吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

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五章

盗賊団の根城調査任務7/8(会議)

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 一週間経った。この一週間、ハザマ村の温泉宿に滞在しつつ、毎日ヒムの森に入って盗賊団の拠点探しを続けていた。

 計三箇所の仮拠点を見つけて破壊できたものの、本拠地を見つけるには至らなかった。初日の結果がよくて幸先はよかったけど、その後は全然だね。

「うーん、どうしたものかね」

 夕飯を食った後、チームの皆と作戦会議をする。

 いつもなら宿の隣にある娼館にエリザと遊びに行く(血を吸いに行く)時間なのだが、今日はパープルに見つかり、「仕事の進捗状況が悪いのに何を遊びに行こうとしてるんですか!」とお叱りを受けて強制的に部屋へと連れ戻されて今に至る。

「やはり盗賊たちは転移装置を使って移動しているんだろう。これだけ森の中を捜索しても手がかりが少ないとはね」
「そうですね。そうとしか思えません」

 俺の言葉に、パープルが頷く。

 蝙蝠たちを使ってこっそり捜索もしているが、なかなか難しい。蝙蝠たちだけだとここらへんを縄張りにしている魔物と戦闘になったりして、捜索が遅々として進まない。

 野生の蝙蝠が邪魔してきたり、飛行小型魔物にとっては天敵であるビッグスパイダーなる蜘蛛型魔物が蜘蛛の巣状の罠を張っていて、送り出した蝙蝠がやられてしまう。

 今回一緒に連れてきた蝙蝠戦力は、連絡要員を残してほぼ全滅してしまった。申し訳ないね。

 昇級試験の時にエリザが支配して奴隷にした男たちはゾォーク盗賊団の関係者だと言うので転移陣でこっそり王都に帰って問い詰めたりしたものの、彼らは王都での活動しか知らないらしく、本拠地の情報なんて持っていなかった。

 というわけで現在、仕事は行き詰っている。

「やはり厄介な依頼でしたね。どうします、今の内に撤退しますか? 損切りは早い方がいいですよ。ヨミトさんの我侭のせいでこんな高級宿にずっと泊まってるので、経費が馬鹿みたいに膨れ上がってますし。もう盗賊団の根城調査依頼は放棄して、ブリザードドラゴン狩りだけに注力しましょうよ。これ以上かかずらっていると、ブリザードドラゴンが北に帰ってしまいますよ?」
「たった一週間で撤退なんてどうかしてるわよ。それに、ハヤたちが捕らえられてるのに放ってなんておけない! もっと頑張りましょ? 村人たちだって困ってるんだしさ。最悪、ブリザードドラゴンの魔石は竜殺しの人たちにでも譲ってもらえばいいんだし」
「でもよぉ、チビの言うことも一理あるぜ。一週間探って大した結果なしなんて異常だろ。そのハヤとかいうのだってとっくに売り払われてるかもしれねえし。ハヤたちを探すなら盗賊団の本拠地じゃなくて奴隷市場でも探った方が効率いいだろ?」
「メリッサの言うことはそれはそうかもだけど、でも盗賊団を見つけなきゃハヤたちの足取りが掴めないでしょ! ノビル、アンタはどっちの意見なの!?」
「俺は勿論、レイラの意見に賛成だ。依頼放棄なんて御免だ」

 パープル、レイラ、メリッサ、ノビルがわちゃわちゃと言い合っている。撤退するかしないか決めかねているようだ。

「えーつまり、レイラさんとノビルさんが依頼続行派で、僕とメリッサさんは依頼断念派ということですね」

 パープルがみんなの意見をまとめて言う。

「エリザさん、貴方はどちらの意見なんですか?」
「私はヨミトさんの思うが侭に動きますわ」
「エリザさん、貴方に自分の意見というものはないんですか!?」
「ありませんわ」
「うぐっ、そんな良い笑顔で即答されると何も言えない……」

 エリザに意見を聞いたパープルは、聞いた自分が馬鹿だったと溜息を吐く。

「はぁ、つまり、続行二票、断念二票。ヨミトさんの意見に従うが一票。ヨミトさんの意見で決まりそうですね。ヨミトさんはどうされたいんですか?」

 自ら議論のまとめ役を買って出て勝手に気疲れしているパープルが、溜息を零しながら聞いてくる。

「まあもう少し粘ってみようよ。依頼失敗するのは悔しいしね。経費は俺が持つからさ」
「わかりました。ヨミトさんがそう言うならそうしましょう。僕も依頼失敗は出来るだけしたくありませんし。でもブリザードドラゴン狩りはそろそろやらなくては不味いですよ。アルゼリア山脈のブリザードドラゴンは冬が終わると北の方に帰ってしまいますから。そろそろ時期的に厳しいですよ」
「明日からはアルゼリア山脈寄りの方を探って、あわよくばブリザードドラゴンの狩りも並行して行うことにしよう。そうすればパープル君の懸念するブリザードドラゴンの魔石納品の件も心配ないでしょ?」
「そうですね。そういうことなら」
「それじゃ今日のところはそういうことで解散ね。今日はもう夜も遅いし、明日に備えよう」

 パープルも含めみんな納得してくれたようなので、しばらく任務を続けることにした。

「寝る前にひとっ風呂浴びてくるか」
「メリッサ、私たちも行く?」
「ああそうだな」

 話が済み、ノビルと女性陣は寝る前のひとっ風呂を浴びに部屋を出て行く。ついでに俺も部屋を出る。

「ヨミトさん。どこへ行くつもりですか?」
「散歩だよ散歩」
「えー、怪しい……」
「本当本当」

 パープルにジト目で見送られながら、そそくさと部屋を出る。

「ご主人様、今宵もお供しますわ」
「ああそれじゃ一緒に行こう」

 エリザは風呂じゃなかったようだな。部屋の外で蝙蝠形態のエリザと合流し、宿を出る。今日も吸血に行こう。

「ん、今日は女将がロビーにいないな。珍しい」
「そうですわね。掃除でもしているんでしょうか?」

 ここ一週間、俺(とエリザ)は毎晩娼館に遊びに行っていたのだが、その度に宿の女将に無言で見送られていた。

 この時間帯は雇いのスタッフもいないので、女将はいつもロビー付近で仕事をしているはずだ。そのはずなのだが、今日は違うな。

 まあどうでもいいかそんなことは。

「今日は良い月が出ているな。夜の散歩をしてから血を吸いに行こうか」
「ええそうしましょう」

 俺たちは人目がないことを確認すると、猫の姿に変身する。そうして猫の姿のまま、宿の周囲をぶらりと散歩してから娼館に行くことにした。

 人の姿では入れない狭い道を通っていく猫の姿での散歩は、結構楽しい。短い距離でも長いこと歩いた気になれるしお得だ。

 風呂場沿いの塀の上を歩いていく。まずは男湯が見えてくる。

「お、ノビルだ」

 夜遅い時間だからか、男湯にはノビルしかいなかった。

「あと三十秒……」

 ノビルは露天風呂の脇に設置されている打ち湯に打たれながら滝行みたいなことをしていた。結構な湯量だから、確かにちょっとした修行になりそうだ。

「温泉に入っている時までトレーニングとは、暑苦しい坊やですわね」
「ほっとけ。猫が喋るんじゃねえ」

 猫姿のエリザに冷やかされ、ノビルはしっしと手を振る。

 俺たちは猫じゃないぞ、吸血鬼だぞ。

「お、レイラとメリッサだ」

 続いて塀伝いに歩いていると、今度は女湯の方に出る。

「一週間毎日温泉なんて豪勢ね」
「鋼等級になれば世界が変わるってよく聞くが本当だな。稼ぎが全然違うぜ」

 女湯の露天風呂にレイラとメリッサが仲良く喋りながらやって来るのを、ちょうど目撃することになった。男湯と同じく、夜なので入浴客は二人以外にいないね。

 風呂場なので、二人共、あられもない格好を見せている。色んな部分が丸出しだ。

 だが性欲を超越した吸血鬼となった俺にはピクリとも来ない。健康的な肢体で美味しそうな血を持ってそうだな、としか思わない。前世の俺だったら鼻血ブーものだったかもしれないけどね。

 エリザと一緒に美人の裸体観賞していると、向こうも俺たちに気づいたようで、二人は呆れた目でこちらを見る。

「お二人とも、何をしてるんですか?」
「散歩だよ。夜の散歩。その後、いつものように娼婦の血を頂こうかとね」
「やっぱりですか。ここはダンジョンじゃないので、好き勝手やって正体がバレないように最大限気をつけてくださいよ?」
「言われるまでもなくわかってるさ。お気遣いありがとうレイラ。それじゃごゆっくり」

 俺たちの身バレを心配する心優しいレイラのお小言を頂戴しながら、女湯を後にする。

 そのまま女風呂の塀伝いに歩いていき、途中で地面に飛び降りて、藪を通っていく。草むらの中で襲い掛かってきた蛇を猫パンチで吹き飛ばし、さらに進む。

「あれ、こんな所にも温泉あったんだな」
「そのようですわね」

 エリザと一緒に猫になって遊びながら宿の周りを探検していると、こじんまりとしたつくりの露天風呂らしき場所を発見した。木藪と木製の塀で囲まれており、外部からは見えない格好となっている。秘密の隠し湯って感じの所だ。

「従業員用かな? それとも宿の女将のプライベート温泉か?」
「調べに行きましょうか」
「そうだな」

 興味を引かれたので、覗きに行くことにした。湯を浴びる音が響いているので誰か入っているのは間違いない。もしかしたらロビーにいなかった宿の女将かもしれない。

 俺たちはその建物にそっと近づいていった。
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