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デキる先輩はちょっと可愛い No.3
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「本当にすまなかったと思っているよ。俺が100パーセント悪いんだ」
グラスにほんの少し残ったビールを、富樫はぐっと飲み干した。
僕は富樫の視線が集中していることを感じたが、あえてテレビ画面を見つめていた。富樫はうろたえるように言葉を続けた。僕は、しばらく彼をそのまま好きにさせることにした。それは僕の内側にあるいたずら心が蠢きはじめたからかもしれなかった。
「なんでだろう……。いつもうまくいかなくなる」
富樫は肘を太ももにつけてがっくりとうなだれた。手で顔を覆ったりもした。急に悲劇のヒロインになったように見えた。一人苦悩するゴツイ男度マックスの富樫先輩。
「謝らないでください。僕が悪いみたいじゃないですか」
いやそのとか、お前が悪いわけじゃないとか、富樫はぽつりぽつりとつぶやいた。体に見合わない掠れた小さな声で。僕はビールを手酌して一気に煽った。ぬるいビールが喉を通り抜け、口の中に苦みを残していった。
富樫はこういうことには思い切れないタイプだと、僕は感じていた。僕は彼からの好意を十分に感じていたが、彼は距離を詰めるのがはっきり言って下手だった。相手を捕まえさえすれば、その熱量でどうにかできる自信があるのかもしれないが、いざ捕まえようとするとうまくいかない。サバンナで草食動物の狩りに30連敗したような悲壮感の漂うライオン。それが目の前にいる富樫の姿だった。
テレビはバラエティー番組が終わり、青白い顔の女子アナウンサーが一日のニュースを駆け足で伝えていた。今日も我が国は平和であった。適当に観ていてもそんなふうに思えるようなニュースしかなかった。
「富樫さん、顔を上げてください」
うんとか、あーとか富樫は曖昧な返事だけ寄越して、なかなか僕の方を見ようとしなかった。僕はソファーに座り直し、彼に言った。
「ちゃんとしてくださいよ。あの日あんなことしておいて。今の富樫さんは情けないですよ」
「本当にごめん、相沢。俺さ……その」
富樫は一瞬だけ僕と目を合わせたが、すぐに目を伏せた。僕はそんな調子の彼の姿に、ついにじれったくなってしまった。
「富樫さんは僕のことをどう思ってるの?今日は何で僕を部屋まで連れてきたの!?」
僕の声が明らかに大きくなったためか、富樫は一瞬びくっと体を震わせた。そして一言だけ、ウーと唸った。
「はっきり答えてくださいよ。僕にどこまで言わせるつもりですか?」
女子アナウンサーがちょうどニュースを読み終え、慇懃に頭を下げたところで、富樫はゆっくりと頭を上げた。澄んだ瞳で、しっかりと僕を見ていた。さっきまでの陰鬱な雰囲気がすっかり消えているように感じた。彼は大きく深呼吸して言った。
「年下にこんなことまで言わせてすまなかった。どうか俺の不甲斐なさを許してほしい」
僕は大きく頷いて彼への返事とした。少し安心した表情になり、彼は一呼吸して続けた。
「俺は男として相沢を気に入ったんだ。この前は、その、気持ちが先走ってしまってあんなことをしでかしてしまったんだ。決して乱暴する気はなかったよ、それだけはしっかり伝えておきたい」
「しっかり先輩の言葉で聞けて良かったです。僕は恨んでなんかいないですよ。この前はびっくりしてしまってうまく言えなかったので、余計な心配をさせたかもしれません」
僕の言葉を聞くと、富樫は胸に片手を当てて何度か大きく深呼吸した。彼なりに相当な緊張を強いられたようであった。テレビではお笑い芸人数人が、勢いに任せにまくし立てていた。
僕から飲み直す提案をしたら富樫は元の自信家の顔に戻り、もちろんビールでいいよなと、少年のような笑顔を僕に向けた。
グラスにほんの少し残ったビールを、富樫はぐっと飲み干した。
僕は富樫の視線が集中していることを感じたが、あえてテレビ画面を見つめていた。富樫はうろたえるように言葉を続けた。僕は、しばらく彼をそのまま好きにさせることにした。それは僕の内側にあるいたずら心が蠢きはじめたからかもしれなかった。
「なんでだろう……。いつもうまくいかなくなる」
富樫は肘を太ももにつけてがっくりとうなだれた。手で顔を覆ったりもした。急に悲劇のヒロインになったように見えた。一人苦悩するゴツイ男度マックスの富樫先輩。
「謝らないでください。僕が悪いみたいじゃないですか」
いやそのとか、お前が悪いわけじゃないとか、富樫はぽつりぽつりとつぶやいた。体に見合わない掠れた小さな声で。僕はビールを手酌して一気に煽った。ぬるいビールが喉を通り抜け、口の中に苦みを残していった。
富樫はこういうことには思い切れないタイプだと、僕は感じていた。僕は彼からの好意を十分に感じていたが、彼は距離を詰めるのがはっきり言って下手だった。相手を捕まえさえすれば、その熱量でどうにかできる自信があるのかもしれないが、いざ捕まえようとするとうまくいかない。サバンナで草食動物の狩りに30連敗したような悲壮感の漂うライオン。それが目の前にいる富樫の姿だった。
テレビはバラエティー番組が終わり、青白い顔の女子アナウンサーが一日のニュースを駆け足で伝えていた。今日も我が国は平和であった。適当に観ていてもそんなふうに思えるようなニュースしかなかった。
「富樫さん、顔を上げてください」
うんとか、あーとか富樫は曖昧な返事だけ寄越して、なかなか僕の方を見ようとしなかった。僕はソファーに座り直し、彼に言った。
「ちゃんとしてくださいよ。あの日あんなことしておいて。今の富樫さんは情けないですよ」
「本当にごめん、相沢。俺さ……その」
富樫は一瞬だけ僕と目を合わせたが、すぐに目を伏せた。僕はそんな調子の彼の姿に、ついにじれったくなってしまった。
「富樫さんは僕のことをどう思ってるの?今日は何で僕を部屋まで連れてきたの!?」
僕の声が明らかに大きくなったためか、富樫は一瞬びくっと体を震わせた。そして一言だけ、ウーと唸った。
「はっきり答えてくださいよ。僕にどこまで言わせるつもりですか?」
女子アナウンサーがちょうどニュースを読み終え、慇懃に頭を下げたところで、富樫はゆっくりと頭を上げた。澄んだ瞳で、しっかりと僕を見ていた。さっきまでの陰鬱な雰囲気がすっかり消えているように感じた。彼は大きく深呼吸して言った。
「年下にこんなことまで言わせてすまなかった。どうか俺の不甲斐なさを許してほしい」
僕は大きく頷いて彼への返事とした。少し安心した表情になり、彼は一呼吸して続けた。
「俺は男として相沢を気に入ったんだ。この前は、その、気持ちが先走ってしまってあんなことをしでかしてしまったんだ。決して乱暴する気はなかったよ、それだけはしっかり伝えておきたい」
「しっかり先輩の言葉で聞けて良かったです。僕は恨んでなんかいないですよ。この前はびっくりしてしまってうまく言えなかったので、余計な心配をさせたかもしれません」
僕の言葉を聞くと、富樫は胸に片手を当てて何度か大きく深呼吸した。彼なりに相当な緊張を強いられたようであった。テレビではお笑い芸人数人が、勢いに任せにまくし立てていた。
僕から飲み直す提案をしたら富樫は元の自信家の顔に戻り、もちろんビールでいいよなと、少年のような笑顔を僕に向けた。
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