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七章
宿泊者名簿No.21 強奪者バンデット1/2
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「――ふぅはぁ、ふぅふぅ」
息を乱しながら、たった一人、森の中をひた走る。
俺様は逃亡者だ。故郷の田舎村で大きな悪さをしでかして、処分を受ける前に逃げ出してきた。
「ふぅ、もうすぐか。この森を抜ければ、ミッドロウの町までもうすぐだな」
ミッドロウの町には冒険者ギルドがある。そこで冒険者登録して、念願の冒険者になって立身出世を果たしてやる。
魔物から人々を救って勇者様と称えられたい。それが俺様の長年の夢なのだ。
「計画通りだ。あと少し。あと少しで俺は正真正銘の勇者様になれるんだッ!」
俺様には天から与えられた大きな才能が二つあった。
一つはスキル【強奪】。他人の持つスキルを一つだけ奪いとることができるスキルだ。
効果は永続ではない。スキル所持元が死ぬとそれに伴い、奪い取ったスキルは消える。俺様がスキル【強奪】の効果を解除しても消える。ただ、奪い取ったスキルが消えれば、また一つだけ奪いとることができるようになるがな。
幼い時から俺様はそのスキルを存分に使いこなしてきた。寝たきりの爺さんのスキル【農耕】を奪い取って代わりに畑を耕したり、寝たきりの婆さんのスキル【裁縫】を奪い取って代わりに編み物をしたりして、小遣いを貰って稼ぎまくってきた。
そうやって持っている力を有効活用してきたが、俺様はずっと不満だった。【強奪】は大きな可能性を秘めたスキルだったが、そんなちんけな使い方しかできなかったからだ。
奪われた人間は奪われたことに気づくので、合意の上で奪うしかない。大胆な使い方をするには、必然と犯罪的な手段をとるしかなかったからな。
犯罪者になるか、夢を諦めるか。迷って一時は夢を諦めかけた俺様だが、先日、一大決心をすることにした。
きっかけは勇者様の誕生だ。先日、俺様の村で勇者様が誕生した。村長の孫息子だ。
村長の孫息子は、生まれながらにしてスキル【勇者】を持っていたのだ。
「――村長の孫は勇者だってよ!」
「マジか! すげえ!」
「我が村から勇者様の誕生だ! めでてえ!」
村人共は年寄りからガキまで勇者の誕生を祝っていた。まるで自分のことのようにはしゃぎ回っていた。
だが俺様はそうじゃなかった。
(けっ、何が勇者様だ。村長の孫息子は金持ちの家に生まれた上に、さらには恵まれたスキルまで与えられてやがるのか。将来はこの糞みたいな田舎村から出て、金色か虹色の冒険者かよ。くそッ!)
嫉妬に駆られた俺様の頭はおかしくなり、村長の孫息子の人生をめちゃくちゃにしてやりたくなった。それで村長の孫息子の人生を乗っ取ってやろうと思った。
普通はそんなことできない。けれども俺様にはその力があった。
ただそれには、今まで積み上げてきた村人の信頼の全てを裏切る覚悟がねえとできなかった。大犯罪者になる覚悟がねえとできねえ。
(何を迷ってやがるんだ俺様は。こんな絶好の機会、二度とねえってのによ!)
大いに迷ったが、村長の孫息子が恵まれたスキルを持って生まれたのは天啓だと思い、実行することにした。
スキル【強奪】を長年使ってみて思ったが、年寄りからスキルを奪ったんじゃあんまり意味がねえ。せっかく強いスキルが使えるようになっても、その年寄りが死んだりしたら意味がなくなるからな。
だからスキルが不用になった年寄りからスキルを買い取ったり譲ってもらったり、そんな方法じゃ意味がねえんだ。強くて若い人間から奪い取らなきゃいけねえ。
でも強い人間から強いスキルを奪おうとしても、強い連中からは奪えない。当たり前だが、強い奴は強い。ザコの俺様なんて一捻りだからな。スキルなんて奪えやしねえんだ。
強いスキルを持った弱い奴。これから長生きする若い奴。
スキルを奪うとしたら、そんな存在を見つけて奪うしかなかった。
そんな都合の良い相手は中々いなかった――だがそれが現れた。
強いスキルを持った赤ん坊。まさに条件に当てはまる。
これはまさに天啓だと思った。女神エビス様が「生まれた赤ん坊のスキルを奪い取りなさい」と、俺様に囁いているとしか思えなかった。
相手は生まれたばかりの赤ん坊で、下級貴族の裕福な家の子だから早々死ぬことはない。俺様よりも確実に長生きする。少なくとも俺様が冒険者を引退する頃までは確実に生きるだろう。
こんな絶好の機会、逃したら二度とこないと思った。
(こりゃやるしかねえな!)
ちょうどおふくろも親父も既にいなかったので、俺様が犯罪者になった所で身内が報復を受ける心配もなかった。状況が整いすぎている。やはり女神エビス様が背中を押してくれているとしか思えなかった。「村長の孫息子からスキルを奪い取りなさい」と言っているとしか思えなかった。
俺様は女神エビス様の神託通り、夜間村長の家に忍び込み、赤ん坊のスキルを奪い取ることにした。
「へへ、お前のスキル、俺様が有効活用してやるよ。恵まれた父ちゃん母ちゃんがいるんだから、こんなスキルなんていらねえだろ?」
「おぎゃあああああッ!」
赤ん坊は赤ん坊ながら自分のスキルを奪われたことに気づいたのかギャン泣きしやがった。そのせいで家人に気づかれることになった。
「お前はバンデッド!? 何故ここに――まさか!?」
「へ、バレたなら仕方ねえか。そのまさかよ! 俺様はもう村人その一じゃねえ! 今日から勇者様だ!」
「貴様ァ! ワシの孫のスキルを奪い取ったな!」
「アハハ、その通りよ! あばよ糞村長!」
「待て! この卑怯者ッ!」
そうして俺は逃亡者になった。
村長一家は血眼になって俺様を探しているに違いない。コネを使ってお尋ね者の手配書を出そうとしているって話だからな。
だがミッドロウの町まで逃げ切ればこっちのもんだ。俺様にはもう一つの隠された才能がある。切り札とも呼べる才能がな。
それはスキル【性転換】。一度使ったら消失するものの、異性へと性転換できるスキルだ。
こいつを使えば、俺様は女になれる。変身系スキルで変身するような偽者じゃねえ、本物の女にな。
いや別に女になんてなりたくねえが、別人になれるってことは意味がある。お尋ね者になっても誤魔化せるってことだ。
性転換する代償を払ってでも叶えたい夢がある。絶対に冒険者として立身出世してえ。そして勇者様と呼ばれてえ。
【強奪】とは違って、【性転換】に関しては今まで周囲に隠し通してきた。つまり、【性転換】を使って女になっちまえば、こっちのもんだ。別人になって誰も気づかねえ。
ミッドロウ近くの街道まで行ったらそのスキル【性転換】を使うつもりである。女になって新しい人生始めてやる。近い内に、俺様は女勇者になってやるぜ。
「へへ、夢は金色、虹色等級だな。冒険者の頂点目指してやるぜ!」
ここに来るまでに野生のゴブリンを何匹も倒してきたが、簡単に倒すことができた。今までの俺様では考えられねえ力だ。奪い取ったスキル【勇者】の恩恵によるものだろう。
この調子なら本当に伝説の冒険者になれる。伝説の勇者様になれる。俺様の冒険は今、始まったばかりだ!
そんな浮かれた気分で、俺様は森を疾走していた。
そんな時だ。あの家を見つけたのは。
「――何だ、こんな所に家があるのか?」
森の中にある一軒家。辺鄙な所にあるわりには整いすぎていて、いやに不気味だった。伝説の魔王でも住んでいそうな雰囲気だ。
「へ、魔王がなんだってんだ。俺様は女勇者(予定)だぞ。ビビる必要なんてねえッ!」
化け物が住んでいようが、勇者である俺様にはイチコロだ。走り疲れていたこともあり、今日はこの家に泊まらせてもらうことにした。
「――いらっしゃいませ。よくぞお越しいただきました」
身構えていたわりには拍子抜けだった。家主は肺を病んでいるらしい顔色の悪い優男だった。
魔王なんて恐ろしい存在じゃねえ。今にも死にそうなザコ男だった。
「こちらが妻と娘です。ごほごほ」
「なっ、超絶美人の母娘だとッ!?」
「ええ自慢の妻子ですよ。ごほごほ」
「ちっ、自慢かよ」
「ええ手前味噌ですが自慢の家族です」
同居しているらしい妻子を紹介してもらったが、とんでもなく美人だった。
こんな美人妻子を伴って若くして隠居暮らしとはムカつく奴だ。
「今日の夕食の川魚は娘が初めて釣ったものです。大漁だったそうなのでお裾分けでございます。ごほごほ」
「そうかよ。家族同士、仲良くて結構なことだな」
夕飯では娘が初めて釣ったという川魚を食った。
めちゃくちゃ美味かった。他にも精がつくもんがいっぱい出てきやがった。
こんな辺鄙な所に住んでてこんな沢山の食材を用意できるなんて、金持ちに違いなかった。定期的に冒険者か何かが食材を届けに来てくれるのだろう。
「ではごゆっくりおやすみくださいませ」
「ああ」
優男は気持ちの悪い笑みを浮かべながら、やけに丁寧に対応してくれた。突然訪れた怪しげな俺様に対してそこまでするなんて、普通じゃ考えられねえ。
(もしかして俺様を油断させて殺して財産を奪うつもりか?)
六部殺し。普通に考えればそうだ。人気のない場所で寝込みを襲われたらひとたまりもない。
だが、俺様は自分で言うのもなんだが、見るからに金なんて持ってなさそうな男だ。実際、財産なんて持ってねえ。強いて言えば持っているスキルが唯一の財産だが、この病弱男には奪うことなどできないだろう。
(何かを奪うつもりなら、わざわざ豪華な飯なんて与える必要もねえか……)
だからただのお人よしなのだと思った。世の中にはそういう奇特な人間もいるのかと感心しながら寝床についた。
(あの母娘、とんでもねえ美人だったな……)
眠れねえ。久しぶりに精のつく食いもんを食ったせいか、寝床に入ると股間が爆発しそうになっちまった。
(女になれば二度と女を抱く快楽を味わえねえのか。最後に飛び切りのいい女を抱きてえな……)
こんな所であの母娘に出会えたのは天の巡りあわせに違いない。あの母娘で最後の女を楽しみなさいという、女神エビス様の思し召しに違いない。
(よしやるか。どうせ女になればバレやしねえんだ。あのお人よしの病弱男をぶっ飛ばして、妻子の貞操を奪ってやろう)
あの美人母娘を味わって女の食い納めといこうか。
そう思い、俺様は武器をとって寝床からのそりと起き上がったのであった。
息を乱しながら、たった一人、森の中をひた走る。
俺様は逃亡者だ。故郷の田舎村で大きな悪さをしでかして、処分を受ける前に逃げ出してきた。
「ふぅ、もうすぐか。この森を抜ければ、ミッドロウの町までもうすぐだな」
ミッドロウの町には冒険者ギルドがある。そこで冒険者登録して、念願の冒険者になって立身出世を果たしてやる。
魔物から人々を救って勇者様と称えられたい。それが俺様の長年の夢なのだ。
「計画通りだ。あと少し。あと少しで俺は正真正銘の勇者様になれるんだッ!」
俺様には天から与えられた大きな才能が二つあった。
一つはスキル【強奪】。他人の持つスキルを一つだけ奪いとることができるスキルだ。
効果は永続ではない。スキル所持元が死ぬとそれに伴い、奪い取ったスキルは消える。俺様がスキル【強奪】の効果を解除しても消える。ただ、奪い取ったスキルが消えれば、また一つだけ奪いとることができるようになるがな。
幼い時から俺様はそのスキルを存分に使いこなしてきた。寝たきりの爺さんのスキル【農耕】を奪い取って代わりに畑を耕したり、寝たきりの婆さんのスキル【裁縫】を奪い取って代わりに編み物をしたりして、小遣いを貰って稼ぎまくってきた。
そうやって持っている力を有効活用してきたが、俺様はずっと不満だった。【強奪】は大きな可能性を秘めたスキルだったが、そんなちんけな使い方しかできなかったからだ。
奪われた人間は奪われたことに気づくので、合意の上で奪うしかない。大胆な使い方をするには、必然と犯罪的な手段をとるしかなかったからな。
犯罪者になるか、夢を諦めるか。迷って一時は夢を諦めかけた俺様だが、先日、一大決心をすることにした。
きっかけは勇者様の誕生だ。先日、俺様の村で勇者様が誕生した。村長の孫息子だ。
村長の孫息子は、生まれながらにしてスキル【勇者】を持っていたのだ。
「――村長の孫は勇者だってよ!」
「マジか! すげえ!」
「我が村から勇者様の誕生だ! めでてえ!」
村人共は年寄りからガキまで勇者の誕生を祝っていた。まるで自分のことのようにはしゃぎ回っていた。
だが俺様はそうじゃなかった。
(けっ、何が勇者様だ。村長の孫息子は金持ちの家に生まれた上に、さらには恵まれたスキルまで与えられてやがるのか。将来はこの糞みたいな田舎村から出て、金色か虹色の冒険者かよ。くそッ!)
嫉妬に駆られた俺様の頭はおかしくなり、村長の孫息子の人生をめちゃくちゃにしてやりたくなった。それで村長の孫息子の人生を乗っ取ってやろうと思った。
普通はそんなことできない。けれども俺様にはその力があった。
ただそれには、今まで積み上げてきた村人の信頼の全てを裏切る覚悟がねえとできなかった。大犯罪者になる覚悟がねえとできねえ。
(何を迷ってやがるんだ俺様は。こんな絶好の機会、二度とねえってのによ!)
大いに迷ったが、村長の孫息子が恵まれたスキルを持って生まれたのは天啓だと思い、実行することにした。
スキル【強奪】を長年使ってみて思ったが、年寄りからスキルを奪ったんじゃあんまり意味がねえ。せっかく強いスキルが使えるようになっても、その年寄りが死んだりしたら意味がなくなるからな。
だからスキルが不用になった年寄りからスキルを買い取ったり譲ってもらったり、そんな方法じゃ意味がねえんだ。強くて若い人間から奪い取らなきゃいけねえ。
でも強い人間から強いスキルを奪おうとしても、強い連中からは奪えない。当たり前だが、強い奴は強い。ザコの俺様なんて一捻りだからな。スキルなんて奪えやしねえんだ。
強いスキルを持った弱い奴。これから長生きする若い奴。
スキルを奪うとしたら、そんな存在を見つけて奪うしかなかった。
そんな都合の良い相手は中々いなかった――だがそれが現れた。
強いスキルを持った赤ん坊。まさに条件に当てはまる。
これはまさに天啓だと思った。女神エビス様が「生まれた赤ん坊のスキルを奪い取りなさい」と、俺様に囁いているとしか思えなかった。
相手は生まれたばかりの赤ん坊で、下級貴族の裕福な家の子だから早々死ぬことはない。俺様よりも確実に長生きする。少なくとも俺様が冒険者を引退する頃までは確実に生きるだろう。
こんな絶好の機会、逃したら二度とこないと思った。
(こりゃやるしかねえな!)
ちょうどおふくろも親父も既にいなかったので、俺様が犯罪者になった所で身内が報復を受ける心配もなかった。状況が整いすぎている。やはり女神エビス様が背中を押してくれているとしか思えなかった。「村長の孫息子からスキルを奪い取りなさい」と言っているとしか思えなかった。
俺様は女神エビス様の神託通り、夜間村長の家に忍び込み、赤ん坊のスキルを奪い取ることにした。
「へへ、お前のスキル、俺様が有効活用してやるよ。恵まれた父ちゃん母ちゃんがいるんだから、こんなスキルなんていらねえだろ?」
「おぎゃあああああッ!」
赤ん坊は赤ん坊ながら自分のスキルを奪われたことに気づいたのかギャン泣きしやがった。そのせいで家人に気づかれることになった。
「お前はバンデッド!? 何故ここに――まさか!?」
「へ、バレたなら仕方ねえか。そのまさかよ! 俺様はもう村人その一じゃねえ! 今日から勇者様だ!」
「貴様ァ! ワシの孫のスキルを奪い取ったな!」
「アハハ、その通りよ! あばよ糞村長!」
「待て! この卑怯者ッ!」
そうして俺は逃亡者になった。
村長一家は血眼になって俺様を探しているに違いない。コネを使ってお尋ね者の手配書を出そうとしているって話だからな。
だがミッドロウの町まで逃げ切ればこっちのもんだ。俺様にはもう一つの隠された才能がある。切り札とも呼べる才能がな。
それはスキル【性転換】。一度使ったら消失するものの、異性へと性転換できるスキルだ。
こいつを使えば、俺様は女になれる。変身系スキルで変身するような偽者じゃねえ、本物の女にな。
いや別に女になんてなりたくねえが、別人になれるってことは意味がある。お尋ね者になっても誤魔化せるってことだ。
性転換する代償を払ってでも叶えたい夢がある。絶対に冒険者として立身出世してえ。そして勇者様と呼ばれてえ。
【強奪】とは違って、【性転換】に関しては今まで周囲に隠し通してきた。つまり、【性転換】を使って女になっちまえば、こっちのもんだ。別人になって誰も気づかねえ。
ミッドロウ近くの街道まで行ったらそのスキル【性転換】を使うつもりである。女になって新しい人生始めてやる。近い内に、俺様は女勇者になってやるぜ。
「へへ、夢は金色、虹色等級だな。冒険者の頂点目指してやるぜ!」
ここに来るまでに野生のゴブリンを何匹も倒してきたが、簡単に倒すことができた。今までの俺様では考えられねえ力だ。奪い取ったスキル【勇者】の恩恵によるものだろう。
この調子なら本当に伝説の冒険者になれる。伝説の勇者様になれる。俺様の冒険は今、始まったばかりだ!
そんな浮かれた気分で、俺様は森を疾走していた。
そんな時だ。あの家を見つけたのは。
「――何だ、こんな所に家があるのか?」
森の中にある一軒家。辺鄙な所にあるわりには整いすぎていて、いやに不気味だった。伝説の魔王でも住んでいそうな雰囲気だ。
「へ、魔王がなんだってんだ。俺様は女勇者(予定)だぞ。ビビる必要なんてねえッ!」
化け物が住んでいようが、勇者である俺様にはイチコロだ。走り疲れていたこともあり、今日はこの家に泊まらせてもらうことにした。
「――いらっしゃいませ。よくぞお越しいただきました」
身構えていたわりには拍子抜けだった。家主は肺を病んでいるらしい顔色の悪い優男だった。
魔王なんて恐ろしい存在じゃねえ。今にも死にそうなザコ男だった。
「こちらが妻と娘です。ごほごほ」
「なっ、超絶美人の母娘だとッ!?」
「ええ自慢の妻子ですよ。ごほごほ」
「ちっ、自慢かよ」
「ええ手前味噌ですが自慢の家族です」
同居しているらしい妻子を紹介してもらったが、とんでもなく美人だった。
こんな美人妻子を伴って若くして隠居暮らしとはムカつく奴だ。
「今日の夕食の川魚は娘が初めて釣ったものです。大漁だったそうなのでお裾分けでございます。ごほごほ」
「そうかよ。家族同士、仲良くて結構なことだな」
夕飯では娘が初めて釣ったという川魚を食った。
めちゃくちゃ美味かった。他にも精がつくもんがいっぱい出てきやがった。
こんな辺鄙な所に住んでてこんな沢山の食材を用意できるなんて、金持ちに違いなかった。定期的に冒険者か何かが食材を届けに来てくれるのだろう。
「ではごゆっくりおやすみくださいませ」
「ああ」
優男は気持ちの悪い笑みを浮かべながら、やけに丁寧に対応してくれた。突然訪れた怪しげな俺様に対してそこまでするなんて、普通じゃ考えられねえ。
(もしかして俺様を油断させて殺して財産を奪うつもりか?)
六部殺し。普通に考えればそうだ。人気のない場所で寝込みを襲われたらひとたまりもない。
だが、俺様は自分で言うのもなんだが、見るからに金なんて持ってなさそうな男だ。実際、財産なんて持ってねえ。強いて言えば持っているスキルが唯一の財産だが、この病弱男には奪うことなどできないだろう。
(何かを奪うつもりなら、わざわざ豪華な飯なんて与える必要もねえか……)
だからただのお人よしなのだと思った。世の中にはそういう奇特な人間もいるのかと感心しながら寝床についた。
(あの母娘、とんでもねえ美人だったな……)
眠れねえ。久しぶりに精のつく食いもんを食ったせいか、寝床に入ると股間が爆発しそうになっちまった。
(女になれば二度と女を抱く快楽を味わえねえのか。最後に飛び切りのいい女を抱きてえな……)
こんな所であの母娘に出会えたのは天の巡りあわせに違いない。あの母娘で最後の女を楽しみなさいという、女神エビス様の思し召しに違いない。
(よしやるか。どうせ女になればバレやしねえんだ。あのお人よしの病弱男をぶっ飛ばして、妻子の貞操を奪ってやろう)
あの美人母娘を味わって女の食い納めといこうか。
そう思い、俺様は武器をとって寝床からのそりと起き上がったのであった。
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