吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

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七章

マッシュ村調査依頼2/10(マッシュ村)

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「さて、十分英気も養ったし、出発するとしようか」
「そうですね」

 ジョーア村での夜を過ごした翌朝。村を出立する。

 ヒムの森沿いの道を西に進み、今度はハザマ村を訪れる。

「――ユマ、儲かっているようだね」
「ええ今は紅葉が見頃ですから。これから冬になってブリザードドラゴン狩りが盛んになりますので、さらに冒険者さんがやって来られると思います」
「よしよし、最高だな。その調子でよろしく。それじゃ俺とエリザを隠れ湯に案内してくれるかい?」
「ええ喜んで」

 そんな感じでハザマ村のユマの温泉宿(六号店)で一泊する。

 ダンジョン各拠点には転移陣を通じていつも顔を出していて定期的に泊まったりしているが、ちゃんと旅をして訪れるとまた違った味わいがあって格別である。昨晩のジョーア村に引き続き、楽しい夜を過ごす。

 それからハザマ村を発ち、アルゼリア山脈に分け入って進んでいく。険しい山道を半日くらいかけて進んでいくと、目当てのマッシュ村に辿りついた。

「――ここがマッシュ村か。ジョーア村と似たり寄ったりな村だね」
「ですね。秘境といった感じですか」

 俺の感想に、パープルが頷く。

 マッシュ村は言っちゃ悪いがド田舎の村だった。山の中にある小さな集落といった感じの村だ。

 標高の高いマッシュ村はの周囲は、ハザマ村以上に色づいている。紅葉狩りのベストシーズンといった感じだ。派手な人工物は何もないが、その代わり自然物によって美しく彩られている。

「アンタらが件の冒険者か……。いいぞ入って」
「どうも」

 自警団のチェックを受けた後で村に入る。

 木々の華やかさとは反して、自警団員たちの顔色は悪かった。村人たちの顔も暗い。村全体が鬱々としたムードに包まれているようだ。

 おそらくは、村を襲っているという異変のせいだろう。

「なんだか陰気臭いね」
「仕方ありませんよ。村が謎の異変に襲われているんですから」

 俺のぼやきに、レイラが答えてくれる。

 村はなんとももの寂しい雰囲気に包まれている。夕暮れが近づく時間帯ともなれば尚更だった。

「話は後ですよヨミトさん。まずは村長さんの所に顔を出しましょう。事情を知らない村人たちが、見知らぬ僕たちが村内をうろついているのを怪訝そうに見てますし」
「そうだねパープル君」

 まずは村長宅へと向かい、そこで話をすることになった。

「……どちら様でしょうか?」
「連絡がいってると思いますが、依頼を受けてやって来た冒険者です」
「……少々お待ちを」

 村長宅を訪ねると、まず最初に出迎えてくれたのは、下男だった。めちゃくちゃ陰気臭い男である。

 その後、すぐに村長がやって来た。

「不死鳥の皆様方、お待ちしておりました。村長のカリドです」
「どうもご丁寧に」

 村長は痩せ型の年配の爺さんだった。カリドさんか。

「詳しいお話は食事をとりながらということで」
「そうですね。ご馳走様です」

 夕飯をご馳走になりながら、色々と話を聞いていくことになった。

 夕飯は茸づくしだった。竜肉と茸のソテーが絶品だった。この村は茸と竜肉が特産品らしいね。

 茸は栽培されたもので、竜肉はブリザードドラゴンのお肉を干したものらしい。冬季にこの村はブリザードドラゴン狩りの拠点の一つになるから、それで竜肉の蓄えが沢山あるようだ。

「この村は茸人族と交流があると聞きましたが」
「ええその通りです。先々代から付き合いがあります。おかげでこの村は茸の名産地となり、ブリザードドラゴン狩りの拠点でもあり、僻地の村ですがそれなりに豊かな村となっておりました」

 茸人族は亜人の一種であり、茸栽培に関するスキルを生まれながらに持つ種族らしい。

 その茸人族の集落がこの村の近くに存在しており、先々代の村長時代からこの村とは付き合いがあるようだ。

「豊かな村となっていた――過去形ですか。なるほど、話の通り、近年はおかしなことがあるということですね?」
「はい。最初の異変があったのは五年ほど前のことです。交流を持ってからというもの、季節の変わり目には茸人族の代表団が毎年村を訪れてくれていたのですが、その年から文でのやり取りのみとなったのです。村近くの大木に手紙を置いておくから読め、という矢文が届きました。不思議に思いましたが何か事情があるのだと思いました。それから四年ほど文のみでのやり取りが続きまして……」
「理由は尋ねなかったのですか?」
「勿論尋ねましたとも。ですがそのことは毎回かわされてしまいまして……」

 顔を合わせた緊密な交流が急にそっけないものに。長く続いていた友好的な関係が急に変化するなんて、確かにおかしな話だ。

 村側としては茸人族を怒らせるようなことはしていないと言う。何の心当たりもないようだ。茸人族側から一方的に通告されたようだ。

「そうですか。それで今年はどうだったんです?」
「今年は文のやり取りすらありませんでした。それで学術ギルドの方に本格的な調査を依頼したのです。やはり茸人族の村で何か異変が起こっているのではないかと」
「学術ギルドですか? それは何でまた?」
「この村出身の学者がいたのでその方の伝手を借りることになりまして。それで調査団を派遣してもらったのです。それに伴う護衛の冒険者の方も派遣してもらいました。鋼等級で構成されるチームの方々でした。リーダーのディアンさんは“烈槍のディアン”で知られる若き女傑でございます。安心して送り出したのですが……」
「なるほど。その調査団が茸人族の村に入ってから消息を絶ったと?」
「はいその通りでございます。つい先月のことでございます」

 村長は事前報告にあった内容と概ね同じことを語ってくれた。

 村長の反応に特に不審な点はない。茸人族側に何か異変が起きていると見て間違いないな。

「やはり直接確かめるしかないですね。我々が茸人族の村に向かって調査してきましょう」
「わかりました。よろしくお願いします。向かう際はこのポーションを飲んでくださいませ」

 村長は禍々しい色をしたポーションを渡してきた。ギルドからの情報がなければ完全に毒だと思ってしまうぞこれは。

「ああこれが例の身体を縮める薬ですか。村に伝わる秘伝の薬とか」
「はい。これを飲みませんと茸人族の村に入ることができません。茸人族の村への道は防犯上のためか、酷く狭いものでして。普通の人間は通れませんので」

 俺とエリザに関しては、スキル【変化】があるからこのポーションがなくても茸人族の村に渡れそうだが、レイラたちは飲まなきゃ無理だろうな。

 まあエリザのスキル【共有】を使って【変化】を共有すればいいだけだが、パープルに【共有】や【変化】があることはバラしてないからな。素直にこの薬を使って身体を小さくした方がいいな。

 この禍々しいポーション、どんな味か少し興味あるしな。怖いもの見たさで飲んでみたいぞ。

「わかりました。向かう際はこの薬を飲みましょう」
「それと、向かう際は私の孫に案内させましょう。ハンター、入ってこい」

 村長に促され、部屋に一人の男が入ってくる。

 老いさらばえた村長とは似ても似つかない、エネルギーに満ちた偉丈夫の若い男だ。

 野性味溢れるイケメン君だね。村長の孫で、ハンターという名前らしい。

「アンタたちが例の冒険者か。よろしく頼むぜ」

 ハンターはぶっきら棒に挨拶してきた。

「行方知れずとなった調査団の内の一人、この村出身の学者ってのは、俺の幼馴染で婚約者なんだ。気が気じゃねえよ」
「そうだったんですか。それは心配ですね」
「ああ心配どころの話じゃねえぜ。夜も碌に眠れねえよ」

 ハンターは吐き捨てるように言う。

「本当は村の仲間を引き連れてすぐに様子を見に行きたかったんだがな……」
「それは私が止めました。茸人族の村に繋がるマッシュ峡谷は魔物の住処でもあります。ハンターは村一番の力自慢ですが、村の連中だけで行かせるのは危険だと判断しました。茸人族の村に入っても何が起きるかわかりませんし……」
「ちっ、過保護すぎんだよ爺さんはよぉ!」
「過保護なもんか。お前は大事な跡取りなんじゃぞ。息子たちが全員不幸になっちまったからのぉ……」
「俺は親父や叔父さんと違って軟弱じゃねえッ!」
「これハンター! 死んだ人間にそんなことを言うものではない!」

 ハンターと村長は言い争う。

「先走らなかったのは賢明ですね。焦って被害者が増えては最悪ですから。調査団には護衛の冒険者もついてたという話ですし、茸人族の村で何かしらの異変が起きていることは間違いないでしょう。玄人の集団で行動した方がいいです」
「ああだからお前たちの力を借りたいってんだよ、頼むぜ本当!」

 婚約者が危険な目に遭ってるかもしれないと聞き、ハンターは苛立ちを隠せない様子だった。

 居ても立っても居られないといった感じだな。礼も失って乱暴な言葉遣いとなっている。無理もない。

「ハンター、そんな乱暴な言葉遣いはやめろと……」
「構いませんよ村長。それじゃ明朝、夜明けと共に発ちましょう」
「ああ頼むぜ、俺も寝る」

 話が終わるとハンターはすぐに部屋を出ていった。村長がペコリと頭を下げて孫の無礼を詫びる。

 その後、村長と諸々の話を済ませる。

 寝床は村長さんの別荘を借りることになった。この村に宿はないらしい。ジョーア村と同じで僻地の村だからだろう。

 一通り話し終えると明日までやることもなくなったので、村長に大事なことを尋ねてみることにした。

「村長さん。この村に娼館はありますか?」
「へ? ああ女ですか。あいにくそういった施設はございません。なにぶん田舎ですから」
「そんな!? 俺の生きる意味が!?」

 娼婦がいない。つまり手軽に吸血できないということだ。

「はは、噂通りの好色な御仁のようですな。ご安心下さい」

 ショックを受けて呆然としていると、村長が苦笑した様子で口を開いた。

「娼館はありませんが、私娼が幾らかおります。手配して夜伽させましょうか?」
「ああそうですかよかった。では頼みます」
「かしこまりました。

 村長にゴルゴン金貨を握らせて三人ほど娼婦の斡旋をお願いし、俺とエリザはワクワクしながら夜を待った。

 やがて夜になり、俺たちは村長に指定された空き家へと赴くことになったのだった。
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