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二章
宿泊者名簿No.8 下級貴族ワルイーゾ(上)
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超難関である上級官吏登用試験を受けて合格して下級貴族となってからというもの、ワシは王国政府の命ずるまま、国家に奉仕してきた。卑しい身分の民草共を統制して、王国政府に貢献してきた。
ワシはそんな選ばれし男なのだ。
「ワルイーゾよ。貴公は来春からミッドロウの町にて勤務してもらう」
「……え?」
「何か不満でもあるのか?」
「いえ滅相もない!」
「うむ。では新たな地でも励むが良い」
上役に命ぜられ、王都から離れたミッドロウの町に転勤させられた時は人生終わったと思った。
ミッドロウの町は王都のように厳格な身分統制を敷いていないので、民草の民度は低い。
選ばれし男であるはずのワシが、何故花の都たる王都を離れ、そんな野蛮人の住む場所に行かねばいけないのか。そう思うと、憂鬱でしかなかった。
だが実際に現地に着任すると心境が変わった。苦労する分、美味しい思いも出来ることがわかった。
地元の有力者たちは中央から派遣されてきた下級貴族のワシに媚を売ってきた。着任するなり酒池肉林の体験することになった。ワシは当然の権利としてその甘い汁を吸うことにした。
「ワルイーゾ様、今宵もお楽しみくださいませ」
「いつも悪いのぉ」
「いえいえ」
ワシは女好きなので、商人はいつも女を宛がってきた。美人の女ばかりで悪くはないのだが、一つだけ不満があった。
全員、乙女ではなかったのだ。
「商会の旦那よ、もう中古女は飽きた。今度は乙女がいい。乙女を用意してくれ」
「はぁ、乙女ですか……。それはちょっと……。奴隷に落ちてくる頃には、ほとんどが乙女じゃなくなっておりますので……」
「どうにかならんのか? ワシは乙女が欲しいんじゃ。合法的にどうにかすればいいだろう? 合法なら何の問題もない。法の抜け穴を使え。多少無理をしてもワシが権力を使って揉み消す。どうにかしろ」
「はぁ、かしこまりました……」
若い頃に勉強ばかりしていて遊ばなかったせいだろうか。ミッドロウに来てからというもの、ワシの性欲は年々肥大していった。荒ぶれる下半身を静めるため、ワシは贔屓の商人に無理難題を言った。
「ワルイーゾ様、なんとか乙女をご用意できました」
「でかしたぞ!」
「奴隷を確保するのに良い人材を確保できましたので、今後ともご所望の女をご用意できるかと思います」
「素晴らしい! 頼むぞ!」
無理難題を突きつけたものの、商人はかなり優秀だったようで、ワシの願いを叶えてくれた。当然ワシも知恵や権力を貸してやったりして、お互いに利のある道を歩んできた。
そうやって現地の有力者と顔を繋ぎ、自分の地位と権力を最大限に使う。ミッドロウの町では、王都勤務では味わえなかった、我が世の春を味わうことができた。
そんなある日のことだ。あの娘たちが、ワシの自宅にやってきたのは。運命の出会いであった。
「この度、ギルドから推薦されてやって参りました。鉄等級冒険者チーム、“彗星”です」
貴族と顔を繋げられる冒険者というのは、鋼等級からというのが一般的だ。だがその時ギルドから推薦されてやって来たのは、鉄等級の冒険者たちだった。
ギルドが推薦してくるからには、鉄等級でありながらも、鋼等級の実力相当ということなのだろう。若く優秀そうな人材が揃っていた。
「レイラと申します」
「メリッサです」
他にいた男などどうでもよかったのだが、レイラという剣士の娘と魔法使いのメリッサという娘は、殊更ワシの目を引いた。
(こ、こやつら、か、可愛い!)
ワシの嗅覚が告げていた。こやつら、極上の乙女であると。若く美しく優秀な近年稀に見る極上の乙女だと。
ワシは運命の出会いだと思った。その娘たちをどうしても欲しくなった。
(早くワシのものにしなければいけない。早くしなければ野蛮人の冒険者の男共に摘み取られてしまう!)
冒険者というのは、血気盛んで野蛮な人種だ。早くしなければ、仲間の男共に食われ、乙女でなくなってしまうだろう。
そんなことは許されない。ワシ以外の者に奪われてたまるものか。
ワシはレイラたちを己がものとするべく、すぐに行動に移した。
「商会の旦那よ、今話題の天才剣士レイラと爆炎のメリッサを知っておるか?」
「ええ勿論知っておりますよ。新進気鋭の冒険者として、彼女たちはミッドロウの町で有名ですから。それがどうかしたのですか?」
「欲しいのじゃ」
「え?」
「レイラとメリッサが欲しいのじゃ」
「はぁ、申し上げにくいのですが、流石に不味いのでは? ギルドの評価も高い冒険者ですし……」
商会の旦那は、優秀な冒険者を奴隷にするのは気が引けるし国家の損失である、と言外に伝えてきた。
だがワシも反論する。
「ちょっと優秀な冒険者など、そこらへんの民草と変わらん。何の問題もない」
何も国宝級である金等級の優れた冒険者を潰そうというわけではない。鉄等級の冒険者などいくらでも代わりはいるのだ。だがワシのこの肉欲を埋めてくれる存在など他にはいない。
「国家の宝である下級貴族であるワシと、そこらへんの民草。どっちを優先するか、そんなもん、ワシに決まっておるだろうが!」
難しい国家試験を突破した優秀な下級貴族であるこのワシは、冒険者何百何千人分もの国益を生み出しているのだ。生まれも良い血筋で、そこらへんにいる何処の馬の骨とも知らぬ人間とは違う。選ばれし男だ。
優先すべきはどちらであるかなど、火を見るよりも明らかだ。
そう強弁した。ワシの熱弁に、商会の旦那はついに折れた。
「……かしこまりました。いつもの女を使って奴隷に落とさせます」
「駄目じゃ。いつもの方法じゃ駄目なんじゃ」
「え?」
「あれだと乙女ではなくなるのじゃ」
「いや、いつも提供しているのは乙女ですよ? 正真正銘の乙女です。確認済みです」
「いや違うのじゃ。乙女じゃないのじゃ。肉体が乙女でも精神が乙女じゃないのじゃ」
「はい? 失礼ですが、仰っていることの意味がよくわからないのですが……」
商会の旦那の子飼いであるという冒険者狩りの女が使うスキル【洗脳】を使えば、簡単に女を落とせる。
あのスキルで落とした女というのは従順で、それはそれで素晴らしいのだが、極上の乙女に対してあのスキルを使うのは勿体なさすぎる。
どこかあどけなさを残しつつも、きりっと引き締まった顔つきのレイラ。メリッサの方は、若者特有の大人に対する反抗的な目つきをしている。
まさに、極上の乙女の表情と言える。
スキルを使えば、そんな彼女たちの極上の乙女の表情が台無しになってしまう。乙女が乙女でなくなってしまう。
そんなのは駄目だ。駄目なのだ。ありのままの乙女がいいのだ。
そう強弁した。ワシの熱弁に、商会の旦那は困惑しつつも折れた。
「とにかく、今回はあの【洗脳】とかいうスキルはなしでやるんじゃ。商会の旦那よ、よいな?」
「は、はぁ……」
「そうでなければあの件はなかったことにするぞ? 今度から別の商会を取り立てることにしようかの?」
「うっ、そ、それは困ります!」
「だったらなんとかするんじゃ。洗脳状態でないレイラとメリッサを用意するんじゃ。あの極上の乙女二人をの」
「か、かしこまりました。お任せください!」
「頼むぞ」
商人はやはり優秀でワシの無理難題を叶えてくれた。スキル【洗脳】を使ったいつもの手段ではないということで、色々と後始末が大変だったようじゃがの。
それでワシも隠蔽工作に加担することになったが、権力を使えばどうということはなかった。一度きりなら大胆な工作も可能だった。
「レイラとメリッサと言ったかの。お主らは今宵、ワシのものとなる」
「「……」」
「そんな顔をするでない。ワシは偉大なる選ばれし男じゃ。そんなワシに初めてを奪われることを、誇りに思うが良いぞ。子々孫々、末代まで誇りにするがいい。ワシは選ばれし優秀な下級貴族の男なのだからの」
「「……」」
奴隷となってワシの屋敷に運ばれてきた二人の目は死んでいた。もっと血気盛んな冒険者らしく抵抗してくれても面白かったのであるがの。契約の印がある限り、ワシの身に大きな危害など加えられぬし、抵抗してくれた方が盛り上がる。
だが二人は覚悟が決まっているようで、大きな抵抗は見せなかった。まあそれも乙というものじゃな。
「ふはは、最高だったぞ! 今宵は良い夜じゃ!」
「「……」」
こうしてワシは極上の乙女を同時に二人も味わったワシの人生の中でも最高の瞬間であったと言えるだろう。
「何、バッド商会の旦那が死んだだと?」
「へえ、元々持病を抱えてらした上、娘婿にと考えていた頼みの冒険者が急に死んだようで。それでぽっくり逝ったようです」
「そうか。それはご愁傷様じゃの。あやつにはまあまあ世話になった。葬式くらいは出てやるとするか」
贔屓にしていた商会の旦那が急死した時は驚いた。
旦那が死んだことでもう二度と乙女が味わえなくなるかと思いきや、そんなことはなかった。天はワシを見捨ててはいなかった。
「御機嫌よう。ワルイーゾ様。先の父の葬儀ではご支援くださってありがとうございました」
ある日、商会の後釜を継いだというデュワという令嬢がワシを訪ねてきた。
(中々の美人じゃの。まあ乙女ではないな。興味なし)
見目麗しい令嬢であったが、乙女ではなさそうだったので、ワシの食指はまったく動かなかった。
デュワは美人であるが性悪そうな女であった。
ワシの好みはもっと清楚な女じゃ。メリッサのように見た目や言動が清楚でなくとも、心の奥底が清楚であればなんの問題もない。
清楚な乙女でなければ興味なし。女だし父と同じような汚れ仕事は嫌うであろう。だから何の興味もない女。
そう思っていたのだが……。
「ワルイーゾ様、ご安心を。私は父の裏の仕事もちゃんと引継ぎますわ」
「何、それは真か?」
「ええ勿論です。例の女を使い、冒険者その他を奴隷に落として、ワルイーゾ様に沢山沢山献上いたします」
「それは助かる。ハハハ、お主、父親に似て話がわかるのお! 素晴らしい女じゃ!」
意外なことに、デュワの方から取引の継続を進言してくれた。デュワという悪役令嬢、話のわかる良い女であった。
こうして我が世の春はもうしばらく続くことになった。ミッドロウの町にいる限り、我が世の春を楽しめそうじゃの。最高じゃ。
「おほほ! 今日は六人もの乙女を楽しめるのか!?」
「はい既にスキル【洗脳】によって六人共、調教済みでございます」
「本当は洗脳は嫌なんじゃがの。あれを使うと乙女が乙女でなくなってしまう。淫乱は嫌なのじゃ。でも欲張りばかりは言ってられんの。ガワだけ乙女でも素晴らしいからの。ゴブリン娘よりはマシじゃ。まあゴブリンの乙女はそれはそれで良いがの」
「申し訳ございません。後始末のことを考えると、洗脳なしには難しいのです」
「まあ構わん。質は量で補えばいいのだからな。さて今宵も楽しませてもらうかの」
「ごゆるりと」
食欲と性欲。三大欲求の内のその二つを、ミッドロウの生活では大いに満たせた。最高の生活であった。
「あはは! 今宵の乙女はどんな娘かのお!」
楽しい。本当に楽しい。
ミッドロウに来てからというもの、王都で上役にこき使われていた頃よりはだいぶ美味しい思いをすることができた。
(今年も残すところ、あと二日か。今年は五十人以上の乙女を食ったかの。来年はもっと食いたいの。レイラやメリッサのような乙女にまた出会いたいものじゃ)
そんなことを考えながら年の瀬を過ごす。そんな時のことじゃ。ワシの命を狙う不届き者が現れたのは。
「ワルイーゾ、覚悟!」
「な、何じゃ!?」
「――ぐぶえっ」
「何じゃ? 勝手に転んで気絶しおったわい。間抜けな奴め」
ワシを襲う不埒な輩が現れて一瞬ひやりとしたものの、何の問題もなかった。その不埒者は自分が振るった斧の重みに耐え切れず、そのまま後ろにすっ転んで頭を打って気絶しおった。
「始末しておけ」
「はっ」
勝手に気絶した間抜けな狼藉者を護衛の者共に始末させて、それで終わった。我が世の春は安泰じゃ。
「ワルイーゾ様、こんな夜分に失礼します」
「おおデュワか。なんじゃ?」
「今年一年贔屓にしてくださったワルイーゾ様を慰安すべく特別な席をご用意しております。よろしければ明日、ミッドロウの花宿までご足労願えますでしょうか?」
「何? インディスがいなくなって、しばらく女を供給するのは無理という話ではなかったか?」
「ご安心ください。新しい調達の目処が立ちましたのですよ」
先日インディスとかいう女が失踪したらしく、それでしばらくは乙女の供給が渋くなるという話だった。だから今年はもう乙女は食い納めになったに違いないと、そう思っていたのだったが、違った。
「何、真か!? 行く行く! 絶対行くぞ!」
「ふふ、お待ちしておりますね」
この年の瀬になってまだ楽しいことが残っていたとは。まさか姫納めと姫始めを同時に行えるとはの。デュワの奴、最高ではないか。
「アハハ、最高じゃ! ミッドロウの町はワシにとって約束の地であったか!」
このまま王都に戻れなくてもいい。このままミッドロウの地に何年でも何十年でもいてもいい。
この先、何十人何百人と乙女を食って楽しもうではないか。ワシこそがこの町の支配者なのじゃ。我が世の春は安泰じゃ。アハハハ!
ワシはそんな選ばれし男なのだ。
「ワルイーゾよ。貴公は来春からミッドロウの町にて勤務してもらう」
「……え?」
「何か不満でもあるのか?」
「いえ滅相もない!」
「うむ。では新たな地でも励むが良い」
上役に命ぜられ、王都から離れたミッドロウの町に転勤させられた時は人生終わったと思った。
ミッドロウの町は王都のように厳格な身分統制を敷いていないので、民草の民度は低い。
選ばれし男であるはずのワシが、何故花の都たる王都を離れ、そんな野蛮人の住む場所に行かねばいけないのか。そう思うと、憂鬱でしかなかった。
だが実際に現地に着任すると心境が変わった。苦労する分、美味しい思いも出来ることがわかった。
地元の有力者たちは中央から派遣されてきた下級貴族のワシに媚を売ってきた。着任するなり酒池肉林の体験することになった。ワシは当然の権利としてその甘い汁を吸うことにした。
「ワルイーゾ様、今宵もお楽しみくださいませ」
「いつも悪いのぉ」
「いえいえ」
ワシは女好きなので、商人はいつも女を宛がってきた。美人の女ばかりで悪くはないのだが、一つだけ不満があった。
全員、乙女ではなかったのだ。
「商会の旦那よ、もう中古女は飽きた。今度は乙女がいい。乙女を用意してくれ」
「はぁ、乙女ですか……。それはちょっと……。奴隷に落ちてくる頃には、ほとんどが乙女じゃなくなっておりますので……」
「どうにかならんのか? ワシは乙女が欲しいんじゃ。合法的にどうにかすればいいだろう? 合法なら何の問題もない。法の抜け穴を使え。多少無理をしてもワシが権力を使って揉み消す。どうにかしろ」
「はぁ、かしこまりました……」
若い頃に勉強ばかりしていて遊ばなかったせいだろうか。ミッドロウに来てからというもの、ワシの性欲は年々肥大していった。荒ぶれる下半身を静めるため、ワシは贔屓の商人に無理難題を言った。
「ワルイーゾ様、なんとか乙女をご用意できました」
「でかしたぞ!」
「奴隷を確保するのに良い人材を確保できましたので、今後ともご所望の女をご用意できるかと思います」
「素晴らしい! 頼むぞ!」
無理難題を突きつけたものの、商人はかなり優秀だったようで、ワシの願いを叶えてくれた。当然ワシも知恵や権力を貸してやったりして、お互いに利のある道を歩んできた。
そうやって現地の有力者と顔を繋ぎ、自分の地位と権力を最大限に使う。ミッドロウの町では、王都勤務では味わえなかった、我が世の春を味わうことができた。
そんなある日のことだ。あの娘たちが、ワシの自宅にやってきたのは。運命の出会いであった。
「この度、ギルドから推薦されてやって参りました。鉄等級冒険者チーム、“彗星”です」
貴族と顔を繋げられる冒険者というのは、鋼等級からというのが一般的だ。だがその時ギルドから推薦されてやって来たのは、鉄等級の冒険者たちだった。
ギルドが推薦してくるからには、鉄等級でありながらも、鋼等級の実力相当ということなのだろう。若く優秀そうな人材が揃っていた。
「レイラと申します」
「メリッサです」
他にいた男などどうでもよかったのだが、レイラという剣士の娘と魔法使いのメリッサという娘は、殊更ワシの目を引いた。
(こ、こやつら、か、可愛い!)
ワシの嗅覚が告げていた。こやつら、極上の乙女であると。若く美しく優秀な近年稀に見る極上の乙女だと。
ワシは運命の出会いだと思った。その娘たちをどうしても欲しくなった。
(早くワシのものにしなければいけない。早くしなければ野蛮人の冒険者の男共に摘み取られてしまう!)
冒険者というのは、血気盛んで野蛮な人種だ。早くしなければ、仲間の男共に食われ、乙女でなくなってしまうだろう。
そんなことは許されない。ワシ以外の者に奪われてたまるものか。
ワシはレイラたちを己がものとするべく、すぐに行動に移した。
「商会の旦那よ、今話題の天才剣士レイラと爆炎のメリッサを知っておるか?」
「ええ勿論知っておりますよ。新進気鋭の冒険者として、彼女たちはミッドロウの町で有名ですから。それがどうかしたのですか?」
「欲しいのじゃ」
「え?」
「レイラとメリッサが欲しいのじゃ」
「はぁ、申し上げにくいのですが、流石に不味いのでは? ギルドの評価も高い冒険者ですし……」
商会の旦那は、優秀な冒険者を奴隷にするのは気が引けるし国家の損失である、と言外に伝えてきた。
だがワシも反論する。
「ちょっと優秀な冒険者など、そこらへんの民草と変わらん。何の問題もない」
何も国宝級である金等級の優れた冒険者を潰そうというわけではない。鉄等級の冒険者などいくらでも代わりはいるのだ。だがワシのこの肉欲を埋めてくれる存在など他にはいない。
「国家の宝である下級貴族であるワシと、そこらへんの民草。どっちを優先するか、そんなもん、ワシに決まっておるだろうが!」
難しい国家試験を突破した優秀な下級貴族であるこのワシは、冒険者何百何千人分もの国益を生み出しているのだ。生まれも良い血筋で、そこらへんにいる何処の馬の骨とも知らぬ人間とは違う。選ばれし男だ。
優先すべきはどちらであるかなど、火を見るよりも明らかだ。
そう強弁した。ワシの熱弁に、商会の旦那はついに折れた。
「……かしこまりました。いつもの女を使って奴隷に落とさせます」
「駄目じゃ。いつもの方法じゃ駄目なんじゃ」
「え?」
「あれだと乙女ではなくなるのじゃ」
「いや、いつも提供しているのは乙女ですよ? 正真正銘の乙女です。確認済みです」
「いや違うのじゃ。乙女じゃないのじゃ。肉体が乙女でも精神が乙女じゃないのじゃ」
「はい? 失礼ですが、仰っていることの意味がよくわからないのですが……」
商会の旦那の子飼いであるという冒険者狩りの女が使うスキル【洗脳】を使えば、簡単に女を落とせる。
あのスキルで落とした女というのは従順で、それはそれで素晴らしいのだが、極上の乙女に対してあのスキルを使うのは勿体なさすぎる。
どこかあどけなさを残しつつも、きりっと引き締まった顔つきのレイラ。メリッサの方は、若者特有の大人に対する反抗的な目つきをしている。
まさに、極上の乙女の表情と言える。
スキルを使えば、そんな彼女たちの極上の乙女の表情が台無しになってしまう。乙女が乙女でなくなってしまう。
そんなのは駄目だ。駄目なのだ。ありのままの乙女がいいのだ。
そう強弁した。ワシの熱弁に、商会の旦那は困惑しつつも折れた。
「とにかく、今回はあの【洗脳】とかいうスキルはなしでやるんじゃ。商会の旦那よ、よいな?」
「は、はぁ……」
「そうでなければあの件はなかったことにするぞ? 今度から別の商会を取り立てることにしようかの?」
「うっ、そ、それは困ります!」
「だったらなんとかするんじゃ。洗脳状態でないレイラとメリッサを用意するんじゃ。あの極上の乙女二人をの」
「か、かしこまりました。お任せください!」
「頼むぞ」
商人はやはり優秀でワシの無理難題を叶えてくれた。スキル【洗脳】を使ったいつもの手段ではないということで、色々と後始末が大変だったようじゃがの。
それでワシも隠蔽工作に加担することになったが、権力を使えばどうということはなかった。一度きりなら大胆な工作も可能だった。
「レイラとメリッサと言ったかの。お主らは今宵、ワシのものとなる」
「「……」」
「そんな顔をするでない。ワシは偉大なる選ばれし男じゃ。そんなワシに初めてを奪われることを、誇りに思うが良いぞ。子々孫々、末代まで誇りにするがいい。ワシは選ばれし優秀な下級貴族の男なのだからの」
「「……」」
奴隷となってワシの屋敷に運ばれてきた二人の目は死んでいた。もっと血気盛んな冒険者らしく抵抗してくれても面白かったのであるがの。契約の印がある限り、ワシの身に大きな危害など加えられぬし、抵抗してくれた方が盛り上がる。
だが二人は覚悟が決まっているようで、大きな抵抗は見せなかった。まあそれも乙というものじゃな。
「ふはは、最高だったぞ! 今宵は良い夜じゃ!」
「「……」」
こうしてワシは極上の乙女を同時に二人も味わったワシの人生の中でも最高の瞬間であったと言えるだろう。
「何、バッド商会の旦那が死んだだと?」
「へえ、元々持病を抱えてらした上、娘婿にと考えていた頼みの冒険者が急に死んだようで。それでぽっくり逝ったようです」
「そうか。それはご愁傷様じゃの。あやつにはまあまあ世話になった。葬式くらいは出てやるとするか」
贔屓にしていた商会の旦那が急死した時は驚いた。
旦那が死んだことでもう二度と乙女が味わえなくなるかと思いきや、そんなことはなかった。天はワシを見捨ててはいなかった。
「御機嫌よう。ワルイーゾ様。先の父の葬儀ではご支援くださってありがとうございました」
ある日、商会の後釜を継いだというデュワという令嬢がワシを訪ねてきた。
(中々の美人じゃの。まあ乙女ではないな。興味なし)
見目麗しい令嬢であったが、乙女ではなさそうだったので、ワシの食指はまったく動かなかった。
デュワは美人であるが性悪そうな女であった。
ワシの好みはもっと清楚な女じゃ。メリッサのように見た目や言動が清楚でなくとも、心の奥底が清楚であればなんの問題もない。
清楚な乙女でなければ興味なし。女だし父と同じような汚れ仕事は嫌うであろう。だから何の興味もない女。
そう思っていたのだが……。
「ワルイーゾ様、ご安心を。私は父の裏の仕事もちゃんと引継ぎますわ」
「何、それは真か?」
「ええ勿論です。例の女を使い、冒険者その他を奴隷に落として、ワルイーゾ様に沢山沢山献上いたします」
「それは助かる。ハハハ、お主、父親に似て話がわかるのお! 素晴らしい女じゃ!」
意外なことに、デュワの方から取引の継続を進言してくれた。デュワという悪役令嬢、話のわかる良い女であった。
こうして我が世の春はもうしばらく続くことになった。ミッドロウの町にいる限り、我が世の春を楽しめそうじゃの。最高じゃ。
「おほほ! 今日は六人もの乙女を楽しめるのか!?」
「はい既にスキル【洗脳】によって六人共、調教済みでございます」
「本当は洗脳は嫌なんじゃがの。あれを使うと乙女が乙女でなくなってしまう。淫乱は嫌なのじゃ。でも欲張りばかりは言ってられんの。ガワだけ乙女でも素晴らしいからの。ゴブリン娘よりはマシじゃ。まあゴブリンの乙女はそれはそれで良いがの」
「申し訳ございません。後始末のことを考えると、洗脳なしには難しいのです」
「まあ構わん。質は量で補えばいいのだからな。さて今宵も楽しませてもらうかの」
「ごゆるりと」
食欲と性欲。三大欲求の内のその二つを、ミッドロウの生活では大いに満たせた。最高の生活であった。
「あはは! 今宵の乙女はどんな娘かのお!」
楽しい。本当に楽しい。
ミッドロウに来てからというもの、王都で上役にこき使われていた頃よりはだいぶ美味しい思いをすることができた。
(今年も残すところ、あと二日か。今年は五十人以上の乙女を食ったかの。来年はもっと食いたいの。レイラやメリッサのような乙女にまた出会いたいものじゃ)
そんなことを考えながら年の瀬を過ごす。そんな時のことじゃ。ワシの命を狙う不届き者が現れたのは。
「ワルイーゾ、覚悟!」
「な、何じゃ!?」
「――ぐぶえっ」
「何じゃ? 勝手に転んで気絶しおったわい。間抜けな奴め」
ワシを襲う不埒な輩が現れて一瞬ひやりとしたものの、何の問題もなかった。その不埒者は自分が振るった斧の重みに耐え切れず、そのまま後ろにすっ転んで頭を打って気絶しおった。
「始末しておけ」
「はっ」
勝手に気絶した間抜けな狼藉者を護衛の者共に始末させて、それで終わった。我が世の春は安泰じゃ。
「ワルイーゾ様、こんな夜分に失礼します」
「おおデュワか。なんじゃ?」
「今年一年贔屓にしてくださったワルイーゾ様を慰安すべく特別な席をご用意しております。よろしければ明日、ミッドロウの花宿までご足労願えますでしょうか?」
「何? インディスがいなくなって、しばらく女を供給するのは無理という話ではなかったか?」
「ご安心ください。新しい調達の目処が立ちましたのですよ」
先日インディスとかいう女が失踪したらしく、それでしばらくは乙女の供給が渋くなるという話だった。だから今年はもう乙女は食い納めになったに違いないと、そう思っていたのだったが、違った。
「何、真か!? 行く行く! 絶対行くぞ!」
「ふふ、お待ちしておりますね」
この年の瀬になってまだ楽しいことが残っていたとは。まさか姫納めと姫始めを同時に行えるとはの。デュワの奴、最高ではないか。
「アハハ、最高じゃ! ミッドロウの町はワシにとって約束の地であったか!」
このまま王都に戻れなくてもいい。このままミッドロウの地に何年でも何十年でもいてもいい。
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その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
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