145 / 291
四章
宿泊者名簿No.12 転生者シブヘイ2/3
しおりを挟む
「いやああっ、やめてっ、いやあああ! オークが初めてなんていやあああ!」
転生して一年半ほど経ったある日、東の森の拠点近くで、メカクレ美少女が採集作業していたので襲った。スレンダー系の美少女で最高だった。
「貴様、何をしている! その娘を放せ!」
「ぶひぃっ、こいつ強い!?」
かなり可愛い娘だったので巣に連れ帰ろうとしたのだが、たまたま通りかかった冒険者に阻まれてしまった。
運が悪いことにそいつは中々強い奴だった。イノコや周りの部下と一緒に戦っているうちに、娘は逃がしてしまった。まあ冒険者は殺すことができたんだがな。
「ぶひぃ。危ないところだった」
「ご主人様。最近、村人たちの警戒度が上がっている気がします……。村に冒険者が立ち寄る回数が増えてる気が……」
「そんなことは言われなくともわかってんだよ!」
前は簡単に村娘を捕獲して連れ去ることができたのだが、日に日にそれができなくなっていった。
人間側も馬鹿ではない。村人たちの被害が増えて、それで対策しているのだろうと思われた。
(あぁ、新しい娘とセックスしたいセックスしたいセックスしたい……)
新しい村娘を襲いたいのにできない。欲求不満の日々が続いていく。
村人たちの警戒は強まる一方だったが、俺氏は村娘を襲った時の快感が忘れられず、時折村近くに繰り出しては村娘の誘拐を企て続けた。
それからしばらく。転生してから三年半が過ぎた頃だった。
近隣の村に冒険者共が集まってくるようになってしまった。俺氏たちが狙われていることは明らかだった。
「ブヒィ!? 西拠点で食料調達をさせていた一団が壊滅しただと!? ヤバい、どうしようどうしよう!」
冒険者が村に屯するようになってからというもの、地獄続きだった。
冒険者たちは中々に強いらしく、西の拠点、北の拠点、東の拠点に配置させていた部隊が日に日に壊滅する事態となっていった。物見の報告では、村に滞在する冒険者の数はますます増えているようだった。
「ご主人様、ダンジョン内に残っている戦力も全て出しましょう。ダンジョンの転移陣を利用して移動し、ダンジョン外で敵を迎え撃って各個撃破していきましょう」
「馬鹿、そんなことしたら俺氏の守りが薄くなるだろ! それにダンジョン内に敵を引き込まなきゃDMがもらえねえだろが!」
「しかし戦力の逐次投入は下策かと……。小利に拘り、大利を失ってはいけません。この際、ダンジョン内に敵を引き込むことに拘る必要はないかと……」
「うるせえよ豚娘! お前は子供孕んでいればそれでいいんだよ! 俺氏の偉大なる作戦に口出しするな! とりあえず東と西の拠点は一時閉鎖する!」
「しかしそうすると、地の利が生かせなくなり……」
「うるせえって言ってるんだよ! 必要に応じてまた拠点を作ればいいだろうが!」
「無闇矢鱈に拠点を増やしたり消したりするとコストが無駄に……」
「黙れって言ってんだ!」
イノコが偉そうに頭の良さそうな言葉を喋ってきたのでムカついた。
徹底的に殴って躾けてやった。まったく、オークのくせに偉そうにしやがって。
「ご主人様! 村に未だかつてない規模の冒険者たちが集結しているようです!」
「なんだと!?」
しばらくして、事態はもっと悪化することになった。俺たちのダンジョンから最も近い村に冒険者たちが集結しているとの情報が入った。
「これは一刻の猶予もないな……どうする、どうする、くそ!」
「ご主人様、もはや村を潰すしかないと思われます」
「そんなことしたら人間たちにもっと警戒されるだろうが! 化け物みたいな敵がいたらどうする!」
「ですがもうそれしか方法がないかと。村を潰して証拠を隠滅し、その後はしばらくダンジョンに篭って大人しくしてほとぼりが冷めるのを待つしかないかと」
「村を潰して引き篭もるのか?」
「はい。村を潰せば人間たちの警戒は極限まで高まるでしょうが、ほとぼりが冷めるまで逃げればよいかと。この広いヒムの森の全てを捜索し尽すことなど不可能と思われます。定期的にダンジョンの入口を移動させていけば、敵の目を欺けます」
「ううむ……そうだな」
イノコの言葉は一理あると思い、俺氏はイノコの言う通りにさせることにした。
「よしイノコ、俺氏の親衛隊以外の全部隊の指揮を任せる。それで村を滅ぼせ。若い美人な女は殺すなよ。ダンジョンで飼ってDM生産の母体とすると同時、孕み袋にもするからな」
「はっ、かしこまりました!」
千匹以上のオークを投入し、最強戦力のイノコさえも投入する。そして村を滅ぼす。
転生してからというもの、未だかつてない規模の戦いが始まることになった。
(イノコに任せておけばいいだろ。何だかんだでアイツは優秀だからな。まあ俺氏ほどじゃないけど)
そんな戦いが行われる中、俺氏はダンジョンの奥でお菓子を食いながらのんびりと構えて吉報を待つことにした。果報は寝て待てと言うしな。
(ふひひ、どんな娘が捕らえられてくるのかな?)
俺氏はイノコたちの戦果を今か今かと待ち望んでいたのであるが……。
「すみませんご主人様……敗れました」
「な、なんだとぉおお!」
イノコはボロボロの姿になって戻ってきた。渡した戦力も八割以上が討ち死にしたらしかった。全滅と言っても過言ではないくらいだ。
「敵の中に吸血鬼がおりました。それも二体。とてつもない力を持っています」
「きゅ、吸血鬼だと!? そんな化け物がいるなんて聞いてないぞ!?」
「おそらくはダンジョンマスターとその従者かと……」
「俺氏以外のダンジョンマスターだと!? ここは俺氏だけのパラダイスじゃなかったのか!?」
寝耳に水な話であった。
ここは俺氏だけの楽園だと思っていた。ダンジョンマスターという特別な力は俺氏にだけ与えられたものだと思っていたのだが、そうではないらしい。
「ご主人様、敵の攻撃に備えて防備を固めましょう。相手は隠れて本陣に接近して大軍を相手にできるほどの手練です」
「くそっ、そんな化け物に勝てるのかよ!?」
「とにかく備えなければいけません。ダンジョンの入口を最小限に絞りましょう」
イノコに言われるがまま、敵への備えをすることになった。
「村から一番遠い拠点以外は全て封鎖した。これで奴らは近づけまい」
「そうですねこれで一安心かと。それでも油断はなりませんが」
「ああ、くそ、あれだけいた俺氏のオーク兵も五百匹しかいなくなったし、村を滅ぼすこともできなかったし、最悪だ! 全部お前のせいだからなイノコ!」
「はい、申し訳ありません……」
素早く敗戦処理を行った後、俺氏はイノコに当り散らす。そうやって鬱憤をぶつけている最中のことであった。
「敵襲! 敵襲ですご主人様ァ!」
「な、何ィ!?」
俄かに騒がしくなるダンジョン。慌てふためく俺氏たちの前に、次から次へと侵入者が現れる。
「うぉおおお!」
「ご主人様の敵を倒すんだ!」
「やれやれ!」
大量のゴブリンが雪崩のように押し寄せてくる。装備が整えられたゴブリンの軍勢だった。
「ゴブリンなど蹴散らせ! オークの敵じゃないだろ!」
「それが、人間も交じっています!」
「何だとぉ!?」
敵はゴブリンだけではなかった。
「戦争なんて初めてのことだな。ここで戦果を挙げればヨミトの旦那から褒賞が出て、フウとユウの奴に美味いもんでも食わせてやれるか。よし、父ちゃん、いっちょやるか!」
ゴブリンたちに交じって斧を振り回す樵風の出で立ちの壮年の男。それなりに戦い慣れているようであった。男は報酬目当てで戦いに参加しているようであった。
「オーク退治なんて二十年ぶりくらいかしら。現役冒険者だった頃に何度か戦ったことあるくらいよね。懐かしいわぁ」
「ヨーン、お喋りはそれくらいにして、敵を討ちましょう! 早いもの勝ちなのよ!」
「そうよイッツの言う通りよ! オークを倒しまくって位階が高まれば、私たちの体力は増す。そうすれば、もっと若々しい身体が手に入るわ!」
「ふふ、偉大なるヨミト様のため。そして私たちの若さのため。豚共を根絶やしにしましょう!」
婆臭い喋りをする、見た目だけは妙に若々しい女四人組が、鬼気迫る勢いでオークたちを狩っていく。先ほどの斧の男よりも戦い慣れている様子だった。
若さのためって何だよ。どうやら女たちはレベルを上げて若々しくなろうとしているらしい。俺氏たちはお前らの経験値じゃねえぞ。
「オラッ、芋、ビビってんじゃねえぞ! ブレンダにいいとこ見せるんだろ!?」
「はいっす!」
「おい芋! 男のくせにアタシらよりもオークぶっ殺してねえじゃねえかよ! ブレンダにも負けてんぞ! もっと気合入れて戦えや芋!」
「はいっすぅう!」
情けない感じの坊主頭の男と、ギャル三人組も戦っていた。それほど戦い慣れていない様子であるが、ゴブリンたちに交じりながら必死に戦っていた。
「ノビル、数が多いわ。囲まれないように常に気をつけてね」
「おうわかってる!」
「これだけいると適当に魔法撃ってても当たるな。ある意味楽でいいな。さあ豚め、丸焼きにしてやるぜ」
冒険者風の人間たちも戦いに加わっていた。
そいつらはゴブリン部隊の支援をしつつ、オーク部隊に的確なダメージを与えてくる厄介な敵であった。イケメンと美女だし、本当に腹が立つ敵だった。
後方支援を含めれば、その他大勢の人間が戦いに参加しているようだった。
「何なんだこいつらはぁ!?」
「ご主人様、吸血鬼です! 例の吸血鬼が奥で部隊を率いています!」
イノコが敵陣の奥を指差しながら叫ぶ。
そこには黒々とした翼を生やした化け物が二体いた。件の吸血鬼に相違ない。
その男女の吸血鬼は、俺氏たちの姿を見つけると、獰猛に笑う。まるで「見ぃつけた」とでも言わんばかりの顔であった。
そして奴らはバサリと飛び立つと、戦場を一気に飛び越え、俺氏たちの下へとやってきた。
「ひぃい!? イノコ、なんとかしろ!」
「は、はい!」
イノコに敵を押し付け、必死に逃げる俺氏。
我がダンジョンの最強戦力のイノコならなんとかしてくれると思ったのだが……。
「貴方がご主人様に軽いとはいえ手傷を負わせた、いけない子豚ちゃんですか。これはたっぷりとお仕置きが必要ですわね」
「がはぁっ、ぐぅっ、がはっ」
「うふふ、良い悲鳴ですわ。もっと良い声で鳴くといいですわ」
「ぐぶぅっ、はぁはぁ、そ、そんな、昼間の吸血鬼よりも強い……」
「ふふ、ご主人様のスキルのおかげですわ。元は貴方のスキルらしいですわね」
「そんな私のスキルをラーニングして……ぐふっ」
イノコは女吸血鬼に一方的にボコボコにされていた。圧倒的な力の差があるようだった。
正直、こんな化け物相手に勝てるわけないと思った。
「大将が真っ先に逃げるとは感心しないねえ」
「ひっ、ひぃいい!?」
逃げる俺氏の行く手を阻むように、男の吸血鬼が現れる。
「お前たち、何とかしろ!」
「は、はい!」
近衛に命じて吸血鬼と戦わせるのだが……。
「――ぶひ」
「――がひ」
「――ぶび」
五匹もいたハイクラスのオーク兵がなす術もなく屠られていく。首を刎ねられたり、蹴飛ばされたり、両断されたり、全てがほぼ一瞬のことであった。
瞬く間に近衛が討ち取られ、周りには俺氏しかいなくなった。
「ひっ、ひぃいいい! ば、化け物ぉおお!」
「オークの君に化け物とか言われたくないねえ」
「うるせえよ! ほっとけ! 好きでオークに生まれたわけじゃねえ!」
「ふふ、まあそうだよね。好き好んでオークになりたい奴なんていないだろうね」
完全に化け物な形をしているが、男には妙に親近感を抱かせる何かがあった。その独特の雰囲気から、俺氏は察する。
「やはり、お前も転生者でダンジョンマスターなのか!?」
「そうさ。ということは、やはり君もそのようだね。俺の名はヨミト。君はシブヘイ君だね?」
「ああそうだ」
やはり男は転生者だったらしい。
しばし会話を続けると、ヨミトも暴走トラックに撥ねられてこの世界にやって来ることになったのだとわかった。
どうやらこの世界は複数転生者がいる世界だったらしい。俺氏だけが特別な存在だと思ったのに、そりゃないぜ。
「なあ取引をしよう。ダンジョンマスター同士、俺氏と同盟を結ばないか? 俺氏とお前、二人でこの世界を分け合おうじゃないか?」
俺氏は精一杯の営業スマイルを浮かべた。元ニートで転生した今もニートみたいなもんだから営業なんてしたことないが、それでも必死に愛想を繕った。
「生憎だけどその提案は呑めないね。俺の路線と君の路線。だいぶ違うもののようだ。同じ道を歩むことはできないよ。君って、強欲な豚で信頼できそうもないしね。すぐ裏切りそうだ」
「なんだと! 豚って言うな! 格好良い吸血鬼に転生できたからって、調子に乗るなよお前!」
ヨミトは即座に俺の提案を却下しやがった。ふざけた野郎だ。
(恵まれた存在だからって調子に乗りやがってぇ!)
本当ずるすぎる。こんなイケメンで強くて格好良い吸血鬼に生まれたなら、女を襲わずとも抱き放題じゃないか。
こいつの眷属と思われる女は全員可愛い子ばかりだ。全員こいつのお手つきに違いない。
ずるい。そんなのずるすぎる。世の中不公平だ。
「ずるいぞ! 俺にもエリザとかいうあの可愛い女吸血鬼と一発やらせやがれ! あっちのレイラとかいうのでもいいぞ! チンチンがイライラするんじゃ!」
「見苦しい豚だね君」
「――がはぁ」
吹っ切れた俺氏はもうどうにでもなれと思い、心の赴くままに発言するのだが、それはヨミトのパンチによって遮られた。鳩尾に鋭い一発をくらった俺氏は悶絶して倒れこむことになる。
「君はそれほど脅威的な敵ではなかったようだね。ダンジョンでしばらく飼うことにするよ。ダンジョンマスターの肉体に関して、色々人体実験したい所だしね。いや人体じゃなくて豚体実験か? まあ細かいことはどうでもいいか」
俺氏はヨミトのパンチで意識を失い、連れ去られることになったのであった。
転生して一年半ほど経ったある日、東の森の拠点近くで、メカクレ美少女が採集作業していたので襲った。スレンダー系の美少女で最高だった。
「貴様、何をしている! その娘を放せ!」
「ぶひぃっ、こいつ強い!?」
かなり可愛い娘だったので巣に連れ帰ろうとしたのだが、たまたま通りかかった冒険者に阻まれてしまった。
運が悪いことにそいつは中々強い奴だった。イノコや周りの部下と一緒に戦っているうちに、娘は逃がしてしまった。まあ冒険者は殺すことができたんだがな。
「ぶひぃ。危ないところだった」
「ご主人様。最近、村人たちの警戒度が上がっている気がします……。村に冒険者が立ち寄る回数が増えてる気が……」
「そんなことは言われなくともわかってんだよ!」
前は簡単に村娘を捕獲して連れ去ることができたのだが、日に日にそれができなくなっていった。
人間側も馬鹿ではない。村人たちの被害が増えて、それで対策しているのだろうと思われた。
(あぁ、新しい娘とセックスしたいセックスしたいセックスしたい……)
新しい村娘を襲いたいのにできない。欲求不満の日々が続いていく。
村人たちの警戒は強まる一方だったが、俺氏は村娘を襲った時の快感が忘れられず、時折村近くに繰り出しては村娘の誘拐を企て続けた。
それからしばらく。転生してから三年半が過ぎた頃だった。
近隣の村に冒険者共が集まってくるようになってしまった。俺氏たちが狙われていることは明らかだった。
「ブヒィ!? 西拠点で食料調達をさせていた一団が壊滅しただと!? ヤバい、どうしようどうしよう!」
冒険者が村に屯するようになってからというもの、地獄続きだった。
冒険者たちは中々に強いらしく、西の拠点、北の拠点、東の拠点に配置させていた部隊が日に日に壊滅する事態となっていった。物見の報告では、村に滞在する冒険者の数はますます増えているようだった。
「ご主人様、ダンジョン内に残っている戦力も全て出しましょう。ダンジョンの転移陣を利用して移動し、ダンジョン外で敵を迎え撃って各個撃破していきましょう」
「馬鹿、そんなことしたら俺氏の守りが薄くなるだろ! それにダンジョン内に敵を引き込まなきゃDMがもらえねえだろが!」
「しかし戦力の逐次投入は下策かと……。小利に拘り、大利を失ってはいけません。この際、ダンジョン内に敵を引き込むことに拘る必要はないかと……」
「うるせえよ豚娘! お前は子供孕んでいればそれでいいんだよ! 俺氏の偉大なる作戦に口出しするな! とりあえず東と西の拠点は一時閉鎖する!」
「しかしそうすると、地の利が生かせなくなり……」
「うるせえって言ってるんだよ! 必要に応じてまた拠点を作ればいいだろうが!」
「無闇矢鱈に拠点を増やしたり消したりするとコストが無駄に……」
「黙れって言ってんだ!」
イノコが偉そうに頭の良さそうな言葉を喋ってきたのでムカついた。
徹底的に殴って躾けてやった。まったく、オークのくせに偉そうにしやがって。
「ご主人様! 村に未だかつてない規模の冒険者たちが集結しているようです!」
「なんだと!?」
しばらくして、事態はもっと悪化することになった。俺たちのダンジョンから最も近い村に冒険者たちが集結しているとの情報が入った。
「これは一刻の猶予もないな……どうする、どうする、くそ!」
「ご主人様、もはや村を潰すしかないと思われます」
「そんなことしたら人間たちにもっと警戒されるだろうが! 化け物みたいな敵がいたらどうする!」
「ですがもうそれしか方法がないかと。村を潰して証拠を隠滅し、その後はしばらくダンジョンに篭って大人しくしてほとぼりが冷めるのを待つしかないかと」
「村を潰して引き篭もるのか?」
「はい。村を潰せば人間たちの警戒は極限まで高まるでしょうが、ほとぼりが冷めるまで逃げればよいかと。この広いヒムの森の全てを捜索し尽すことなど不可能と思われます。定期的にダンジョンの入口を移動させていけば、敵の目を欺けます」
「ううむ……そうだな」
イノコの言葉は一理あると思い、俺氏はイノコの言う通りにさせることにした。
「よしイノコ、俺氏の親衛隊以外の全部隊の指揮を任せる。それで村を滅ぼせ。若い美人な女は殺すなよ。ダンジョンで飼ってDM生産の母体とすると同時、孕み袋にもするからな」
「はっ、かしこまりました!」
千匹以上のオークを投入し、最強戦力のイノコさえも投入する。そして村を滅ぼす。
転生してからというもの、未だかつてない規模の戦いが始まることになった。
(イノコに任せておけばいいだろ。何だかんだでアイツは優秀だからな。まあ俺氏ほどじゃないけど)
そんな戦いが行われる中、俺氏はダンジョンの奥でお菓子を食いながらのんびりと構えて吉報を待つことにした。果報は寝て待てと言うしな。
(ふひひ、どんな娘が捕らえられてくるのかな?)
俺氏はイノコたちの戦果を今か今かと待ち望んでいたのであるが……。
「すみませんご主人様……敗れました」
「な、なんだとぉおお!」
イノコはボロボロの姿になって戻ってきた。渡した戦力も八割以上が討ち死にしたらしかった。全滅と言っても過言ではないくらいだ。
「敵の中に吸血鬼がおりました。それも二体。とてつもない力を持っています」
「きゅ、吸血鬼だと!? そんな化け物がいるなんて聞いてないぞ!?」
「おそらくはダンジョンマスターとその従者かと……」
「俺氏以外のダンジョンマスターだと!? ここは俺氏だけのパラダイスじゃなかったのか!?」
寝耳に水な話であった。
ここは俺氏だけの楽園だと思っていた。ダンジョンマスターという特別な力は俺氏にだけ与えられたものだと思っていたのだが、そうではないらしい。
「ご主人様、敵の攻撃に備えて防備を固めましょう。相手は隠れて本陣に接近して大軍を相手にできるほどの手練です」
「くそっ、そんな化け物に勝てるのかよ!?」
「とにかく備えなければいけません。ダンジョンの入口を最小限に絞りましょう」
イノコに言われるがまま、敵への備えをすることになった。
「村から一番遠い拠点以外は全て封鎖した。これで奴らは近づけまい」
「そうですねこれで一安心かと。それでも油断はなりませんが」
「ああ、くそ、あれだけいた俺氏のオーク兵も五百匹しかいなくなったし、村を滅ぼすこともできなかったし、最悪だ! 全部お前のせいだからなイノコ!」
「はい、申し訳ありません……」
素早く敗戦処理を行った後、俺氏はイノコに当り散らす。そうやって鬱憤をぶつけている最中のことであった。
「敵襲! 敵襲ですご主人様ァ!」
「な、何ィ!?」
俄かに騒がしくなるダンジョン。慌てふためく俺氏たちの前に、次から次へと侵入者が現れる。
「うぉおおお!」
「ご主人様の敵を倒すんだ!」
「やれやれ!」
大量のゴブリンが雪崩のように押し寄せてくる。装備が整えられたゴブリンの軍勢だった。
「ゴブリンなど蹴散らせ! オークの敵じゃないだろ!」
「それが、人間も交じっています!」
「何だとぉ!?」
敵はゴブリンだけではなかった。
「戦争なんて初めてのことだな。ここで戦果を挙げればヨミトの旦那から褒賞が出て、フウとユウの奴に美味いもんでも食わせてやれるか。よし、父ちゃん、いっちょやるか!」
ゴブリンたちに交じって斧を振り回す樵風の出で立ちの壮年の男。それなりに戦い慣れているようであった。男は報酬目当てで戦いに参加しているようであった。
「オーク退治なんて二十年ぶりくらいかしら。現役冒険者だった頃に何度か戦ったことあるくらいよね。懐かしいわぁ」
「ヨーン、お喋りはそれくらいにして、敵を討ちましょう! 早いもの勝ちなのよ!」
「そうよイッツの言う通りよ! オークを倒しまくって位階が高まれば、私たちの体力は増す。そうすれば、もっと若々しい身体が手に入るわ!」
「ふふ、偉大なるヨミト様のため。そして私たちの若さのため。豚共を根絶やしにしましょう!」
婆臭い喋りをする、見た目だけは妙に若々しい女四人組が、鬼気迫る勢いでオークたちを狩っていく。先ほどの斧の男よりも戦い慣れている様子だった。
若さのためって何だよ。どうやら女たちはレベルを上げて若々しくなろうとしているらしい。俺氏たちはお前らの経験値じゃねえぞ。
「オラッ、芋、ビビってんじゃねえぞ! ブレンダにいいとこ見せるんだろ!?」
「はいっす!」
「おい芋! 男のくせにアタシらよりもオークぶっ殺してねえじゃねえかよ! ブレンダにも負けてんぞ! もっと気合入れて戦えや芋!」
「はいっすぅう!」
情けない感じの坊主頭の男と、ギャル三人組も戦っていた。それほど戦い慣れていない様子であるが、ゴブリンたちに交じりながら必死に戦っていた。
「ノビル、数が多いわ。囲まれないように常に気をつけてね」
「おうわかってる!」
「これだけいると適当に魔法撃ってても当たるな。ある意味楽でいいな。さあ豚め、丸焼きにしてやるぜ」
冒険者風の人間たちも戦いに加わっていた。
そいつらはゴブリン部隊の支援をしつつ、オーク部隊に的確なダメージを与えてくる厄介な敵であった。イケメンと美女だし、本当に腹が立つ敵だった。
後方支援を含めれば、その他大勢の人間が戦いに参加しているようだった。
「何なんだこいつらはぁ!?」
「ご主人様、吸血鬼です! 例の吸血鬼が奥で部隊を率いています!」
イノコが敵陣の奥を指差しながら叫ぶ。
そこには黒々とした翼を生やした化け物が二体いた。件の吸血鬼に相違ない。
その男女の吸血鬼は、俺氏たちの姿を見つけると、獰猛に笑う。まるで「見ぃつけた」とでも言わんばかりの顔であった。
そして奴らはバサリと飛び立つと、戦場を一気に飛び越え、俺氏たちの下へとやってきた。
「ひぃい!? イノコ、なんとかしろ!」
「は、はい!」
イノコに敵を押し付け、必死に逃げる俺氏。
我がダンジョンの最強戦力のイノコならなんとかしてくれると思ったのだが……。
「貴方がご主人様に軽いとはいえ手傷を負わせた、いけない子豚ちゃんですか。これはたっぷりとお仕置きが必要ですわね」
「がはぁっ、ぐぅっ、がはっ」
「うふふ、良い悲鳴ですわ。もっと良い声で鳴くといいですわ」
「ぐぶぅっ、はぁはぁ、そ、そんな、昼間の吸血鬼よりも強い……」
「ふふ、ご主人様のスキルのおかげですわ。元は貴方のスキルらしいですわね」
「そんな私のスキルをラーニングして……ぐふっ」
イノコは女吸血鬼に一方的にボコボコにされていた。圧倒的な力の差があるようだった。
正直、こんな化け物相手に勝てるわけないと思った。
「大将が真っ先に逃げるとは感心しないねえ」
「ひっ、ひぃいい!?」
逃げる俺氏の行く手を阻むように、男の吸血鬼が現れる。
「お前たち、何とかしろ!」
「は、はい!」
近衛に命じて吸血鬼と戦わせるのだが……。
「――ぶひ」
「――がひ」
「――ぶび」
五匹もいたハイクラスのオーク兵がなす術もなく屠られていく。首を刎ねられたり、蹴飛ばされたり、両断されたり、全てがほぼ一瞬のことであった。
瞬く間に近衛が討ち取られ、周りには俺氏しかいなくなった。
「ひっ、ひぃいいい! ば、化け物ぉおお!」
「オークの君に化け物とか言われたくないねえ」
「うるせえよ! ほっとけ! 好きでオークに生まれたわけじゃねえ!」
「ふふ、まあそうだよね。好き好んでオークになりたい奴なんていないだろうね」
完全に化け物な形をしているが、男には妙に親近感を抱かせる何かがあった。その独特の雰囲気から、俺氏は察する。
「やはり、お前も転生者でダンジョンマスターなのか!?」
「そうさ。ということは、やはり君もそのようだね。俺の名はヨミト。君はシブヘイ君だね?」
「ああそうだ」
やはり男は転生者だったらしい。
しばし会話を続けると、ヨミトも暴走トラックに撥ねられてこの世界にやって来ることになったのだとわかった。
どうやらこの世界は複数転生者がいる世界だったらしい。俺氏だけが特別な存在だと思ったのに、そりゃないぜ。
「なあ取引をしよう。ダンジョンマスター同士、俺氏と同盟を結ばないか? 俺氏とお前、二人でこの世界を分け合おうじゃないか?」
俺氏は精一杯の営業スマイルを浮かべた。元ニートで転生した今もニートみたいなもんだから営業なんてしたことないが、それでも必死に愛想を繕った。
「生憎だけどその提案は呑めないね。俺の路線と君の路線。だいぶ違うもののようだ。同じ道を歩むことはできないよ。君って、強欲な豚で信頼できそうもないしね。すぐ裏切りそうだ」
「なんだと! 豚って言うな! 格好良い吸血鬼に転生できたからって、調子に乗るなよお前!」
ヨミトは即座に俺の提案を却下しやがった。ふざけた野郎だ。
(恵まれた存在だからって調子に乗りやがってぇ!)
本当ずるすぎる。こんなイケメンで強くて格好良い吸血鬼に生まれたなら、女を襲わずとも抱き放題じゃないか。
こいつの眷属と思われる女は全員可愛い子ばかりだ。全員こいつのお手つきに違いない。
ずるい。そんなのずるすぎる。世の中不公平だ。
「ずるいぞ! 俺にもエリザとかいうあの可愛い女吸血鬼と一発やらせやがれ! あっちのレイラとかいうのでもいいぞ! チンチンがイライラするんじゃ!」
「見苦しい豚だね君」
「――がはぁ」
吹っ切れた俺氏はもうどうにでもなれと思い、心の赴くままに発言するのだが、それはヨミトのパンチによって遮られた。鳩尾に鋭い一発をくらった俺氏は悶絶して倒れこむことになる。
「君はそれほど脅威的な敵ではなかったようだね。ダンジョンでしばらく飼うことにするよ。ダンジョンマスターの肉体に関して、色々人体実験したい所だしね。いや人体じゃなくて豚体実験か? まあ細かいことはどうでもいいか」
俺氏はヨミトのパンチで意識を失い、連れ去られることになったのであった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
美醜逆転世界の学園に戻ったおっさんは気付かない
仙道
ファンタジー
柴田宏(しばたひろし)は学生時代から不細工といじめられ、ニートになった。
トラックにはねられ転移した先は美醜が逆転した現実世界。
しかも体は学生に戻っていたため、仕方なく学校に行くことに。
先輩、同級生、後輩でハーレムを作ってしまう。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺
マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。
その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。
彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。
そして....彼の身体は大丈夫なのか!?
荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました
夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。
スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。
ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。
驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。
※カクヨムで先行配信をしています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる