吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

文字の大きさ
89 / 291
三章

新居祝い

しおりを挟む
「それじゃ、これからの王都生活の門出を祝って、乾杯!」
「「「乾杯!」」」

 日がな一日、新居の整備に勤しんでいると日が暮れてきた。
 夕飯は屋上で焼肉パーティーをすることにした。

「美味そう! いただきます!」
「いただきますわ」

 市場で買ってきたお肉を鉄板に乗せてジュウジュウに焼いていく。食欲をそそる煙が立ち上っていく。

「んー、最高だね!」

 焼きあがったので一口食べてみると、前世で言うところの豚肉や牛肉とさほど変わらない味がした。

 買ってきた肉は、家畜化した魔物の肉だ。いずれも人工魔物の一種という扱いらしい。

 ミッドロウの串焼き屋で食ったオーク肉やレストランで食ったブル肉も、正しくはオークやブルを家畜化させた人工魔物の肉だったらしい。

 家畜化させただけあって、天然物の魔物肉より美味いようだ。肉屋の親父が言っていたので間違いないだろう。

 豚肉や牛肉のような味わいの肉が市場に出回っているのは、転生者である俺からしたら有難い話だ。わざわざショップ機能を使わずとも、金さえあれば美味い肉を現地調達で手に入れることができるんだからな。

 問題は前世の市場で売られているように安価ではないところだろうか。よほどの金持ちでない限り、毎日のように食っている人間はいないらしい。
 俺も今回、大枚叩いて肉を買ったことで手持ち資金が尽きてしまったくらいだ。毎日食える人間なんて限られるのだろう。

 家畜をダンジョンで飼育して増やすことができれば、美味しいお肉がいつでも食べられるな。まあ今のダンジョンは農業生産だけで手一杯で、畜産に力を入れている余裕はないがな。
 現状後回しだが、余裕ができたらダンジョンで家畜を飼ってみたいところだ。食料確保という面でも、肉の販売で金を稼ぐという面でも、取り組む価値は十分にあるだろう。

「美味しいです。ブル肉なんて初めて食べました」
「俺も初めてだ」
「私はカーネラさんに何度か奢って頂きましたね」
「アタシもだ」

 パープル、ノビル、レイラ、メリッサが肉を食いながら感想を漏らす。

 そういえば、レイラたちにはまだショップ産の牛肉を食わせてなかったっけ。最近では、ショップ産のお肉といえば、豚肉か鶏肉ばかり買ってたからな。
 ゴブリンを350匹以上も従えていると日々の食料確保も大変で、特に冬場は狩り採集などでダンジョン外からの食料調達ができなかったから、節約モードで過ごしていたからな。

「美味いか?」
「ワン!」

 俺たちはもとより、昼間ペットショップで飼ったシヴァたちも、美味そうに肉を齧っている。俺が問いかけると、一声鳴いて尻尾をフリフリと振ってくれる。
 ちなみにシヴァたちは焼いた肉も生肉もどっちもいけるらしい。生の内臓だっていける。流石魔物だ。

「あぁ……ペットにそんな高価な食べ物を……」
「まあまあいいじゃない」

 シヴァたちに高価な家畜肉を与えていると、パープルが絶句といった表情でブツブツと呟いていた。

 シヴァたちも今日から仲間の一員なんだから、ちゃんと差別せず美味いもん食わせてあげないとね。早く懐かせて眷属化させたいし、これは必要な経費というものだ。

「それにしても、こんな豪勢な食事を奢ってもらって大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫大丈夫。パープル君は気にしすぎだって」

 家やペットや高価な食材を買ったりしたことで、昨日の夜まであった俺とエリザの手持ち資金30ゴルゴンは一日にして消えた。
 真面目なパープルは、俺が一気にそんなに金を使ったことを気にしているようだ。

 まあ何の問題もない。ダンジョンに戻れば100ゴルゴン近く残ってるしね。エレーナの宿とカーネラの宿からの定期収入もあるから、とりあえず当面の金には困っていない。

「でも……まだ王都で依頼の一つも受けていないのに……」
「王都ならミッドロウよりも仕事はいっぱいあるから大丈夫だよ!」
「だといいのですが……」

 ダンジョンに大量の蓄財がある――そんなことは知らないパープルは、かなり心配しているようだ。とりあえず何の心配もないと胸を張っておこう。

「ご馳走様でした~」
「洗い物は僕がやりますので、皆さん休んで下さい」

 楽しい夕食の時間はあっという間に過ぎ去る。
 パープルが洗い物を引き受けてくれたので、俺たちは暇になった。

(洗い物なんてやる必要ないんだけどね……真面目すぎるというのも考えものだね)

 本当はパープルに任せるよりもスライムに任せた方が効率的だ。パープルがやらなければ後でこっそりスライムに掃除させたのだがね。
 奢ってもらったことを気に病んでか、彼は洗い物を率先して引き受けてしまったのだ。
 申し出を断るのも変な話なので、俺はそのまま頷いてしまった。無駄なことをしているパープルには悪いが仕方ないね。

「せいっ!」
「やっ!」

 ノビルとレイラは食後の腹ごなしということで、屋上で訓練を始める。
 二人が訓練に励む様子を、俺とエリザは椅子にもたれかかりながら見ることにする。
 メリッサは焼肉臭くなってもう一度風呂に入りたいとのことなので、ダンジョンへ一時帰還するこになった。

「ふぅふぅ……」
「そろそろ終わる?」
「あぁ」

 ノビルとレイラは一生懸命に訓練に励み、三十分も経つ頃には、息を乱して汗ばんでいた。いくら気温が低いとはいえ、ノンストップで動き回っていたらそうもなるだろう。

「お疲れ二人共。綺麗にしてあげるよ」

――スキル【洗浄】発動。

 天を見上げるようにだらしなく椅子にもたれかかって星を見ながら、俺は片手間にスキルを発動する。そうやって汗まみれの二人を綺麗にしてあげる。

「ありがとうございますヨミトさん」
「悪いなヨミト」
「二人共、洗浄魔法だけじゃ楽じゃないだろうから、ダンジョンの銭湯にも入っておいでよ」
「はいそうさせてもらいますね。普通、洗浄魔法だけでも贅沢すぎるんですけどね。おまけに毎日お風呂とか。花宿にいた時より贅沢。あはは、最近常識がおかしくなってる気がします」
「俺もだ。今日一日で二回も風呂に入ることになる。おまけに洗浄魔法もかけられたし。贅沢すぎるな」
「全然贅沢じゃないよ。福利厚生だよ。社員にそれを与えるのは経営者なら当然だよ」
「フクリコウセイが何なのかわかりませんが、ありがたく享受させてもらいますね」
「ああそうさせてもらう」

 レイラとノビルは最近生活が贅沢すぎると苦笑しながら屋上を後にした。風呂くらいで大袈裟なもんだ。

「人の多い王都だけど、気温が低いからかまあまあよく星が見えるな」
「ええ、ですが一号店やエデン村の方が良く見えますわ」
「そりゃまあね。田舎だからなあそこは」

 王都滞在二日目の夜だが、昨晩はゆっくり夜空なんか見てなかったから、夜空を眺めるのは今日が始めてである。

 王都から臨む夜空はまあまあ綺麗だった。まあ田舎村のエデンとかの方が星がよく見えて綺麗だけどね。

 夜空自体を見るのなら田舎のエデン村とかの方がいいが、ここ王都には王都にしかない魅力がある。視線を下げれば華やかな王都の夜景(主に商業地区の方)が見えるし、こういった光景はここでしか拝めない。

「エリザ。パープル君は下で皿洗いに夢中なようだし、星を見ながら吸血でもどうだい?」
「あら素敵なお誘いですわ是非に」

 俺とエリザは夜空の下、抱き合う。そして互いの首筋に噛み付きあい、その血を啜った。

「ああエリザ。美味しいお肉を食べたからか、いつも以上にエネルギーに満ちているね」
「うふふご主人様の血液も美味しゅうございますわ。」

 やはりエリザの血は格別だ。どんな美酒にも勝る極上の味がする。

 これからこの極上の処女の血は、この王都という地でさらなる成長を果たして熟成されていくのだろう。
 その血を味わうのが、今から凄く楽しみだな。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美醜逆転世界の学園に戻ったおっさんは気付かない

仙道
ファンタジー
柴田宏(しばたひろし)は学生時代から不細工といじめられ、ニートになった。 トラックにはねられ転移した先は美醜が逆転した現実世界。 しかも体は学生に戻っていたため、仕方なく学校に行くことに。 先輩、同級生、後輩でハーレムを作ってしまう。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺

マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。 その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。 彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。 そして....彼の身体は大丈夫なのか!?

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

処理中です...