吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

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三章

王都ドルドローア

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 イースト村を出立し、一日中歩いた。夕刻前には、王都“ドルドローア”に到着することができた。

「凄い人ですね。流石王都……」
「うん。人がゴミのようだね」
「どういう感性してんだアンタは……」

 王門前の人だかりを見て、レイラが呆気といった感じで呟く。人がうじゃうじゃいすぎて、俺は某大佐の名言をつい口走ってしまう。それを聞いていたノビルが、呆れた目で俺を見てきた。

 吸血鬼メンタルだから本当に人間がゴミのように見える。あるいは食料か。人間の山がそういう風にしか見えないな。

(駄目だ駄目だそんなんじゃ。人間がゴミに見えるなんて社会吸血鬼失格だぞ。あそこにいる人たちはゴミじゃない。俺が王都に店をオープンした暁には、そのお店のお客様になる人かもしれないんだぞ。大切にしなきゃな)

 俺は自分にそう言い聞かせることにした。

 客商売をする者として、人間がゴミに見えるだなんてこと、あってはならないことだ。お客様は神様なのである。ゴミではないのだ。商売人の心得だ。

「スゲエ人だな。舐められねえようにしないとな」

 人の群れを見て俺が心の中で商売人の心得を再確認している一方、メリッサは目に力を込めて群集を睨みつけていた。

 見た目に違わず、メリッサは思考がヤンキーだね。人混みを見ると、舐められないようにするという考えが一番に浮かぶらしい。

「それにしても王都すげー」
「噂に聞いていたけど本当そうね」
「本当ですね」

 ノビルとレイラとパープルはきょろきょろと忙しなく視線を動かしていた。
 田舎者丸出しだ。同じ田舎者だと思われるとやだから勘弁して欲しいな。

 エリザも視線をきょろきょろと動かしているが、あれは物珍しさからじゃないな。美味しそうな獲物を探しているような視線だ。お腹でも空いているのかもしれないな。

(もっと時間かかるかと思ったが、結構スムーズに進むな)

 王門前の審査所は何箇所も設置されており、大勢の人がいるものの比較的スムーズに審査は進んでいく。しばらくして俺たちの番がやってくる。

「鉄等級冒険者六名か。いいぞ。通ってよし」
「どうも」

 冒険者プレートがあるおかげで問題なく通ることができた。通行料も免除である。有難い。

「おお。凄いね」

 王都はミッドロウなど比べ物にならないくらい賑わっていた。

 正門から少し進んだ所にある大通りには、所狭しと出店や商店が並んでいる。店先を彩る魔道具の数も桁違いだ。王都だけあって凄い華やかだ。皆が憧れる気持ちがよくわかる。

「へぇ。変わった人種もいるんだな」
「あれは獣族兎人種の方ですね」

 出歩いている人種は普通の人間が圧倒的に多いのだが、中には兎耳が生えた人とかも歩いている。ファンタジーな光景だ。

 パープル曰く、獣族というらしい。獣王国じゅうおうこく出身の人らしい。

 王都だけあって各国から人が集まっていて人種の坩堝のようだ。面白いぜ。

「お、あの城がロキリア城?」
「ですね。間違いありません」

 俺の疑問にパープルが答えてくれる。
 遠目に見える王城が、国王の住むロキリア城らしい。

「見事なもんだね」
「そうですね」

 夕暮れに佇む城は幻想的で美しかった。ファンタジー世界って感じだね。

 王城及びその周辺は貴族街なので、残念ながら俺たち一般人は基本的に立ち入れないらしい。
 俺たちが活動できるのは下町のみだ。下町は公共地区、農業地区、工業地区、商業地区の四区画に分けられるらしい。

「色々目移りするのはわかりますが、とりあえずは宿を見つけましょう。ギルドはもう閉まっているので、ギルドに顔を出すのは明日ですね」
「そうだね」

 パープルの進言通り、まずは商業地区にある宿屋を探していく。
 商業地区以外にも宿屋はあるらしいが、とりあえず道に不慣れな俺たちは商業地区から探ることにした。

「ここでいいんじゃないか? もう日も暮れるし、これ以上の散策は明日にしよう」

 しばらく歩いて検討し、“ドルドロの宿木”という名前の宿屋に泊まることにした。
 可もなく不可もなくといった感じの宿屋である。宿泊代は村々の宿屋よりも高い。王都の宿屋だけあって、物価が高いようだ。

「そうですね。少しお高いですが、日も暮れますし今日はここにしましょう。長期拠点にする宿はもっと安いところがいいと思いますけど」
「ま、そこらへんは飯でも食いながら話そうよ」

 宿屋に入り、二階の部屋に荷物を置き、一階の食事場で夕食をとる。

「お待たせしましたどうぞ~」
「はいどうも」

 店員の女の子が、注文した料理を運んできてくれる。配膳作業の合間、店員の子と世間話をする。

「へえ。君は最近王都にやって来たんだ」
「そうなんですよぉ」

 店員の女の子の名前は“リオ”といい、最近この王都にやって来たようだ。ブレンダと同じく王都の学校に留学に来たようだ。同じくこの宿で給仕として働いている“パンシー”という子も同様みたい。

 二人共、春の新生活に合わせて既にバイトも始めているのか。勤勉で偉い学生だね。見た目も真面目な学生さんって感じだ。見た目通り真面目な子なのだろう。

「ブレンダちゃんの店のパンの方が美味いな。ここの料理もまあまあ美味いけどさ」
「ちょっとヨミトさん、声が大きいですよ。宿の自慢の料理なんですから、まあまあとか言わないで下さい。店主さん睨んでますよ」
「おっと、悪い悪い」
「もうっ、デリカシーないですよ」

 俺の素直な感想に、パープルが咎めるような口調で注意してくる。

「これ何の肉だ?」
「おそらくラビンの肉でしょう。この時期に多く出回っているお肉と言えば、ラビンです。ここに来るまでの道中でもラビンが大量発生してましたしね」

 俺の疑問に、パープルが答えてくれる。

 夕飯のメインは肉の炒め物が挟まったパン料理であった。肉野菜バーガーって感じ。ブレンダの家で食った飯ほどではないが、そこそこ美味い飯であった。流石王都だな。食のレベルも高いようだ。
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