお尋ね者となったが、捕らえられることはないだろう。何故ならば、二人はインディスの手によってスライム谷へと突き落とされて、スライムたちの餌となったからね。永遠に見つかることはない。
インディスの悪事に関しては、ギルドに報告されなかった。ライムたちは彼女の悪事について知りようがないし、俺たちは自分たちの秘密(吸血鬼であることなど)に関わるので、当然ながら真実など話さなかった。だから事の真相はギルドへ報告されず、闇へと消えることになった。
ギルドには、インディスが失踪したという結果だけが報告されることになった。
失踪というよりかはトライとオバールが逃げ出したついでに彼女を連れ去ったんじゃないか、という風に報告された。トライとオバールに謂れのない罪が加わることになってしまったが、まあいいだろう。死人に口なしだ。
実際にインディスを連れ去ったのは俺なんだけどね。
彼女の意識を刈り取った後、ダンジョンマスターの力を使って近くに仮の転移陣を設置し、その転移陣を経由してダンジョンに運び入れた。ダンジョンにインディスに運び入れた後は、そこで必要な情報を抜き出した上で、お嫁さんを欲しがっていたタロウたちに引き合わせ、スキル【洗脳】を使って彼女を眷属とした。
新しく手に入れたスキル【洗脳】。実験も兼ねてインディスに使ったら、効果覿面だった。
彼女はタロウたちを理想の旦那様と認識し、俺のことを神様だと思って尽くすようになった。【洗脳】はえげつないスキルだね。
その後インディスで色々と人体実験してスキル【洗脳】の効果を詳しく検証した。その結果、【洗脳】は【洗脳状態】というバッドスキルを他者に与えるスキルだと判明した。
【洗脳状態】は、思考力その他が奪われて誤った認識を植えつけられている状態になる、という効果を持つバッドスキルだ。
【洗脳状態】はパターンによって【洗脳状態(オン)】と【洗脳状態(オフ)】の二つあるらしい。【洗脳状態(オフ)】の時はあんまり言うことを聞かせられず、オンの状態を維持できる数は限られる。
俺の場合、オン状態を維持できるのは十人程度らしいね。その人数はステータス値の魅力の値に左右されるみたいだから、ステータス値がもっと成長すれば、もっと大勢を洗脳維持できるのかもしれない。
【洗脳状態】はバッドスキルなので、カーネラたちの【老化】を剥がした時と同じように、俺の眷属にしてダンジョンマナを注ぎ込んでバッドスキルを剥がしてやれば、洗脳状態を解くことも可能だと判明した。
インディスに洗脳されて脳みそを破壊されたような状態になっちゃった人たちも、俺の眷属になれば元に戻ることもできるってわけだ。
スキル【洗脳】の検証後、ミッドロウの町の裏社会でインディスに洗脳されたと思われる人を何人か見つけたので、人体実験がてら助けてみたりもした。いつぞやに血を吸ったことのある六人娘がそうだった。
「やあやあみんな。精が出るね」
「あ、ヨミトさん」
ダンジョン内の農場で、六人娘たちがゴブリン娘たちに交じって農作業に精を出している。
俺が話かけると、彼女たちは笑いながら答えてくれた。その笑顔はまだぎこちなく影があるが、以前よりもだいぶマシになった。
彼女たちは、先日まで変わり果てた姿で、場末の安い花宿で働いていた。働いていたというよりかは、働かせられていた、と言った方が正しいか。インディスたちに調教されて洗脳されて売られてしまったらしい。
ギルド隣の宿で俺とエリザが血を吸った時は、田舎から上京して来たばかりの夢と希望に溢れた若人って感じだったのに、たった数ヶ月かそこらで酷いことになっていた。都会って怖いね。
そんな状態の彼女たちは安く身請けできたので、そのままお買い上げしてダンジョンにお持ち帰りして色々調べた。
結果、彼女たちはバッドスキル【洗脳状態】に加え、【欠損】と【性病】というバッドスキルまで持っていた。よほど劣悪な環境で働かせられていたのだろう。それはもう酷い有様だった。都会って本当に怖い。
六人娘を助けて冒険者に復帰させたらインディスたちが抜けた穴を埋められる。そうなれば鉄等級の任務が受けられなくて嘆いているパープルを元気付けられるかな――なんて呑気に考えて助けたんだけど、そんな単純にはいかなかった。
洗脳状態を解除した六人娘は発狂して叫んだり、それはもう大変な騒ぎとなった。六人娘は心をぽっきりと折られたらしく、冒険者に復帰できる状態じゃなかった。
無闇矢鱈に洗脳状態なんて解くもんじゃないと思ったよ。
面倒臭かったけど、一度手を貸した以上、彼女たちのことは最後まで面倒をみることにした。彼女たちはダンジョン内でしばらく療養してもらうことになった。
メンタルが回復しても冒険者復帰は無理だろうから、その後はダンジョンに永久就職してもらおうかと考えている。
「ヨミトさん、こんな大きなトマンの実がとれたんですよ」
「そうかそうか、それは重畳だね。今日のご飯はトマンスープにでもしようか。エレーナに頼んでおこうね」
「はい。楽しみです」
農作業で身体を動かして規則正しい生活を送り、ダンジョン内の優しい人たちに囲まれて過ごす。そんな身心共に健康的な生活を重ねているおかげか、六人娘は徐々にメンタルを回復しているようだ。
(うんうん。六人とも精神的に安定し始めたようだな。良かった良かった)
意図してやったわけじゃないが、こういうのを農福連携というのだろうか。そういや福祉もホスピタリティ事業の一つだな、とそんなことをふと思った。
六人娘のメンタルケアに成功したら、それを先行事例として、福祉分野に事業の幅を広げてみても面白いかもしれない。俺は社会に貢献できる吸血鬼なのだ。
まあ俺が一番やりたいのはホテル業なので、ホテル業を一番に頑張りたいんだけどね。俺が店長を務める一号店は相変わらず客がまったく来なくて、ホテル業以外のことばっかりしてるけどさ。
オーナーの俺自らが店長を務める一号店の売り上げがゼロ(ダンジョンマナ収入もゼロ)で、エレーナとカーネラの宿(二号店と三号店)の売り上げとマナ収入に寄生している状態だなんて、オーナーとしてのプライドが酷く傷つけられるぞ。
(全部あのクソ冒険者たちのせいだ。あいつらのせいで俺は副業の冒険者の仕事ばかりさせられるハメになってんだ。畜生)
一号店の客がいないのは、全部あのクソ冒険者たちのせいだ。確かスッチーとか言ったか。
あいつらが一号店のお得意様である近隣住民のゴブリンの皆様を皆殺しにしやがったせいで、今の俺はオーナーなのに直営店の売り上げがダントツビリという惨めな思いをしているのである。
くそ、思い出す度に腹が立つな。全部あのクソ冒険者たちのせいだ。
(いかんいかん。過ぎたことは忘れよう)
畑の視察を終えた俺は、六人娘たちに挨拶をしてから、畑エリアを後にする。
次に向かうのは、最近ダンジョンに設置したばかりの育児施設だ。インディスがタロウたちの子を産みまくるので、そのために整備した施設だ。
ゴブリンの子は妊娠から出産までの期間が一週間で済むので、インディスは毎週末に多胎児を出産しまくっている。
妊娠出産は一週間で済むものの、成長個体になるまでは一ヶ月くらいかかるらしいので、それでダンジョンではゴブリンの幼児が溢れ、ちょっとしたベビーブームになっている。インディス一人によって引き起こされたベビーブームだ。
その事態に対応するために生み出されたのが、この育児施設というわけだ。
ちなみにどうでもいいことだが、ゴブリンはおよそ9:1の割合で雄の方が多く生まれるらしいね。生まれてきた赤ちゃんの統計をとるとそうなった。野生のゴブリン娘を見かけないわけだね。巣の奥で大切に匿われているのだろう。
ゴブリンに関するどうでもいい知識がまた増えてしまったぞ。
「あ、ご主人様」
「やあ。赤ちゃんたちの調子どう?」
「みんな元気ですよ。元気すぎるくらいです」
育児施設に顔を出すと、責任者のゴブリン娘が出迎えてくれた。
育児作業に当たってくれているのは、確保していたゴブリンの魔石を使って最近新しく生み出したゴブリン娘たちである。
「あのきしょいゴブリン三兄弟共、またインディスさんを孕ませたんですよ。昨日出産したばかりだというのに。母体への負担が大きいから期間を空けない妊娠はやめてくださいって何度も言っているのに。ご主人様から褒美で頂いたポーション使えば大丈夫だ、とか言って聞かなくて……」
「まあ確かにポーションを使えば母体へのダメージはすぐに回復できるからね」
「あのきしょいゴブリン共、ご主人様の手足となる子をいっぱい作るんだとか何とか言ってますけど、本当は自分が快楽を味わいたいだけのくせして。ホント、きしょい……」
保育士ゴブリン娘は表情を歪めてタロウたちを侮蔑する言葉を吐く。
新しく生み出したゴブリン娘だからタロウたちへの偏見はないはずなのだが、いつの間にか嫌っているようだ。
タロウたち、同種族の女の子には嫌われる宿命にあるようだな。インディスがお嫁さんにやって来なければ一生結婚できなかっただろうな。
「ご主人様、先週も先々週もインディスさんは十つ子を出産されましたので、施設が少し手狭です。施設の拡充と人手も少し増やして頂けないでしょうか?」
「わかった。すぐに対応するよ」
「よろしくお願いします」
施設責任者の要望を聞き、すぐに対応する。
ダンジョンマスターの権能を使い、施設を増やし、確保してあったゴブリンの魔石とDMを消費してゴブリン娘を生み出す。
メニューを開いてコマンド操作をパパッとやって終わりだ。ダンジョンマスターってチートな存在である。
「それじゃ俺はこれで。お仕事よろしくね」
「はいお任せください」
保育士ゴブリンたちに見送られて、保育施設を出る。
(保育環境もだいぶ整ってきたな。この一ヶ月でだいぶダンジョンが発展したぞ)
ゴブリン娘たちによる保育は上手くいっている。これを先行事例として、託児所事業に乗り出してもいいかもな。託児所もホスピタリティ事業だしな。新しい事業を始めても面白いかもしれない。
まあモンスターに子供を預けてくれる人がいるとは思わないので、絵に描いた餅であるが……。
まあそれならウチのダンジョンで働く社員専用の保育施設にしてもいいだろう。福利厚生は重要だしな。働くパパさんママさんのために環境を整えなくていけない。
俺はたまに血を吸うけど、基本、社員に優しい吸血鬼だからな。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
美醜逆転世界の学園に戻ったおっさんは気付かない
仙道
ファンタジー
柴田宏(しばたひろし)は学生時代から不細工といじめられ、ニートになった。
トラックにはねられ転移した先は美醜が逆転した現実世界。
しかも体は学生に戻っていたため、仕方なく学校に行くことに。
先輩、同級生、後輩でハーレムを作ってしまう。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺
マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。
その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。
彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。
そして....彼の身体は大丈夫なのか!?
荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました
夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。
スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。
ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。
驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。
※カクヨムで先行配信をしています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる