吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

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五章

盗賊団の根城調査任務2/8(温泉)

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「いらっしゃいませ。六名様、チーム“不死鳥”の皆様でございますね」

 宿に入ると、どこか影のある美人女将が応対してくれた。この宿の経営者であるらしい。

 温泉宿と聞くと前世のような和風の温泉宿を想像してしまうが、それとは全然違った。ロビーとかは完全に和の欠片もないつくりであった。

 似てるのは脱衣場と浴場くらいだった。田舎の宿なのに魔道具の蛇口があって温水が出たのには感動したぜ。流石高級温泉宿だ。

「ふぅ。いい湯だ」
「ああ。旅の疲れが癒されていくな」

 夕食前に一風呂ということで、大浴場に来た。パープルは「後でいい」とか言うので、俺とノビルの二人だけだ。

 ノビルと一緒に湯に浸かる。誰もいないので貸切状態でラッキーだった。

 この五日間、風呂に入ることができなかった。ダンジョンで毎日風呂に入ってるので入らない日が続くと気持ち悪くて仕方ない。

 スキル【洗浄】があるので別に風呂に入らなくても衛生上は問題ないとはいえ、身体に染み付いた生活習慣から逸脱すると気持ち悪くて仕方ないぜ。

 五日ぶりの風呂、しかも温泉に浸かれて、生き返る気分だ。

「ヨミトのおかげで俺もすっかり贅沢が身に着いちまった。もう絶対に馬小屋暮らしはできねえ」
「ハハ、そっか」

 ノビルも最近では毎日風呂に入らないと気持ち悪いと思うくらいまで、入浴習慣が身に着いてしまったようだ。ダンジョンの風呂に毎日入っているからね。まあ当然だろう。

「初心を忘れないようにダンジョンのノビルの家、馬小屋風に改造してあげよっか?」
「いらねえよそんな配慮! というかダンジョンマナってやつの無駄になるだろうが! 絶対やめろ!」
「あははそうだね」

 山々に沈む夕日を見ながら男同士語り合う。

 女湯の方ではレイラたちも仲良くやってることだろう。夕飯前で腹ペコのエリザが迷惑をかけてないといいが、まあ大丈夫か。

「よう邪魔するぜ」

 俺とノビルの貸切状態だったが、しばらくするとガタイのいい男の集団が入ってきた。ざっと数えて十人ほどだ。

「ヨミトじゃないか!?」
「おおロア。お久しぶり」

 その内の一人は見知った人物だった。ギルド試験で一緒の班になった双剣使いのロアだった。

「おうアンタが噂の性豪か。この間の昇級試験ではウチのロアが世話になったってな」
「ええまあ」

 ロアとは一期一会かと思ったがこんな所で縁が繋がるとはな。まあ王都で活動している冒険者だから自然と縁が繋がるのは道理か。

「ロアのやつ、鋼等級試験でバジリスクを倒したって聞いたからブリザードドラゴン狩りに少しは使えるかと思ったら全然だったぜ。バジリスクを討てたのはアンタの作戦がよかったんだろう」
「そうですかね?」
「そうに違いないぜ。ロアの奴、ブリザードドラゴンの咆哮にビビって小便漏らしちまうくらいだったからな。戦力にならないどころか足手まといだったぜ」

 仲間たちに茶化されて、ロアは罰が悪そうに頭をかく。

 どうやら彼らはチーム名の由来通り竜殺しにアルゼリア山脈に出張っていたようだ。ブリザードドラゴン狩りを行ってきたらしいが、鋼等級に上がったばかりのロアには荷が重かったようだな。

「おっと挨拶がまだだったな。改めまして、俺は銅等級のガイアだ。よろしくな」
「ええこちらこそ」

 ガイアを始めとした竜殺しの面々と挨拶を交わしていく。

 ガイアは竜殺しのリーダーというわけではないが、リーダーに近しい中核メンバーのようだ。赤い短髪の顔に傷の入ったワイルドな男である。歳の頃は三十前後だろうか。

 銅等級か。ガンドリィよりも上の冒険者には初めて会ったな。

 スキル【変化】がまったく看破されてない所を見るに、上級冒険者といえど正体バレの可能性はなさそうで安心だな。

「ガイアさんは火食いの二つ名で知られるんだ。この間なんて、ブリザードドラゴンの放った凍てつく炎を全部吸い込んだんだ。ガイアさんの方がブリザードドラゴンよりもよっぽど化け物だったよ!」
「へえそれはそれは。凄いですね」

 ロアはガイアの戦いぶりをまるで自分のことのようにひけらかしていく。心底尊敬している先輩なのだろう。その話しぶりから読み取れる。

 火食いか。話を聞く所によると、炎系の技を吸収できるスキルをガイアは所持しているらしいな。

 ガイアの血を頂ければそのスキルをゲットできて強くなれそうだ。

 まあガイアが他のスキルを覚えていれば、それがラーニングできてしまう可能性もあるが。

「おい化け物って、ロアお前、褒めてるのか貶してんのかどっちだよ!」
「勿論褒めてますよ! ドラゴンを狩る者はドラゴンよりもよっぽど化け物ってことです!」
「化け物って言い方はやめろっての! 俺は人間だ! モンスターじゃねえぞ!」

 ガイアたち竜殺しの面々は和気藹々と語りあう。さっきまで静かだった風呂場が一気に騒がしくなったな。

 モンスター云々と言っているが、凶悪なモンスターと今まさに一緒に入浴しているなんて、彼らは夢にも思わないだろうな。吸血鬼と仲良く混浴中ですよ。

「見た所、ヨミトたちは今からアルゼリア山脈入りか?」
「ええそうですよ。ガイアさんたちはこれから帰りのようですね?」
「そうだ。冬の間、ずっとブリザードドラゴン狩りしてた。この宿で一週間ほど静養して、それから王都に帰る所だ」
「この宿に一週間も滞在ですか。羨ましいですねえ」
「まあな。その分、寒い中ずっと稼いでたからな」

 高級温泉宿に一週間宿泊とは豪勢だな。ドラゴン狩りはそれほど儲かるらしいな。

「この村で一週間ほど滞在して静養しつつ、お遊びで軽めの依頼を達成しようとしていたんだが、全然軽い依頼じゃなかったな」
「軽くなかった依頼ですか? ドラゴン狩りを余裕でこなしている皆さんですら困難な依頼がこの村に?」
「ああ、盗賊団の根城調査とかいうやつさ。この村のギルドに依頼が出てて、ついでだから小遣い稼ぎにこなそうと思ったが、ついででやるもんじゃなかったぜ。とんだ無駄骨だった」

 ガイアたちが静養のついでにこなそうとしていたお手軽バイト。それはまさに俺たちが王都で受注した依頼と同じだった。

「俺たちもその仕事をしに来たんですよ。王都で受注しました」
「なんだ王都にまで依頼が出回ってたのか。道理で難しいと思ったぜ。調べてみると行方不明者も出てるみたいだしよ。難易度詐欺だろあの依頼。鋼等級の仕事じゃねえよ」

 ガイアは湯船のお湯で顔を洗いながら愚痴めいたことを言う。

「なあヨミトって言ったか。俺たちが今までに集めた情報でも買わねえか。ロアの誼もあるし、たった二ゴルゴンでいいぜ?」

 湯船に浸かりながら依頼の話をしていると、ガイアはそんなことを言い出した。

「情報ですか。どんな種類のもんなんです?」
「村人たちから聞き回って集めた情報やこの一週間近く山や森の中を駆けずり回って集めた情報だよ。盗賊団の概要から被害にまつわる話、噂話、根城の痕跡、その他諸々だ」
「せっかく集めた情報を安売りするなんてどういうことです?」
「そんな情報、このまま王都に持ち帰っても何の意味もないからな。どうせなら無駄骨折った分、今日の飯代にでも換えつつ、これから仕事をするアンタらに役立ててもらおうって腹さ」
「なるほど。信頼できる情報なんでしょうね?」
「火食いの名と竜殺しの名にかけて嘘は言わねえと誓うぜ。つっても、確かめる術がねえから村人の噂話とかは聞いたまんまで、そもそもガセの可能性もあるがな。そこらへんは予め了承してくれや。あくまで、集めた情報に関して嘘は言わないって話だ」

 どうやら悪意はないらしい。自分の利益と俺の利益を考えてビジネスを行おうということらしい。

「わかった。風呂から上がったら二ゴルゴン払おう。不死鳥のリーダーの名において誓おう」
「商談成立だな」

 二ゴルゴンで情報が買えるなら安いものなので、了承しておく。話が通ると、ガイアは笑みを浮かべながら俺の肩をバシバシと叩いてきた。
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