吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

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四章

オーク討伐依頼10/13(ジョーア村防衛戦)

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「オークだ! オークの大群だ!」
「村の男たちも武器を手にとって戦え! 冒険者さんたちを支援するんだ!」
「女たちも出来ることをやれ!」

 村は大騒ぎだった。それなりの備えをしていたとはいえ、いざ襲撃されるとなると大混乱で、慌てふためいているようであった。

――スキル【獣の視覚】発動。

 吸血鬼は元々夜目が利くが、その上でさらに視覚系のスキルを発動すると、さらによく見えるようになる。建物の屋根の上に上って、眺めると、真っ暗闇でよく見えないはずの村の様子が丸分かりだった。

 村と森の境界付近で激しい争いが起きているらしい。

「お前たちは命優先で。無理はするなよ」
「キィキィ」
「ご主人様」

 屋根の上で、近くに忍ばせていた蝙蝠たちに指示を出していると、先に偵察に出していたエリザが戻ってくる。

「上空を旋回してざっと調べた所、千匹ほどのオークが村を包囲しておりますわ」
「千匹か結構いるな。そうかご苦労さん」

 千匹とはかなりの数だ。
 俺たちにとってはスライムと同じなのであまり脅威を感じないが、普通の人間からしたらかなりの脅威だろう。少なくとも、鉄等級の冒険者集団が相手にするような敵じゃなさそうだ。

「俺たちはともかく、レイラたちは下手すると討たれたり捕虜にされかねんな。固まって行動し、レイラたちを守りつつ迎撃することにしよう。せっかく手に入れた眷属を、ここで失いたくない」
「かしこまりましたわ」

 俺とエリザは屋根から飛び降りると、レイラたちのいる村長宅に向かった。

「ヨミトさん! オークが!」
「わかっているよ」

 村長の家に向かうと、慌てふためいた様子のパープルが駆け寄ってくる。村長宅には、村中の女子供が避難してきていた。

「既にガンドリィさんたちが前線に向かっています! 僕たちも急ぎましょう!」
「ああそうだね」

 村長宅周辺は集まってきた村の衆に任せ、俺たち不死鳥のメンバーは装備を身に着けて前線へと向かう。そして村々の家屋を背にして戦っているガンドリィたちと合流する。

「ヨミトちゃんたち! 遅いわよぉん!」
「悪いな」
「こんな時に娼婦なんて買ってるからよぉん!」
「なっ、ヨミトさん! 貴方、こんな時に何してたんですか!」

 ガンドリィが余計なことを言うので、それに反応したパープルがぷんすか怒りだす。慌ててそれを宥める。

「まあまあ。それで今、前線はどんな状況なんです?」

 情報を聞くと、ガンドリィは渋い顔をした。

「残念ながら他のチームの何人か討たれたわ。数が多すぎるのよ。押し込まれてしまって、今は建物を壁にして戦っているって感じね」
「そうか。逃げ遅れている人たちは?」
「わからないわぁん。この闇夜の混乱だから、それなりにいるでしょうね」

 村は広い。村長宅に近い家々の者なら無事に避難できているだろうが、村の外れに住んでいる人たちは逃げ遅れている人がいるかもしれないとのことだった。

「それじゃ逃げ遅れている人たちを助けつつ、オーク共を撃退していくか」
「ええそれしかないわねぇん」

 俺たちとガンドリィのチームは一緒に行動し、村内に侵入してきたオーク共を討つことになった。

「ブヒィイイ!」
「そりゃ!」

――ザクシュッ。

 咆哮を上げて近づいてきたオークを一刀両断で切り捨てる。そのまま二匹三匹と、次々に切り伏せていく。

「やるわねぇん! 性豪の名は伊達じゃないわねぇん! とんでもない力よぉん!」
「性豪は関係ないですって」
「アタシも負けてられないわねぇん。うおぉお゛お゛らぁあ゛あ゛!」

 ガンドリィは野太い声を上げながら、鉄の棍棒を振り回す。

 スキル【怪力】でも発動しているのかもしれない。いつも以上に素早く、力強い動きだ。

「ぶひぃい゛い゛……」

 棍棒の直撃を受けたオークの顔面はボコリと減り込むような形に変形する。オークはそのまま地面に倒れ伏してピクリとも動かなくなった。

「やりますね」
「これでも鋼等級の冒険者だからねぇん」

 俺が褒めると、ガンドリィはドヤ顔で答える。

 ガンドリィチームの若い冒険者たちは、ガンドリィのことを尊敬の眼差しで見ていた。尊敬するリーダーの強さを見れて感激しているようだ。

 その後も、俺たちは行く手に次々と現れるオークを蹴散らしていく。

「さあさあ、どんどん数を減らさないと、負けてオークの孕み袋にされちゃうわよぉん。アタシ、美人さんだから特に酷い目に遭っちゃいそうだわねぇん」
「いや男のアンタはお持ち帰りされないと思うぞ……」

 戦いの最中、ガンドリィは下品な冗句を言い放つ。冗句を言って極限の状態にあるみんなを鼓舞しようというつもりだったのかもしれない。

 だが俺たちのチームはおろか、ガンドリィのチームの面々でさえ、その冗句に反応する者はいなかったが。エリザは下品なガンドリィを完全無視。近くにいた俺だけがツッコミを入れることになった。

「そらぁ、どんどんいくわよ!」
「ああそうだな。鬱陶しい豚共を狩り尽くそう」

 村内に侵入したオークたちを次々に討ち取っていく。

 いつもなら手加減して仕留め、止めはレイラたちに任せるのだが、そんな余裕はないな。敵の数を減らすため、問答無用で切り捨てていく。命が勿体ないが仕方ない。

「俺の仲間を下品な目で見るな豚が!」
「ぶひぃいい!」

 五十匹くらいまでは数えていたが、その後は何匹倒したのかわからないくらいだ。とにかく無心で切り捨てていく。自前の武器が駄目になった後は、オークの持っていた武器を奪い取って利用して戦っていく。

「ぺろっ」

 皆から見えないところで手に付いた返り血を啜って栄養補給しつつ戦い続ける。エリザも俺と同じように適当に栄養補給しつつ戦っているようだ。

 戦場を満たす血の臭いは、俺たちにとって食欲をそそる匂いでしかない。湧き起こる吸血衝動を抑えながら戦い続ける。

「がはぁ!」
「オルクスの旦那!?」

 村内を進み、他のチームと合流し、共闘していく。その道中、苦しい戦いをしているチームに遭遇することになった。

「旦那ぁ、オルクスの旦那ぁ!?」
「誰か! 回復してくれ!」
「こんな村にゃ薬師も神官もいねえよ!」
「そんなぁ!? こんな傷が深いのに! このままじゃオルクスの旦那が死んじまう!」

 オルクスという男が敵に囲まれて集中攻撃を受けたようで、重傷を負っていた。仲間を守るために無理をしたらしい。

「どれ見せてみろ」

 俺はすぐさま駆け寄り、癒しの魔法を発動した。

――スキル【癒光】発動。

「アンタ、回復魔法を使えたのか?」
「まあね」
「あぁ、助かったぜ。死ぬかと思ったぜ」

 オルクスを助けると、彼のチームの面々から凄い感謝をされた。

 俺、人の役に立つ吸血鬼になれてるな。嬉しいぜ。

「ヨミトちゃん、回復魔法を使えたのねぇん。実は元エビス教の神官さんとか?」
「こんな時に余計な詮索はなしですよガンドリィさん」
「そうねぇん。後でたっぷりと聞きたいわ。この戦いに生き残った後にねぇん」

 助けたオルクスチームの面々も交え、戦い続ける。そうやってオークを減らし続けていくが、オークの攻撃の手は止むことがない。蹴散らしても蹴散らしても湧き出てくる。

(だいぶ倒したけど、これでもトータルで三百匹くらいしか倒してないのか。エリザの話では、千匹以上いるって話だったからな。ちんたらやってたらまだまだ時間がかかるな)

 吸血鬼の持つ異常な力の片鱗に気づかれぬように力を抑えつつ戦っているせいか、敵を討つスピードがいまいち遅い。

 戦いをあまり長引かせるのはよくないだろう。村への被害が広がるし、冒険者たちへの被害が広がってしまう。
ちまちま戦うのはそろそろ終わりにするか。

「エリザ、ここは任せる。レイラたちがやられないように注意して守ってやってくれ。何かあったら連絡蝙蝠を飛ばしてくれ」
「わかりましたわ。ご主人様もお気をつけて」

 エリザに耳打ちし、言伝する。その後、俺は冒険者チームの面々から離脱して単独行動をとることにした。

「ちょっと向こうの様子を見てくるよ。すぐ戻ってくるから」
「一人でなんて危ないですよ!? オークが山ほどいるんですよ!?」
「何考えているのよヨミトちゃん!? 馬鹿な真似はよしなさい!」
「大丈夫だって。それじゃ」

 慌てるパープルとガンドリィチームの面々を無視し、俺はその場から離脱していったのであった。
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