吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

文字の大きさ
128 / 291
四章

牧場娘と病弱美少女?

しおりを挟む
 既に家周辺にノビルの姿はなく、どこに行ったかは定かではない。追いかけるのは至難の業だが、俺たちには心強い味方がいる。

「ダックス、頼むぞ」
「ワン!」

 前にベイカーさんの行方を探った時のように、ペットの犬の力を借りることにする。家を留守にするわけにはいかないので、今回はダックスだけを連れて行くことにしよう。

 三匹の中ではダックスが一番鼻が利いてて小柄で追跡に向いているからね。他の二匹はどちらかというと戦闘向きなので、今回はお留守番してもらおう。

「そんじゃ、俺とエリザは猫の姿で移動するとするか。大勢でぞろぞろと動くと目立つしね。尾行がバレちゃう」
「了解ですわ」

 俺とエリザはスキル【変化】を使い、それぞれ黒猫と白猫に姿を変えた。その状態で移動することにする。

「こっちみたいだな」

 ダックスにノビルの使っているタオルの臭いを嗅がせると、行方を追って走り出した。俺たちはその後を追っていく。どうやらそう遠くには行っていないみたいだ。

「いたいた」

 しばらく追跡すると、農業地区の外れの道を歩いているノビルを発見した。農業地区のどこかへと向かっているようだ。

 ノビルのその足取りは軽い。確かに言われてみれば、ウキウキしているように見えるな。

「サンキュ、ダックス。後でご褒美をやるからな」
「ワン!」

 ノビルを発見したので、ダックスにはここでお帰りいただこう。ダックスは後でご褒美が貰えると聞いて、尻尾を振りながら帰っていった。

「あの野郎、どこに行こうってんだ?」
「やっぱバイト先じゃない? アイツ、農業地区の牧場で働いてるって話だから」

 メリッサとレイラが物陰に隠れつつ、小さな声で会話をする。

 俺たちはノビルに気取られないように後を追った。

「おい、ここって」
「たぶんあの坊やの働いてる牧場だと思いますわ」

 ノビルがやって来たのは、牧場だった。

 農奴が暮らしていると思われる宿舎もあるから、それなりに大きな牧場のようだ。羊と牛みたいな人工魔物を飼っているらしい。

「どうやらバイトのようだね」
「そのようですわ」
「なんだよ。ただのバイトかよ。つまんねーの」
「でも今日バイトがあるなんてアイツ一言も……」

 ただのバイトかと落胆する一同。だが、次の瞬間、皆が驚くこととなった。

「おいおい! あれって!」
「嘘っ!?」

 牧場主のものと思われる家から、一人の娘が出てきた。作業着と思われるデニムっぽい生地のツナギを着た娘である。

 ツナギの上半身部分がパツンパツンになるくらいの女性の象徴をお持ちの娘だった。ツナギのショルダー部分がはち切れそうなくらいである。

(へえ。あんな子がわりと近所に住んでいたんだな。まだ血を吸ったことないや)

 凄い可愛い、爆乳元気娘って感じの少女だった。ティーシャツの上にツナギを着ているというのに、胸の存在がありありとわかる。

 まさかの爆乳娘の登場で、俺たちのテンションはうなぎのぼりだ。レイラだけはショックなのか呆然としていたが。

「やっぱ女じゃねえか! あの野郎、あんなクソデカ乳の可愛い子捕まえやがって!」
「ん~、でもちょっと様子が変ですわね。彼女さんって感じじゃないですわ」

 メリッサが興奮したように言うのを遮り、エリザが冷静に状況を判断する。

 エリザの言う通り、彼氏彼女って間柄じゃなさそうだ。傍目から見て、どこか余所余所しい会話をしている。

「アキ、ノビル君が来たよ~」
「今行く」

 牧場娘の声に答え、家の中から小柄な子が出てくる。

 小柄なノビルよりもさらに一回り小さな子だ。目元に大きな隈があるものの、これまた可愛い子である。例えるなら、不健康そうな美少女って感じかな。

「ごほごほ、おはようノビル」
「ああ。おはようアキ。それじゃ行こうか」

 二人は親しげに肩を叩きながら、並んで歩いていった。このまま二人で出かけて行くらしい。

「どうやらこっちの方が本命みたいだな! やるじゃねえか!」
「嘘……ノビルがそんな……」
「くくく、やっぱ口うるさい幼馴染より、年下の大人しく清楚そうな娘の方がいいってこったな!」
「だから私は別にノビルのことなんて!」
「はいはい、喧嘩ストップ。このまま二人の行方を追ってみようか」

 喧嘩しそうになるメリッサとレイラを宥め、俺たちは追跡を続行する。

 その後、ノビルとアキという子は商業地区へと向かい、そこで仲良く遊んでいた。アイスなどを買い食いしながら、楽しげにお喋りしたりしていた。

 どうやら全部ノビルが奢ってあげているみたいだ。太っ腹だねノビル。

「また一曲聞かせてくれよ」
「ごほごほっ、いいよ」

 商業地区での遊びに満足した二人は、公共地区の公園のベンチに座りながらゆったりと過ごし始める。

 やがてアキって子が懐から笛を取り出し、奏で始める。その演奏を目を瞑りながら聞き入るノビル。

「ごほごほっ、ごめん!」
「大丈夫だ。もう一度同じところから聞かせてくれ」
「うん」

 アキって子は笛を吹くのが上手みたいだね。たまに咳き込んじゃって変な音を出しちゃうものの、それ以外の箇所の演奏は見事としか言いようがない。公園を歩いている人がつい振り返っちゃうくらいだ。

 気管支さえ強ければ立派な笛の演奏家になれるだろうに、って思えるね。病弱そうなのが残念だ。

 それにしても、あれは彼女の笛の演奏に聞き入る彼氏って光景にしか見えないね。

「完全にカップルじゃねえか。決まりだな。あの野郎、近頃はあの子と遊んでたんだろ」
「……そうみたいね」
「ねえ今どんな気持ち? 好きな幼馴染がぽっと出の年下不健康笛吹き美少女に奪われて、ねえどんな気持ち?」
「……五月蝿いメリッサ。ノビルのことなんてどうでもいいし。誰と付き合ってようが関係ないし」
「どうでもいいというわりには、めっちゃ顔が引きつってんぞ~」
「……アンタ、死にたいの?」

 メリッサがここぞとばかりにレイラを煽っていた。

 メリッサの煽り顔は、本当にムカつくくらい面白い顔だ。魔法使いとは思えない知性に欠けた顔で笑える。ヤンキー娘の煽り顔は面白いな。

「ご主人様……ちょっと」
「ん? 何?」

 メリッサとレイラの喧嘩を微笑ましく思いながら見ていると、エリザが顔を寄せてきて、ぼそっと呟く。

「あの不健康そうな子……男の子だと思われますわ」
「え? ノビルってそっち系? 新たな性的嗜好に目覚めちゃったの?」
「いえ、あの坊やが発情してる風には思えませんわ。ただのお友達かと」
「なるほどねぇ」

 どうやらノビルの彼女だと思われたアキって子は、実は男の娘らしい。

 男の娘――つまりは、女の子に見えるけど男の子ということだ。

 ノビルは女の子とデートしていたわけではなく、バイト先で知り合った同性の友達と遊んでいただけのようだ。

「ま、面白そうだから黙っていようか」
「そうですわね」

 真実は明らかとなったが、メリッサとレイラの反応が面白いので、俺とエリザはしばらく黙っていることにしたのであった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美醜逆転世界の学園に戻ったおっさんは気付かない

仙道
ファンタジー
柴田宏(しばたひろし)は学生時代から不細工といじめられ、ニートになった。 トラックにはねられ転移した先は美醜が逆転した現実世界。 しかも体は学生に戻っていたため、仕方なく学校に行くことに。 先輩、同級生、後輩でハーレムを作ってしまう。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺

マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。 その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。 彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。 そして....彼の身体は大丈夫なのか!?

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

処理中です...