243 / 291
六章
宿泊者名簿No.19 転生者マミヤ5/7(邪魔者ヨミト)
しおりを挟む
ヴェッセルの社長としての業務をこなして富を蓄え、ダンジョンの軍備を整える。
町の支配は順調に進んでいたが、しばらく単調な日々が続いた。ある程度基盤が整うと仕事がルーティン作業になってしまうのは仕方のないことだ。
絶対的支配者といえど、疲れは溜まるものだ。そんな時、僕はあれをやって気分転換することにしていた。
(さて。今日も愚民共に僕の素晴らしい演奏を披露してやるとするか)
盛り場での週一回の演奏会。女を抱くのもいいが、好きな音楽に浸る時間というのも悪くはない。
気分転換になるばかりか、小遣い稼ぎになるし、賞賛されていい気分にもなる。冒険者マミヤとしての名声も高まる。可愛い女の子の物色もできる。
いいことずくめであった。これほど効率の良い気分転換はないだろう。
そう思っていたのだが……。
「けっ、なーにがマミヤ様だっぺ。この町の不漁騒ぎも海賊騒ぎも、なーんも解決できねえクソザコのくせに、調子こいてんじゃねえべよ!」
ある日のことだ。スキル【幻唱】の効果もあって聴衆は賞賛するばかりであるはずなのだが、その時ばかりは違った。無礼な田舎者が野次を飛ばしやがったのであった。
「王都から応援の冒険者呼ばれるくらい無能のくせしてよく言うべ!」
本当にムカついた。田舎臭い顔の酔っ払いに田舎弁で馬鹿にされると無性に腹が立った。
(なんという無礼な田舎者だ! あんな男が生きていていいはずがないッ!)
僕は即、その田舎者を殺すことを決めた。
僕はこの町の支配者だ。ゆくゆくは王になり、皇帝になり、やがては神になる男なのだ。そんな存在に対する無礼など許されるわけがない。
「スイ、あの男を始末しろ」
「かしこまりました」
僕に無礼な態度をとった輩は、今までも悉く抹殺してきた。僕はいつものように命令を下す。
ほどなくして送り込んだ刺客が僕の元へ報告に戻るだろう。戻ってきた部下に何の褒美を与えようか、飽きた妾でも与えてやろうか。
ダンジョンに戻ってからというもの、そんなことばかりを考えていた。
(今日はやけに報告が遅れているな。何かトラブルでもあったのか?)
不審に思いダンジョンログを開くと、そこには驚きのログが残っていた。
――マーマンE2が倒された。
――マーマンF2が倒された。
マーマンE2とF2とは、あの無礼な田舎者に刺客として仕向けたマーマンナイトであった。それがやられていた。
「馬鹿な!? あの田舎者に返り討ちにされたとでもいうのか!?」
思わず大声を上げてしまう。
「スイ! お前が送った刺客はどうした!?」
「申し訳ありません。未だ帰還せずに訝っていたところです」
「死んでいるぞ! あの田舎者がやったに違いない!」
刺客がやられたと聞いて、スイも驚いていたようだった。
「まさか……。あの者がそれほどの力を持っているとは思いませんでした。申し訳ありません。追加の刺客を送りますか?」
「ああそうだな――いや待て。とりあえず死体の回収だけ急げ! それからあの田舎者の正体を探るのだ!」
「かしこまりました」
スイに調査を任せると、翌日彼女は報告をくれた。
「田舎者の場所が割れただと? どこだ?」
「九頭竜島にいるようです。冒険者と共に調査に赴いているようです。小遣い稼ぎのため、島の案内を買って出たようですね」
「冒険者? ああ昨日の昼間、ウチの会社にも来ていたな。そうかそいつらと一緒に島に渡ったか」
冒険者に関しては島で始末しようと思っていた。あの田舎者が一緒にいるなら好都合だった。
「いかがいたしますか?」
「九頭竜島にいるなら好都合だ。田舎者共々、まとめて始末しよう。ただし、女冒険者だけは捕虜にしておけ。特にあのエリザという女は良い女だった。僕のものにしてやる」
「かしこまりました。すぐに襲撃をかけますか?」
「そうだな――いや待て。ここは万全を期してから挑もう。地の利、主導権はこちらにある。相手をそれなりに疲れさせてから一気に殲滅することにする。とりあえず諜報特化の部隊に常に監視させ続けろ」
「かしこまりました」
無礼者の田舎者はすぐに手討ちにしたいところだったが、ひとまず我慢することにした。
敵は僕の掌の中にいるのだ。焦る必要はない。焦ったら無駄に犠牲が増えるだけだ。
その判断は間違っていなかった。程なくして驚愕の知らせを受けることになる。
「――諜報部隊から連絡です。あのヨミトという冒険者、ダンジョンマスターの可能性があります」
「なんだって!?」
「九の島の浜辺に転移陣を展開しました。そして奴の手の者と思われる魔物たちがうじゃうじゃと島に現れました。蝙蝠が山ほどいて索敵される恐れが増しましたので、島にいる斥候は全面撤収させました。現在、海上から密かに監視させております」
「なんということだ……あの冒険者がダンジョンマスターだったとはな……」
まさかこの世界に僕のような存在がいたとは。
考えてみれば、スイがいたのだ。僕と同じような立場の人間がいてもおかしくはない。
(天に二日はない。そのヨミトという男、殺すしかないな!)
この世界を僕のものにするためには、他のダンジョンマスターは邪魔だ。排除するしかない。
そう決めた僕は動き出す。敵がダンジョンマスターだというからには、さらに念入りに下調べしてから始末することにした。
「敵の主戦力はゴブリンのようです。他にも蝙蝠やスライムもいますが、大した戦闘力はなさそうです」
「ゴブリンか。大したことはないな。僕のマーマン部隊の方が強く戦力が上だな」
追加の調査をすると、敵の主戦力はゴブリンだということがわかった。
主戦力がゴブリンということは、あのヨミトとかいう男は、ゴブリンのダンジョンマスターなのだろう。その可能性が高い。
仲間である人間の眷属もいるようだったが、いずれもそれほど脅威だとは感じられなかった。僕のマーマン部隊、そして魔道砲にかかれば雑魚としか思えなかった。
(あのエリザという女、それからレイラにメリッサにセイン。いずれも美人だ。捕らえて僕の後宮入りさせたいところだな……)
そうするべく知恵を絞る。
まず奴らに何もない島を調査させて無駄に体力を消耗させる。それから攻撃を仕掛けることにした。
「マーマン兵が二千もいれば十分だろう。ついでに魔道砲を積んだ武装船三隻も派遣してやれば勝ちは堅い。夕闇に紛れて展開し一気に仕留めろ。マーマン共で手に余るようなら魔道砲を使って構わん」
「かしこまりました」
「スイ、指揮を頼んだぞ。僕は後宮で過ごしている。何か異変があったら連絡しろ」
「はい」
僕はスイに命令を下すと、ダンジョンの後宮に向かった。イティーバの町で集めた選りすぐりの女たちがそこにはいる。最高の妾たちと素晴らしい時間を過ごしながら、寝て果報を待つことにした。
(ふふ、勝ったな。魔道砲もあるんだ、負けるはずがないだろ)
そう思っていたのだが……。
「マミヤ様ッ!」
「なんだ騒々しい。冒険者たちを仕留めたのか?」
「いえっ、それが大変なんです!」
妾たちと楽しんでいると、メロウが慌てた様子で後宮に駆け込んできた。
「とにかくダンジョンログをご確認ください!」
「まったくダンジョンログがどうしたというのだ――――なにっ!?」
言われるままダンジョンログを確認すると、そこには驚きの文字が並んでいた。
・マーマンG4が倒された。
・マーマンX5が倒された。
・マーマンE3が倒された。
・マーマンD2が倒された。
・マーマンF7が倒された。
・マーマンR5が倒された。
・マーマンH9が倒された。
……以下延々と続く。
(馬鹿な!? 部下たちがこんなに死んでいるだと!?)
ダンジョンログは、眷属が倒されたことを告げる知らせで埋め尽くされていた。夥しいほどの数だった。全滅と言っても過言ではない。
「武装船はどうしたのだ!? 魔道砲があってもやられたのか!?」
「はい、既に一隻落とされ、二隻目も時間の問題です。スイ様とハーヴの乗る本船も危うい状況です。敵は吸血鬼、海上を飛び越えるようにして武装船に向かってきました。魔道砲の攻撃を受けてもさほどダメージを負っている様子はありませんでした」
「吸血鬼だと!? ダンジョンマスターはゴブリンじゃなかったのか!? くそっ!」
楽勝だと思ったらとんだ落とし穴があった。吸血鬼のダンジョンマスターだなんて聞いていない。
(たった二人に二千のマーマン兵が敗走し、武装船が簡単に落とされるなんて不味いぞ。そんな力の差があったら、正面から戦っても到底勝てないではないか!)
このままだと武装船内にある転移陣からダンジョンにまで攻め込まれてしまう。そう危惧した僕は、損切りの決断をすることにした。
「ハーヴに殿をやらせ、スイを撤退させろ! 他の兵も出来る限り撤退させろ!」
「はっ!」
ハーヴ。元々はスイのサポートキャラのイカ型男性マーマンだが、殺して剥ぎ取った魔石を使って新しく創造した際、性別を女に変更し、それからは僕のハーレムの一員兼忠実なる下僕となった。
生まれ変わったハーヴはよく仕えてくれたが、スイやメロウに比べれば思い入れは浅い。それに弱い。捨て駒にするとしたら、彼女しかいなかった。
「……ただいま帰還しました」
「よし、ここの入口は閉めるぞ!」
しばらくしてスイたちが帰還し、僕は慌ててダンジョン入口(転移)を閉じて回った。
海底の隠し入口も敵方に見つかったようで、九頭竜島周辺の入口は全て閉鎖することになった。残念だが安全のためには仕方ない。
「ふぅ。なんとか転移陣を閉じることができたか。ひとまず安心だ」
「ですがハーヴが……多くの仲間が……私の責任です」
「ああそうだな全部お前の責任だスイ。くそ、せっかく作り上げたダンジョンが台無しだ。くそがっ! くそくそくそ!」
「……申し訳ありません。マミヤ様」
戦場の様子を伺っていたスイ曰く、吸血鬼共は化け物じみた力を持っているとのことだった。真正面から戦っても勝てそうもないらしい。吸血鬼だから日光や水が苦手なのかと思いきやそういうこともなく、弱点らしい弱点もないのだとか。
ふざけた話だ。そんなのチートすぎるではないか。ヨミトめ、転生ガチャSSR引きやがって。
吸血鬼なんて夜の貴族だ。貴族なら僕の方こそ相応しいというのに!
(ないものねだりをしてもしょうがないか。まだ負けたわけではない。こちらはヨミトがダンジョンマスターだとわかっている。だが向こうは僕がダンジョンマスターだと知らないはず。なら勝機はあるに違いない!)
正面から勝てないなら搦め手を使えばいいだけである。謀略によってヨミトを始末すればいいだけである。
(ゆっくり時間をかけて搦め手を使って殺そう)
そう決断した僕は、すぐに指示を飛ばす。
「しばらくは冒険者マミヤとしての活動は控える。ダンジョンと会社に篭って内政に励み、雌伏の時を過ごす」
「はっ」
チャンスはまだある。そう思い、長期戦を視野に入れ、備えることにしたのであった。
町の支配は順調に進んでいたが、しばらく単調な日々が続いた。ある程度基盤が整うと仕事がルーティン作業になってしまうのは仕方のないことだ。
絶対的支配者といえど、疲れは溜まるものだ。そんな時、僕はあれをやって気分転換することにしていた。
(さて。今日も愚民共に僕の素晴らしい演奏を披露してやるとするか)
盛り場での週一回の演奏会。女を抱くのもいいが、好きな音楽に浸る時間というのも悪くはない。
気分転換になるばかりか、小遣い稼ぎになるし、賞賛されていい気分にもなる。冒険者マミヤとしての名声も高まる。可愛い女の子の物色もできる。
いいことずくめであった。これほど効率の良い気分転換はないだろう。
そう思っていたのだが……。
「けっ、なーにがマミヤ様だっぺ。この町の不漁騒ぎも海賊騒ぎも、なーんも解決できねえクソザコのくせに、調子こいてんじゃねえべよ!」
ある日のことだ。スキル【幻唱】の効果もあって聴衆は賞賛するばかりであるはずなのだが、その時ばかりは違った。無礼な田舎者が野次を飛ばしやがったのであった。
「王都から応援の冒険者呼ばれるくらい無能のくせしてよく言うべ!」
本当にムカついた。田舎臭い顔の酔っ払いに田舎弁で馬鹿にされると無性に腹が立った。
(なんという無礼な田舎者だ! あんな男が生きていていいはずがないッ!)
僕は即、その田舎者を殺すことを決めた。
僕はこの町の支配者だ。ゆくゆくは王になり、皇帝になり、やがては神になる男なのだ。そんな存在に対する無礼など許されるわけがない。
「スイ、あの男を始末しろ」
「かしこまりました」
僕に無礼な態度をとった輩は、今までも悉く抹殺してきた。僕はいつものように命令を下す。
ほどなくして送り込んだ刺客が僕の元へ報告に戻るだろう。戻ってきた部下に何の褒美を与えようか、飽きた妾でも与えてやろうか。
ダンジョンに戻ってからというもの、そんなことばかりを考えていた。
(今日はやけに報告が遅れているな。何かトラブルでもあったのか?)
不審に思いダンジョンログを開くと、そこには驚きのログが残っていた。
――マーマンE2が倒された。
――マーマンF2が倒された。
マーマンE2とF2とは、あの無礼な田舎者に刺客として仕向けたマーマンナイトであった。それがやられていた。
「馬鹿な!? あの田舎者に返り討ちにされたとでもいうのか!?」
思わず大声を上げてしまう。
「スイ! お前が送った刺客はどうした!?」
「申し訳ありません。未だ帰還せずに訝っていたところです」
「死んでいるぞ! あの田舎者がやったに違いない!」
刺客がやられたと聞いて、スイも驚いていたようだった。
「まさか……。あの者がそれほどの力を持っているとは思いませんでした。申し訳ありません。追加の刺客を送りますか?」
「ああそうだな――いや待て。とりあえず死体の回収だけ急げ! それからあの田舎者の正体を探るのだ!」
「かしこまりました」
スイに調査を任せると、翌日彼女は報告をくれた。
「田舎者の場所が割れただと? どこだ?」
「九頭竜島にいるようです。冒険者と共に調査に赴いているようです。小遣い稼ぎのため、島の案内を買って出たようですね」
「冒険者? ああ昨日の昼間、ウチの会社にも来ていたな。そうかそいつらと一緒に島に渡ったか」
冒険者に関しては島で始末しようと思っていた。あの田舎者が一緒にいるなら好都合だった。
「いかがいたしますか?」
「九頭竜島にいるなら好都合だ。田舎者共々、まとめて始末しよう。ただし、女冒険者だけは捕虜にしておけ。特にあのエリザという女は良い女だった。僕のものにしてやる」
「かしこまりました。すぐに襲撃をかけますか?」
「そうだな――いや待て。ここは万全を期してから挑もう。地の利、主導権はこちらにある。相手をそれなりに疲れさせてから一気に殲滅することにする。とりあえず諜報特化の部隊に常に監視させ続けろ」
「かしこまりました」
無礼者の田舎者はすぐに手討ちにしたいところだったが、ひとまず我慢することにした。
敵は僕の掌の中にいるのだ。焦る必要はない。焦ったら無駄に犠牲が増えるだけだ。
その判断は間違っていなかった。程なくして驚愕の知らせを受けることになる。
「――諜報部隊から連絡です。あのヨミトという冒険者、ダンジョンマスターの可能性があります」
「なんだって!?」
「九の島の浜辺に転移陣を展開しました。そして奴の手の者と思われる魔物たちがうじゃうじゃと島に現れました。蝙蝠が山ほどいて索敵される恐れが増しましたので、島にいる斥候は全面撤収させました。現在、海上から密かに監視させております」
「なんということだ……あの冒険者がダンジョンマスターだったとはな……」
まさかこの世界に僕のような存在がいたとは。
考えてみれば、スイがいたのだ。僕と同じような立場の人間がいてもおかしくはない。
(天に二日はない。そのヨミトという男、殺すしかないな!)
この世界を僕のものにするためには、他のダンジョンマスターは邪魔だ。排除するしかない。
そう決めた僕は動き出す。敵がダンジョンマスターだというからには、さらに念入りに下調べしてから始末することにした。
「敵の主戦力はゴブリンのようです。他にも蝙蝠やスライムもいますが、大した戦闘力はなさそうです」
「ゴブリンか。大したことはないな。僕のマーマン部隊の方が強く戦力が上だな」
追加の調査をすると、敵の主戦力はゴブリンだということがわかった。
主戦力がゴブリンということは、あのヨミトとかいう男は、ゴブリンのダンジョンマスターなのだろう。その可能性が高い。
仲間である人間の眷属もいるようだったが、いずれもそれほど脅威だとは感じられなかった。僕のマーマン部隊、そして魔道砲にかかれば雑魚としか思えなかった。
(あのエリザという女、それからレイラにメリッサにセイン。いずれも美人だ。捕らえて僕の後宮入りさせたいところだな……)
そうするべく知恵を絞る。
まず奴らに何もない島を調査させて無駄に体力を消耗させる。それから攻撃を仕掛けることにした。
「マーマン兵が二千もいれば十分だろう。ついでに魔道砲を積んだ武装船三隻も派遣してやれば勝ちは堅い。夕闇に紛れて展開し一気に仕留めろ。マーマン共で手に余るようなら魔道砲を使って構わん」
「かしこまりました」
「スイ、指揮を頼んだぞ。僕は後宮で過ごしている。何か異変があったら連絡しろ」
「はい」
僕はスイに命令を下すと、ダンジョンの後宮に向かった。イティーバの町で集めた選りすぐりの女たちがそこにはいる。最高の妾たちと素晴らしい時間を過ごしながら、寝て果報を待つことにした。
(ふふ、勝ったな。魔道砲もあるんだ、負けるはずがないだろ)
そう思っていたのだが……。
「マミヤ様ッ!」
「なんだ騒々しい。冒険者たちを仕留めたのか?」
「いえっ、それが大変なんです!」
妾たちと楽しんでいると、メロウが慌てた様子で後宮に駆け込んできた。
「とにかくダンジョンログをご確認ください!」
「まったくダンジョンログがどうしたというのだ――――なにっ!?」
言われるままダンジョンログを確認すると、そこには驚きの文字が並んでいた。
・マーマンG4が倒された。
・マーマンX5が倒された。
・マーマンE3が倒された。
・マーマンD2が倒された。
・マーマンF7が倒された。
・マーマンR5が倒された。
・マーマンH9が倒された。
……以下延々と続く。
(馬鹿な!? 部下たちがこんなに死んでいるだと!?)
ダンジョンログは、眷属が倒されたことを告げる知らせで埋め尽くされていた。夥しいほどの数だった。全滅と言っても過言ではない。
「武装船はどうしたのだ!? 魔道砲があってもやられたのか!?」
「はい、既に一隻落とされ、二隻目も時間の問題です。スイ様とハーヴの乗る本船も危うい状況です。敵は吸血鬼、海上を飛び越えるようにして武装船に向かってきました。魔道砲の攻撃を受けてもさほどダメージを負っている様子はありませんでした」
「吸血鬼だと!? ダンジョンマスターはゴブリンじゃなかったのか!? くそっ!」
楽勝だと思ったらとんだ落とし穴があった。吸血鬼のダンジョンマスターだなんて聞いていない。
(たった二人に二千のマーマン兵が敗走し、武装船が簡単に落とされるなんて不味いぞ。そんな力の差があったら、正面から戦っても到底勝てないではないか!)
このままだと武装船内にある転移陣からダンジョンにまで攻め込まれてしまう。そう危惧した僕は、損切りの決断をすることにした。
「ハーヴに殿をやらせ、スイを撤退させろ! 他の兵も出来る限り撤退させろ!」
「はっ!」
ハーヴ。元々はスイのサポートキャラのイカ型男性マーマンだが、殺して剥ぎ取った魔石を使って新しく創造した際、性別を女に変更し、それからは僕のハーレムの一員兼忠実なる下僕となった。
生まれ変わったハーヴはよく仕えてくれたが、スイやメロウに比べれば思い入れは浅い。それに弱い。捨て駒にするとしたら、彼女しかいなかった。
「……ただいま帰還しました」
「よし、ここの入口は閉めるぞ!」
しばらくしてスイたちが帰還し、僕は慌ててダンジョン入口(転移)を閉じて回った。
海底の隠し入口も敵方に見つかったようで、九頭竜島周辺の入口は全て閉鎖することになった。残念だが安全のためには仕方ない。
「ふぅ。なんとか転移陣を閉じることができたか。ひとまず安心だ」
「ですがハーヴが……多くの仲間が……私の責任です」
「ああそうだな全部お前の責任だスイ。くそ、せっかく作り上げたダンジョンが台無しだ。くそがっ! くそくそくそ!」
「……申し訳ありません。マミヤ様」
戦場の様子を伺っていたスイ曰く、吸血鬼共は化け物じみた力を持っているとのことだった。真正面から戦っても勝てそうもないらしい。吸血鬼だから日光や水が苦手なのかと思いきやそういうこともなく、弱点らしい弱点もないのだとか。
ふざけた話だ。そんなのチートすぎるではないか。ヨミトめ、転生ガチャSSR引きやがって。
吸血鬼なんて夜の貴族だ。貴族なら僕の方こそ相応しいというのに!
(ないものねだりをしてもしょうがないか。まだ負けたわけではない。こちらはヨミトがダンジョンマスターだとわかっている。だが向こうは僕がダンジョンマスターだと知らないはず。なら勝機はあるに違いない!)
正面から勝てないなら搦め手を使えばいいだけである。謀略によってヨミトを始末すればいいだけである。
(ゆっくり時間をかけて搦め手を使って殺そう)
そう決断した僕は、すぐに指示を飛ばす。
「しばらくは冒険者マミヤとしての活動は控える。ダンジョンと会社に篭って内政に励み、雌伏の時を過ごす」
「はっ」
チャンスはまだある。そう思い、長期戦を視野に入れ、備えることにしたのであった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
美醜逆転世界の学園に戻ったおっさんは気付かない
仙道
ファンタジー
柴田宏(しばたひろし)は学生時代から不細工といじめられ、ニートになった。
トラックにはねられ転移した先は美醜が逆転した現実世界。
しかも体は学生に戻っていたため、仕方なく学校に行くことに。
先輩、同級生、後輩でハーレムを作ってしまう。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺
マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。
その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。
彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。
そして....彼の身体は大丈夫なのか!?
荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました
夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。
スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。
ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。
驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。
※カクヨムで先行配信をしています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる