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四章
宿泊者名簿No.14 羊飼いの少年アキ1/7
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アルゼリア山脈の麓にある小さな村で、僕は生まれた。家は代々羊飼いの家業を営んでいるらしく、生まれた時から家には大勢の羊たちがいた。
「ごほごほっ」
「アキ、大丈夫?」
「大丈夫だよ。母さん」
僕は生まれ持ったバッドスキルの影響で身体が弱かった。周囲の人たちからは五つの歳を迎えられないと言われてきた。
幸い、田舎の綺麗な空気の下で育ち、半自給自足の生活で栄養的には困らなかったおかげか、なんとか五つの歳を越えることはできた。
まあでもその後も人生が大きく変わることはなかった。最初の障壁は超えることが出来たものの、相変わらず身体は弱く、死が近いことには変わりがなかった。次は十の歳が越えられないだろうと言われた。
田舎という狭い社会。ただでさえ少ない同年代の子供たちの中で、病弱の僕は酷く浮いていた。それでみんなにはあまり仲良くしてもらえなかった。
「アキは近寄んなよ。病気が伝染るとヤダし」
「そーだそーだ」
「……わかったよ。もう近寄らない」
僕の持っている病気はスキルの影響によるものなので、他人に伝染るような類のものではないのだが、皆が僕を煙たがった。その当時、王国内では流行り病が流行っていたので、人々が過度に警戒心を抱いたのは仕方がなかったことなのかもしれない。
「人間の友達なんていらないや。僕には君たちがいるもんね。ごほごほ」
「メー」
人間の友達はいなかったけど、僕には大勢の友達がいた。家で飼ってる羊たちや小鳥たち。近くの森に行けば、大人しい魔物たちが寄ってきてくれた。
動物や魔物を手懐けるなんて普通の人には無理なんだけど、僕にはそれができた。そんなことができたのは僕が特殊なスキルを持っていたからだった。
僕には【魔笛】というスキルがあり、それで笛を使って魔物を操ったりすることができた。僕は生まれつきバッドスキルがある代わりに、そのような恵まれたスキルも同時に持っていたのだった。
僕の笛の音を聞いた魔物たちは大人しく言うことを聞いてくれた。その対象は、あくまで大人しく人間に友好的な魔物だけなんだけどね。
対象に制限はあるものの、笛一本さえあれば、僕は魔物たちと友達になることができた。村社会では友達が誰一人できなかったけれど、森に出かければ沢山の友達がいて寂しくはなかった。
「アキ、お前は伝説の羊飼いになれるかもしれんぞ! その笛の音は素晴らしい!」
「本当!? 父さん!」
動物や魔物を飼い慣らすことができる僕の力を見た父さんは、僕のことを凄い褒めてくれた。歴代の羊飼いの誰よりも凄いことができているって褒めてくれたんだ。
「羊飼いよりも魔物使いの冒険者にでもなった方が稼げるかもな。あるいは魔物使いとして興行するとかな。そうすりゃ、凄い贅沢な暮らしだって夢じゃないぞ!」
「本当!?」
「ああできるとも!」
父さんはことあるごとに褒めてくれた。アキの笛の腕前は凄い。天才的だって。
「凄い! 僕ってそんなことができる――ごほごほ」
「アキ、大丈夫かい?」
「うん。大丈夫……いつものだから」
幼い僕にもわかっていた。父さんの言うことなんてこれっぽっちも真実じゃないって。気休め程度の嘘なんだって。
いくら凄いスキルを持っていたとしても、宝の持ち腐れなんだ。たとえ伝説の魔物使いにもなれるスキルを持っていたとしても、同時にバッドスキルを持って虚弱な体質である限り、冒険者や興行師はおろか普通の暮らしすらも危ういんだ。
そんなことは父さんにもわかっていただろう。わかっていた上で、父さんは僕に夢を見せてくれていたんだ。少しでも前向きに人生を生きられるようにと願って、優しい嘘をつき続けてくれていたんだ。
優しくて良い父親だった。母さんも優しくて良い人だった。
人間の友達こそいなかったものの、僕は恵まれた家族、森の友人たち、豊かな自然に囲まれ、穏やかな生活を送っていた。
悪くない生活だった。穏やかで満ち足りた平和な日常。
ただそんな生活もある時、全てが一変した。突然大発生したオークが僕の生まれ育った村を襲撃したんだ。
「ごほごほっ」
「アキ、大丈夫?」
「大丈夫だよ。母さん」
僕は生まれ持ったバッドスキルの影響で身体が弱かった。周囲の人たちからは五つの歳を迎えられないと言われてきた。
幸い、田舎の綺麗な空気の下で育ち、半自給自足の生活で栄養的には困らなかったおかげか、なんとか五つの歳を越えることはできた。
まあでもその後も人生が大きく変わることはなかった。最初の障壁は超えることが出来たものの、相変わらず身体は弱く、死が近いことには変わりがなかった。次は十の歳が越えられないだろうと言われた。
田舎という狭い社会。ただでさえ少ない同年代の子供たちの中で、病弱の僕は酷く浮いていた。それでみんなにはあまり仲良くしてもらえなかった。
「アキは近寄んなよ。病気が伝染るとヤダし」
「そーだそーだ」
「……わかったよ。もう近寄らない」
僕の持っている病気はスキルの影響によるものなので、他人に伝染るような類のものではないのだが、皆が僕を煙たがった。その当時、王国内では流行り病が流行っていたので、人々が過度に警戒心を抱いたのは仕方がなかったことなのかもしれない。
「人間の友達なんていらないや。僕には君たちがいるもんね。ごほごほ」
「メー」
人間の友達はいなかったけど、僕には大勢の友達がいた。家で飼ってる羊たちや小鳥たち。近くの森に行けば、大人しい魔物たちが寄ってきてくれた。
動物や魔物を手懐けるなんて普通の人には無理なんだけど、僕にはそれができた。そんなことができたのは僕が特殊なスキルを持っていたからだった。
僕には【魔笛】というスキルがあり、それで笛を使って魔物を操ったりすることができた。僕は生まれつきバッドスキルがある代わりに、そのような恵まれたスキルも同時に持っていたのだった。
僕の笛の音を聞いた魔物たちは大人しく言うことを聞いてくれた。その対象は、あくまで大人しく人間に友好的な魔物だけなんだけどね。
対象に制限はあるものの、笛一本さえあれば、僕は魔物たちと友達になることができた。村社会では友達が誰一人できなかったけれど、森に出かければ沢山の友達がいて寂しくはなかった。
「アキ、お前は伝説の羊飼いになれるかもしれんぞ! その笛の音は素晴らしい!」
「本当!? 父さん!」
動物や魔物を飼い慣らすことができる僕の力を見た父さんは、僕のことを凄い褒めてくれた。歴代の羊飼いの誰よりも凄いことができているって褒めてくれたんだ。
「羊飼いよりも魔物使いの冒険者にでもなった方が稼げるかもな。あるいは魔物使いとして興行するとかな。そうすりゃ、凄い贅沢な暮らしだって夢じゃないぞ!」
「本当!?」
「ああできるとも!」
父さんはことあるごとに褒めてくれた。アキの笛の腕前は凄い。天才的だって。
「凄い! 僕ってそんなことができる――ごほごほ」
「アキ、大丈夫かい?」
「うん。大丈夫……いつものだから」
幼い僕にもわかっていた。父さんの言うことなんてこれっぽっちも真実じゃないって。気休め程度の嘘なんだって。
いくら凄いスキルを持っていたとしても、宝の持ち腐れなんだ。たとえ伝説の魔物使いにもなれるスキルを持っていたとしても、同時にバッドスキルを持って虚弱な体質である限り、冒険者や興行師はおろか普通の暮らしすらも危ういんだ。
そんなことは父さんにもわかっていただろう。わかっていた上で、父さんは僕に夢を見せてくれていたんだ。少しでも前向きに人生を生きられるようにと願って、優しい嘘をつき続けてくれていたんだ。
優しくて良い父親だった。母さんも優しくて良い人だった。
人間の友達こそいなかったものの、僕は恵まれた家族、森の友人たち、豊かな自然に囲まれ、穏やかな生活を送っていた。
悪くない生活だった。穏やかで満ち足りた平和な日常。
ただそんな生活もある時、全てが一変した。突然大発生したオークが僕の生まれ育った村を襲撃したんだ。
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