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第六章
第191話 アナル好き天使、再び
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部活の時間。ローザリアは、目を付けている純一の所属するサッカー部の練習を見に来ていた。
「あれ? 朧先生。先生もサッカーに興味あるんですか?」
するとそれに気付いた野村菊花が駆け寄り、無邪気に瞳を輝かせながら話しかけてきた。自分と好きなものを共有できるのではないかと、期待している様子だ。
が、ローザリアはそれをシカトして場所を移動。やはり女子には塩対応である。菊花はきょとんとするしかなかった。
場所を変えて改めてサッカー部の練習を見ていたローザリアは、やはり純一に目が行く。
だがルシファーからの脅しが脳裏をよぎり、舌打ち。純一を狙うことは断念した。だが彼女はそれで諦めるような女ではない。
(……でも、あのクラスの生徒じゃなければ別にいいんでしょう?)
都合よく解釈して、ローザリアは別の生徒に目を向ける。
流石モテる男子運動部の代表格というだけあって、サッカー部員は粒揃いだ。
その中でローザリアの目を引いたのは、一年生の小高良悟。恋人で女子マネージャーの戸田美裕と楽しげに話す姿は、ローザリアの目には美味しそうな獲物としか見えていなかった。
姿を消したローザリアは、その手にピンクの弓とハートの鏃をした矢を二本出現させる。二つの矢を同時に番え、その矢の先が捉えるのは良悟と美裕の心臓であった。
リリムが新体操部の練習を終えた後、ルシファーとリリムは情報収集のためとある場所に向かった。
人間界に出張して婚活パーティによるカップル成立を行っている新米キューピッド、ティアラ・レーネルの事務所にである。
「お久しぶりですルシファーさん、リリムさん」
事前にアポを取っておいたので、ティアラはすんなりと二人を通した。
彼女はセミショートの茶髪で平均的な身長とプロポーションの、若い女性天使。
大学時代から交際している彼氏がおり、人間界での仕事のため離れ離れになった今でも休日は天界に戻って会いに行っているようだ。
「ああ、お前も元気そうだな。彼氏とも上手く行ってるようで何よりだ」
「な、何を視たんですか!?」
ルシファーの眼によると、昨日も彼氏としたようである。
ちなみにその際には後ろの穴も使用。ルナティエルの手下が皆アナル開発済みであるのもそうだが、アナルセックスは天界ではルナティエルに限らず愛好者が多く人間界や魔界よりよほどメジャーな性行為らしい。
挨拶は早々に切り上げ、応接間に通される。お茶を出されて向かい合わせにソファに腰を下ろすと、ルシファーは早速本題に入った。
「今日お前を訪ねたのは他でもない。ルナティエル一派について、知ってることを教えて欲しい」
「ルナティエル一派? あのカルト集団の?」
「ああ、今あの連中とドンパチやっててな。奴らの情報が欲しい。お前がどの程度知っているかはわからんが、とりあえず知ってることだけでも頼む」
「そうですか。ルシファーさん達にはご恩もありますし、力になりますよ。ルナティエル一派に関しては、自衛のために色々調べたり、友達から噂を聞いたりしてそれなりに知ってますよ」
「そうか、それは有難い」
「まあ、天界の女の子の間じゃかなり嫌われてますね。若くて容姿のいい処女しか入れないだとか、一派に入った女の子はルナティエルの恋人兼奴隷として奉仕させられるだとか、一派を抜けようとしたら裸の写真をネットに晒されるだとか、気持ち悪い話ばかり聞きますし。絶対に関わっちゃいけないってプリントが高校や大学で配られてましたし。まあ、ルナティエル自体はイケメンな上に天界のお偉いさんでもありますから、顔や地位に惹かれて付いて行っちゃう子もいたりするんですね、残念なことに」
「うわぁ……天使にもいるんだねそういうの」
リリムはドン引き。女子としては当然の反応だ。
「あとそういうキモい噂以前に、あの人達の掲げる思想自体が私にとっては受け入れ難いものなんですよね。もしも私の彼氏が他の女の子とも同時に付き合ってて、それを私公認の関係にしろとか言われたら絶対嫌ですし」
「夫や恋人のいる女性にとっては、まあそうなるだろうな。男にとっては都合の良い話だが」
「それが男性は一派に入れないそうですよ。完全にルナティエル個人のためのハーレムです」
「天使の男の人はハーレムの恩恵に預かれないのに、人間の男の人はハーレムにしてあげるの?」
「天使の力の源は、人間の幸福の感情ですからね。私達キューピッドは、恋愛成就によって人間を幸福にする仕事をしているわけです」
なお、ルシファーは自称キューピッドだが種族的には淫魔であるため人間の幸福が力の源という話には該当しない。
「一人の男の幸福感を徹底的に底上げする方針、ということか。それほど効果のある方法だとも思わんが、何百年もそれを続けている以上それなりの結果は出しているのだろうな。俺には理解できんが」
「同感です。それにルナティエル一派には、かなり強引なやり方でキューピッド活動する人が多いって話も聞きます。あの人達は私がやっている婚活パーティのようなお膳立てをせず、いきなり矢を使って強制的に惚れさせると。だから不自然に理由もなく突然惚れて、周りの人間からは不審に思われるんだとか……まあ、実際洗脳されたも同然なんですが」
「俺は洗脳のような手段を使わないことに気を遣っているというのに。それで奴ら、一体何を目的に俺達に危害を加えてるんだ?」
「わかりません。ですがキューピッドの中にはルシファーさんを快く思っていない人もいるので、恐らくはそれかと……」
「まあ、当然だな。本物のキューピッドにとっては、間違っても手放しに受け入れられるものじゃない」
「私も初めはそうでした。ですが今では、ルシファーさんがキューピッド活動に真摯だとわかりましたから」
「そう言ってくれて助かる。情報提供にも大変感謝している」
「いえいえ。お役に立てたなら何よりです」
翌朝。いつものように空から登校したルシファーは、今後のカップル成立に向けて日課の人間観察を行っていた。
生徒一人一人の人間関係の細かい変化も決して見逃さず、脱衣ゲームに参加させるべき生徒を精査するのだ。
(ん、あれは……)
ルシファーのアンテナには、とある生徒達の様子の変化が引っかかっていた。
校舎裏で話す、一年生が三人。小高良悟と戸田美裕、そして細田仁乃だ。良悟と仁乃は幼馴染の関係で、仁乃は良悟に片想いしている。しかし良悟にはこの学校に入学してから美裕という彼女ができ、仁乃は失恋した立場となっていた。しかも未だ仁乃が尾を引いた状態が続いている。
その三人が人目につかない場所で一体何の話なのか、気になったルシファーはそちらに飛んで行く。下手をすれば修羅場で流血沙汰。だがそれよりも、ルシファーが気になっていたことは他にあった。
三人ともローザリアの矢が刺さっている。キューピッドの矢を刺された人間は、特定の人間に恋愛感情を持つようになる。一般的なキューピッドの場合、それに不自然さや唐突さが出ないようある程度お膳立てをした上で弓矢を使用する。だがルナティエル一派の場合は、先日ティアラの話した通りだ。
「仁乃、俺は本当はお前の気持ちに気付いてたんだ。それで昨日一晩考えた末、決心した。お前を、俺の二人目の彼女にしたい」
「私達三人で付き合いましょう。そうすれば貴方も私も、そして良悟もみんな幸せだから」
「良悟……美裕……」
堂々と二股宣言をする良悟、恋人のそれを当たり前に受け入れる美裕、そしてそれに感動したかのように瞳を潤ませる仁乃。昨日までは決して狂っていなかった生徒達の、突然の変貌。
ルシファーは即座にその場に降り立つと、仁乃が返答をする前に三人に手をかざした。三人の心臓に刺さった矢は、ルシファーの魔力に当てられて消滅。
矢が身体に溶け切ってしまえば矢の力によって生じた好意は本物の恋愛感情となってしまうが、矢の形で残っている内に取り除くことができれば即座に影響は消える。
矢が刺さってから溶け切るまでは、およそ七十二時間。この三人は昨日の午後に刺されているため、ルシファーは一日も経たせず早い段階での除去に成功していた。
「……って、馬鹿にしないで! 三人で付き合うとか悪い冗談やめてよ!」
三人で付き合うことを歓迎しようとしていた先程から一転して、正気に戻った仁乃は常識的な返答。
良悟と美裕も、どうして自分があんなことを言っていたのか不思議で戸惑っている様子が表情から窺えた。
「いや……なんか、何だろうな? 気の迷い? よくわかんねーけど……とりあえずさっき言ったことは無かったことにしてくれ! すまん!」
「私も同じ! 良悟に二股かけて欲しいなんて絶対ありえないし、そんなので幸せになんかなるはずないから! 本当何であんなこと言っちゃったの!? わけわからないよ!」
「いやわけわかんないのはあたしの方なんだけど……これドッキリか何か?」
「いや、本当に何もわからなくて……でもまるで誰かに言わされてるみたいな……」
「もういいよ。これでもう吹っ切れた。あんたよりいい彼氏絶対作ってやるから」
仁乃は捨て台詞を吐くと、二人に背を向け校舎へと歩いていった。
良悟と美裕は、顔を見合わせる。
「……良悟、私にも何か言うことあるんじゃない?」
「あっ……ご、ごめん!」
良悟は深々と頭を下げる。
「あんな変なこと言って、美裕に嫌な思いをさせて……あれは決して本心じゃないんだ!」
「うん、わかってる。おかしくなってたのは、私も一緒だから。さ、教室戻ろう。ホームルームに遅れちゃう」
「ああ」
ただ信頼の確認として、謝罪の言葉が聞きたかっただけ。ひとまずそれで美裕は満足したが、それはそれとして何で突然人が変わったかのように意味不明なことを口走ったのかは疑問が残り、心のもやは晴れなかった。
真実を知るルシファーはひっそりと様子を観察しており、丸く収まったことで一安心。
(奴ら再び矢を刺しに来るかと思っていたが……奴らが色ボケで助かったようだな)
ルシファーは校長室のある方に顔を向け、呆れて鼻で笑った。
二年B組のホームルーム。ルシファーが黒羽崇の姿で教壇に立つが、ローザリアの姿は無い。
「朧先生は?」
「校長先生に呼び出されて、今は校長室にいるようです」
ルシファーが生徒達に伝えたことは、一応真実である。その後リリムにだけテレパシーで、より詳細を教える。
『ルナティエルの野郎、朝っぱらから堂々と校長室で3Pしてやがる。ローザリアともう一人手下を呼んでな』
天使も淫魔同様人間から感知されなくすることができるため、こういった行為が可能なのである。
『手下って、前に戦った……』
『いや、前に戦った二人のどちらとも違う、背も胸もお前と同程度の奴だ。歳は成人してるようだがな』
中学卒業相応の年齢で人間界に派遣される淫魔と異なり、人間界に来る天使は基本的に大学を出た成人である。
『どんな目的であれ、ルナティエルの手下がもう一人この学校に来てるってことには警戒しておけ。どこで何しでかすかわからんぞ』
『りょーかい』
そうテレパシーで話をしていると、丁度そのタイミングでローザリアが教室に入ってきた。
『ルシファー、貴方せっかく私の刺した矢を抜いたでしょう?』
『お前精液臭いぞ。消臭スプレーしてこい』
『私はルナティエル様の聖なる精液を賜ったのよ!』
互いに会話のドッジボール。しかしその声は生徒には聞こえず、表面上は何事も無いように振舞っている。
ローザリアは隙あらば再び良悟達に矢を打つかもしれないし、別の生徒が狙われるかもしれない。ルナティエルともう一人の手下の動きも気がかり。朝からルシファーの心労は絶えなかった。
ルシファーとリリムの監視の中、ルナティエル一派はこれといって怪しい動きをする様子は見られなかった。
ローザリアは教師としての職務を真っ当しており、ルナティエルともう一人の手下も校長室に籠ってそこから動く気配は無い。
そして昨日ローザリアが行動に出たのと同じ、部活の時間が来た。
多くの魔力を感知に回してルナティエル一派三人の動きを見張っていたルシファーは、ローザリアがサッカー部の練習しているグラウンドに向かったことに気付いた。翼を広げ、即座にそちらへと飛び立つ。
ローザリアの矢は、手から離れた瞬間に青い炎によって燃え尽きた。昨日は聖なる力によるステルス能力でルシファーに気付かれず矢を刺すことに成功したローザリアだったが、感知能力に魔力を回したルシファーには通じず。次の瞬間には、領域に引きずり込まれていた。
「ようこそ愛天使領域へ。私は愛の天使、キューピッドのルシファー」
「ボクはアシスタントのリリムちゃんでーす」
今回の領域の内装は、畳の敷かれた和室。ルシファーとリリムは本来の姿で、ローザリアを出迎えた。
ローザリアと共にこの場に召喚されたのは、良悟と美裕。
「あれ? 仁乃ちゃんは連れてこないんだ」
「付き合ってもらえるわけでもないのに脱衣を見られるのも可哀想だろう。それに俺は、彼女のもう吹っ切れたという言葉を信じている。いつか彼女を大切にしてくれる相手が現れた時に、改めて呼ぶさ。さて、それでは今回の参加者をご紹介致しましょう。赤コーナー男子、一年D組サッカー部、小高良悟! 同じく女子、一年D組サッカー部マネージャー、戸田美裕Cカップ! 青コーナー、二年B組副担任、朧佳音――もといルナティエル一派のキューピッド、ローザリア・ニリス二十七歳Gカップ! こちらの対戦カードで、ゲームを行って頂きます!」
「あれ? 朧先生。先生もサッカーに興味あるんですか?」
するとそれに気付いた野村菊花が駆け寄り、無邪気に瞳を輝かせながら話しかけてきた。自分と好きなものを共有できるのではないかと、期待している様子だ。
が、ローザリアはそれをシカトして場所を移動。やはり女子には塩対応である。菊花はきょとんとするしかなかった。
場所を変えて改めてサッカー部の練習を見ていたローザリアは、やはり純一に目が行く。
だがルシファーからの脅しが脳裏をよぎり、舌打ち。純一を狙うことは断念した。だが彼女はそれで諦めるような女ではない。
(……でも、あのクラスの生徒じゃなければ別にいいんでしょう?)
都合よく解釈して、ローザリアは別の生徒に目を向ける。
流石モテる男子運動部の代表格というだけあって、サッカー部員は粒揃いだ。
その中でローザリアの目を引いたのは、一年生の小高良悟。恋人で女子マネージャーの戸田美裕と楽しげに話す姿は、ローザリアの目には美味しそうな獲物としか見えていなかった。
姿を消したローザリアは、その手にピンクの弓とハートの鏃をした矢を二本出現させる。二つの矢を同時に番え、その矢の先が捉えるのは良悟と美裕の心臓であった。
リリムが新体操部の練習を終えた後、ルシファーとリリムは情報収集のためとある場所に向かった。
人間界に出張して婚活パーティによるカップル成立を行っている新米キューピッド、ティアラ・レーネルの事務所にである。
「お久しぶりですルシファーさん、リリムさん」
事前にアポを取っておいたので、ティアラはすんなりと二人を通した。
彼女はセミショートの茶髪で平均的な身長とプロポーションの、若い女性天使。
大学時代から交際している彼氏がおり、人間界での仕事のため離れ離れになった今でも休日は天界に戻って会いに行っているようだ。
「ああ、お前も元気そうだな。彼氏とも上手く行ってるようで何よりだ」
「な、何を視たんですか!?」
ルシファーの眼によると、昨日も彼氏としたようである。
ちなみにその際には後ろの穴も使用。ルナティエルの手下が皆アナル開発済みであるのもそうだが、アナルセックスは天界ではルナティエルに限らず愛好者が多く人間界や魔界よりよほどメジャーな性行為らしい。
挨拶は早々に切り上げ、応接間に通される。お茶を出されて向かい合わせにソファに腰を下ろすと、ルシファーは早速本題に入った。
「今日お前を訪ねたのは他でもない。ルナティエル一派について、知ってることを教えて欲しい」
「ルナティエル一派? あのカルト集団の?」
「ああ、今あの連中とドンパチやっててな。奴らの情報が欲しい。お前がどの程度知っているかはわからんが、とりあえず知ってることだけでも頼む」
「そうですか。ルシファーさん達にはご恩もありますし、力になりますよ。ルナティエル一派に関しては、自衛のために色々調べたり、友達から噂を聞いたりしてそれなりに知ってますよ」
「そうか、それは有難い」
「まあ、天界の女の子の間じゃかなり嫌われてますね。若くて容姿のいい処女しか入れないだとか、一派に入った女の子はルナティエルの恋人兼奴隷として奉仕させられるだとか、一派を抜けようとしたら裸の写真をネットに晒されるだとか、気持ち悪い話ばかり聞きますし。絶対に関わっちゃいけないってプリントが高校や大学で配られてましたし。まあ、ルナティエル自体はイケメンな上に天界のお偉いさんでもありますから、顔や地位に惹かれて付いて行っちゃう子もいたりするんですね、残念なことに」
「うわぁ……天使にもいるんだねそういうの」
リリムはドン引き。女子としては当然の反応だ。
「あとそういうキモい噂以前に、あの人達の掲げる思想自体が私にとっては受け入れ難いものなんですよね。もしも私の彼氏が他の女の子とも同時に付き合ってて、それを私公認の関係にしろとか言われたら絶対嫌ですし」
「夫や恋人のいる女性にとっては、まあそうなるだろうな。男にとっては都合の良い話だが」
「それが男性は一派に入れないそうですよ。完全にルナティエル個人のためのハーレムです」
「天使の男の人はハーレムの恩恵に預かれないのに、人間の男の人はハーレムにしてあげるの?」
「天使の力の源は、人間の幸福の感情ですからね。私達キューピッドは、恋愛成就によって人間を幸福にする仕事をしているわけです」
なお、ルシファーは自称キューピッドだが種族的には淫魔であるため人間の幸福が力の源という話には該当しない。
「一人の男の幸福感を徹底的に底上げする方針、ということか。それほど効果のある方法だとも思わんが、何百年もそれを続けている以上それなりの結果は出しているのだろうな。俺には理解できんが」
「同感です。それにルナティエル一派には、かなり強引なやり方でキューピッド活動する人が多いって話も聞きます。あの人達は私がやっている婚活パーティのようなお膳立てをせず、いきなり矢を使って強制的に惚れさせると。だから不自然に理由もなく突然惚れて、周りの人間からは不審に思われるんだとか……まあ、実際洗脳されたも同然なんですが」
「俺は洗脳のような手段を使わないことに気を遣っているというのに。それで奴ら、一体何を目的に俺達に危害を加えてるんだ?」
「わかりません。ですがキューピッドの中にはルシファーさんを快く思っていない人もいるので、恐らくはそれかと……」
「まあ、当然だな。本物のキューピッドにとっては、間違っても手放しに受け入れられるものじゃない」
「私も初めはそうでした。ですが今では、ルシファーさんがキューピッド活動に真摯だとわかりましたから」
「そう言ってくれて助かる。情報提供にも大変感謝している」
「いえいえ。お役に立てたなら何よりです」
翌朝。いつものように空から登校したルシファーは、今後のカップル成立に向けて日課の人間観察を行っていた。
生徒一人一人の人間関係の細かい変化も決して見逃さず、脱衣ゲームに参加させるべき生徒を精査するのだ。
(ん、あれは……)
ルシファーのアンテナには、とある生徒達の様子の変化が引っかかっていた。
校舎裏で話す、一年生が三人。小高良悟と戸田美裕、そして細田仁乃だ。良悟と仁乃は幼馴染の関係で、仁乃は良悟に片想いしている。しかし良悟にはこの学校に入学してから美裕という彼女ができ、仁乃は失恋した立場となっていた。しかも未だ仁乃が尾を引いた状態が続いている。
その三人が人目につかない場所で一体何の話なのか、気になったルシファーはそちらに飛んで行く。下手をすれば修羅場で流血沙汰。だがそれよりも、ルシファーが気になっていたことは他にあった。
三人ともローザリアの矢が刺さっている。キューピッドの矢を刺された人間は、特定の人間に恋愛感情を持つようになる。一般的なキューピッドの場合、それに不自然さや唐突さが出ないようある程度お膳立てをした上で弓矢を使用する。だがルナティエル一派の場合は、先日ティアラの話した通りだ。
「仁乃、俺は本当はお前の気持ちに気付いてたんだ。それで昨日一晩考えた末、決心した。お前を、俺の二人目の彼女にしたい」
「私達三人で付き合いましょう。そうすれば貴方も私も、そして良悟もみんな幸せだから」
「良悟……美裕……」
堂々と二股宣言をする良悟、恋人のそれを当たり前に受け入れる美裕、そしてそれに感動したかのように瞳を潤ませる仁乃。昨日までは決して狂っていなかった生徒達の、突然の変貌。
ルシファーは即座にその場に降り立つと、仁乃が返答をする前に三人に手をかざした。三人の心臓に刺さった矢は、ルシファーの魔力に当てられて消滅。
矢が身体に溶け切ってしまえば矢の力によって生じた好意は本物の恋愛感情となってしまうが、矢の形で残っている内に取り除くことができれば即座に影響は消える。
矢が刺さってから溶け切るまでは、およそ七十二時間。この三人は昨日の午後に刺されているため、ルシファーは一日も経たせず早い段階での除去に成功していた。
「……って、馬鹿にしないで! 三人で付き合うとか悪い冗談やめてよ!」
三人で付き合うことを歓迎しようとしていた先程から一転して、正気に戻った仁乃は常識的な返答。
良悟と美裕も、どうして自分があんなことを言っていたのか不思議で戸惑っている様子が表情から窺えた。
「いや……なんか、何だろうな? 気の迷い? よくわかんねーけど……とりあえずさっき言ったことは無かったことにしてくれ! すまん!」
「私も同じ! 良悟に二股かけて欲しいなんて絶対ありえないし、そんなので幸せになんかなるはずないから! 本当何であんなこと言っちゃったの!? わけわからないよ!」
「いやわけわかんないのはあたしの方なんだけど……これドッキリか何か?」
「いや、本当に何もわからなくて……でもまるで誰かに言わされてるみたいな……」
「もういいよ。これでもう吹っ切れた。あんたよりいい彼氏絶対作ってやるから」
仁乃は捨て台詞を吐くと、二人に背を向け校舎へと歩いていった。
良悟と美裕は、顔を見合わせる。
「……良悟、私にも何か言うことあるんじゃない?」
「あっ……ご、ごめん!」
良悟は深々と頭を下げる。
「あんな変なこと言って、美裕に嫌な思いをさせて……あれは決して本心じゃないんだ!」
「うん、わかってる。おかしくなってたのは、私も一緒だから。さ、教室戻ろう。ホームルームに遅れちゃう」
「ああ」
ただ信頼の確認として、謝罪の言葉が聞きたかっただけ。ひとまずそれで美裕は満足したが、それはそれとして何で突然人が変わったかのように意味不明なことを口走ったのかは疑問が残り、心のもやは晴れなかった。
真実を知るルシファーはひっそりと様子を観察しており、丸く収まったことで一安心。
(奴ら再び矢を刺しに来るかと思っていたが……奴らが色ボケで助かったようだな)
ルシファーは校長室のある方に顔を向け、呆れて鼻で笑った。
二年B組のホームルーム。ルシファーが黒羽崇の姿で教壇に立つが、ローザリアの姿は無い。
「朧先生は?」
「校長先生に呼び出されて、今は校長室にいるようです」
ルシファーが生徒達に伝えたことは、一応真実である。その後リリムにだけテレパシーで、より詳細を教える。
『ルナティエルの野郎、朝っぱらから堂々と校長室で3Pしてやがる。ローザリアともう一人手下を呼んでな』
天使も淫魔同様人間から感知されなくすることができるため、こういった行為が可能なのである。
『手下って、前に戦った……』
『いや、前に戦った二人のどちらとも違う、背も胸もお前と同程度の奴だ。歳は成人してるようだがな』
中学卒業相応の年齢で人間界に派遣される淫魔と異なり、人間界に来る天使は基本的に大学を出た成人である。
『どんな目的であれ、ルナティエルの手下がもう一人この学校に来てるってことには警戒しておけ。どこで何しでかすかわからんぞ』
『りょーかい』
そうテレパシーで話をしていると、丁度そのタイミングでローザリアが教室に入ってきた。
『ルシファー、貴方せっかく私の刺した矢を抜いたでしょう?』
『お前精液臭いぞ。消臭スプレーしてこい』
『私はルナティエル様の聖なる精液を賜ったのよ!』
互いに会話のドッジボール。しかしその声は生徒には聞こえず、表面上は何事も無いように振舞っている。
ローザリアは隙あらば再び良悟達に矢を打つかもしれないし、別の生徒が狙われるかもしれない。ルナティエルともう一人の手下の動きも気がかり。朝からルシファーの心労は絶えなかった。
ルシファーとリリムの監視の中、ルナティエル一派はこれといって怪しい動きをする様子は見られなかった。
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そして昨日ローザリアが行動に出たのと同じ、部活の時間が来た。
多くの魔力を感知に回してルナティエル一派三人の動きを見張っていたルシファーは、ローザリアがサッカー部の練習しているグラウンドに向かったことに気付いた。翼を広げ、即座にそちらへと飛び立つ。
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「ようこそ愛天使領域へ。私は愛の天使、キューピッドのルシファー」
「ボクはアシスタントのリリムちゃんでーす」
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「あれ? 仁乃ちゃんは連れてこないんだ」
「付き合ってもらえるわけでもないのに脱衣を見られるのも可哀想だろう。それに俺は、彼女のもう吹っ切れたという言葉を信じている。いつか彼女を大切にしてくれる相手が現れた時に、改めて呼ぶさ。さて、それでは今回の参加者をご紹介致しましょう。赤コーナー男子、一年D組サッカー部、小高良悟! 同じく女子、一年D組サッカー部マネージャー、戸田美裕Cカップ! 青コーナー、二年B組副担任、朧佳音――もといルナティエル一派のキューピッド、ローザリア・ニリス二十七歳Gカップ! こちらの対戦カードで、ゲームを行って頂きます!」
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