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七章
枯れ山もまた芽吹く
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「ヨミト様、よろしければお風呂にも入っていかれたらいかがです? ダンジョンの風呂と比べると我が家の風呂は粗末で申し訳ないですが……」
「ああたまにはいいかもですね。エリザはどうだ?」
「私は構いませんわ」
「ではせっかくのご好意に甘えましょう」
「ええ是非是非」
宴も終わったので帰ろうかと思っていたところ、お風呂を頂くことになった。ダンジョンの大きな風呂もいいが、たまには小さな風呂もいいだろう。
まあ小さな風呂といっても、村長の家のそれは一般人が持つには大きすぎるものだけども。五人くらいは余裕で入れる。
ちなみに、ダンジョンマスターの力を使って整備したものではなく、村長の家に元からあったものだ。
(ハンターの家って、今までに眷属にした中ではカーネラとユマの次に裕福かもしれないな)
この世界では水浴びが一般的であり、風呂を持っている家は少ない。湯を生み出す魔道具を持っているか、燃料の薪を大量に確保できるような金持ちの家にしかないのが普通だ。
村長の家はそれなりに裕福であるといっても、権力を使って不正蓄財とかしてないので、魔道具や大量の薪を日常使いできるほど裕福ではない。
では何故そんな広い風呂があるかと言うと、井戸を掘っていたら偶然にも温泉が湧き出たそうで、それでせっかくだからと風呂施設を整備したのだとか。お湯代が無料なので設置できたようだ。
村長の家は例外的に風呂を持てた幸運な家というわけだ。村内には何軒かそんな家があり、共同浴場も整備されているのだとか。ユマの温泉宿があるハザマ村みたいに温泉産業が成り立つ程の湯量はないが、村人や旅人たちが楽しむ分には十分らしい。
余談だが、ナンは共同浴場が混浴の時間を狙って男漁りをしているとか。若く女を知らないイケメンを見定めているらしい。ホントとんでもない子だね。
「銭湯とは違って生活感のある風呂。いいなぁこういうお風呂も」
「そうですわね」
服を脱いでエリザと一緒に風呂場に入ると、まず年季の入った大きな浴槽が目に入る。壁も床も結構傷んでいるが、それが味わいがある。
――ガラガラ。
「ん?」
身体を流していると、人が入ってきた。振り返ると、村長の義理の娘メコナとブナシーがいた。
「ヨミト様、私たちがお背中お流しいたしますわ」
「いやいいよ。自分でやるんで」
「そうですか……」
せっかくの申し出だが断っておく。残念そうな表情を見せる二人には悪いが、他人に洗われたんじゃせっかくのお風呂でリラックスできないよ。
「ではエリザ様は?」
「それでは、お願い致しますわ」
「ええよろこんで」
エリザは二人の申し出を受け入れていた。二人は嬉々としてエリザを洗っていく。
お嬢様のエリザは他人の手を借りることに躊躇がないな。俺より堂々としていてダンジョマスターっぽいぞ。眷属なのにね。
「エリザ様の翼、美しいですね」
「滑らかですべすべです」
「ああもう、くすぐったいですわ」
メコナとブナシーはきゃっきゃとはしゃぎながらエリザの身体を洗う。
マダム二人に玩具にされているエリザを横目に、一足先に身体を洗い終えた俺は湯船の方に移動する。
「ふぅ。いい湯だ」
大きな窓からは、アルゼリア山脈を一望できる。外は真っ暗だがスキルを使えば問題なく見える。冬が近いからか常緑樹以外はみんな枯れ木だな。
でも枯れ木も山の賑わいか。日本人的感性のわびさび的には、これもまた風流だな。
まあ今の俺は日本人ではなくて異世界人なんだけど。吸血鬼のダンジョンマスターで人ですらないんだが、まあ細かいことはいいだろう。無粋だ。
『お酒をお持ちしました』
「ああ悪いねツーイ」
お湯を堪能していると、ツーイが桶に入った酒を運んできてくれる。それを受け取り、湯船の方にやってきたエリザたちと一献やる。
「あぁ美味い。温かい風呂の中で冷酒とか贅沢すぎるな」
「ですわね。ダンジョンマナが足りなくて自宅にトイレがつけられないとか言ってた頃が懐かしいですわ」
「ああそんなこともあったな。あの時は俺とエリザの二人だけだったな。他はスライムしかいなかったね」
気分が良くて思わず昔語りしてしまう。
まあ昔と言っても二年半くらい前の話だが。色々あったせいか随分前のように感じるな。
この二年ちょっとで、だいぶ眷属が増えたものだ。感慨深い。
「お二人にそんな時代が?」
「意外でございますね」
貧乏時代の話を聞き、メコナとブナシーは意外そうな顔をする。
「あの時の俺たちはまだ弱くてすぐに消えそうな存在だったんだ。地道に血を吸って強くなったんだよ」
「そうだったのでございますか。それはご苦労なさいましたね」
「ああ、ヘドロのような不味い血も我慢して吸いまくった結果だよ」
メコナたちは俺たちの昔話を興味深そうに聞いていく。
「最初の頃は、近隣住民だったゴブリンのお客様を招いて毎日楽しくやってたんだ。でもあのクソ冒険者がやって来て、お客様たちを皆殺しに……そのせいで俺の一号店はいつも閑古鳥が……クソがッ!」
「ご主人様、過ぎたことは忘れましょう。ほらもう一献」
「ああすまないなエリザ」
昔のことを喋ったせいで嫌なことも思い出してしまうが、エリザのおかげでなんとか立ち直る。
それにしても他人ん家の風呂で二次会とか、好き放題やってるな俺ら。まあ家人であるメコナとブナシーも楽しそうだからいいか。
――ガラガラ。
楽しく飲んでいると、浴場に新たに人がやって来た。
「げげっ、ヨミトたち、いたのか!? それにお袋に叔母さんまで!?」
やって来たのはハンターだった。俺たちがいるのに気づくと大声を上げる。
「くそ、ナンのやつ、風呂には誰もいないなんて嘘つきやがって! めちゃくちゃいるじゃねえかよッ!」
ハンターはぶつぶつと文句を言いながら回れ右して戻ろうとする。
「ハンターの家のお風呂なのに追い返すのは可哀想だ。エリザ、彼も混浴させていいかい?」
「ええ、変身しますのでいいですわよ」
エリザはスキル【変化】を使い、男性姿に変わった。ベートと呼ばれる姿だな。
エリザ的にはこの状態なら俺以外の男とも混浴オーケーらしい。
「あぁ、男性姿のエリザ様も素敵です」
「ホント神々しいくらい美しいわね義姉さん」
イケメンの登場に、メコナとブナシーが黄色い声を上げる。
妙齢のマダムなのに年頃の娘みたいに騒いでるね。精神は若いな二人共。
「ほら、エリザもメコナさんたちもいいって言ってるし、ハンターも一緒に入りなよ」
「嫌だ! 何でいい年してお袋や叔母さんと一緒に風呂に入んなきゃいけねえんだ! 俺はダンジョンの風呂に行く!」
俺たちの呼びかけを、ハンターは拒絶する。
俺はさっと湯船から飛び上がると、引き返そうとするハンターを引き止める。
「いいじゃん入ろうぜ兄者」
「誰が兄者だ! テメエは永遠の童貞だろッ! 騙しやがってこのクソ吸血鬼め!」
「こらこら、童貞と吸血鬼を馬鹿にする子はこうだよ」
「くそっ、放せヨミト! なんて力だ、この化け物め!」
逃げようとするハンターを捕まえ、風呂の中に強制的に叩き込む。
――ドボンッ。
身体を洗っていないが、風呂の中に叩き込む前に洗浄魔法を使ったので問題はない。
「くそ、何でお袋と叔母さんと風呂に入らなきゃいけねえんだ……」
湯船に叩き込まれたハンターは観念したのか、渋々湯に浸かり始める。仏頂面のまま、メコナさんたちの方を向かないように顔を背けている。
「ハンター、ヨミト様に何て言い草ですか。命の恩人だと言うのに、クソ吸血鬼だの化け物だのと、この子ったらもう」
「うるせえよお袋」
「何ですかその態度は。貴方は昔から……」
メコナさんによる説教が始まる。話を聞くに、ハンターは昔からやんちゃだったようだ。
「だいたい貴方はですね」
「ああもうっ、耳にたこができるぜ!」
実に十数年ぶりという風呂での母子による会話が繰り広げられていく。
彼女らの会話を肴に、俺とエリザは酒を飲む。
「ヨミト様、この血の気の多い息子の血を吸ってやってくださいませ。そうすれば少しは大人しくなりますわ」
「おいこらお袋! テメエの息子を吸血鬼に捧げる親がどこにいる!」
「ここにいますよ。では死なない程度にたっぷり吸ってあげてくださいね~」
「くそっなんて母親だ! おい叔母さん! 甥っ子が吸血鬼に捕まってるのを笑って見てるんじゃねえよ! 止めろや!」
愉快な家族だ。まるで漫才みたいに明るくテンポよく掛け合っている。
「そうか。じゃあお言葉に甘えて吸わせてもらおうかエリザ。お酒飲んでたらつまみが欲しくなったしさ」
「ええ。小腹が空いたところでしたし、ちょうどいいですわ」
「おいこら! テメエら人をお手軽に食べられるおやつみたいに言うんじゃねえ!」
「いただきまーす」
「いただきますですわ」
「おい待てっ、俺は許可してねえ! や、やめろ――くぅううう♡」
ハンターを捕まえ、エリザと一緒に吸血してやる。
「おぉおおうぅううっ♡」
噛み付かれたハンターは脱力し、変な顔で叫び出す。
「あはは、あの子の顔ったら見てよ」
「傑作ね」
血を吸われて恍惚とした間抜け面を晒すハンターを見て、メコナとブナシーは笑う。
吸血鬼に襲われてる息子と甥っ子を見て笑うなんて、いい性格しているようだ。まあ俺たちが命の危険に及ぶようなことはしないと理解しているからだろうが。
「くぅうっ、んおほぉおおおッ♡」
「あはは、本当に変な顔!」
「お腹よじれるわ!」
ハンターの顔芸によって、今日一番というくらい盛り上がる。
ハンターもメコナもブナシーも良い笑顔だ(ハンターの笑顔は吸血の快楽による強制的なものだが)。
彼ら、初めて会った時は他の村人同様、酷い顔だったからね。その時に比べれば雲泥の差だ。
今回の事件で色々あったが、彼らは日常を取り戻しつつあるのかもしれない。彼らのみならず、マッシュ村や茸人族の皆もそうだ。
(あの枯れ山と同じか。枯れ山もいずれ芽吹く)
冬が過ぎれば春がやってくる。枯れ木の山も、春になればまた芽吹き色づく。
季節は移ろいゆくが、彼らにとっての精神的冬は二度と訪れないだろう。
主となった俺が絶対にそうはさせない。眷属は絶対に守る。誰にも奪わせない。そのつもりだ。
(彼らの力を借りて、俺はまた強くなる。もっと強く大きな存在になってやろうじゃないか。眷属たちと共に、永遠の春を謳歌するためにな)
闇夜に染まる冬のアルゼリアの山々を見つめながら、俺は決意を新たにしたのであった。
<七章完結>
♦現在のヨミトのステータス♦
名前:ヨミト(lv.75) 種族:吸血鬼(ナイト)
HP:1924/1924 MP:1903/1903
【変化】【魅了】【吸血】【鬼語】【粗食】【獣の嗅覚】【獣の視覚】【獣の聴覚】【獣の味覚】
【剣術】【我慢】【起床】【睡眠】【威圧】【料理】【伐採】【裁縫】【農耕】【投擲】
【風刃】【天才】【火球】【洗脳】【狂化】【商人】【販売】【交渉】【売春】【性技】
【避妊】【癒光】【洗浄】【解体】【斧術】【槍術】【穴掘】【格闘】【毒牙】【硬化】
【舞踏】【鎚術】【怪力】【豚語】【咆哮】【免疫】【激励】【大食】【飢餓】【消化】
【暴食】【指揮】【弓術】【盾術】【騎乗】【魔笛】【血盟】【飼育】【夜目】【勇者】
【光矢】【集中】【雷撃】【短剣術】【堕落】【指嗾】【装備】【毒息】【火吸】【挑発】
【隠密】【奇襲】【冷息】【号令】【健脚】【水弾】【突進】【跳躍】【房中】【水泳】
【暗算】【海人】【魚語】【人化】【工作】【墨吐】【槍術】【流水】【幻唱】【演奏】
【歌唱】【音感】【魔性】【美貌】【清水】【耐圧】【浮袋】【魚の目】【魚の呼吸】【強奪】
【木登り】【森人】【糸吐】【操糸】【分泌】【栽培】【耐毒】【肥料】【除草】【降雨】
【光合成】【狩猟】【追跡】【暗記】【伝心】【縮小】
「ああたまにはいいかもですね。エリザはどうだ?」
「私は構いませんわ」
「ではせっかくのご好意に甘えましょう」
「ええ是非是非」
宴も終わったので帰ろうかと思っていたところ、お風呂を頂くことになった。ダンジョンの大きな風呂もいいが、たまには小さな風呂もいいだろう。
まあ小さな風呂といっても、村長の家のそれは一般人が持つには大きすぎるものだけども。五人くらいは余裕で入れる。
ちなみに、ダンジョンマスターの力を使って整備したものではなく、村長の家に元からあったものだ。
(ハンターの家って、今までに眷属にした中ではカーネラとユマの次に裕福かもしれないな)
この世界では水浴びが一般的であり、風呂を持っている家は少ない。湯を生み出す魔道具を持っているか、燃料の薪を大量に確保できるような金持ちの家にしかないのが普通だ。
村長の家はそれなりに裕福であるといっても、権力を使って不正蓄財とかしてないので、魔道具や大量の薪を日常使いできるほど裕福ではない。
では何故そんな広い風呂があるかと言うと、井戸を掘っていたら偶然にも温泉が湧き出たそうで、それでせっかくだからと風呂施設を整備したのだとか。お湯代が無料なので設置できたようだ。
村長の家は例外的に風呂を持てた幸運な家というわけだ。村内には何軒かそんな家があり、共同浴場も整備されているのだとか。ユマの温泉宿があるハザマ村みたいに温泉産業が成り立つ程の湯量はないが、村人や旅人たちが楽しむ分には十分らしい。
余談だが、ナンは共同浴場が混浴の時間を狙って男漁りをしているとか。若く女を知らないイケメンを見定めているらしい。ホントとんでもない子だね。
「銭湯とは違って生活感のある風呂。いいなぁこういうお風呂も」
「そうですわね」
服を脱いでエリザと一緒に風呂場に入ると、まず年季の入った大きな浴槽が目に入る。壁も床も結構傷んでいるが、それが味わいがある。
――ガラガラ。
「ん?」
身体を流していると、人が入ってきた。振り返ると、村長の義理の娘メコナとブナシーがいた。
「ヨミト様、私たちがお背中お流しいたしますわ」
「いやいいよ。自分でやるんで」
「そうですか……」
せっかくの申し出だが断っておく。残念そうな表情を見せる二人には悪いが、他人に洗われたんじゃせっかくのお風呂でリラックスできないよ。
「ではエリザ様は?」
「それでは、お願い致しますわ」
「ええよろこんで」
エリザは二人の申し出を受け入れていた。二人は嬉々としてエリザを洗っていく。
お嬢様のエリザは他人の手を借りることに躊躇がないな。俺より堂々としていてダンジョマスターっぽいぞ。眷属なのにね。
「エリザ様の翼、美しいですね」
「滑らかですべすべです」
「ああもう、くすぐったいですわ」
メコナとブナシーはきゃっきゃとはしゃぎながらエリザの身体を洗う。
マダム二人に玩具にされているエリザを横目に、一足先に身体を洗い終えた俺は湯船の方に移動する。
「ふぅ。いい湯だ」
大きな窓からは、アルゼリア山脈を一望できる。外は真っ暗だがスキルを使えば問題なく見える。冬が近いからか常緑樹以外はみんな枯れ木だな。
でも枯れ木も山の賑わいか。日本人的感性のわびさび的には、これもまた風流だな。
まあ今の俺は日本人ではなくて異世界人なんだけど。吸血鬼のダンジョンマスターで人ですらないんだが、まあ細かいことはいいだろう。無粋だ。
『お酒をお持ちしました』
「ああ悪いねツーイ」
お湯を堪能していると、ツーイが桶に入った酒を運んできてくれる。それを受け取り、湯船の方にやってきたエリザたちと一献やる。
「あぁ美味い。温かい風呂の中で冷酒とか贅沢すぎるな」
「ですわね。ダンジョンマナが足りなくて自宅にトイレがつけられないとか言ってた頃が懐かしいですわ」
「ああそんなこともあったな。あの時は俺とエリザの二人だけだったな。他はスライムしかいなかったね」
気分が良くて思わず昔語りしてしまう。
まあ昔と言っても二年半くらい前の話だが。色々あったせいか随分前のように感じるな。
この二年ちょっとで、だいぶ眷属が増えたものだ。感慨深い。
「お二人にそんな時代が?」
「意外でございますね」
貧乏時代の話を聞き、メコナとブナシーは意外そうな顔をする。
「あの時の俺たちはまだ弱くてすぐに消えそうな存在だったんだ。地道に血を吸って強くなったんだよ」
「そうだったのでございますか。それはご苦労なさいましたね」
「ああ、ヘドロのような不味い血も我慢して吸いまくった結果だよ」
メコナたちは俺たちの昔話を興味深そうに聞いていく。
「最初の頃は、近隣住民だったゴブリンのお客様を招いて毎日楽しくやってたんだ。でもあのクソ冒険者がやって来て、お客様たちを皆殺しに……そのせいで俺の一号店はいつも閑古鳥が……クソがッ!」
「ご主人様、過ぎたことは忘れましょう。ほらもう一献」
「ああすまないなエリザ」
昔のことを喋ったせいで嫌なことも思い出してしまうが、エリザのおかげでなんとか立ち直る。
それにしても他人ん家の風呂で二次会とか、好き放題やってるな俺ら。まあ家人であるメコナとブナシーも楽しそうだからいいか。
――ガラガラ。
楽しく飲んでいると、浴場に新たに人がやって来た。
「げげっ、ヨミトたち、いたのか!? それにお袋に叔母さんまで!?」
やって来たのはハンターだった。俺たちがいるのに気づくと大声を上げる。
「くそ、ナンのやつ、風呂には誰もいないなんて嘘つきやがって! めちゃくちゃいるじゃねえかよッ!」
ハンターはぶつぶつと文句を言いながら回れ右して戻ろうとする。
「ハンターの家のお風呂なのに追い返すのは可哀想だ。エリザ、彼も混浴させていいかい?」
「ええ、変身しますのでいいですわよ」
エリザはスキル【変化】を使い、男性姿に変わった。ベートと呼ばれる姿だな。
エリザ的にはこの状態なら俺以外の男とも混浴オーケーらしい。
「あぁ、男性姿のエリザ様も素敵です」
「ホント神々しいくらい美しいわね義姉さん」
イケメンの登場に、メコナとブナシーが黄色い声を上げる。
妙齢のマダムなのに年頃の娘みたいに騒いでるね。精神は若いな二人共。
「ほら、エリザもメコナさんたちもいいって言ってるし、ハンターも一緒に入りなよ」
「嫌だ! 何でいい年してお袋や叔母さんと一緒に風呂に入んなきゃいけねえんだ! 俺はダンジョンの風呂に行く!」
俺たちの呼びかけを、ハンターは拒絶する。
俺はさっと湯船から飛び上がると、引き返そうとするハンターを引き止める。
「いいじゃん入ろうぜ兄者」
「誰が兄者だ! テメエは永遠の童貞だろッ! 騙しやがってこのクソ吸血鬼め!」
「こらこら、童貞と吸血鬼を馬鹿にする子はこうだよ」
「くそっ、放せヨミト! なんて力だ、この化け物め!」
逃げようとするハンターを捕まえ、風呂の中に強制的に叩き込む。
――ドボンッ。
身体を洗っていないが、風呂の中に叩き込む前に洗浄魔法を使ったので問題はない。
「くそ、何でお袋と叔母さんと風呂に入らなきゃいけねえんだ……」
湯船に叩き込まれたハンターは観念したのか、渋々湯に浸かり始める。仏頂面のまま、メコナさんたちの方を向かないように顔を背けている。
「ハンター、ヨミト様に何て言い草ですか。命の恩人だと言うのに、クソ吸血鬼だの化け物だのと、この子ったらもう」
「うるせえよお袋」
「何ですかその態度は。貴方は昔から……」
メコナさんによる説教が始まる。話を聞くに、ハンターは昔からやんちゃだったようだ。
「だいたい貴方はですね」
「ああもうっ、耳にたこができるぜ!」
実に十数年ぶりという風呂での母子による会話が繰り広げられていく。
彼女らの会話を肴に、俺とエリザは酒を飲む。
「ヨミト様、この血の気の多い息子の血を吸ってやってくださいませ。そうすれば少しは大人しくなりますわ」
「おいこらお袋! テメエの息子を吸血鬼に捧げる親がどこにいる!」
「ここにいますよ。では死なない程度にたっぷり吸ってあげてくださいね~」
「くそっなんて母親だ! おい叔母さん! 甥っ子が吸血鬼に捕まってるのを笑って見てるんじゃねえよ! 止めろや!」
愉快な家族だ。まるで漫才みたいに明るくテンポよく掛け合っている。
「そうか。じゃあお言葉に甘えて吸わせてもらおうかエリザ。お酒飲んでたらつまみが欲しくなったしさ」
「ええ。小腹が空いたところでしたし、ちょうどいいですわ」
「おいこら! テメエら人をお手軽に食べられるおやつみたいに言うんじゃねえ!」
「いただきまーす」
「いただきますですわ」
「おい待てっ、俺は許可してねえ! や、やめろ――くぅううう♡」
ハンターを捕まえ、エリザと一緒に吸血してやる。
「おぉおおうぅううっ♡」
噛み付かれたハンターは脱力し、変な顔で叫び出す。
「あはは、あの子の顔ったら見てよ」
「傑作ね」
血を吸われて恍惚とした間抜け面を晒すハンターを見て、メコナとブナシーは笑う。
吸血鬼に襲われてる息子と甥っ子を見て笑うなんて、いい性格しているようだ。まあ俺たちが命の危険に及ぶようなことはしないと理解しているからだろうが。
「くぅうっ、んおほぉおおおッ♡」
「あはは、本当に変な顔!」
「お腹よじれるわ!」
ハンターの顔芸によって、今日一番というくらい盛り上がる。
ハンターもメコナもブナシーも良い笑顔だ(ハンターの笑顔は吸血の快楽による強制的なものだが)。
彼ら、初めて会った時は他の村人同様、酷い顔だったからね。その時に比べれば雲泥の差だ。
今回の事件で色々あったが、彼らは日常を取り戻しつつあるのかもしれない。彼らのみならず、マッシュ村や茸人族の皆もそうだ。
(あの枯れ山と同じか。枯れ山もいずれ芽吹く)
冬が過ぎれば春がやってくる。枯れ木の山も、春になればまた芽吹き色づく。
季節は移ろいゆくが、彼らにとっての精神的冬は二度と訪れないだろう。
主となった俺が絶対にそうはさせない。眷属は絶対に守る。誰にも奪わせない。そのつもりだ。
(彼らの力を借りて、俺はまた強くなる。もっと強く大きな存在になってやろうじゃないか。眷属たちと共に、永遠の春を謳歌するためにな)
闇夜に染まる冬のアルゼリアの山々を見つめながら、俺は決意を新たにしたのであった。
<七章完結>
♦現在のヨミトのステータス♦
名前:ヨミト(lv.75) 種族:吸血鬼(ナイト)
HP:1924/1924 MP:1903/1903
【変化】【魅了】【吸血】【鬼語】【粗食】【獣の嗅覚】【獣の視覚】【獣の聴覚】【獣の味覚】
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