吸血鬼のお宿～異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話～

五章

盗賊団の根城調査任務４/８(食事)

　風呂から上がってガイアに約束の情報料を渡した後、部屋に戻る。

「お待たせしました。今晩のお料理でございます」

　時間になると、例の影のある女将さんと従業員の方々が料理を運んでくれた。

　この宿は日本の温泉宿みたく、部屋に料理を運んでくれるスタイルのようだ。と言っても、部屋は全然和風じゃないけどね。

「どうぞごゆっくり」
「どうもです」

　娘さんが盗賊にかどわかされたらしいというのに気丈に働いているなんて健気なもんである。

　まあ宿の女将の事情はさておき、料理を堪能することにしよう。

「美味しそうだな」
「美味しそうですけど、些か量が少ないですわ」
「いや結構な量ありますよね……胃もたれしそうなくらいありますけど……」

　量が少ないと文句を垂れるエリザを見て、パープルが呆れるようにツッコミを入れていた。

　トロ芋などを使った田舎料理が豪勢に並び、食卓は華やかだ。どれもこれも美味しそうだが、俺とエリザにとっては量が少ないかもしれない。こりゃ夜に血液を貰いに行くこと決定だな。

「みんな、食いながら聞いてくれ。風呂場で仕入れた情報なんだが」

　食事をしながら例の情報を共有していく。それとライトたちの悲報もお知らせしていく。

「そうですか……ライトさんたちが……」
「そんな……ハヤ……セイン……無事でいて」

　パープルが沈んだ声で搾り出すように言い、レイラがそれに続いて気遣わしげに言った。食卓の華やかさとは対照的に、二人の表情は翳っていた。

　聞くに、行方不明となった韋駄天というチームには、レイラのバイト仲間であるハヤという人物が所属していたらしい。鋼等級試験で見かけたあの鉢巻の子だな。

　レイラは鋼等級試験でハヤと一緒の班だった。また同じく行方不明となったセインとも一緒だった。

　つまり、レイラは鋼等級試験で苦楽を共にした二人の仲間（内、一人はバイト仲間でかなり親しい）の悲報を同時に聞いたという形になるのか。なんともお気の毒だね。

「レイラ、食べないのなら貰いますわ」
「この揚げ物、マジで美味いな。追加で金払うからもっと持ってきてくれねえかな」
「持ってきてくれると思いますわ。すぐに頼みましょう」
「そうだな」

　エリザとメリッサは一度会っただけの奴がどうなろうとあんまり興味ないのか、食事に夢中である。天ぷらみたいな食い物を争うように貪るように食べている。

　メリッサは鋼等級試験でライトと一緒の班だったはずだが、あんまり気にしていないようだ。そこまで親しくならなかったのだろう。ヤンキーっぽいメリッサとクソ真面目なライトじゃ色々合わなさそうだもんな。

　まあメリッサも夜に魔道書を読んでるくらい根は真面目なんだけどさ。それでも意外と真面目な奴と、クソ真面目な奴じゃ性格合わないだろうなぁ。

「まあそういうわけだから、明日から気合入れて調査に乗り出すとしよう。一日でも早くライト君たちを助けてあげないとね」
「そうですね。僕たちが出来るのはそれくらいですから」
「そうね。それしかないわね」

　俺の言葉を聞き、パープルとレイラは自分に言い聞かせるように言った。

「それじゃ陰気臭い話は一旦区切りとして、改めて乾杯しようか。せっかく良い宿に泊まっているんだしね。楽しまなくては損だよ」
「ええそうですね」

　俺たちは気を取り直して乾杯すると、食事を再開した。

　宿の飯は美味かった。特に川魚の塩焼きと山菜の天ぷらが最高だった。この宿の食事は当たりだな。

　女将さんがシェフを兼ねているらしいが、良い腕しているね。眷属にしたいくらいだ。誘拐されたという娘さんを助けたら眷属になってくれるかな？