吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

文字の大きさ
233 / 291
六章

港町イティーバ14/19(作戦会議)

しおりを挟む
 カイリを眷属化させて彼の家をダンジョン化させた。そのことはすぐに他の眷属たちにも周知させることにした。

 滞在している宿に帰った後、宿屋の自分の部屋に仮の転移陣(後で削除する)を設置し、パープル以外のメンバーをダンジョンに移動させる。それから他の眷属も集めて緊急の集会を開くことにした。

「――今回の敵はダンジョンマスターだ。明日乗り込む島には敵の拠点がある可能性が高い。特に不死鳥として活動している面々は、いつも以上に気を引き締めてかかってくれ」

 敵がダンジョンマスターであるという最重要情報を共有し、全員に警戒を促しておく。

「まずは敵戦力の正確な把握が必要だ。敵の拠点があるだろう島で、俺やエリザたちが威力偵察して敵戦力を把握する。現在予想している通り、マーマンが敵戦力の主体なら大したことはないだろう。その通りなら、こちらの動きに気づかれる前に一気にダンジョンを侵略して殲滅する。ダンジョン待機組は戦闘準備を整えておいてくれ。仔細はイノコ、頼むぞ」
「かしこまりました。ご主人様」

 いつでもダンジョン戦力を投入できるよう、イノコに部隊の編成諸々をお願いしておく。

 元々はシブヘイのサポートキャラであったオーク特異個体のイノコ。

 彼女は俺とエリザに次ぐダンジョン最強戦力である。俺とエリザが出払っている間は、彼女にダンジョン防衛の全てを統括してもらっている。

「マミヤは非常に自尊心が高い男のようで、侮辱したカイリに激怒している。眷属のマーマンナイトがやられた報復も含め、カイリが狙われる可能性が高い。カイリの家に設置したダンジョン入口に敵が攻めてくるかもしれない。そこは重点的に備えてくれ」
「承知しました」

 イティーバ以外の拠点が攻められることはないだろうが、新しく設置したカイリの家は攻められる可能性がある。いざという時はダンジョン内部に敵を引き込んで戦うことも想定しておく。

「カーネラたちもイノコのサポートを頼むぞ」
「ええ、明日から店の営業を縮小して有事に備えます」

 元熟練冒険者である老獪な(といったら怒られるが)カーネラたちミッドロウの宵蝶メンバーにイノコのサポートをお願いし、万全の体制で臨む。

「次に、敵戦力を知る上で、魚人族と魚魔族の生態について皆にも周知しておきたい。エイ、皆の前で詳しく話してくれるか?」
「わかりましたご主人様」

 彼を知り己を知れば百戦危うからず。魚人族のエイにマーマンの生態について語らせる。

 マーマンは陸上での活動が制限される代わり、水中では自由に動き回れる。水系統の攻撃に強く、雷に弱く、火にもやや弱い。魚人族もマーマンも魚介類が大好物――。

 そんな特徴を、講師となったエイが色々と教えていく。

「えと次に紹介が遅れたけど、新しく眷属になったカイリだ。みんな仲良くしてあげてね」
「よ、よろしくお願いしますだよ」

 新しく眷属となったカイリの紹介をしつつ、マミヤのダンジョン攻略に関してイノコなどと作戦を考える――全てが終わる頃には日付が変わりそうになっていた。

「それじゃ私、お風呂行ってきます。ダンジョンに来れたのならお風呂入らないと」
「アタシもひとっ風呂浴びてくらぁ」
「あ、私も」
「それじゃ私も」
「私もたまには大きなお風呂に行きますわ」

 レイラ、メリッサ、セイン、ハヤ、エリザ――不死鳥メンバーの女性陣が風呂へと消えていく。

 ノビルは「用事が済んだなら明日に備えて寝る」と言って宿の方へと戻っていった。ノビルは既に戦闘モードに入ってるみたいだね。風呂には入らず、有事に備えているようだ。感心感心。

「それでは失礼しますヨミト様」
「ああカーネラもお疲れさん」

 他の面々も続々と持ち場に帰っていく。そして会議室に残ったのは、俺とカイリだけとなった。

「あー、緊張しただぁ。おら、あんな大勢の前で挨拶したことなんて、今までにないべぇ」

 慣れない場所にいてずっと緊張していたのだろう。誰もいなくなり、カイリはほっとしたように溜息を漏らした。

「まさか昼間出会った冒険者の方がダンジョンマスターだったなんて驚いたべ」
「俺も盛り場で威勢よく暴れてたのが昼間見た人の良さそうな青年だったと知った時は驚いたよ」

 そう言うと、カイリは罰が悪そうな顔をする。

「それは言わんでくんろ。しこたま酒さ飲んで、そんで記憶も覚束ない状態で歩いていたら、客引きに捕まったのか、いつの間にかあそこにいたんだべ。気づいたらあのいけ好かない男が目の前にいて、クソみたいな歌を歌ってたんで、それでつい日頃の鬱憤が出ちまったんだべ」

 カイリは恥ずかしそうに言い訳を述べる。

 カイリがあの店にいたのは女を買おうとしたわけではなかったようだ。

「そうだったんだね。てっきり昼間レイラの半裸姿を見て、それでムラムラして女でも買いに行ってたのかと思ったよ。それで好みの子がいないから腹いせに暴れてるのかと。純朴そうな顔してとんでもない奴だなぁとか思っちゃったよ」
「そんなぁ、おらまだ女なんか知らねえだ! いやはや、この歳になって恥ずかしい話だけんども……」
「そうかいそうかい、やっぱり童貞君かぁ。見た目と違わず純粋で愛いなぁカイリは(美味しそうだな。後で血をもらおう)」
「やめてくんろぉ、恥ずかしいだよぉ。それにやっぱりってなんだべ。おら、そんなに童貞丸出しだべか?」
「うん」
「そんなぁ、即答なんて酷いべぇ!」

 カイリは頭を抱えて仰け反る。一々反応が大袈裟で面白い。

「それはそうとヨミトさん。ボロボロだったおらの家と作業小屋まで直してくれてありがとうだ。まさか一晩も経たないうちにあのボロ家が生まれ変わるだなんて、信じらんねぇだよ。あのボロ屋に地下室まで出来て、こんなダンジョンさに繋がるなんて考えらんねえ。離れてる家と作業小屋を一瞬で移動できるなんてのも考えらんねえべな。ダンジョンマスターって凄すぎるべ」

 カイリの家と作業小屋は既にダンジョン化させた。急に目新しい新築物件が現れると訝しがる近所の住人がいるかもしれないので、見た目はボロ屋のままだが、中身はしっかりと整えてある。

 例え火事になろうが津波が来ようが地震が起きようが、ダンジョン化させたカイリの家が壊れることはないだろう。ダンジョンマスターである俺が死なない限りはな。

「ヨミトさん、本当にありがとうだぁ」

 カイリは改めてお礼を言ってくる。家を建て替えたり、リフォームするってなったら、普通は少なくないお金がかかるからね。それが浮いてかなり助かっているらしい。

「なに、先行投資というやつだよ。その分、今後一生懸命働いてもらうけどね。朝から酒なんて飲んでる暇なくなるよきっと」
「ああ忙しいのは大歓迎だべ。暇だとおらの父ちゃんみたく心の病気さなっちまうからな」

 カイリは忙しいの大歓迎と言う。経営者の前で迂闊にそんなことを言うとめっちゃ働かせたくなるが、俺はホワイトな経営者を目指しているので、程ほどにしてあげよう。

「もうこれ以上何も奪われたくねぇ。義母ちゃんと義妹のためなら、おらは何だってやってやるべ。悪魔に魂さ売るのだって構わねえだ。ヨミトさん、マミヤのこともそうだけんども、義母ちゃんと義妹の件、よろしくお願いしますべ」

 カイリは真剣な表情で決意を語り、眷属契約を結ぶ際の条件であった「家族を救う」ということを改めてお願いしてくる。

 眷属契約を結べばもうこっちのものなのでそんな約束は守る必要はないのだが、流石に俺はそこまで鬼ではない。眷属の望みは叶えてあげるつもりだ。

「任せてよ。全力を尽くすと約束するよ」
「ありがてえだ。おらは今日からエビス様と一緒にヨミト様も信仰するべ」
「ハハ、大袈裟だなぁ」
「んにゃ、おらは本気だべ」

 カイリはすっかり心服しているようだった。大きな力を見せたので、俺に縋れば義母たちを救えると思ったのだろう。命を救ったり家を直したりして恩を売ったこともあり、すっかり心を寄せているようだ。

 ふふ、忠実で手先が器用な眷属ゲットだぜ。童貞だし美味しい血に成長しそうだし、大事に育成していこう。

「それじゃあカイリは早めに休んだ方がいいよ。明日俺たちと一緒に島に殴りこみかけるんでしょ? ゴブリン兵の護衛をつけるから、夜は安心してゆっくり寝てくれ」
「そうさせてもらいますだ。そんじゃ失礼しますだヨミトさん」

 カイリを自宅(イティーバにあるボロ屋)に帰し、護衛のゴブリン兵を傍に待機させる。

 自宅周辺には蝙蝠とスライムの警戒網も整備したし、何か急変があれば、すぐにダンジョンから即応部隊が駆けつけられるだろう。

「さてと。ゴブリンたちに顔でも見せておくか」

 やることもなくなったので、スキル【変化】を使って美少女になり、初陣を控えるゴブリンたちの慰問でもしておこう。

「みんなー、明日はよろしくね! 頑張ってマミヤとかいう悪い奴をやっつけましょう!」
「うおお、ミヨお姉さん! オイラたち、ミヨお姉さんのために頑張っちゃう!」

 慰安部隊であるティゴメとティルと一緒に歌とダンスを踊り、初陣を前に不安を感じているだろうゴブリンたちの心を慰める。

 なるべく死傷者は少なくするつもりであるが、何が起こるかわからない。ゴブリン兵は弱いし、名誉の戦死を遂げる者も少しは出るだろう。

 どうせ死ぬなら我がダンジョンの一員として過ごした楽しい思い出を持ってあの世に旅立ってもらいたいので、出来る限りのことをしておこう。

「――急に呼び出して悪かったね。二人共」
「いえとんでもございません。お役に立てて光栄です」
「ゴブリンの前で踊るなんて面白かったです」

 協力してくれたティゴメとティルに礼を言い、俺もそろそろ自宅に帰るか。今日も一日よく働いたな。

「ご主人様、せっかく眷属にしたようですし、あの田舎丸出し坊やの血を吸いにいきませんか?」
「ああそうだなエリザ。ぐっすり寝ているだろうし、こっそり頂いとくか」

 その後、お風呂上りのエリザと共にカイリの自宅に向かう。寝る前の晩酌代わりにカイリの血を吸う。

「おぉ紛れもなく童貞だねこれは!」
「ザコで不健康なのが玉に瑕ですが、今後に期待といったところですわね」

 カイリの血は酒浸りの影響なのか多少雑味があったものの、童貞だけあって美味しかった。

――スキル【吸血】発動。経験値獲得。
――初めての対象であるのでボーナスを獲得。
――スキル【工作】を獲得。

工作:持っていると図画工作の習熟が早まる。

 新しいスキルゲットだ。カイリは手先が器用な子だけに、それに関連するスキルを持っていたようだね。


♦現在のヨミトのステータス♦
名前:ヨミト(lv.32) 種族:吸血鬼(ナイト)
HP:1657/1657 MP:1507/1507
【変化】【魅了】【吸血】【鬼語】【粗食】【獣の嗅覚】【獣の視覚】【獣の聴覚】【獣の味覚】
【剣術】【我慢】【起床】【睡眠】【威圧】【料理】【伐採】【裁縫】【農耕】【投擲】
【風刃】【天才】【火球】【洗脳】【狂化】【商人】【販売】【交渉】【売春】【性技】
【避妊】【癒光】【洗浄】【解体】【斧術】【槍術】【穴掘】【格闘】【毒牙】【硬化】
【舞踏】【鎚術】【怪力】【豚語】【咆哮】【免疫】【激励】【大食】【飢餓】【消化】
【暴食】【指揮】【弓術】【盾術】【騎乗】【魔笛】【血盟】【飼育】【夜目】【勇者】
【光矢】【集中】【雷撃】【短剣術】【堕落】【指嗾】【装備】【毒息】【火吸】【挑発】
【隠密】【奇襲】【冷息】【号令】【健脚】【水弾】【突進】【跳躍】【房中】【水泳】
【暗算】【海人】【魚語】【人化】【工作】
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美醜逆転世界の学園に戻ったおっさんは気付かない

仙道
ファンタジー
柴田宏(しばたひろし)は学生時代から不細工といじめられ、ニートになった。 トラックにはねられ転移した先は美醜が逆転した現実世界。 しかも体は学生に戻っていたため、仕方なく学校に行くことに。 先輩、同級生、後輩でハーレムを作ってしまう。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺

マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。 その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。 彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。 そして....彼の身体は大丈夫なのか!?

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

処理中です...