吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

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四章

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「皆様方、我らが村のために本当にありがとうございました。ささやかですが本日は宴の席をご用意しました。どうぞお楽しみくださいませ」

 村長の家の庭に集まった面々に、村長は頭を下げながら感謝の意を伝える。

 宴には村の関係者の他、ウチのチーム六名、ガンドリィチーム五名、軍の関係者二十名が参加している。全員を収容しきれなかったみたいで、家の中ではなく庭で宴会をやることになったようだ。

 少し肌寒い季節であるが、月を見ながらの宴というのも乙なものである。

「それでは乾杯!」
「「乾杯!」」

 村長の音頭に合わせ、出席者が一斉に盃を呷る。

「あぁ最高」

 くぅ、美味いね。五臓六腑に染み渡るとはこのことだ。

 ぶっちゃけ酒の味自体はそれほど上等ではないのだけれど、この二週間色々と働きづめだったから、そのご褒美だと思うと格別に美味しいな。

 食事や酒の味というものは、その場の雰囲気など心の持ちようで変わるものだと、つくづく実感できるよ。

「ここんところ毎日焼肉だけど最高だね。王都に帰ったら元の生活に中々戻れそうもないよ」
「オーク肉はまだまだありますぞ。腐らせるのは勿体ない。どんどん食べてくだされヨミト殿」

 俺のぼやきに、村長はガハハと笑いながら答える。

 村を覆っていた暗雲が過ぎ去り、村長はすっかりご機嫌な様子だ。各関係者に酒を注いで回りながら調子の良いことを言っている。

 オークに村が襲撃された直後辺りの村長は、この世の終わりみたいな顔をしていたから、元気を取り戻せてよかったね。

「よーし、エリザ、たっぷり食べるか」
「ええ勿論ですわ」

 俺たちはオーク肉を網に載せて焼いて食べていく。

 オーク肉の在庫が山ほどあるので、ジョーア村滞在中、毎日お肉づくしである。今日の宴会も、焼肉パーティーといった様相を呈している。

 テーブルには肉、肉、肉。大量の肉ばかり。申し訳程度に村でとれた野菜があるだけだ。

「ほれ君も食べなさい」
「ニャー」

 本来貴重品である肉であるが、今だけは捨てるほどある。猫に食べさせても誰も文句を言わないので、俺は傍に待機させている茶色の斑猫にオーク肉を分け与えた。

 実はこの猫、本物の猫ではない。猫に変化させたイノコである。

 イノコは【変化】を持っていないが、エリザの持つ【共有】を使って【変化】をイノコに貸し与えているので、それでイノコは猫に擬態できているというわけである。

 オークのユニーク個体であるイノコは【吸食】というスキルを持っているので、魔物肉などを食べれば食べるほどスキルをラーニングできる。

 全ての魔物がスキルを覚えているわけじゃないし、既に持っているスキルなら食べても意味ないので、ラーニングできることは稀だが、食べなければ始まらない。

 大量の魔物肉を食べるこういう機会があるのなら、イノコの成長のためにも積極的に利用したい。そう思ったので、わざわざイノコもダンジョンから呼び寄せたのだ。

 ちなみにオーク肉を食べているので共食いをしていることになるのだが、イノコとしては美味しいので全然気にならないらしい。魔物だけに、そこらへんの認識は薄いようだ。元人間の俺が死体から血を啜っても平気なのと同じ感覚だろう。

「確かヨミト殿でしたか。ガンドリィ殿も一目置くとは、将来有望な冒険者のようですなぁ。今後ともよしなに」
「ええこちらこそアルファスさん」

 宴を通じて軍のおっさんと仲良くなっておく。

 魔王であるダンジョンマスターと誼を通じるなんて、バレたら即処刑もんだというのに呑気なものである。知らぬが仏だな。

 ちなみに先日このおっさんの血を吸ったのだが、その血からは、【指揮】というスキルをラーニングできた。軍関係のお偉いさんだけに、集団戦に関するスキルを持っていたようだ。

 【指揮】は指揮下にいる味方の能力を一時的に底上げしてくれるパッシブスキルだ。普段の冒険者の活動でも役立ちそうだし、軍隊対軍隊の戦いでも使えそうなスキルである。今後もしまたダンジョンマスター相手の戦いがあった時、大いに役立ってくれそうなスキルだな。

 この二週間の間に、他の兵隊たちからもスキルをラーニングできた。【弓術】、【盾術】、【騎乗】というスキルを手に入れた。

 【弓術】と【盾術】はそれぞれ弓と盾の扱いに関する習熟を早めるもので、【騎乗】は馬などに乗る際に恩恵があるものだ。今の所、弓も盾も使ってないし、馬などに乗る機会はないものの、あって困るスキルではないな。

 軍人は強そうなスキルを持っていそうだし前々から血を吸いたかったのだが、今まで中々その機会がなかった。王都にいる軍人は魔道具による厳重な警備のある場所にいる場合が多いので、吸血するのが難しかったのだ。今は出兵して拠点から出ているおかげで、楽に血を吸えたよ。

――ステータス・オープン。

名前:レイラ(lv.50) 種族:人間
HP:203/203 MP:139/139
【天才】【農耕】【料理】【裁縫】【剣術】【売春】【性技】【癒光】

名前:メリッサ(lv.46) 種族:人間
HP:128/128 MP:213/213
【火球】【売春】【性技】【杖術】

名前:ノビル(lv.40) 種族:人間
HP:227/227 MP:88/88
【狂化】【斧術】

 ジョーア村での戦いを経て、ダンジョンのみんなは大きくレベルアップした。レイラとメリッサのレベルは五十台に到達しようという勢いであり、ノビルもそれに迫る勢いで成長している。

 他のダンジョンの面々も、現役冒険者として活動しているレイラたち程ではないが、それなりに成長を果たした。ダンジョンに何かあった時はそれなりに抵抗できるくらいまで成長したかな。頼もしい限りである。

 無論、俺もエリザのレベルも大きく上がっている。

 シブヘイのダンジョンにいたオーク、ジョーア村の村人たち、村にやって来た冒険者たち、軍隊――その他諸々。この二週間ちょっとの間にそれらの血を吸いまくったおかげで、俺とエリザのレベルは九十の大台を超えた。もうすぐ次のクラスに進化できそうである。

 みんなのレベルが上がって万々歳。そのおかげか、いつになく料理が美味しいし酒も美味い。最高だね。

「その若さで大したもんだ。どうだ冒険者なんて辞めて軍に転職しねえか?」
「せっかくだが俺はヨミトに大きな借りがあるんでな。アイツの元を離れるつもりはねえよ」
「そうか残念だ」

 宴の最中、ノビルは軍のおっさんたちに勧誘されていた。

 村に滞在中、ノビルは暇な時間に軍の関係者と手合わせしたりしていたらしい。それで実力が認められたようだ。

 ついこの間まで無能と呼ばれていたノビルが引き抜きを受けるほどに成長するとはね。感慨深いものがあるな。

「冒険者なんてやめて俺の妾にならねえか? 苦労はさせねえぜ」
「あはは、遠慮しておきます」
「そっちの魔法使いの姉ちゃんはどうだ?」
「一昨日来やがれってんだ」
「ハハハ、気の強い姉ちゃんだ! ますます気に入ったよ!」

 美人のレイラとメリッサは、軍のおっさんたちにナンパされていた。

 酷いことはされていないようなので、スルーしておこう。これも飲み会の風物詩の一つと思えば乙なもんだ。

「なあ俺の愛妾にならねえか?」
「僕は男ですよ! 他を当たってください!」
「関係ねえぜ。愛に性別なんて関係ねえのさ」
「ええ!? そんな!?」

 何故かパープルも絡まれていた。

 こちらもいつぞやの冒険者の時のようにケツを揉まれたりされていないようだからスルーしておこう。カルチャーショックを受けて慌てふためくパープルの姿は面白いもんだ。

「はむっ、はむっ、美味しいですわ! ホント、毎日焼肉でもいいですわね!」
「エリザ、よく噛んで食うんだぞ」
「ええ勿論承知してますわ」

 ちなみにエリザの所にナンパしに来る男はいなかった。

 俺が近くにいるということもあるが、物凄い勢いでオーク肉を食べて幸せそうな顔をしているエリザに話しかけるのは憚られたようだな。

 幸せそうに飯を食っているお嬢様の邪魔をする無粋な男はこの場にいないようだ。いたらエリザに蹴られるだろう。

「ヨミトちゃん、乾杯しましょ。お疲れ様ねぇん」
「ああ乾杯」

 挨拶に来たガンドリィと盃を酌み交わす。同じ脅威に立ち向かった仲間たちと共に、楽しい時間を過ごす。

 秋のアルゼリア山脈にかかる月を眺めながらの至極の一杯は、格別な味だった。



♦現在のヨミトのステータス♦
名前:ヨミト(lv.96) 種族:吸血鬼(ハイ)
HP:1325/1325 MP:1186/1186
【変化】【魅了】【吸血】【鬼語】【粗食】【獣の嗅覚】【獣の視覚】【獣の聴覚】【獣の味覚】
【剣術】【我慢】【起床】【睡眠】【威圧】【料理】【伐採】【裁縫】【農耕】【投擲】
【風刃】【天才】【火球】【洗脳】【狂化】【商人】【販売】【交渉】【売春】【性技】
【避妊】【癒光】【洗浄】【解体】【斧術】【槍術】【穴掘】【格闘】【毒牙】【硬化】
【舞踏】【鎚術】【怪力】【豚語】【咆哮】【免疫】【激励】【大食】【飢餓】【消化】
【暴食】【指揮】【弓術】【盾術】【騎乗】
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