吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

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七章

宿泊者名簿No.21 強奪者バンデット2/2

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 寝床から起き上がった俺様は、寝室の方に向かう。

 まずは病弱男を始末してから、ゆっくり妻子の身体を楽しもうと思ったのだ。

「永遠におねんねしてな」

 足音を立てずに忍び寄り、寝ている病弱男の脳天に鋭い一撃を加えてやる。

 確実に命を奪ったと思った。だが――。

――ガシリ。

 攻撃が加えられる刹那、男は目を開けると、凄まじい速度で腕を動かし、俺様の剣を掴んだんだ。

 しかも素手でだ。それなのに、血一滴たりとも流れていなかった。

 借り物の力とはいえ勇者の力を持つ俺様の一撃がまったく通じないなんて、あり得ないことだ。

「お客様、これはどういうことでしょうか。いきなり寝ている所に刃物を向けてくるなんて。冗談では済まされませんよ?」
「くっ……」

 言い逃れできねえ状況だ。なら開き直るしかねえよな。

「決まってんだろ! てめえをぶっ殺して美人の妻子を頂くのさ! それから俺様は男の身体に別れを告げ、晴れて女勇者になるんだ!」
「え、女勇者になる? いったい何を仰っているのかまったく意味がわかりませんが……」
「てめえには関係ねえことさ! これから死ぬんだからな!」

 空いていた片手で仕込みナイフを取り出すと、俺様は上から振りかぶるようにして突き刺した。

 男の無防備な腹を抉る――そんな一撃になるはずだった。

――ガキンッ。

 振り下ろしたナイフはまるで刺さらなかった。硬い鉄板に刃を当てた時のように、弾かれて、まったく突き刺さらない。何度も突き刺してみるが結果は変わらなかった。

「てめえ。何か特別なスキルを持っていやがるな!」
「ご名答」
「くっ、てめえいったい……」
「一度ならず二度三度と攻撃して……それにエリザたちに手を出そうとはね。許せないな、許せないッ!」
「ひっ……」

 男は決して病弱ではなかった。力を隠しているようだった。

 こいつはとんでもねえ化け物。殺される。確実にそう思った。

「殺すのは簡単だ。気になることを言っていたな。女勇者になるとはどういうことか、少し確かめさせてもらおうか」
「や、やめ、あぁう」

 男に見つめられ、意識が遠くなる。謎の力で気絶させられる。

「――はっ、ここは?」

 意識を失った俺様は、気づけばダンジョンと呼ばれる場所に移動していた。男はまさかのダンジョンマスターだったらしい。

 名のある冒険者が命がけで挑むというダンジョン。その奥に存在するという魔王――ダンジョンマスター。

 まさかそんな大物に喧嘩を売っちまうとはな。まったくついてねえぜ。

「君は今日から我がダンジョンに住んでもらう」
「ちっ、しょうがねえな」

 俺様は殺されなかった。ダンジョンマスターの眼鏡に適ったらしく、ダンジョンの奴隷として生かされることになった。

「スキル【性転換】というのを行使してみてくれ。どんな感じなのか見てみたい」
「くそ、わかったよ。やればいいんだろ、やればよ」

 圧倒的存在を前にして、要求を拒むことなどできない。俺様は生まれてこの方温存してきたスキル【性転換】を使わざるを得なくなった。

 くそ、最後に思う存分に女を抱いてから女になる計画が台無しだ。無念だがこの状況じゃ仕方ねえ。

――スキル【性転換】発動。

「ぐぅおお……」

 スキルを発動した結果、身体が熱くなる。長年慣れ親しんだ男の象徴が消えていく。代わりに胸と尻に膨らみが出てくる。

 やがて俺様の身体は女になった。

「おお本当だ、性転換しているね。スキル【変化】の超絶劣化版といった感じかな。可逆は不可のようだし、スキルも消えちゃうみたいだしなぁ。いや人によってはこっちの方がありがたいのか?」
「何をごちゃごちゃと言ってやがる――いや、言ってやがるのですか?」

 言葉遣いが悪いと、男の隣で控えているイノコとかいうオーク女に睨まれる。俺様は慌てて言葉遣いを直すのであった。

「さて、女の子になった君に相談がある。君にはマーマンたちのお嫁さんになって欲しいんだ。いいよね?」

 女になった俺様に対し、ダンジョンマスターのヨミトはとんでもないことを要求してくる。

「ふざけるんじゃねえよッ! 誰がマーマンの嫁になんてなるか! 俺様は女勇者だぞ!」

 女になった以上は色々と諦めるしかねえ。だけど冒険者になること。これだけは譲れねえ。子どもの時から恋焦がれた夢だ。

(俺様は奪い取ったスキルを使って女勇者になるんだ! 絶対になるんだ!)

 この魔王の部下の中には冒険者として活動している奴らがいると聞く。俺もその中にいれてもらう。これだけは絶対に譲れない。

「違うだろ。君は女勇者なんかじゃない。君の望みはそんなものではない」
「うっ」

 男が俺の目を見つめ、囁いてくる。引き込まれていく。

「マーマンのお嫁さんになることが、子どもの頃からの君の本当の夢だったはずだろ。違うのか?」
「あぁ……」

 そうだ。俺様の夢はマーマンのお嫁さんになること。

 男から女の子に性転換して、女冒険者になって、それでマーマンの巣に突撃して負けて孕み袋になる。それでお嫁さんにしてもらう。

 冒険者になることは過程に過ぎない。本当の俺の夢は、マーマンのお嫁さんになることだ。

 そうだ。俺様の夢はそうだったはずだ。なら過程がちょっと違ってもいいか。やっと夢が叶うんだ。最高じゃないか。

「ならず者だった君は女勇者にクラスチェンジした。そして今からはマーマンのお嫁さんにクラスチェンジだ。スキル【強奪】で保持している勇者の力を解放するんだ。元の持ち主が困っているだろうからね」
「はいもういりません。こんな力、すぐに返します」
「いい子だね。そんな君にスキル【多胎】をプレゼントしよう。これからの君に必要な力だ。マーマンをいっぱい産むためにね」
「はい、ありがとうございますご主人様」

 俺様は全てを投げ捨てて手に入れた力をあっさり解放する。

 村長の孫息子君、ごめんなさい。

 清々しい気分だ。男を卒業して、マーマンのお嫁さんになれるんだから、最高の気分に決まっているではないか。新しいスキルまで貰えたしな。

「さあ我がダンジョンのマーマン戦力を増やす仕事、頑張ってくれ。これは君が昔から望んでいたことだよね?」
「はいその通りです偉大なるご主人様。喜んでマーマンの子を孕み育てますね。もう我慢できません!」

 俺様は裸のまま走り出す。そしてマーマンの住処に駆けていく。

 その後は言うまでもない。

「うほぉおっ、逆ハーレム最高ぅッ!」

 ああ幸せだ。やっと夢を叶えることができた。偉大なるご主人様の元で、マーマンの孕み袋として貢献できるのだから。

 奪うよりも与えることの方が幸せ。

 偉大なるご主人様のおかげで、俺様は初めてそのことに気づくのであった。
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