吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

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四章

宿泊者名簿No.12 転生者シブヘイ2/3

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「いやああっ、やめてっ、いやあああ! オークが初めてなんていやあああ!」

 転生して一年半ほど経ったある日、東の森の拠点近くで、メカクレ美少女が採集作業していたので襲った。スレンダー系の美少女で最高だった。

「貴様、何をしている! その娘を放せ!」
「ぶひぃっ、こいつ強い!?」

 かなり可愛い娘だったので巣に連れ帰ろうとしたのだが、たまたま通りかかった冒険者に阻まれてしまった。

 運が悪いことにそいつは中々強い奴だった。イノコや周りの部下と一緒に戦っているうちに、娘は逃がしてしまった。まあ冒険者は殺すことができたんだがな。

「ぶひぃ。危ないところだった」
「ご主人様。最近、村人たちの警戒度が上がっている気がします……。村に冒険者が立ち寄る回数が増えてる気が……」
「そんなことは言われなくともわかってんだよ!」

 前は簡単に村娘を捕獲して連れ去ることができたのだが、日に日にそれができなくなっていった。

 人間側も馬鹿ではない。村人たちの被害が増えて、それで対策しているのだろうと思われた。

(あぁ、新しい娘とセックスしたいセックスしたいセックスしたい……)

 新しい村娘を襲いたいのにできない。欲求不満の日々が続いていく。

 村人たちの警戒は強まる一方だったが、俺氏は村娘を襲った時の快感が忘れられず、時折村近くに繰り出しては村娘の誘拐を企て続けた。

 それからしばらく。転生してから三年半が過ぎた頃だった。

 近隣の村に冒険者共が集まってくるようになってしまった。俺氏たちが狙われていることは明らかだった。

「ブヒィ!? 西拠点で食料調達をさせていた一団が壊滅しただと!? ヤバい、どうしようどうしよう!」

 冒険者が村に屯するようになってからというもの、地獄続きだった。

 冒険者たちは中々に強いらしく、西の拠点、北の拠点、東の拠点に配置させていた部隊が日に日に壊滅する事態となっていった。物見の報告では、村に滞在する冒険者の数はますます増えているようだった。

「ご主人様、ダンジョン内に残っている戦力も全て出しましょう。ダンジョンの転移陣を利用して移動し、ダンジョン外で敵を迎え撃って各個撃破していきましょう」
「馬鹿、そんなことしたら俺氏の守りが薄くなるだろ! それにダンジョン内に敵を引き込まなきゃDMがもらえねえだろが!」
「しかし戦力の逐次投入は下策かと……。小利に拘り、大利を失ってはいけません。この際、ダンジョン内に敵を引き込むことに拘る必要はないかと……」
「うるせえよ豚娘! お前は子供孕んでいればそれでいいんだよ! 俺氏の偉大なる作戦に口出しするな! とりあえず東と西の拠点は一時閉鎖する!」
「しかしそうすると、地の利が生かせなくなり……」
「うるせえって言ってるんだよ! 必要に応じてまた拠点を作ればいいだろうが!」
「無闇矢鱈に拠点を増やしたり消したりするとコストが無駄に……」
「黙れって言ってんだ!」

 イノコが偉そうに頭の良さそうな言葉を喋ってきたのでムカついた。
 徹底的に殴って躾けてやった。まったく、オークのくせに偉そうにしやがって。

「ご主人様! 村に未だかつてない規模の冒険者たちが集結しているようです!」
「なんだと!?」

 しばらくして、事態はもっと悪化することになった。俺たちのダンジョンから最も近い村に冒険者たちが集結しているとの情報が入った。

「これは一刻の猶予もないな……どうする、どうする、くそ!」
「ご主人様、もはや村を潰すしかないと思われます」
「そんなことしたら人間たちにもっと警戒されるだろうが! 化け物みたいな敵がいたらどうする!」
「ですがもうそれしか方法がないかと。村を潰して証拠を隠滅し、その後はしばらくダンジョンに篭って大人しくしてほとぼりが冷めるのを待つしかないかと」
「村を潰して引き篭もるのか?」
「はい。村を潰せば人間たちの警戒は極限まで高まるでしょうが、ほとぼりが冷めるまで逃げればよいかと。この広いヒムの森の全てを捜索し尽すことなど不可能と思われます。定期的にダンジョンの入口を移動させていけば、敵の目を欺けます」
「ううむ……そうだな」

 イノコの言葉は一理あると思い、俺氏はイノコの言う通りにさせることにした。

「よしイノコ、俺氏の親衛隊以外の全部隊の指揮を任せる。それで村を滅ぼせ。若い美人な女は殺すなよ。ダンジョンで飼ってDM生産の母体とすると同時、孕み袋にもするからな」
「はっ、かしこまりました!」

 千匹以上のオークを投入し、最強戦力のイノコさえも投入する。そして村を滅ぼす。

 転生してからというもの、未だかつてない規模の戦いが始まることになった。

(イノコに任せておけばいいだろ。何だかんだでアイツは優秀だからな。まあ俺氏ほどじゃないけど)

 そんな戦いが行われる中、俺氏はダンジョンの奥でお菓子を食いながらのんびりと構えて吉報を待つことにした。果報は寝て待てと言うしな。

(ふひひ、どんな娘が捕らえられてくるのかな?)

 俺氏はイノコたちの戦果を今か今かと待ち望んでいたのであるが……。

「すみませんご主人様……敗れました」
「な、なんだとぉおお!」

 イノコはボロボロの姿になって戻ってきた。渡した戦力も八割以上が討ち死にしたらしかった。全滅と言っても過言ではないくらいだ。

「敵の中に吸血鬼がおりました。それも二体。とてつもない力を持っています」
「きゅ、吸血鬼だと!? そんな化け物がいるなんて聞いてないぞ!?」
「おそらくはダンジョンマスターとその従者かと……」
「俺氏以外のダンジョンマスターだと!? ここは俺氏だけのパラダイスじゃなかったのか!?」

 寝耳に水な話であった。

 ここは俺氏だけの楽園だと思っていた。ダンジョンマスターという特別な力は俺氏にだけ与えられたものだと思っていたのだが、そうではないらしい。

「ご主人様、敵の攻撃に備えて防備を固めましょう。相手は隠れて本陣に接近して大軍を相手にできるほどの手練です」
「くそっ、そんな化け物に勝てるのかよ!?」
「とにかく備えなければいけません。ダンジョンの入口を最小限に絞りましょう」

 イノコに言われるがまま、敵への備えをすることになった。

「村から一番遠い拠点以外は全て封鎖した。これで奴らは近づけまい」
「そうですねこれで一安心かと。それでも油断はなりませんが」
「ああ、くそ、あれだけいた俺氏のオーク兵も五百匹しかいなくなったし、村を滅ぼすこともできなかったし、最悪だ! 全部お前のせいだからなイノコ!」
「はい、申し訳ありません……」

 素早く敗戦処理を行った後、俺氏はイノコに当り散らす。そうやって鬱憤をぶつけている最中のことであった。

「敵襲! 敵襲ですご主人様ァ!」
「な、何ィ!?」

 俄かに騒がしくなるダンジョン。慌てふためく俺氏たちの前に、次から次へと侵入者が現れる。

「うぉおおお!」
「ご主人様の敵を倒すんだ!」
「やれやれ!」

 大量のゴブリンが雪崩のように押し寄せてくる。装備が整えられたゴブリンの軍勢だった。

「ゴブリンなど蹴散らせ! オークの敵じゃないだろ!」
「それが、人間も交じっています!」
「何だとぉ!?」

 敵はゴブリンだけではなかった。

「戦争なんて初めてのことだな。ここで戦果を挙げればヨミトの旦那から褒賞が出て、フウとユウの奴に美味いもんでも食わせてやれるか。よし、父ちゃん、いっちょやるか!」

 ゴブリンたちに交じって斧を振り回す樵風の出で立ちの壮年の男。それなりに戦い慣れているようであった。男は報酬目当てで戦いに参加しているようであった。

「オーク退治なんて二十年ぶりくらいかしら。現役冒険者だった頃に何度か戦ったことあるくらいよね。懐かしいわぁ」
「ヨーン、お喋りはそれくらいにして、敵を討ちましょう! 早いもの勝ちなのよ!」
「そうよイッツの言う通りよ! オークを倒しまくって位階が高まれば、私たちの体力は増す。そうすれば、もっと若々しい身体が手に入るわ!」
「ふふ、偉大なるヨミト様のため。そして私たちの若さのため。豚共を根絶やしにしましょう!」

 婆臭い喋りをする、見た目だけは妙に若々しい女四人組が、鬼気迫る勢いでオークたちを狩っていく。先ほどの斧の男よりも戦い慣れている様子だった。

 若さのためって何だよ。どうやら女たちはレベルを上げて若々しくなろうとしているらしい。俺氏たちはお前らの経験値じゃねえぞ。

「オラッ、芋、ビビってんじゃねえぞ! ブレンダにいいとこ見せるんだろ!?」
「はいっす!」
「おい芋! 男のくせにアタシらよりもオークぶっ殺してねえじゃねえかよ! ブレンダにも負けてんぞ! もっと気合入れて戦えや芋!」
「はいっすぅう!」

 情けない感じの坊主頭の男と、ギャル三人組も戦っていた。それほど戦い慣れていない様子であるが、ゴブリンたちに交じりながら必死に戦っていた。

「ノビル、数が多いわ。囲まれないように常に気をつけてね」
「おうわかってる!」
「これだけいると適当に魔法撃ってても当たるな。ある意味楽でいいな。さあ豚め、丸焼きにしてやるぜ」

 冒険者風の人間たちも戦いに加わっていた。

 そいつらはゴブリン部隊の支援をしつつ、オーク部隊に的確なダメージを与えてくる厄介な敵であった。イケメンと美女だし、本当に腹が立つ敵だった。

 後方支援を含めれば、その他大勢の人間が戦いに参加しているようだった。

「何なんだこいつらはぁ!?」
「ご主人様、吸血鬼です! 例の吸血鬼が奥で部隊を率いています!」

 イノコが敵陣の奥を指差しながら叫ぶ。

 そこには黒々とした翼を生やした化け物が二体いた。件の吸血鬼に相違ない。

 その男女の吸血鬼は、俺氏たちの姿を見つけると、獰猛に笑う。まるで「見ぃつけた」とでも言わんばかりの顔であった。

 そして奴らはバサリと飛び立つと、戦場を一気に飛び越え、俺氏たちの下へとやってきた。

「ひぃい!? イノコ、なんとかしろ!」
「は、はい!」

 イノコに敵を押し付け、必死に逃げる俺氏。

 我がダンジョンの最強戦力のイノコならなんとかしてくれると思ったのだが……。

「貴方がご主人様に軽いとはいえ手傷を負わせた、いけない子豚ちゃんですか。これはたっぷりとお仕置きが必要ですわね」
「がはぁっ、ぐぅっ、がはっ」
「うふふ、良い悲鳴ですわ。もっと良い声で鳴くといいですわ」
「ぐぶぅっ、はぁはぁ、そ、そんな、昼間の吸血鬼よりも強い……」
「ふふ、ご主人様のスキルのおかげですわ。元は貴方のスキルらしいですわね」
「そんな私のスキルをラーニングして……ぐふっ」

 イノコは女吸血鬼に一方的にボコボコにされていた。圧倒的な力の差があるようだった。

 正直、こんな化け物相手に勝てるわけないと思った。

「大将が真っ先に逃げるとは感心しないねえ」
「ひっ、ひぃいい!?」

 逃げる俺氏の行く手を阻むように、男の吸血鬼が現れる。

「お前たち、何とかしろ!」
「は、はい!」

 近衛に命じて吸血鬼と戦わせるのだが……。

「――ぶひ」
「――がひ」
「――ぶび」

 五匹もいたハイクラスのオーク兵がなす術もなく屠られていく。首を刎ねられたり、蹴飛ばされたり、両断されたり、全てがほぼ一瞬のことであった。

 瞬く間に近衛が討ち取られ、周りには俺氏しかいなくなった。

「ひっ、ひぃいいい! ば、化け物ぉおお!」
「オークの君に化け物とか言われたくないねえ」
「うるせえよ! ほっとけ! 好きでオークに生まれたわけじゃねえ!」
「ふふ、まあそうだよね。好き好んでオークになりたい奴なんていないだろうね」

 完全に化け物ななりをしているが、男には妙に親近感を抱かせる何かがあった。その独特の雰囲気から、俺氏は察する。

「やはり、お前も転生者でダンジョンマスターなのか!?」
「そうさ。ということは、やはり君もそのようだね。俺の名はヨミト。君はシブヘイ君だね?」
「ああそうだ」

 やはり男は転生者だったらしい。

 しばし会話を続けると、ヨミトも暴走トラックに撥ねられてこの世界にやって来ることになったのだとわかった。

 どうやらこの世界は複数転生者がいる世界だったらしい。俺氏だけが特別な存在だと思ったのに、そりゃないぜ。

「なあ取引をしよう。ダンジョンマスター同士、俺氏と同盟を結ばないか? 俺氏とお前、二人でこの世界を分け合おうじゃないか?」

 俺氏は精一杯の営業スマイルを浮かべた。元ニートで転生した今もニートみたいなもんだから営業なんてしたことないが、それでも必死に愛想を繕った。

「生憎だけどその提案は呑めないね。俺の路線と君の路線。だいぶ違うもののようだ。同じ道を歩むことはできないよ。君って、強欲な豚で信頼できそうもないしね。すぐ裏切りそうだ」
「なんだと! 豚って言うな! 格好良い吸血鬼に転生できたからって、調子に乗るなよお前!」

 ヨミトは即座に俺の提案を却下しやがった。ふざけた野郎だ。

(恵まれた存在だからって調子に乗りやがってぇ!)

 本当ずるすぎる。こんなイケメンで強くて格好良い吸血鬼に生まれたなら、女を襲わずとも抱き放題じゃないか。
こいつの眷属と思われる女は全員可愛い子ばかりだ。全員こいつのお手つきに違いない。

 ずるい。そんなのずるすぎる。世の中不公平だ。

「ずるいぞ! 俺にもエリザとかいうあの可愛い女吸血鬼と一発やらせやがれ! あっちのレイラとかいうのでもいいぞ! チンチンがイライラするんじゃ!」
「見苦しい豚だね君」
「――がはぁ」

 吹っ切れた俺氏はもうどうにでもなれと思い、心の赴くままに発言するのだが、それはヨミトのパンチによって遮られた。鳩尾に鋭い一発をくらった俺氏は悶絶して倒れこむことになる。

「君はそれほど脅威的な敵ではなかったようだね。ダンジョンでしばらく飼うことにするよ。ダンジョンマスターの肉体に関して、色々人体実験したい所だしね。いや人体じゃなくて豚体実験か? まあ細かいことはどうでもいいか」

 俺氏はヨミトのパンチで意識を失い、連れ去られることになったのであった。
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