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七章
宿泊者名簿No.23 村長の孫ハンター2/7(たった一度の過ち)
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「はっ!? えっ、なっ!? はぁあああッ!?」
裸のナンを前にして、素っ頓狂な声を上げてしまう。酔っ払いすぎて自分の頭がおかしくなっちまったんじゃねえかって思ったくらいだ。
だが俺の頭は正常だった。連中の頭がおかしいだけであった。
「ぷっ、くふふ!」
「ギャハハ!」
「ハンターの反応、最高すぎるだろ!」
ナンと野郎共は悪戯が成功したとばかりにゲラゲラと笑い始めた。からかわれたのだと知り、俺の顔はカッと熱くなった。
「お前ら! 悪ふざけも大概にしろ! つかナン、お前もいい歳して裸なんて軽々しく見せてんじゃねえよ! さっさと隠せ、お嫁に行けねえぞ!」
「ギャハハ! お嫁だって、ハンター、真面目すぎ!」
「純情すぎィ!」
「やっぱ童貞か! まだリサには手を出してなかったな!」
「ナン、早くハンターの童貞奪ってやれって!」
何が楽しいのか、ナンと野郎共は俺の反応を見てゲラゲラと笑い続ける。酒の勢いもあるのか延々と笑い続けてやがった。
「アハハ、ハンター可愛すぎ!」
ナンなんて全裸のまま手を叩いて飛び跳ねて大はしゃぎだった。飛び跳ねる度に乳房がプルンと揺れて、俺は思わず視線を逸らした。
そんな俺の態度も、奴らは目敏く認識して、笑いものにしやがった。
「テメエら、俺がそういう経験ねえからってからかってやがんな! 不愉快だぜ、帰る!」
「まあ待てよハンター。そうじゃねえよ聞けよ」
怒って帰ろうとする俺の腕を野郎共ががっしりと押さえ込んだ。力自慢の俺と言えど、複数の野郎共に押さえられると流石に動きが止まった。
「笑い者にして悪かったよ。いいから俺たちの話を聞けって」
「ちっ、なんだよ」
連中は笑うことを止めて話しかけてきた。俺は渋々、連中と向き合うことになった。
「最近、お前元気なかっただろ。リサちゃんいなくて色々寂しいのかと思ってよ。それで俺たちが一計を案じて元気づけてやろうと思ったわけ。それでここにいる村一の淫売ナンに――」
「誰が淫売よ! 誰がアンタらを男にしてやったと思ってんのよ! もうやらせてやんないわよ!」
「冗談だって冗談! ここにいる村一番の美少女で天使であらせられる――」
「村一番の美少女で天使はリサよ! アタシは二番! アンタの目は節穴なの!?」
「あぁもう面倒臭ぇな! そこは嘘でも一番でいいだろ! 話の腰を折るなって!」
連中は喧しく騒ぎながらも事情を説明してくれた。
その説明は、俺の理解を超えているものだった。
「――そういうわけで、ここにおわす我が村の女神ナンに頼んで、ハンターを慰めてもらおうって思ったわけだ。ナンは快く引き受けてくれたってわけよ。こいつ、童貞食いが趣味だしさ」
元気のない俺をナンが女の身体を使って癒す――それが奴らが企てた計画だった。とんでもない話であった。
「ふざけんな! 俺はリサに操立ててんだ! 他の女となんか寝るか!」
「おいおい、時代錯誤すぎるぜハンター」
キレる俺を、連中は真面目な顔して諭してきやがった。
「女の処女と違って、男の童貞なんて何の価値もねえぞ。便所のスライムの餌にもならねえ。いいからナンに捨てさせてもらえって。恥ずかしがるこたぁねえ。ここにいる皆だってほとんどがナンに捨てさせてもらってるんだからよ」
「そうだぞ。村長の孫ともあろうお前が、未来の村長であるお前が、童貞のままでいいと思ってんのかよ。いいからちゃんと捨てておけって」
「早く俺たちと穴兄弟になろうぜ!」
結婚するまで純潔を保って淫らなことはしない。そういうもんだと思っていた俺は、頭を殴られたような衝撃を受けた。
「嫌だ! 俺は童貞を守る! リサと約束してるんだ!」
「おいおいダセえぜハンター。もう俺ら世代で童貞なんてほとんどいないぞ」
「村の若い奴でも社交性のない引き篭もりみたいな陰気野郎以外は皆捨ててるしな。よほど気持ち悪い奴でない限り、ナンが捨てさせてくれるからな」
「捨ててねえのはほら、お前んとこの下男のアイツみたいな奴くらいだよ。ラギリっつったっけ? アイツ本当に気持ち悪いよな。いつもニタニタと薄ら笑い浮かべてて、おまけに茸みたいな変な髪形してるしよ」
「アタシもアイツだけは無理ィー。頼まれても相手すんのやだぁ。大金積まれたら考えるけどさ」
ラギリと一緒。そう言われて、ちょっと焦りを感じた。ラギリと同一視されることを、なんとなく嫌だと思ったのだ。
(俺はラギリのことをそんな目でっ、くそっ、いつからそうなった! アイツも仲間じゃねえのかよ!)
村人は全員仲間。どんな奴でも仲間。
そう思っているつもりだったが、自分の中に差別意識があったのだと、この時初めて気づいた。
「ラギリのことを悪く言うんじゃねえよ。アイツも苦労してるんだ。両親死んで、幼い時から俺ん家で働いてくれてるんだ。俺にとっちゃ幼馴染の兄弟みたいなもんなんだよ」
「はいはい。ハンターはいい奴だよな。あんなキモい奴でも村の一員と認めてるんだからさ」
俺は罪悪感を誤魔化すかのように、ラギリのことを擁護した。
ウチで奉公してる同年代の子ということで昔はそれなりに仲良くしてたはずだが、いつしかほとんどつるまなくなった。自然と距離が開くようになったのだ。
ラギリは昔はいい笑顔を見せるやつだったが、いつしか薄気味の悪い笑顔を浮かべるようになって、無駄なことはほとんど喋らなくなっちまったからな。何考えてるのかわからない奴になっちまった。
「俺やだぜ! 俺たちの大好きなハンターが、あんな陰気野郎のラギリと一緒の童貞なんて嫌だ!」
「俺ら世代の一番の男が童貞なんて勘弁してくれよ!」
「ハンター、頼むから童貞捨ててくれ! 俺たちのために!」
「早く穴兄弟になろうぜ! 穴兄弟の盃を交わそうぜ!」
野郎共は酒の入ってる影響もあるのか、俺の童貞を捨てさせようと必死だった。
めちゃくちゃ仲間意識を持ってくれていることは有難かったのだが、だからと言ってそんな要求を呑むわけにはいかない。
「なんでテメエらにそんなこと言われなきゃなんねえんだよ! ちくしょうが!」
俺の貞操がかかっているのだ。奴らの言いなりになんて絶対ならないぞと、俺は抗った。
「ハンター、早くアタシとエッチしようよ。ほらこれがピーだよぉ。早くピーピーしよ?」
「だぁああ! ナン、そんな大事な所を軽々しく見せびらかすんじゃねえ!」
ナンは目の前でからかうように誘惑してきやがった。
「おいおい、この期に及んで逃げんなってハンター」
「くそっ」
逃げたかったが、野郎共に手足を押さえられて逃げられなかった。
(くそっ、やべえぇっ、下半身に血が上る! 不味い不味い、うおおおッ!)
初めて生で見る女体に興奮して抱きたいという気持ちが湧き上がってきたが、俺は必死に抵抗し続けた。リサのことを思って抵抗し続けた。そんな時のことだ。
「アタシってさ、そんな魅力ない?」
「え?」
ナンが突如そう言って、ほろりと涙を流したのだった。突然の女の涙に、俺は戸惑った。
「あー、ハンターが泣かした」
「こんだけしてくれてんのに据え膳食わないとか、女の子としては泣いちゃうよなぁ」
「村の女神を泣かすとか、ハンター、お前、サイテー」
「村長の孫失格だろ」
ナンに泣かれ、野郎共に責められ、俺は強い罪悪感を抱いた。
女を泣かせてしまった、男失格だと思った。咄嗟にナンを抱きしめてこう言った。
「すまねえ。ナンは魅力的だよ」
俺の柄じゃねえがそんなキザなことを言ってしまう。酒が入ってたせいもあるんだろう。リサにも言ったことのないような甘い言葉を言ってナンを慰めてしまった。
「本当?」
「ああ」
「じゃあエッチしよ? アタシにハンターの童貞、ちょうだいよ」
「……あぁ」
気づけばナンといい雰囲気になっていた。野郎共は空気を呼んだのかいつの間にかいなくなっていた。
一転して静かになった納屋の中。使い古された敷物の上で、俺たちは月明かりを頼りに、お互いの身体を求め合うことになった。
(ここまで来たら仕方ねえ。すまねえリサ)
そうして俺は罪悪感を抱えつつナンを抱いた。月明かりに照らされたナンは、まるで伝説の淫魔のように美しく艶かしかった。
「――ハンターのピーってマジでピーくてピーピーだね。たぶん村一番のピーだよ」
事が済んだ後、ナンは恥ずかしげもなくそんなことを言った。
「そうなのか?」
「うん。この前やった冒険者さんのピーよりピーピーだよ」
「冒険者ともやったのか?」
「うん。アタシんち貧乏だから身体売ってお金稼がないとなんだ。私が村の男子を筆下ろししまくってるってのを聞きつけた村長に頼まれて、最近、外の人を相手に稼ぎ始めたの」
「爺さんめ……俺には何も言ってなかったぞ」
「へえハンターにも言ってなかったんだ。村長って口が堅くて素敵ね」
幼い頃から立派だと思っていた爺さんだが、ナンの口からその裏の一面を知ることになった。
昔なら義憤に駆られて怒鳴り込んでいた所だろうが、今は怒る気にはならなかった。村の若い娘に売春を勧めるとは酷い話だが、爺さんは色々なことを考えて最良の判断をしているのだろう。
清濁併せ持つ。そんくらいでなければ田舎村の村長なんてやっていられないのだろうと思った。
「アタシ、村長には感謝してるのよ。だからお礼に一発やらせてあげるって言ったんだけど、もう歳で不能だから無理って言われちゃった」
「爺さん、そうだったのか……」
ナンはお喋りで、爺さんの聞きたくない一面も知ることになっちまった。もう顔を合わせる度にそのことしか思い浮かばねえよ。
「じゃあねハンター。今日は楽しかったよ」
「あぁ……」
そう言って、ナンは去っていった。
ナンとはそれっきりであった。その後度々誘われたが、俺は今更であるがリサに申し訳ないと思い、断り続けた。
婚約者というものがありながら他の女と寝てしまった。一度犯した過ちに後悔することもあったが、前向きに考えることにした。
練習だと思うことにした。あれは浮気ではなくただの練習、ナンはそれに付き合ってくれただけ、だから不貞ではない。一度きりなら不貞じゃない。
苦しい言い訳だがそう思うことにしたのだった。
裸のナンを前にして、素っ頓狂な声を上げてしまう。酔っ払いすぎて自分の頭がおかしくなっちまったんじゃねえかって思ったくらいだ。
だが俺の頭は正常だった。連中の頭がおかしいだけであった。
「ぷっ、くふふ!」
「ギャハハ!」
「ハンターの反応、最高すぎるだろ!」
ナンと野郎共は悪戯が成功したとばかりにゲラゲラと笑い始めた。からかわれたのだと知り、俺の顔はカッと熱くなった。
「お前ら! 悪ふざけも大概にしろ! つかナン、お前もいい歳して裸なんて軽々しく見せてんじゃねえよ! さっさと隠せ、お嫁に行けねえぞ!」
「ギャハハ! お嫁だって、ハンター、真面目すぎ!」
「純情すぎィ!」
「やっぱ童貞か! まだリサには手を出してなかったな!」
「ナン、早くハンターの童貞奪ってやれって!」
何が楽しいのか、ナンと野郎共は俺の反応を見てゲラゲラと笑い続ける。酒の勢いもあるのか延々と笑い続けてやがった。
「アハハ、ハンター可愛すぎ!」
ナンなんて全裸のまま手を叩いて飛び跳ねて大はしゃぎだった。飛び跳ねる度に乳房がプルンと揺れて、俺は思わず視線を逸らした。
そんな俺の態度も、奴らは目敏く認識して、笑いものにしやがった。
「テメエら、俺がそういう経験ねえからってからかってやがんな! 不愉快だぜ、帰る!」
「まあ待てよハンター。そうじゃねえよ聞けよ」
怒って帰ろうとする俺の腕を野郎共ががっしりと押さえ込んだ。力自慢の俺と言えど、複数の野郎共に押さえられると流石に動きが止まった。
「笑い者にして悪かったよ。いいから俺たちの話を聞けって」
「ちっ、なんだよ」
連中は笑うことを止めて話しかけてきた。俺は渋々、連中と向き合うことになった。
「最近、お前元気なかっただろ。リサちゃんいなくて色々寂しいのかと思ってよ。それで俺たちが一計を案じて元気づけてやろうと思ったわけ。それでここにいる村一の淫売ナンに――」
「誰が淫売よ! 誰がアンタらを男にしてやったと思ってんのよ! もうやらせてやんないわよ!」
「冗談だって冗談! ここにいる村一番の美少女で天使であらせられる――」
「村一番の美少女で天使はリサよ! アタシは二番! アンタの目は節穴なの!?」
「あぁもう面倒臭ぇな! そこは嘘でも一番でいいだろ! 話の腰を折るなって!」
連中は喧しく騒ぎながらも事情を説明してくれた。
その説明は、俺の理解を超えているものだった。
「――そういうわけで、ここにおわす我が村の女神ナンに頼んで、ハンターを慰めてもらおうって思ったわけだ。ナンは快く引き受けてくれたってわけよ。こいつ、童貞食いが趣味だしさ」
元気のない俺をナンが女の身体を使って癒す――それが奴らが企てた計画だった。とんでもない話であった。
「ふざけんな! 俺はリサに操立ててんだ! 他の女となんか寝るか!」
「おいおい、時代錯誤すぎるぜハンター」
キレる俺を、連中は真面目な顔して諭してきやがった。
「女の処女と違って、男の童貞なんて何の価値もねえぞ。便所のスライムの餌にもならねえ。いいからナンに捨てさせてもらえって。恥ずかしがるこたぁねえ。ここにいる皆だってほとんどがナンに捨てさせてもらってるんだからよ」
「そうだぞ。村長の孫ともあろうお前が、未来の村長であるお前が、童貞のままでいいと思ってんのかよ。いいからちゃんと捨てておけって」
「早く俺たちと穴兄弟になろうぜ!」
結婚するまで純潔を保って淫らなことはしない。そういうもんだと思っていた俺は、頭を殴られたような衝撃を受けた。
「嫌だ! 俺は童貞を守る! リサと約束してるんだ!」
「おいおいダセえぜハンター。もう俺ら世代で童貞なんてほとんどいないぞ」
「村の若い奴でも社交性のない引き篭もりみたいな陰気野郎以外は皆捨ててるしな。よほど気持ち悪い奴でない限り、ナンが捨てさせてくれるからな」
「捨ててねえのはほら、お前んとこの下男のアイツみたいな奴くらいだよ。ラギリっつったっけ? アイツ本当に気持ち悪いよな。いつもニタニタと薄ら笑い浮かべてて、おまけに茸みたいな変な髪形してるしよ」
「アタシもアイツだけは無理ィー。頼まれても相手すんのやだぁ。大金積まれたら考えるけどさ」
ラギリと一緒。そう言われて、ちょっと焦りを感じた。ラギリと同一視されることを、なんとなく嫌だと思ったのだ。
(俺はラギリのことをそんな目でっ、くそっ、いつからそうなった! アイツも仲間じゃねえのかよ!)
村人は全員仲間。どんな奴でも仲間。
そう思っているつもりだったが、自分の中に差別意識があったのだと、この時初めて気づいた。
「ラギリのことを悪く言うんじゃねえよ。アイツも苦労してるんだ。両親死んで、幼い時から俺ん家で働いてくれてるんだ。俺にとっちゃ幼馴染の兄弟みたいなもんなんだよ」
「はいはい。ハンターはいい奴だよな。あんなキモい奴でも村の一員と認めてるんだからさ」
俺は罪悪感を誤魔化すかのように、ラギリのことを擁護した。
ウチで奉公してる同年代の子ということで昔はそれなりに仲良くしてたはずだが、いつしかほとんどつるまなくなった。自然と距離が開くようになったのだ。
ラギリは昔はいい笑顔を見せるやつだったが、いつしか薄気味の悪い笑顔を浮かべるようになって、無駄なことはほとんど喋らなくなっちまったからな。何考えてるのかわからない奴になっちまった。
「俺やだぜ! 俺たちの大好きなハンターが、あんな陰気野郎のラギリと一緒の童貞なんて嫌だ!」
「俺ら世代の一番の男が童貞なんて勘弁してくれよ!」
「ハンター、頼むから童貞捨ててくれ! 俺たちのために!」
「早く穴兄弟になろうぜ! 穴兄弟の盃を交わそうぜ!」
野郎共は酒の入ってる影響もあるのか、俺の童貞を捨てさせようと必死だった。
めちゃくちゃ仲間意識を持ってくれていることは有難かったのだが、だからと言ってそんな要求を呑むわけにはいかない。
「なんでテメエらにそんなこと言われなきゃなんねえんだよ! ちくしょうが!」
俺の貞操がかかっているのだ。奴らの言いなりになんて絶対ならないぞと、俺は抗った。
「ハンター、早くアタシとエッチしようよ。ほらこれがピーだよぉ。早くピーピーしよ?」
「だぁああ! ナン、そんな大事な所を軽々しく見せびらかすんじゃねえ!」
ナンは目の前でからかうように誘惑してきやがった。
「おいおい、この期に及んで逃げんなってハンター」
「くそっ」
逃げたかったが、野郎共に手足を押さえられて逃げられなかった。
(くそっ、やべえぇっ、下半身に血が上る! 不味い不味い、うおおおッ!)
初めて生で見る女体に興奮して抱きたいという気持ちが湧き上がってきたが、俺は必死に抵抗し続けた。リサのことを思って抵抗し続けた。そんな時のことだ。
「アタシってさ、そんな魅力ない?」
「え?」
ナンが突如そう言って、ほろりと涙を流したのだった。突然の女の涙に、俺は戸惑った。
「あー、ハンターが泣かした」
「こんだけしてくれてんのに据え膳食わないとか、女の子としては泣いちゃうよなぁ」
「村の女神を泣かすとか、ハンター、お前、サイテー」
「村長の孫失格だろ」
ナンに泣かれ、野郎共に責められ、俺は強い罪悪感を抱いた。
女を泣かせてしまった、男失格だと思った。咄嗟にナンを抱きしめてこう言った。
「すまねえ。ナンは魅力的だよ」
俺の柄じゃねえがそんなキザなことを言ってしまう。酒が入ってたせいもあるんだろう。リサにも言ったことのないような甘い言葉を言ってナンを慰めてしまった。
「本当?」
「ああ」
「じゃあエッチしよ? アタシにハンターの童貞、ちょうだいよ」
「……あぁ」
気づけばナンといい雰囲気になっていた。野郎共は空気を呼んだのかいつの間にかいなくなっていた。
一転して静かになった納屋の中。使い古された敷物の上で、俺たちは月明かりを頼りに、お互いの身体を求め合うことになった。
(ここまで来たら仕方ねえ。すまねえリサ)
そうして俺は罪悪感を抱えつつナンを抱いた。月明かりに照らされたナンは、まるで伝説の淫魔のように美しく艶かしかった。
「――ハンターのピーってマジでピーくてピーピーだね。たぶん村一番のピーだよ」
事が済んだ後、ナンは恥ずかしげもなくそんなことを言った。
「そうなのか?」
「うん。この前やった冒険者さんのピーよりピーピーだよ」
「冒険者ともやったのか?」
「うん。アタシんち貧乏だから身体売ってお金稼がないとなんだ。私が村の男子を筆下ろししまくってるってのを聞きつけた村長に頼まれて、最近、外の人を相手に稼ぎ始めたの」
「爺さんめ……俺には何も言ってなかったぞ」
「へえハンターにも言ってなかったんだ。村長って口が堅くて素敵ね」
幼い頃から立派だと思っていた爺さんだが、ナンの口からその裏の一面を知ることになった。
昔なら義憤に駆られて怒鳴り込んでいた所だろうが、今は怒る気にはならなかった。村の若い娘に売春を勧めるとは酷い話だが、爺さんは色々なことを考えて最良の判断をしているのだろう。
清濁併せ持つ。そんくらいでなければ田舎村の村長なんてやっていられないのだろうと思った。
「アタシ、村長には感謝してるのよ。だからお礼に一発やらせてあげるって言ったんだけど、もう歳で不能だから無理って言われちゃった」
「爺さん、そうだったのか……」
ナンはお喋りで、爺さんの聞きたくない一面も知ることになっちまった。もう顔を合わせる度にそのことしか思い浮かばねえよ。
「じゃあねハンター。今日は楽しかったよ」
「あぁ……」
そう言って、ナンは去っていった。
ナンとはそれっきりであった。その後度々誘われたが、俺は今更であるがリサに申し訳ないと思い、断り続けた。
婚約者というものがありながら他の女と寝てしまった。一度犯した過ちに後悔することもあったが、前向きに考えることにした。
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