吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

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五章

宿泊者名簿No.17 勇者ライト5/10(地獄)

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「ここは……?」

 気がつけば、俺とセインは薄暗い牢獄のようなところで拘束されていた。首枷のようなものを装着され、前につんのめるような格好で固定されていた。まるで断頭台の前の死刑囚のようだった。

 夢だと思いたかったがそうではない。脳が覚醒していくと同時に辺りの様子が鮮明になっていく。手足や皮膚の感覚がより現実的に感じられるようになっていく。夢幻なんかでは決してなかった。

「よお。お目覚めかよ、勇者様」

 呼びかけられて顔を上げると、ズークが目の前でニヤニヤと笑いながら立っていた。

 周りには薄汚い盗賊のような男たちが沢山いた。ズークの裏切りを悟らざるを得ない状況だった。

「ズーク!? 君、俺たちを裏切ったのか?」
「裏切るというより、最初から仲間のつもりなんてなかったぜ」
「そ、そんな……。俺たちと一緒に世界を変えようって言ったじゃないか! 俺たちみたいな孤児を出さないように、そんな世界を目指して頑張ろうって言ってたじゃないか!」
「ああアレね。全部嘘だっつーの。つーか、俺たち、孤児じゃねえし。父ちゃん母ちゃん揃った、それなりに恵まれた家庭で育ったし」
「え?」
「ま、両親なんてもう死んでっけどな。孤児じゃなくて孤大人だから間違いではないだろ。ギャハハハ!」

 ズークたちが言っていたことは全部嘘だったのだ。俺とセインを騙すため、都合のいいことを言っていただけだったのだ。信じたくなかったが、それが現実だった。

「宗教馬鹿は素直で騙しやすいぜ! ギャハハ!」

 ズークたちはゲラゲラと下品な笑い声を上げていた。裏切られたのが信じられなくて、俺もセインも呆然として彼らを見上げていた。

「ズーク、お前が一番手柄だ。そのセインとかいう女の一番槍、くれてやるぜ」
「そいつはありがてえ!」

 集団の中で一番偉そうな男がズークに向かってそう言っていた。

 一番槍――戦場などで一番に敵陣の中に突入する者のことだ。

 この状況において何のことを指しているのか、その時の俺には正確にはわからなかったが、セインに関わりがあることと聞いて悪い予感しかしなかった。

「へっへっへ」

 下品な顔をしながらセインに近づいていくズークを見て、悪い予感は確信へと変わっていった。

「やめっ、やめてください! いやぁあ!」

 ズークたちはセインの着ていた修道院のローブを脱がしていった。セインの美しい柔肌が露になっていく。

 その後は言うまでもない。汚れなき天使が悪魔に蹂躙される。神などいないと悟らざるを得ない、地獄の行いが繰り広げられることになった。

「やめろぉおおおッ! お前らぁあああッ!」

 俺はもう黙っていられなくて、必死に暴れた。あわよくば装着されている枷が外れないかと神に祈って暴れた。

 けれど何の意味もなかった。拘束具はしっかり手入れされているようで錆一つなかった。俺がどれだけ暴れてもギチギチと装着具が擦れる音がするのみで、壊れる気配は微塵も感じられなかった。俺の必死の祈りなど、何一つ通じなかった。

「助けてぇえええ! ライトォオオオッ!」

 セインの助けを求める声が空しく響く。

 その声に急かされるように俺はよりいっそう激しく暴れるのだが、相変わらず拘束具が壊れる気配は微塵もなかった。

 幼い頃から一緒に育ってきて、同じ夢を共有し、同じ道を歩いてきたセイン。いつか彼女と伴侶になりたい――そんなことを思ったことは幾度もあった。色欲に駆られて手を伸ばしそうになったことなど数知れない。

 けれどそんな欲望は必死に押し殺してきた。まずは二人の夢を叶えるのが先だ。そう思って、ずっと思いを封印してきた。いつかその日まで大切に彼女を支え守ってあげようと思った――それなのに。

 彼女の花は下衆な男たちに無惨にも手折られてしまった。奪い去られてしまった。

「おほっ、セインちゃん、たまんね」
「ライトォ! 助けてライトォ!」

 欲望を貪るズークの荒々しい声。それとセインの助けを呼ぶ声だけが空しく響き続ける。

「セイィィィン! くそぉおおお! 壊れろよこの鎖! なんで壊れないんだよぉ!」

 俺は必死に暴れて拘束具を破壊しようとするのだが、無力だった。どんなに暴れても拘束具が壊れることはなかった。

「セインっ! セインっ! お前らぁあ、絶対に許さない! 殺してやるぅう!」

 昔から大切に思ってきた幼馴染が汚された。俺は怒りと悔しさに震え、血が出るくらいに唇を噛み締めながら必死に暴れた。

 地獄はそれだけで終わらなかった。

「たまらねえなぁ。イケメンが苦痛に顔を歪める様は至上の娯楽だぜ。はぁはぁ、アイツにそっくりだ。イライラするぜぇ、ピーがイライラする」
「え? な、何を……やめっ、やめろぉおおおお!?」

 鈍い痛みと共に、人生で味わったこともない屈辱を味わうことになった。セインだけでなく、俺まで盗賊共の慰み者になってしまった。

「はぁはぁ、ワタリーめ。このこのっ、はぁはぁ、ちくしょう、ワタリーめ、はぁはぁ、このこの!」

 ゾォークは誰かの名前をブツブツと呟きながら歪んだ欲望をぶつけてきた。

(俺たちが何をしたと言うんだ……俺もセインも……ただ……ただ誰かを……世界を救いたくて……それだけなのに)

 肉体と精神がゴリゴリと削れていく。耐え難いほど痛い、苦しい、気持ち悪い――そんな地獄の時間が過ぎていくことになった。
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