吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

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六章

港町イティーバ13/19(悪魔の契約)

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「あんた、いったい何者なんだべ?」
「俺はあのマミヤという男と同じダンジョンマスターだよ。魔王、いわゆる人類の敵ってやつだね」
「あ、あんたもダンジョンマスターなんだべか……。道理で強ぇはずだべ。おらの知らないこともいっぱい知ってるはずだべなぁ」

 ひとまず冒険者ヨミト云々ということは伏せ、ダンジョンマスターであるということに関して話す。

「俺がダンジョンマスターだってギルドに通報でもするかい?」
「そんなことしねえべ。あんたが何者だろうとおらの命の恩人には変わりねえ。あんたがいなければ、おらはあのマーマンに殺されてたべ。マミヤの刺客に殺されてただよ」
「そうか。君は人が良いね」
「それに、仮に通報するって言ったらおらのこと、口封じで殺すんだべ?」

 カイリは恐る恐る尋ねてくる。それに対し、俺とベートは真顔で答えた。

「うん」
「そうだね」

 答えると、カイリは大仰に震え上がる。

「二人共、真顔でさも当然のように言うなっぺ。恐ろしいだよぉ……」

 殺すなんて酷いことはしない。せいぜいダンジョンに監禁して死ぬまでDMを産み出す機械になってもらうだけだ。そう言ったら、カイリは頭を抱えながら地面を転げ回りガクブルと震えていた。無論冗談である。

 リアクションが一々大袈裟で面白い子だ。つい苛めたくなってしまう。

 俺は震えるカイリに再度「冗談」だと言って慰めると話を本題へと戻した。

「あのマミヤって男がこの町の騒ぎの原因って本当なんだべか?」
「たぶんそうだろうね。マミヤとヴェッセルという会社は繋がっている。この町を牛耳ろうとでもしているのかもね」
「ならあの噂は本当だったんだべな」
「あの噂?」

 尋ねると、カイリは忌々しげに語り出す。

「ヴェッセルが役人に賄賂を贈っているって噂だべ。それで数多の不正を見逃してもらってるって噂だぁ」
「そんな噂があるんだね。まあ賄賂くらいは贈ってるかもね。どこにでもあるでしょ、そういうことは」

 やはりヴェッセルには黒い噂があるようだな。

「おらの義母ちゃんは下級貴族の役人で、この町の上級警備兵だったんだけんども、ヴェッセルの悪事を告発しようとして、それで濡れ衣を着させられたって話なんだべ。今じゃ貴族位を剥奪されて奴隷となってマミヤのとこにいるって話だぁ」
「へぇそうなんだ。お気の毒に」
「それでおらの親父は自殺したんだべ。義妹は奴隷となった義母ちゃんを買い戻そうと躍起になって、自らの身を汚すようになっちまった……情けないけどもおらにはどうしようもなくて……おらは酒浸りで……うぅ」
「なるほどねぇ。そりゃまたお気の毒に」

 何かめっちゃ重い話をさらっと告白された。

 人に歴史あり。呑気そうな顔して気ままに生きてるのかと思ったら、そんな裏事情があったとはね。わからないものだ。

「ということは、あのマミヤはおらの仇だべ。父ちゃんと義母ちゃん、そして義妹の仇……許せねぇべぇ……」

 めそめそと泣いていたカイリだが、一転、憎悪に支配された目で虚空を見つめる。真実を知って、怒りを抑えきれないようだ。

(くく、良い目だ。純朴そうな田舎青年が復讐の怒りに燃えるその姿は美しいな)

 俺は悪魔だ。カイリの持つその闇を美しいと思う。大いに利用させてもらうことにしよう。

「カイリ君。提案があるんだけど……」

 俺はスキル【魅了】を発動させながらカイリの説得にかかった。なんのことはない。すぐに篭絡できた。

「……わかったべ。おらの魂でも何でももらっていいべ。その代わり、マミヤに天誅を頼むべ!」
「ああ勿論さ」

 マミヤを始末することを条件に、無事に眷属契約を済ませることができた。

 それからというもの、俺はカイリの家と作業小屋をダンジョンとして整備したのであった。
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