吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

文字の大きさ
106 / 291
三章

ベイカーの行方

しおりを挟む
「ヨミトさん、親方の行く当てに心当たりあるんすか?」

 朝飯を食った後、ベイカーの捜索に出かける。出かけ際、パオンに尋ねられた。

「心当たりなんてないけど、探そうと思えばなんとかなるさ。頼むぞ、シヴァたち」
「ワン!」

 俺はシヴァたちにタオルの臭いを嗅がせる。ベイカーが使っていたタオルだ。彼の寝汗が染み付いている。

「ワン!」

 シヴァたちはその臭いを嗅ぎ、行方を辿っていく。

「軍用犬でもあるまいし、そんな真似できるんすか?」
「まあね」

 シヴァたちにはスキル【獣の嗅覚】というスキルを覚えさせてある。一時的に嗅覚を向上させるスキルである。

 シヴァたちは犬なので元々種族特性として鼻が凄い良く利く。スキルの効果が上乗せされれば、軍用犬もビックリの活躍を見せてくれるはずだ。

「こっちだ」

 ベイカーの痕跡を見つけたようで、シヴァたちは駆けていく。俺たちはシヴァたちの後を追っていく。

「ここで途切れているみたいだな」

 やがてシヴァたちは一つの場所に辿り着いた。そこは農業地区の外れにある放棄されている古井戸のような場所だった。

「何だここは? 廃井戸?」
「臭いっすね。下水っぽい臭いが漂ってるっすよ」
「ということは、地下水道に繋がっているかもしれないのか……」

 どうやらベイカーはこの井戸を降りてどこかへと向かっていったらしい。

「これ以上はワンちゃんたちはわからないみたいですわね」
「ここから先は下水の臭いがキツすぎるから臭いを辿るのは難しいのだろうな。シヴァたち、ありがとうな。戻っていいぞ」
「「「ワン!」」」

 ここまで案内してくれたシヴァたちに感謝する三匹は仲良く家へと戻っていった。

「さて下りるか」
「勿論っす!」

 あとは俺たち三人で捜索だ。設置されていた古ぼけた梯子を伝い、井戸の底へと降りていく。

「ふむこれは……」

 通路をしばらく進むと、重そうな扉があった。その扉は半開きになっていた。どうやらベイカーがこじ開けたらしい。

「ここの扉、中に入れるっぽいっす」
「どうやら地下水道に繋がっているっていうのは本当みたいだな」

 俺たちはその扉を潜り、中へと入っていく。
 そこはやはり地下水道であった。少し先の壁面にはメガローチがビッシリとへばりついていた。

「扉は一応閉めておくか」
「それがいいでしょうね。大騒ぎになったら困りますわ」

 この開いている扉から異常個体が王都へと逃げ出したら困るので、しっかりと閉めておいた。
 それから俺たちは地下水道を進んでいく。

「親方ぁっ、どこ行ったんすかぁ!?」
「ちょっと静かにしてよパオン君。ここは地下水道だよ。もしかしたら管理局の人間が近くをうろついているかもしれない。許可なく入ってることがバレたらヤバいんだから」
「ご、ごめんなさいっす!」

 不安なのかいきなり大声を出したパオン君を強めの口調で叱っておく。

 同じ地下水道といっても、ここは人口密度の低い農業地区のさらに外れにある。ゆえに下水の流入は少なく、ドブさらいが頻繁に必要なわけではないだろう。
 したがって、冒険者や管理局の人間が頻繁にうろついているとは思わないが、用心するに越したことはないからな。慎重に慎重を重ねて進んでいく。

「このメガローチの死骸、新しいな」

 しばらく進むと、真新しいメガローチの死骸があった。
 地下水道には、侵入者に危害を加えようとする異常個体のメガローチが結構な割合で存在する。この死骸もそれに当たる。誰かが打ち倒したのだろう。冒険者か管理局の人間かあるいは……。

「ベイカーさんって魔物倒せるくらい強いのか?」
「親方は昔から腕っ節は滅茶苦茶強いっす。そこらへんのチンピラなんて屁でもないくらいっす。大昔に素手でブル系魔物を張り倒したのを自慢してたくらいっすから」
「なるほど。じゃあこの魔物を倒したのはベイカーさんで間違いないだろうな。死骸の後を辿っていけばベイカーさんに辿りつけるに違いない。行くぞ」
「はいっす!」

 俺の目論見通り、さらに進めば、また死骸が落ちていた。ベイカーが打ち倒したものに違いない。

 メガローチの死骸を目印に、俺たちはベイカーの後を追い続ける。メガローチの死骸の痕跡は貴族街地下空間へと続いていた。

「ここから先は貴族街の地下になる。より慎重に進もう」
「わかったっす」

 基本的に、貴族街地下に冒険者が入ることは滅多にない。なぜなら地下水道は上流にある貴族街から下流の下町へと流れる構造になっているからだ。構造的に下町の地下辺りで下水の滞留・処理がされるような造りとなっているから、貴族街エリアの地下でドブさらいが必要になることは滅多にない。

 ゆえに冒険者や管理局が頻繁にうろついているとは思わないが、用心するに越したことはないだろう。

「相変わらず鬱陶しいな。でかゴキブリめ」

 俺たちは襲い来る異常個体のメガローチを適当に追い払いながら、ベイカーの行方を追った。ほどなくして彼を発見した。

「ぐ……」

 ベイカーはメガローチの大群に襲われ、一方的に嬲られていた。どうやら運悪く異常個体の群れに当たったらしい。健常な時の彼ならともかく、死にかけの状態で戦うにはキツすぎる相手だろう。

「ベイカーさん、今助ける!」
「親方ぁ!?」

 俺たちはすぐにベイカーの援軍に入り、メガローチの群れを叩き潰して追っ払った。

 パオンはほとんど戦力になっていなかったが、俺とエリザがいれば楽勝だな。メガローチの猛攻からベイカーを救い出すことができた。

「エリザ、回復魔法を頼む」
「はい」

 エリザが回復魔法をかけたことで、メガローチにやられた部分の傷は癒されていくが、ベイカーは依然として苦しそうな表情のままだ。

 回復魔法は身体の内に眠る病魔までは癒すことができない。回復魔法は根本的な解決にはならない。体力を少しだけ回復させ、余命を幾ばくか稼ぐだけだ。

「ぐぅ……俺はもう終わりだな」
「親方っ、気弱なことを言わないで欲しいっす! まだまだ大丈夫っすよ!」

 元々昨晩が山という見立てだったのだ。今の今まで生きているのが不思議だし、ここまで来れたことの方が奇跡だ。

 だがそれも限界といったところか。ベイカーはいよいよ死期を悟ったようだった。

 こんな下水臭いところで死ぬなんて哀れだな。何のためだか知らないが、病身を押してまでもここに来る価値はあったのだろうか。じっとしていれば、せめてベッドの上で死ねたろうに。

「パオンと……ヨミトっていったか……聞いてくれ……お前らに頼みたいことがある」

 ベイカーは焦点の揺らいだ瞳で、縋るように言ってきた。息も絶え絶えに喋りかけてくる彼の言葉に、俺たちは静かに耳を傾けた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美醜逆転世界の学園に戻ったおっさんは気付かない

仙道
ファンタジー
柴田宏(しばたひろし)は学生時代から不細工といじめられ、ニートになった。 トラックにはねられ転移した先は美醜が逆転した現実世界。 しかも体は学生に戻っていたため、仕方なく学校に行くことに。 先輩、同級生、後輩でハーレムを作ってしまう。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺

マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。 その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。 彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。 そして....彼の身体は大丈夫なのか!?

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

処理中です...