吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

文字の大きさ
87 / 291
三章

拠点整備

しおりを挟む
「それじゃまたねぇん。また会いましょ」
「ええどうも」

 連絡先などを交換し終えると、ガンドリィは投げキッスをしながら去っていった。
 ガンドリィのみならず、ガティンとムティンとかいう髭ダルマの兄弟も投げキッスをかましていきやがった。やっぱあいつら、全員そっち系か。

「それじゃ僕とレイラさんはガンドリィさんと一緒に手続きをしてきます。ついでに必要物品の買出しもしてきますね」
「よろしくね」

 パープルとレイラがガンドリィに付いていく。この家の名義変更の手続き諸々をやってくれるらしい。

「それじゃ俺たちはお掃除しよっか」
「だな」

 残る俺たちは、購入した拠点を徹底的にお掃除することにした。ガンドリィたちの残滓が僅かでも残ってたら気持ち悪いからな。

「さてと」

 ダンジョンマスターの力を使い、家全体をダンジョン化する。それから二階の俺の部屋の押入れの中に、転移陣を設置する。転移陣を潜り、ダンジョンへと一時帰還する。

「あれ? お早いですねヨミト様」
「ああ。思ったよりもとんとん拍子で拠点が手に入ってね」
「そうですか。それは良かったですね」

 ダンジョンに戻ると、幼子ゴブリンたちの食事を世話するヒイとミイに遭遇する。
 彼女たちには長期間ダンジョンを空けるかもしれないと伝えてあったので、早い帰還に驚いている様子だった。
 丸二日くらい留守にしたが、ダンジョンに変わりはないようで幸いだ。

「落ち着いたらヒイとミイも王都に呼び寄せてあげるよ。王都に行ってみるのが夢だったんでしょ?」
「ええ。ありがとうございます。楽しみにしてますね」
「うん。それじゃダンジョン掃除用のスライム百匹くらい借りてくね」
「はい」

 ダンジョン内を巡回させているスライム百匹を呼び寄せ、転移陣を潜らせて、王都の購入したばかりの拠点に移動させる。

「よし、スライムたち、この家の中を徹底的に掃除してくれ。塵芥一つとて残すなよ、絶対にだ」

 俺の言葉に対し、スライムたちはプルプルと身体を震わせて一斉に答えた。それから地面や壁をずるずると伝っていきお掃除を始めていく。
 百匹もいると、俺の部屋の掃除はすぐに終わった。スライムたちは部屋から出て、二階廊下へと移動していく。

(おっと。ここ、見た目以上に中は弱ってるな)

 スライムが掃除をしている間、俺は“ダンジョン作成”のコマンドを操作し、ダンジョン化させた家の弱っている部分などを修復していく。これで、家の耐久性などは新築同様と変わらなくなった。

 20ゴルゴンで買った中古物件が、たった十数分で50ゴルゴン相当の新築物件に化けたわけである。チートである。

「相変わらず便利なもんだな。ダンジョンマスターの力ってのはよ」

 俺が家の細かいところなどをチェックして回っていると、メリッサが話しかけてきた。
 家の中を縦横無尽に這いずり回ってお掃除しているスライムを見て、彼女は呆れた様子だ。

 スライムを完全に支配下において使役できればどんなに掃除が楽か――この世界の住人が人生で一度は考えたであろう夢物語を、ダンジョンマスターである俺は簡単にやってのけたわけである。
 そのことに対して、メリッサは羨ましいという感情を通り越して呆れているらしい。

「メリッサ。俺の部屋の転移陣からダンジョンに行ってお風呂入ってきてもいいよ。スキル【洗浄】と昨日の水浴びだけじゃ楽じゃないでしょ」
「ああそうさせてもらう。あんがと」

 作業しながらそう言ってやると、メリッサは礼を言って俺の部屋へと消えていく。
 最近ダンジョンに福利厚生の一環として銭湯施設を作ったので、是非そこを利用してもらいたい。

「庭仕事終わったぜ」

 やがて軍手を着けたノビルが家の中に戻ってくる。

「とりあえず、庭の邪魔な草木は全部刈り取っておいた。後で燃やすなり、スライムに処理させてくれ」
「ご苦労さんノビル。俺の部屋にある転移陣からダンジョンに戻って風呂に入っていいよ」
「ああそうさせてもらう。毎日風呂に入らないと気持ち悪く感じちまうんだよなぁ。贅沢に慣れちまったもんだぜ」

 外仕事を終えたノビルを一時ダンジョンへと帰す。
 ノビルたちはすっかり風呂という贅沢を覚えてしまったようである。彼はもう馬小屋生活には戻れないだろう。

「ご主人様、庭が殺風景なので何か植えませんか?」
「そうだな。花でも植えるか」

 家の周辺を散策していたエリザが戻ってくる。
 庭にあるのが木一本だけというのは確かに殺風景だな。ダンジョン産のものを植えるわけにもいかんし、王都の市場で種苗でも調達して植えるとするか。

「あと番犬でも飼った方がいいですわね。この農業地区って長閑ですけど王都だけあってそれなりに人通りが多いので、留守中はちょっと心配ですわ。本当はゴブリンちゃんたちを配置できればいいんですが、そうもいきませんし」
「確かにな。ガンドリィたちは四十人も住んでいたから常に誰か家にいたんだろうが、俺たちは少人数だから全員で行動することも多いからな」

 犬を飼うかはさておき、留守中の防犯のために何らかの対策をとった方がいいだろうな。無防備というのはいかんだろう。転移陣を見つけられて、ダンジョンの秘密を知られるのは不味いしな。

(まあ最悪、留守中は手の空いた誰かをダンジョンから呼び寄せて警備させればいいかもしれないがな。いや駄目か。パープルがいるしな)

 不死鳥のメンバー全員が眷属だったらそうすればいいだけだが、パープルという部外者がいる以上、そうもいかん。パープルを納得させるだけの防犯対策をしないといけないな。
 ダンジョン産の罠や魔物を設置するというのは、パープルや通行人の誰かに気づかれた時に不味いしな。

 エリザの言うように、犬を飼うっていうのが一番妥当な案かもしれない。
 賢そうな犬でも飼って懐かせて眷属化させるか。眷属化させてスキルを覚えさせて、それである程度レベリングさせれば、チンピラくらいなら余裕で撃退してくれるだろう。

 うん、そうするか。確か商業地区にペットショップがあったな。そこで買えばいいな。

「三匹くらい番犬として犬を飼おうと思うんだけどどう?」
「わ~い。可愛いのがいいですわ」
「いいんじゃねえか。強そうなの飼おうぜ」

エリザと風呂から戻ってきたメリッサに相談すると、諾という返事が返ってきたのでそうすることにした。

「ふぅ。いいお湯だった」

 新居についてさらに考えを巡らせていると、ノビルがダンジョンから帰還した。
 ノビルはパンイチのラフな格好で、タオルを肩にかけている。ひとっ風呂浴びてきたって感じだね。

「ノビル、俺たちちょっと買い物してくるよ。留守番頼んでいい?」
「ああいいぞ」
「スライムたちの掃除が終わったらダンジョンに帰還させておいてくれる?」
「わかった」

 ノビルに留守をお願いし、俺とエリザとメリッサの三人は、商業地区へと出かけることにした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美醜逆転世界の学園に戻ったおっさんは気付かない

仙道
ファンタジー
柴田宏(しばたひろし)は学生時代から不細工といじめられ、ニートになった。 トラックにはねられ転移した先は美醜が逆転した現実世界。 しかも体は学生に戻っていたため、仕方なく学校に行くことに。 先輩、同級生、後輩でハーレムを作ってしまう。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺

マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。 その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。 彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。 そして....彼の身体は大丈夫なのか!?

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

処理中です...