吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

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五章

宿泊者名簿No.16 盗賊頭ゾォーク3/6(ハザマ村)

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 毒蜘蛛から貸し与えてもらった魔道具“ポーター”は、素晴らしいものだった。

 これがあれば丸一日かかるような森の中の道のりを瞬時に移動することができた。幾つかのポーターを経由すれば、何週間もかかるような長距離だって移動可能だった。

 ポーターを利用することで、人間が近寄らないような森の奥地に本拠地を構えることができた。普通は補給の面から考えて森の奥地に本拠地なんて作れないんだが、ポーターがあればそれも可能だった。

 普段は安全な森の奥地に引っ込んで羽根を休める。そして仕事をする時はポーターを使い、仮拠点を経由して森沿いにある村々を急襲する。

 ポーターを手に入れてからというもの、仕事の効率がぐんと上がった。

 ポーターの利用料としてそれなりの金を上納することになったものの、それを上回るほどの成果を挙げられた。

 仮拠点が冒険者共に破壊されてポーターを失い幾らか弁済することにもなったが、それを考えてもポーターの利用料は格安と言っていいくらいだった。

 ポーターはそれに対応する魔力が篭められた石がなけりゃただのヘンテコな装飾品にしか見えねえから、いざという時に切り捨てても問題はねえみてえだ。毒蜘蛛の奴らは前線拠点に置いてあるポーターの損失はある程度計算に入れているらしかった。

 こんな便利な魔道具を俺たちに貸し与えるほど大量に用意でき、しかも使い捨てる程だなんて、毒蜘蛛の奴らは只者じゃねえな。

 好奇心に駆られた俺は、何度かカバキに尋ねてみたことがあったが、奴は余計なことは何も言わず、「大量に用意できる伝手があるんですよ」と笑いながら言うだけだった。

 その笑みの底知れぬ不気味さといったら恐ろしいったらありゃしねえな。毒蜘蛛はとんでもねえ恐ろしい奴らだとしみじみと感じた。奴らには絶対に逆らわないようにしようと、俺は決め込むことにした。

「ゾォークさん、近辺の村ではハザマ村が一番の獲物みたいですね」
「ああ。あそこは辺鄙な村だが温泉が出るからな。それで滞在する人間が少なくねえ。それなりに潤っているようだ」

 村々で盗みを働いていると、だいたいどこの村が潤っているかわかるようになる。俺たち盗賊団の仕事場では、ハザマ村というところが一番潤っているらしかった。

 ハザマ村は他の過疎村に比べると村全体が裕福であり、温泉水のおかげなのか、村娘には美人が多かった。

「よし、当面はハザマ村に標的を絞り、徹底的に搾り取るとするぞ。あの村を俺たちの傘下に置く。いいな野郎共!」
「へい!」

 こうして俺たちは、ハザマ村を重点的に狙って活動することにしたのであった。

「お頭、この洞穴なんてどうですかい?」
「ああいいな。村からも近いし、周りからはわかりにくいし丁度いい――しっ、誰かいるみてえだな」

 あれはハザマ村に狙いを定め、仮拠点にするに都合がいい洞穴を見つけたときのことだった。

「スプリングぅう、だいしゅきぃいい♡」
「ロビンっ、俺もだいしゅきいい♡」

 村近くの洞穴の中で、一組の男女が交わっていた。俺ら年季の入った賊からしてみれば、まだ年端もいかねえクソガキたちだった。

「けけっ、ガキのくせに盛ってますね」
「お頭、どうしやす?」

 女の方はかなりの美人だった。こんな場所で盛ってるからにはハザマ村のガキ共とみて間違いなかった。

「男の方は殺す。ありゃ身体がごつすぎて男娼には向いてねえ。女の方は美人だし拠点に連れて帰るか。慰み者にするついでに色々と情報を吐かせよう。用済みになったら売ればいい」
「わかりやした。俺たちがいきやしょうか?」
「いや俺が行こう。久しぶりに人が斬りてえからな。お前らは女が逃げねえように出入り口塞いでろ」
「へい」

 俺は愛剣の双子剣を手にすると、堂々と洞穴の中に入っていった。

「おーおー、ガキがお盛んなことで。父ちゃん母ちゃんが仕事に精出してるっていうのに、ガキのオメエらは森の中で違う精出してるってか? クソガキが、いいご身分だな」
「だっ、誰だお前!?」

 俺が下品な笑い声を上げながら近づくと、二人は驚いて交尾をやめ、警戒心剥き出しでこちらを向いた。

「俺か? その名を聞けばゴブリン共も震えて逃げ出す、盗賊団“睨鬼”の頭、ゾォークとは俺様のことよ!」
「盗賊だって!? まさかハザマ村を狙っているのか!?」
「おお、その通りだぜ。中々察しがいいじゃねえか。ガキのくせによぉ」

 男は近くにあった剣を握り締めると、こちらへと向けてきた。

「スプリング、こんな奴、やっつけちゃって!」
「ああ任せろ。村一番の力自慢の俺にかかれば、こんな盗賊、一捻りだぜ!」
「ほう。村一番の力自慢ねえ。なら少しは手応えがあるかな――とっ!」
「ロビン、こいつをぶっ殺して手に入れた賞金で高い首飾りでも買ってやるよ! 見ていてくれ!」
「頑張って! スプリング!」

 男は女の前で格好をつけようとしているのか、イキりながら剣を振るってきた。

 俺は久方ぶりの死合を楽しむべく、あえてしばらく切り結ぶことにした。

「そらっ、どうした小僧。口だけか?」
「くっ、こいつ! やりやがる!」

 力自慢するだけあって太刀筋は悪くねえが、まあ所詮は井の中の蛙だな。田舎村の腕自慢って感じだ。ワタリーの方がまだマシだ。鋼等級まで上り詰めてその後は数多の盗賊団を渡り歩いて腕を磨いてきた、この俺様の敵じゃねえ。

「まあまあ楽しめたぜ坊主。だがこれで終いだ!」

 遊びにも飽きたので、俺はちょいと本気を出した。奴の剣を弾き飛ばすと、鋭い一太刀浴びせてやった。

「――がっ、なっ、ば、馬鹿な……今まで手を抜いて……」

 男は地面へと倒れ伏した。すぐに回復魔法でもかけられれば別だろうが、まあこんな状況下では致命傷だな。

「え、嘘……嘘でしょ?」
「ロビン……に……にげ……ろ……こいつ……強い……」
「スプリング! スプリングぅうう! いやああああ!」

 男は最後に女に「逃げろ」と伝えると事切れた

 ザコだが最後に愛した女のことを気にかけるとは中々見上げた根性のクソガキだな。そういうクソガキ、嫌いじゃねえぜ。

「さて。頼みのスプリングちゃんとやらは死んじまったみたいだぜ。どうするよお嬢ちゃん?」
「いやっ、近寄らないでよっ、やめて!」

 その後はお楽しみだ。俺は勝者の特権として女を嬲り楽しんだ。その後は部下の野郎共も呼び寄せて楽しませてやった。

 女の名はロビンというらしかった。美人だしいい身体していた。田舎村のクソガキには勿体ないくらいだった。

「おい、男の死体はその辺のスライムの餌にしておけ。このお嬢ちゃんは拠点に連れ帰るぜ」
「へい」

 その洞穴に仮拠点を設置することにしたので、気を失っているロビンを本拠地に連れ帰るのは簡単だった。ポーターを経由して帰還すればいいだけのことだからな。復路が一瞬っていうのは最高だ。

 まったく、ポーター様々だぜ。いや、毒蜘蛛様々かな。まあどっちでもいいかそんなこと。

「ねえ、ゾォーク様。何でも言うこと聞きます。何でもします。だからアタシを盗賊団の一味に加えてください。貴方様専用の愛人にしてください。村の女たちと共に尽くしますので」
「そうか。俺様の愛人志望か」

 ハザマ村の支配が進むと、ロビンは完全に屈するようになった。同じように捕らえた村の女たちと同じように、俺様たちに尽くす道を選んだ。

「いいだろう。奴隷として売るのはやめてやる。今日からお前たちを俺様の愛人にしてやる。ただし、裏切ったらタダじゃおかないぞ?」
「はい。決して裏切りません。ゾォーク様に全てを尽くします」

 後で知ったことだが、ロビンはとんだ拾い物だった。なんと奴の家はハザマ村で温泉宿を営んでいるらしく、村でも有数のボンボンだった。

 ただ、最近ではその宿の経営が芳しくないとの話だった。経営者であったロビンの祖父が死んでからというもの、その娘であるロビンの母親が宿を継いだらしいが、お人よし過ぎて温泉宿を切り盛りする器量はないのだとか。

 おまけに数年前に王国が帝国との小競り合いに破れた影響で、王国領内に不景気の気配が漂っており、田舎の温泉宿に遊びに来る客も減っているのだとか。さらに追い討ちをかけるように盗賊団が方々で暴れているので、国内の金持ち共は観光どころではないらしい。たまに裕福な行商人や冒険者が仕事ついでに宿を訪れるくらいとのことだった。

「ロビン、良い考えがある。聞け」
「何ですかゾォーク様ぁ?」

 経営破綻間近の温泉宿を救う妙案が浮かんだので、ロビンに閨物語として聞かせることにした。

 ハザマ村近辺の盗賊被害が拡大すれば、間違いなく近隣ギルドや王都から冒険者共が村に押し寄せくるだろう。ロビンの温泉宿も栄えるに違いない。

 宿の女将であるロビンの母親には情報収集させ、冒険者の情報を流させれば、常にこちらが優位に立てる。偽情報も流せば冒険者に無駄骨を折らすことができ、俺たちは安心して仕事をすることができる。

 温泉宿にも俺たちにも得がある、双者両得の計である。

「凄い! ゾォーク様って天才なんですね!」
「そうだろ? 名案だろ」
「早速ママと村長の娘らとも相談して、村長とも段取りつけますね」
「おう仔細は任せたぜ」

 ロビンは二つ返事で協力を申し出てくれた。後日、村長やロビンの母親である温泉宿の女将ユマたちと話をつけ、温泉宿を盗賊団の傘下に置くことができた。

 女将ユマは人がいいのか客である冒険者たちを裏切ることを渋っていたようだが、娘が乗り気であるし、娘が人質にとられていれば何も言えなかった。おまけに、女将よりも先に俺たちの脅しに屈していた村長に説得されたこともあって、要求を呑むしかなかった。

 こうして俺たちはハザマ村を極秘裏に支配することができたってわけだ。

 ユマの宿はいい金づるになった。宿と縁を繋いでくれたロビンは拾い物だった。

 王都でしくじり行方知れずとなったカミラなんかよりも、よっぽど役に立つ最高の女だぜ。
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