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七章
宿泊者名簿No.23 村長の孫ハンター5/7(悪魔と悪魔)
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「――はっ、ここは!?」
気づけば、見知らぬ場所にいた。
外見上はさっきまでいた岩穴と同じように思えるが、漂ってくる酒の臭いやら何やらで違う空間にいるのだとわかった。
(ちっ、夢じゃねえようだな)
夢だったらどれだけよかったことか。見知らぬ場所で、俺は後ろ手に縛られながら拘束されていた。
「よお、お目覚めかよ」
「テメエら何者だ!?」
声のかかった方を見てみれば、明らかに野盗だと思えるような凶悪面な連中が並んでいた。
その中心人物であろう男が声をかけてくる。
「お前、冒険者たちの案内人を務めてるマッシュ村の村長の孫だな?」
「さあな」
「とぼけても無駄だぜ。情報は入ってるからなあ」
「何でわかる?」
「くく、さてな」
俺の方がヨミトたちよりも冒険者らしいというのに、奴らは間違えることがなかった。おまけに村長の孫という立場まで直答しやがった。
奴らは何らかの手段によって俺たちの情報を得ているらしかった。
「立て。こっちに来い」
「くっ」
俺は無理やり立たされ、どこかに連れて行かれることになった。
処刑場で殺されるのかと思ったが、わざわざこんなところに連れてこられたからには、すぐに殺されないだろうとも思った。
「俺をどうするつもりだ?」
「さあな。余計なことは考えずに歩け」
狭い通路を通り、広間に出て螺旋階段を下り、一番下の階に下りていく。
歩いている間、驚愕の光景を目にすることになった。
(こいつら魔物を使役してやがるのか!?)
野盗のアジトには魔物兵が闊歩してやがった。
魔物たちは人間たちと争うことなく大人しくしていた。大人しいどころか命令に従順に動いている。あり得ない光景だった。
そんな驚愕の光景を見せられながら歩き続けることしばらく。俺は地下牢のような場所に連れて来られることになった。
「ひっ」
「お前らには用はねえよ。今はもっと良い玩具があるからな」
一番手前の部屋には裸の女が五人ほど捕らえられていた。酷く怯えているのか、俺たちが通りがかった際に短い悲鳴を上げていた。
野盗共の慰み者となっている女たちだった。いずれも見目美しい女で、どこかの村から誘拐されてきたに違いなかった。
(リサじゃなかったか。よかった)
リサの姿があるかと思って一瞬ドキっとしたが、見知らぬ女ばかりだったので正直ホッとした。
だがホッとしたのも束の間のことだった。一番奥の部屋に至った時、聞き馴染んだ声が聞こえてきた。
「え、ハンター?」
リサの声が聞こえた気がして、俺は慌ててその方角を振り向いた。
そこには絶望が広がっていた。
(リサ!? リサなのか!?)
薄暗い部屋に二人の影。リサとディアンとかいう冒険者だった。二人とも汚濁にまみれた姿だった。
(嘘……だろ?)
目の前の女がリサたちだと信じたくなかった。自分の愛する婚約者が慰み者になっていたなどとは、誰だって考えたくないだろう。脳が理解することを拒絶した。
「リサ?」
「ハンター?」
俺とリサは、呆然とした表情でしばし見つめ合うことになった。向こうも俺と会うとは思わなかったらしい。状況が理解できないようで硬直しているようだった。
「いっ、いやああああ! 見ないでぇええッ!」
先に正気を取り戻したのはリサの方だった。耐え難いとばかりに顔を歪めて絶叫する。
リサのそんな姿を見て、俺は憤怒した。リサにこんな辛い思いをさせた野盗共が許せなくて、射殺さんばかりに睨みつけた。
「テメエらぁあっ、俺の婚約者に何しやがった!」
「こいつ、お前の婚約者だったのか?」
「そうだよ! テメエ、リサになんてことを!」
「ハハッ、そりゃ傑作だぜ!」
野盗共はリサが俺の婚約者だと知ると大笑いした。俺を指差して笑い転げる。
「お前の婚約者と護衛の女、もう二週間もここで俺たちの相手してくれてるぜ! こいつを見ろよ!」
そう言うと、野盗の頭が備え付けられた手回し式の牽引機のようなものを回し始める。それによってリサたちの体勢が変わることとなった。
「いやああ! やめてええ! ハンターに見せないでええ!」
「くぅっ、下劣な男共めえ! 恥を知れ!」
鎖が巻き取られていき、足首に結束されていた部分が引き上げられていく。リサたちは真正面を向きながら蛙がひっくり返ったような体勢となった。
「ここに書かれてる印を、ちゃんと見ろよッ!」
男がリサたちの脚裏を指差しながら言う。
(なんだこれ……)
そこには墨で書かれたような印がぎっしりと書き込まれていた。脹脛から太腿を通りお尻にかけて書き込まれている。縦棒と横棒が組み合わさって出来た印だ。
(何かの符号、数字……まさか!?)
印は何かの回数を表す記号であるとすぐに察しがついた。
この状況下では答えは一つだ。彼女たちが行方不明であった間、どれだけ酷い目に遭っていたのかがすぐに理解できる印。記されている印の数だけ酷い目に遭っていたのだ。
「てめえらああ! 許さねえええ!」
「ギャハハハ!」
発狂する俺を見て、野盗たちはさらに愉快だと笑い転げる。
とてつもなく不快で今すぐこいつら全員ぶち殺してやりたいと思ったが、拘束された無力な状態ではどうしようもなかった。
俺はただ情けなくてプルプルと震えるだけだった。
「それじゃいつも通り、今日もリサちゃんで遊ぶことにすっか。婚約者のお前はそこで指を咥えて見てるんだな。リサちゃんが一生懸命にお仕事するところをたっぷりと見学していろ」
「テメエやめろ! やめやがれええッ!」
「よし野郎共、今日も盛り上がっていくぞォオ!」
「へい勿論ですクロの兄貴!」
野盗共がリサたちが拘束されている部屋に大挙して押し寄せていく。そして婚約者である俺でも触れたことのないリサの身体に触れていく。謎の薬で俺の知らないリサに変えていく。
もう筆舌に尽くしがたい地獄だった。奴らは悪魔だ。
「ちくしょうっ、ちくしょう!」
俺は涙を堪えながら目の前の鉄格子をガンガンと頭で叩くしかなかった。そうするしか気持ちのやり場がなかった。
「もうやめてくれ……頼む、頼むから」
目の前で一番大事な人間が汚され奪われていく――その精神的負荷といったらハンパじゃない。脳みそが割れそうなくらい痛くなる。脳みそが全部死んでしまうんじゃねえかってくらいの苦痛だ。
幼い頃より己を鍛え続け、常人より精神的に強いという自負のあった俺でさえも、流石に堪えた。自然と涙を流し、許してやってくれと哀願するようになった。
「……へへ。最高でやんすなぁ」
すると、そんな俺の姿を見て、一人の男がニヤリと微笑んだのだった。
「クロの旦那。俺、こいつで楽しんでいいでやんすか?」
「お前、そっち系だったのか?」
「へい。実は両刀使いでやんす」
「そうか面白い。好きにしな」
「ありがとうごぜえやす!」
下品な笑みを浮かべた男が忍び寄る。
「おいまさか……やめろぉおおおおッ!」
そして俺は新たなる地獄を味わうことになった。この世に神なんていねえと思えるくらいの無慈悲な現実を味わった。
(人生ってのは一寸先は闇なんだな……)
精神が限界に来て、全ての感覚を受け流すようになったのか。あるいはリサたちが飲まされた薬を俺も飲まされたのかもしれない。
いつしか俺の意識は遠くなっていった。野盗共の罵詈雑言などもはや聞こえなくなっていく。だんだんと意識が遠のいていく。
どれだけ時間が経ったのかわからない。気づけば男たちはいなくなっていた。
ぼんやりとした記憶の中で、上役らしき男が現れたのを機に野盗共が一斉にいなくなったのを覚えていた。
(もうどうでもいい。どうでも……)
何も考えたくない。何も見たくない。この地獄はいつまで続くのか。ぼんやりと考えていた。
そんな時のことだった。
「うわぁ、手酷くやられちゃってるねえ兄者。可哀想に」
どこかで聞いたような声が響いた。少し前に聞いたばかりのはずだが、地獄なような時間を過ごしたせいか、その声は酷く昔に聞いたもののように感じられた。
「兄者、遅れてすまないね」
その声の主は一匹の黒猫だった。人語を喋る黒猫が俺の前で佇んでいた。
「まさかヨミト……なのか?」
「ああそうだよ」
何故猫の姿をしているのか。どうやってこの場所を突き止めやって来たのか。
聞きたいことは山ほどあったが一々確認してる時間はなかった。
「ヨミト、お前はここから早く逃げろ。へんてこなスキルを持ってるようだが、お前だけじゃ勝てない。村に帰って増援を呼んでくれ」
「うーんそれじゃちょっと遅いね。経験上、増援が来るまでに兄者たちは人買いに売られちゃうね」
「……だとしてもだ。証言者のお前が生き残っていてくれれば、俺たちが不正に売られた奴隷だと証明できる。俺たちのことなど構わずに逃げて、爺さんたちに連絡をとってくれ頼む」
「ご心配無用だよ。今から助けるから」
「無理だ、早まるな! ここまで来れたのならお前だって見ただろ! ここは普通じゃねえんだ、強そうな魔物兵がうようよといるんだ、鋼等級のお前らじゃ無理なんだよ!」
親切心で言ったのだが、猫の姿をしたヨミトはそれがどうしたとばかりの悠然とした態度を保っていた。そして俺はようやく気づく。
(なんだこれ……凄まじい存在感だ。本当にヨミトなのか?)
目の前の猫から放たれる圧に、俺は戦いた。一介の猫どころか、一人の人間が放つ圧の比ではなかった。
「ねえハンター。今すぐあいつらを一網打尽にしてリサちゃんたちを救えるとしたらどうする? あいつらに復讐する機会が最短で与えられるならばどうする?」
「っ!?」
ヨミトは飄々とした態度を改め、超越者然とした態度で俺に向き合った。俺はその瞳に囚われて惹きつけられた。
「決まってるだろ、そんなことは!」
「そうか。なら俺の正体を明かそう」
「っ!?」
黒猫がその仮初の姿を解く。現れたの俺たちとは次元の異なる異形の存在――吸血鬼だった。
俺は迷わず、その吸血鬼の力を借ることにした。たとえどんな犠牲を払うことになっても、あの盗賊共だけは許しておけなかったからな。
気づけば、見知らぬ場所にいた。
外見上はさっきまでいた岩穴と同じように思えるが、漂ってくる酒の臭いやら何やらで違う空間にいるのだとわかった。
(ちっ、夢じゃねえようだな)
夢だったらどれだけよかったことか。見知らぬ場所で、俺は後ろ手に縛られながら拘束されていた。
「よお、お目覚めかよ」
「テメエら何者だ!?」
声のかかった方を見てみれば、明らかに野盗だと思えるような凶悪面な連中が並んでいた。
その中心人物であろう男が声をかけてくる。
「お前、冒険者たちの案内人を務めてるマッシュ村の村長の孫だな?」
「さあな」
「とぼけても無駄だぜ。情報は入ってるからなあ」
「何でわかる?」
「くく、さてな」
俺の方がヨミトたちよりも冒険者らしいというのに、奴らは間違えることがなかった。おまけに村長の孫という立場まで直答しやがった。
奴らは何らかの手段によって俺たちの情報を得ているらしかった。
「立て。こっちに来い」
「くっ」
俺は無理やり立たされ、どこかに連れて行かれることになった。
処刑場で殺されるのかと思ったが、わざわざこんなところに連れてこられたからには、すぐに殺されないだろうとも思った。
「俺をどうするつもりだ?」
「さあな。余計なことは考えずに歩け」
狭い通路を通り、広間に出て螺旋階段を下り、一番下の階に下りていく。
歩いている間、驚愕の光景を目にすることになった。
(こいつら魔物を使役してやがるのか!?)
野盗のアジトには魔物兵が闊歩してやがった。
魔物たちは人間たちと争うことなく大人しくしていた。大人しいどころか命令に従順に動いている。あり得ない光景だった。
そんな驚愕の光景を見せられながら歩き続けることしばらく。俺は地下牢のような場所に連れて来られることになった。
「ひっ」
「お前らには用はねえよ。今はもっと良い玩具があるからな」
一番手前の部屋には裸の女が五人ほど捕らえられていた。酷く怯えているのか、俺たちが通りがかった際に短い悲鳴を上げていた。
野盗共の慰み者となっている女たちだった。いずれも見目美しい女で、どこかの村から誘拐されてきたに違いなかった。
(リサじゃなかったか。よかった)
リサの姿があるかと思って一瞬ドキっとしたが、見知らぬ女ばかりだったので正直ホッとした。
だがホッとしたのも束の間のことだった。一番奥の部屋に至った時、聞き馴染んだ声が聞こえてきた。
「え、ハンター?」
リサの声が聞こえた気がして、俺は慌ててその方角を振り向いた。
そこには絶望が広がっていた。
(リサ!? リサなのか!?)
薄暗い部屋に二人の影。リサとディアンとかいう冒険者だった。二人とも汚濁にまみれた姿だった。
(嘘……だろ?)
目の前の女がリサたちだと信じたくなかった。自分の愛する婚約者が慰み者になっていたなどとは、誰だって考えたくないだろう。脳が理解することを拒絶した。
「リサ?」
「ハンター?」
俺とリサは、呆然とした表情でしばし見つめ合うことになった。向こうも俺と会うとは思わなかったらしい。状況が理解できないようで硬直しているようだった。
「いっ、いやああああ! 見ないでぇええッ!」
先に正気を取り戻したのはリサの方だった。耐え難いとばかりに顔を歪めて絶叫する。
リサのそんな姿を見て、俺は憤怒した。リサにこんな辛い思いをさせた野盗共が許せなくて、射殺さんばかりに睨みつけた。
「テメエらぁあっ、俺の婚約者に何しやがった!」
「こいつ、お前の婚約者だったのか?」
「そうだよ! テメエ、リサになんてことを!」
「ハハッ、そりゃ傑作だぜ!」
野盗共はリサが俺の婚約者だと知ると大笑いした。俺を指差して笑い転げる。
「お前の婚約者と護衛の女、もう二週間もここで俺たちの相手してくれてるぜ! こいつを見ろよ!」
そう言うと、野盗の頭が備え付けられた手回し式の牽引機のようなものを回し始める。それによってリサたちの体勢が変わることとなった。
「いやああ! やめてええ! ハンターに見せないでええ!」
「くぅっ、下劣な男共めえ! 恥を知れ!」
鎖が巻き取られていき、足首に結束されていた部分が引き上げられていく。リサたちは真正面を向きながら蛙がひっくり返ったような体勢となった。
「ここに書かれてる印を、ちゃんと見ろよッ!」
男がリサたちの脚裏を指差しながら言う。
(なんだこれ……)
そこには墨で書かれたような印がぎっしりと書き込まれていた。脹脛から太腿を通りお尻にかけて書き込まれている。縦棒と横棒が組み合わさって出来た印だ。
(何かの符号、数字……まさか!?)
印は何かの回数を表す記号であるとすぐに察しがついた。
この状況下では答えは一つだ。彼女たちが行方不明であった間、どれだけ酷い目に遭っていたのかがすぐに理解できる印。記されている印の数だけ酷い目に遭っていたのだ。
「てめえらああ! 許さねえええ!」
「ギャハハハ!」
発狂する俺を見て、野盗たちはさらに愉快だと笑い転げる。
とてつもなく不快で今すぐこいつら全員ぶち殺してやりたいと思ったが、拘束された無力な状態ではどうしようもなかった。
俺はただ情けなくてプルプルと震えるだけだった。
「それじゃいつも通り、今日もリサちゃんで遊ぶことにすっか。婚約者のお前はそこで指を咥えて見てるんだな。リサちゃんが一生懸命にお仕事するところをたっぷりと見学していろ」
「テメエやめろ! やめやがれええッ!」
「よし野郎共、今日も盛り上がっていくぞォオ!」
「へい勿論ですクロの兄貴!」
野盗共がリサたちが拘束されている部屋に大挙して押し寄せていく。そして婚約者である俺でも触れたことのないリサの身体に触れていく。謎の薬で俺の知らないリサに変えていく。
もう筆舌に尽くしがたい地獄だった。奴らは悪魔だ。
「ちくしょうっ、ちくしょう!」
俺は涙を堪えながら目の前の鉄格子をガンガンと頭で叩くしかなかった。そうするしか気持ちのやり場がなかった。
「もうやめてくれ……頼む、頼むから」
目の前で一番大事な人間が汚され奪われていく――その精神的負荷といったらハンパじゃない。脳みそが割れそうなくらい痛くなる。脳みそが全部死んでしまうんじゃねえかってくらいの苦痛だ。
幼い頃より己を鍛え続け、常人より精神的に強いという自負のあった俺でさえも、流石に堪えた。自然と涙を流し、許してやってくれと哀願するようになった。
「……へへ。最高でやんすなぁ」
すると、そんな俺の姿を見て、一人の男がニヤリと微笑んだのだった。
「クロの旦那。俺、こいつで楽しんでいいでやんすか?」
「お前、そっち系だったのか?」
「へい。実は両刀使いでやんす」
「そうか面白い。好きにしな」
「ありがとうごぜえやす!」
下品な笑みを浮かべた男が忍び寄る。
「おいまさか……やめろぉおおおおッ!」
そして俺は新たなる地獄を味わうことになった。この世に神なんていねえと思えるくらいの無慈悲な現実を味わった。
(人生ってのは一寸先は闇なんだな……)
精神が限界に来て、全ての感覚を受け流すようになったのか。あるいはリサたちが飲まされた薬を俺も飲まされたのかもしれない。
いつしか俺の意識は遠くなっていった。野盗共の罵詈雑言などもはや聞こえなくなっていく。だんだんと意識が遠のいていく。
どれだけ時間が経ったのかわからない。気づけば男たちはいなくなっていた。
ぼんやりとした記憶の中で、上役らしき男が現れたのを機に野盗共が一斉にいなくなったのを覚えていた。
(もうどうでもいい。どうでも……)
何も考えたくない。何も見たくない。この地獄はいつまで続くのか。ぼんやりと考えていた。
そんな時のことだった。
「うわぁ、手酷くやられちゃってるねえ兄者。可哀想に」
どこかで聞いたような声が響いた。少し前に聞いたばかりのはずだが、地獄なような時間を過ごしたせいか、その声は酷く昔に聞いたもののように感じられた。
「兄者、遅れてすまないね」
その声の主は一匹の黒猫だった。人語を喋る黒猫が俺の前で佇んでいた。
「まさかヨミト……なのか?」
「ああそうだよ」
何故猫の姿をしているのか。どうやってこの場所を突き止めやって来たのか。
聞きたいことは山ほどあったが一々確認してる時間はなかった。
「ヨミト、お前はここから早く逃げろ。へんてこなスキルを持ってるようだが、お前だけじゃ勝てない。村に帰って増援を呼んでくれ」
「うーんそれじゃちょっと遅いね。経験上、増援が来るまでに兄者たちは人買いに売られちゃうね」
「……だとしてもだ。証言者のお前が生き残っていてくれれば、俺たちが不正に売られた奴隷だと証明できる。俺たちのことなど構わずに逃げて、爺さんたちに連絡をとってくれ頼む」
「ご心配無用だよ。今から助けるから」
「無理だ、早まるな! ここまで来れたのならお前だって見ただろ! ここは普通じゃねえんだ、強そうな魔物兵がうようよといるんだ、鋼等級のお前らじゃ無理なんだよ!」
親切心で言ったのだが、猫の姿をしたヨミトはそれがどうしたとばかりの悠然とした態度を保っていた。そして俺はようやく気づく。
(なんだこれ……凄まじい存在感だ。本当にヨミトなのか?)
目の前の猫から放たれる圧に、俺は戦いた。一介の猫どころか、一人の人間が放つ圧の比ではなかった。
「ねえハンター。今すぐあいつらを一網打尽にしてリサちゃんたちを救えるとしたらどうする? あいつらに復讐する機会が最短で与えられるならばどうする?」
「っ!?」
ヨミトは飄々とした態度を改め、超越者然とした態度で俺に向き合った。俺はその瞳に囚われて惹きつけられた。
「決まってるだろ、そんなことは!」
「そうか。なら俺の正体を明かそう」
「っ!?」
黒猫がその仮初の姿を解く。現れたの俺たちとは次元の異なる異形の存在――吸血鬼だった。
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