吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

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七章

宿泊者名簿No.22 毒蜘蛛構成員クロ4/8(狩り)

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 準備をして待ち構えていると、学術ギルドの連中と護衛の冒険者たちが、のこのこと村跡地にやって来た。

 俺はスキル【縮小】を使い、部下たちは特殊ポーションを使って身を縮め、瓦礫の隙間から相手の様子を伺った。

「――そんなっ、茸人族たちの村が全滅してる!?」

 眼鏡をかけた頭の良さそうな研究員の女が廃墟と化した村を見るなりそう叫んだ。

「リサ研究員、ここに本当に村があったのですか? どう見ても廃墟にしか……」
「以前来た時は、確かにここに村があったはずです。活気溢れるいい村だったのに……酷い……うぅ」

 学術ギルドから派遣された研究員の女――リサ。

 彼女はマッシュ村とかいう近隣の出身らしく、茸人族たちと知り合いだったらしい。村の惨状を見て絶句といった表情で涙を流していた。

 リサは眼鏡をかけてて化粧っ気も何もない、いかにも学者女って感じの野暮ったい女だったが、顔立ちはとてつもなく美人だった。分厚い冬物衣服の上からでもちゃんと存在がわかるくらいに乳も尻もでけえし、色っぽい良い女だった。

「リサ殿、うろたえるな。魔物が潜んでいるかもしれない。気をしっかり持つのだ!」

 村の惨状を見て取り乱すリサだったが、冒険者チームのリーダーの女が鼓舞し勇気づけた。

 編み込んだ薄青の長髪とキリリと引き締まった涼やかな顔立ちが印象的な若い女。言葉遣いは格調高く、持っている槍の鋭さといったら恐ろしいくらいのものだった。

 その時は誰だかわからなかったんだが、後で鋼等級の“烈槍のディアン”というそれなりに名の知られた奴だとわかった。奴が一度その槍を振り回せば、周りにいる者共を全て薙ぎ払うとかなんとか。

 ディアンはまだ尻の青いメスガキの頃に村の幼馴染の男たちと旗揚げして冒険者稼業を始め、リーダー格に納まっているという、いわゆる女傑というやつだった。

「とにかく生存者がいないか探そう。原因究明はそれからでよろしいか、リサ殿」
「はいよろしくお願いしますディアンさん。申し訳ありません、動揺して取り乱してしまいました」
「無理もない。幼い頃から知っている村の惨状を見れば誰でもそうなるさ」

 ディアンは一見すると冷血な印象を受ける女だが、決して冷血ではなく、弱者を労わる心を持っていて笑うと綺麗な女だった。男勝りで強いが女らしさも兼ね揃え、乳もそれなりにある色っぽい女だった。

「――女はあのリサとかいう学術ギルドのまとめ役の女と、冒険者チームの紅一点でリーダーのディアンという女だけだな」
「どちらも美人ですね。クロさん、捕らえますか?」
「もちろんだ。うーん、男はオタクみたいなブサイクばかりだし男娼にはならんな。よし、女二人は生かして、それ以外は殺すぞ」
「わかりやした」
「ローパーたちも理解したか?」
「シュルゥ(了解)」

 獲物を見定め、部下たちと作戦を練る。それから行動を起こす。奴らが寝静まった頃を見計らって奇襲することにした。

「――破壊跡から見て、自然災害の類によるものではないでしょう……。魔物の仕業だとしたら恐ろしいことです。村一つを壊滅させられるなんて、少なくとも銅等級以上です。考えたくないですが……」
「リサ殿、ここは最悪を想定して動くべきだ。魔物の仕業だとすれば、どのようなことが考えられるのだ?」

 リサとディアン、二人は夜遅くまで話し合っていた。女性同士同じ天幕内に泊まっているので、話がし易いようだった。

 俺は天幕の影に隠れながら、その会話をこっそりと聞いていた。

「そうですね、この集落は狭い岩穴のおかげで要害の地となっていて大きな魔物は入って来られません。となると普通に考えれば、身体の形状を自在に操れるスライム系統の敵が想定されます。村人たちの死体が一つも残っていないことを考えると、上級スライムの仕業だとすれば説明がつきます」
「そうか。スライム以外の可能性は?」
「身体の形状を変えられるなど、スライム種以外にはそう多く考えられません。特殊なスキルを持ったユニーク個体の魔物だとすれば、無限の可能性がありますから特定できません。最悪を考えればキリがありません。ダンジョンマスターの仕業なんて考えたくもありませんね」

 リサは学者らしく賢げによどみなく喋る。

「ダンジョンマスター? そんな伝説の存在が本当にいるのだろうか? 確か魔王と謳われる存在ではなかったか? 天を作り地を作りダンジョンを作り出すとかなんとか」
「冒険者さんたちにとっては伝説の存在でも、文献によればダンジョンマスターはそれほど珍しい存在ではありませんよ。毎年のように、世界のどこかでその可能性が疑われる存在が討伐されたと報告されています。学術ギルドの見解としては特殊な力を持った魔物ではないかと指摘されています。魔王という表現はあながち間違いじゃないですね。魔物を束ねて人に害を齎す事例が多々報告されてますから。古の伝承に記されている魔王は、ダンジョンマスターであった可能性が高いそうですよ」
「そうなのか。恥ずかしい話だが寡聞にして知らなかった」
「最近の説ですから知らなくても無理ないですよディアンさん。ちなみに、ここロキリア王国領内でもつい先日、ダンジョンマスターと思しきものの討伐報告がありました。イティーバの港町で確認されたようです」
「それは真か?」
「ええ。そのダンジョンマスターは中々狡猾だったようで、冒険者として活動しながらイティーバの支配を目論んでいたようです。九頭竜島という無人島にダンジョンを作っていた形跡があったようですよ」
「そうかイティーバか。そんなわりと近場の所に伝説のダンジョンマスターがいたとはな。寡聞にして知らなかったよ」

 二人は茸人族の村を襲ったものの正体についてあれこれと議論していたのだが、聞いていた俺は笑いを堪えるので必死だった。

 ダンジョンマスターだなんて見当外れもいいとこだぜ。俺たちゃ毒蜘蛛だっつうの。伝説の魔王様も恐れをなす、大盗賊団だっての。

「リサ殿、ではそのイティーバのダンジョンマスター、あるいは眷属が生き延びていて、この集落を襲ったという可能性は?」
「その可能性は限りなく低いかと思います。件のダンジョンマスター、魔王マミヤと俗に言われているらしいですが、その魔王はスイという鋼等級の冒険者が長年ずっと内偵調査していたらしく、それで討伐されたという珍しい事例でした。彼女の報告では、魔王マミヤがマッシュ村近辺に近寄ったという報告はなかったはずです。魔王マミヤ及びその眷属が引き起こしたとは思えません」
「そうなのか。寡聞にして何も知らなかった……」
「鋼等級冒険者“歌姫スイ”のことなら、冒険者であるディアンさんの方がお詳しいんではないですか?」
「すまない。スイなる冒険者についても寡聞にして知らない。鋼等級は世にそれなりといるので根城にしている町の連中くらいしか知らんのだ。王都の“鋼のガンドリィ”殿なら色々と有名なので知っているが……」
「ガンドリィさんは色々と有名ですよね。畑違いの私でもよく知ってます」
「確かに色々と有名だな。あの御仁は」

 二人の話を聞いていて、俺は思わず噴出しそうになるのを堪えた。

 鋼のガンドリィと言えば、悪目立ちしてるので誰でも知ってる。男色野郎として盗賊共の間でも有名な男だ。

 なんでも男色趣味が行き過ぎてギルド上層部や貴族に嫌われており、本来はもっと上のはずの冒険者階級が鋼等級でずっと止まってるって噂だ。

 強いのに勿体ねえ話だ。ガンドリィは馬鹿なんだろうきっと。

 まあ男色野郎のことなんざ、この際どうでもいいわな。

「そうですか。ディアンさんは歌姫スイを知りませんか。彼女とお知り合いなら魔王マミヤついて詳しくお話をお聞きしたかったんですが残念です。ダンジョンマスターの謎の解明は、学者として誰もが抱く夢ですから。色々とお聞きしたかったのです」
「力になれなくてすまないな。それにしてもリサ殿は私より年下であるのに博識でいらっしゃる。貴女と話していると、自分の寡聞さが恥ずかしいよ」
「まあ一応学者の端くれですので。知識だけが武器ですからね。それで負けたら商売あがったりというやつですよ」
「ふむ。ではその博識のリサ殿の推測では、今回の件はスライムの上位種の仕業ではないかということなのだな?」
「ええ。今の所はそのように見ています。ダンジョンマスターの仕業だとは……考えたくないですね」

 二人は見当外れもいいとこの話をしていた。だから俺たち毒蜘蛛の仕業だっちゅうのに。

 まあ勘違いするのも無理もねえ話かもな。普通の人間は一介のならず者集団が魔物を操って村を跡形もなく滅ぼせるなんて考えもしねえ。

 毒蜘蛛は御伽噺の魔王、ダンジョンマスターみたいなことをやってるんだ。

 天下の学者様や熟練の冒険者様すらも欺き通せてる様子を見て、俺は「やっぱ毒蜘蛛はスゲエ」って何回目になるかわからねえくらいの尊敬の念を抱いた。

「少し長話をしてしまったな。そろそろ休もうか。この岩穴内に強い魔物の反応はないようだし、今の内にゆっくりと休んでおこう」
「ですね。魔物探知のために念のために持ってきた“魔告げ鳥”も何の反応もありませんし、安心して眠るとしましょう」

 二人は話を切り上げると、床に就き始めた。

(ようやくおねんねしてくれたか。ったく、女の子の話は無駄に長いぜ)

 これで見張りの奴以外は全員が床に就いたことになる。それを見届けた俺はすぐに行動を開始した。

――スキル【縮小】発動。MAX発動。

 スキルを再発動し、さらに小さな身体となる。虫くらいの大きさになって、見張りに就いていた男の背後に近づく。

――スキル【縮小】解除。

 スキルを解除して元の大きさに戻り、一気に奇襲する。男はすぐに俺の気配に気づいたようだが遅いぜ。

「――なっ、がぁぅっ」

 男の首筋にナイフを一閃。男はほとんど声を上げることもなく沈黙した。

 物言わぬ骸と化した冒険者を見下ろし、思わずにやついてしまう。

(熟練の冒険者をこうも簡単に殺せるとはな。本当に俺は強くなったらしい。カバキさんのおかげだぜ)

 俺のスキルを駆使すれば背後をとることは容易いが、以前はたとえ背後をとったとしても、瞬殺なんてできなかった。結果が見えているので実際に殺しあったことなんてなかったが、仮に戦ったとしたら、相手に反撃されてぶちのめされるだけだっただろう。

 だが今は違う。反撃されることもなくこちらがそのまま完封して倒すことができるようになったのだ。

(力が張るぜぇ。最高だ。これで俺はまた強くなったぜ)

 冒険者の男を殺したことでさらなる力を手に入れることができた。

 エビスの加護。人を殺しても手に入るらしい。エビス教の教義に反する行為だっていうのに。

 俺は元々戦闘向きじゃなかったこともあり、生まれてこの方荒事や人殺しの類は避けてきた。スキルを生かしたこそ泥生活ばかりをやってきた。そのせいでエビスの加護が受けられず、余計に戦闘が苦手になっていたらしい。

(善良な人間を殺してもエビスの加護が得られるとはなぁ。そんな事実、エビス教の連中は隠すに決まってるよな。くくく)

 悪人以外の人間を殺してもエビスの加護は得られる。カバキさん風に言うならば、それは世界にとって不都合な真実なのだろう。

 確かに、人殺ししまくってる悪人にもエビスの加護が得られてるなんて、一般人には伝えられねえ話だわな。世界を安定させてる秩序ってやつが壊れちまうからな。

(――よし、前よりももっと早く動けそうだぜぇ)

 見張りの男を殺したことで、俺は自身の持つ力、特に素早さが伸びたことを明らかに実感していた。

 カバキさん曰く、俺の性質は根っからの“盗賊型”というやつらしい。エビスの加護を受ける度に速さや身のこなしが格段に良くなっていくのだとか。

 エビスの加護の受け方にも人によって決まりがあるなんて知らなかった。毒蜘蛛に入ったおかげで、世の中の隠された真実にまた気づくことができた。

『君なら七英雄の盗賊王にも並ぶ伝説の男となれるかもしれませんね』

 カバキさんにそう言われたことは忘れられねえ。そう言われて本当になれる気がした。

 一気に強くなった俺は、天にも昇るような気持ちであった

(もっと強くなるには、もっと奪うしかねえわけだ。奪って奪って奪いまくるぜ!)

 俺は勢いそのまま、野郎共のいる天幕に忍び込み、寝ていた男たちを次々に始末していった。まずは冒険者の男共を全員屠り、次に学術ギルドの男たちを屠った。

「っ!? 馬鹿な、血の臭いだと!?」
「な、何事ですか?」

 ぐっすりおねんねしていた冒険者の女ディアンと研究員リサだが、やがて辺りに漂う血臭に気づいたようだった。

(流石に気づいたか。鋼等級のあの女とはまともに戦わない方がいいな。一時撤退だ)

 俺はすぐに戦線離脱すると、指輪の力を使い、遠くに潜ませていたローパー共を呼び寄せた。

「ピィー! ピィー!」
「魔告げ鳥が鳴いてる!? 嘘、ローパー!? 何でこんなところに!?」
「ローパーだと!?」

 魔物の気配が急に現れたことで、残った二人は酷く慌てていた。

「みんな魔物にやられたというのか!? そんな馬鹿な!? 嘘だッ!?」

 普段は冷静な女傑ディアンといえど、仲間共の骸を見て冷静ではいられなくなったらしく酷く取り乱していた。

 そんな心境で格上の魔物であるローパー十匹を相手に単独で、しかもお荷物である学者女を守りながら戦う。

 そんなのは、いくら若く才能ある冒険者だと謳われてる女でも無理な話だ。ディアンは奮戦するものの、ローパー三匹ほど倒したところで、あえなく敗れることとなった。

「きゃぁあああ!?」
「リサ殿!? しまっ――くぅうう!?」

 やがて二人はローパーに捕らわれることとなった。

「いやぁあああ! 服がぁああ!」
「や、やめろぉお! 溶かすなぁああ!」

 ローパーの溶解液で装備品を溶かされ、二人は真っ裸のまま空中に晒されることとなった。

 岩穴のいたるところに生えてる光る茸のおかげで辺りは照らされ、その様子がはっきりと見えて面白かったぜ。

「ひゃあっ、やめて、そんなとこ!」
「くっ、やめろっ、あっ、やめっ」

 ローパーの触手がヌルヌルとなった女たちの身体に纏わりつく。

 学術ギルドの美人研究員と鋼等級の美人冒険者がローパーに襲われてるなんて光景、めったにお目にかかれるもんじゃねえ。変態貴族共が大金払ってでも見たいような光景がそこに広がっていた。

 毒蜘蛛に入らなきゃ、こんな光景は拝めなかっただろうな。最高すぎるぜ。

「ローパーよ、そこまでだ。間違っても挿入なんてするんじゃねえぞ」
「シュルウ(了解)」

 完全に制圧したのを見て、俺は部下の野郎共と一緒に姿を現した。裸で吊り上げられている女たちをニヤニヤと笑いながら見上げる。

「人間!? 嘘、ローパーを操ってるの!? しかも複数匹も!?」
「貴様らっ、いったい何者だ!?」

 現れた俺たちを見て、リサとディアンが叫ぶ。

「魔物を操る……まさかダンジョンマスターなの!?」
「くっ、まさか魔王に遭遇するなんて!」

 二人はこの期に及んで勘違いしているようだった。

 まあこんな強い魔物を操ってるのを見たら、そう思うのも無理もねえ。

 ダンジョンマスターなんて規格外の存在に間違えられて、俺は鼻高々だった。

「お前ら、ダンジョンマスター云々なんて気にするよりも他に気にすることがあるんじゃねえのか? くくっ、大事なところが丸見えだぜ?」
「いっ、いやあ!」
「うっ!?」

 俺が煽るように指摘してやると、二人は顔を真っ赤にして恥らっていた。

 隠そうにも触手によって手足が拘束されているから隠せない。二人は空中でジタバタと暴れるしかなかった。

「くく、帰ってからお楽しみだな」

 それから二人をアジトに連れ帰り、しばらくの間楽しむことにした。

 こんな高嶺の花を好き放題に手折れる。やっぱ毒蜘蛛は素晴らしいと、俺はまたしても同じ感想を抱くのであった。
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