86 / 106
御曹司のやんごとなき恋愛事情.86
しおりを挟む
昨日まではたとえ顔を合わせることがなくても、このビルのどこかに俊介がいた。
そう思うだけで、優子の心はときめいていた。
しかし、今日から短くて三年、長ければどれくらいになるか分からないが、俊介はこのビルに・・・、いや日本にいないのだ。
あらためて感じる虚しさに、心が壊れそうになる。
会社は、俊介がいないこと以外何も変わらない。
だから、放っておいても優子がやるべきことは山積みで、ボーッとしている暇などないのが唯一の救いだ。
自分の心がいつ壊れてしまうのか分からない。
でも取りあえず今は目の前の仕事をこなすしかない。
優子はこれまで俊介を自分から突き放すたび何度も味わってきた寂しさを思い出す。
その度に、優子を救ってくれたのはやはり仕事だった。
俊介が出発しておよそ一ヶ月が経った。
そんな生活にようやく慣れて来たと思った頃、栗本から電話が入った。
日本の時刻が夜の九時だから、ニューヨークは朝の八時だ。
仕事前だというのに、何か急ぎの用だろうか。
『お久しぶりです、佐竹さん』
『久しぶり、どう、元気にやってる』
あんなにモヤモヤしていたくせに、いざ本人と言葉を交わせば、そんな気配など微塵も感じさせない自分の姑息さが嫌だ。
『ええ・・・、元気は元気なんですけど・・・。その、副社長のことなんですが』
『何か問題でも?』
話が込み入りそうだったので、優子は皆がいるフロアから、使われていない別室へと移動した。
『ええ・・・、それが・・・、まあ、ある程度は予想してたんですけど、まさかこんなに早いとは・・・』
『早い・・・?いったい何のこと・・・』
『佐竹さんなら、いちいち説明しなくても分かると思いますが・・・』
優子の頭に浮かんだのは俊介が自分のことを求めている、それだけだった。
しかし同時にまさか、という思いも湧き上がる。
日本を発つ直前の俊介の決意は固く、こんなすぐにその決意が揺らぐことなどとても想像できなかったから。
『・・・いえ、分かりません』
『そうですか・・・。恐らく分かってらっしゃると思いますが、ご自分からは言い出しにくいものですよね』
栗本の言い方は少し意地が悪い。
自分たちの味方なのか敵なのか分からなくなる雰囲気を漂わせている。
『・・・勿体つけないで、用件を言ってちょうだい。こっちはまだ仕事中なんだから』
優子はつい感情的になってしまった。
『すみません、副社長が・・・、あまりに変わらないので、つい・・・』
『変わらないって・・・。もう、そういう抽象的な言い方じゃなくて具体的に言ってくれない?』
栗本は優子が少しキレそうになっているというのに、電話の向こうでクスクスと笑っている。
『やっぱり我慢できないとおっしゃって・・・。来週の三連休におひとりで一度日本に帰るそうです』
『日本に!まだそちらに行って一ヶ月しか経ってないのに?』
『そうなんですよ。もう少し持つと思ったんですけどね・・・。私もまだまだ副社長のことがよく分かってなかったんですね』
栗本は珍しく少しだけ落ち込んでいるようだ。
『で、私に直接連絡というのは・・・』
『それ、言わないといけませんか?』
やっぱり栗本は意地悪だ・・・。
俊介が一ヶ月もしないうちに、自分のことを求めて日本に戻ってくるということが、優子にとってどれほど嬉しいことか栗本は十分に理解しているのだから。
そう思うだけで、優子の心はときめいていた。
しかし、今日から短くて三年、長ければどれくらいになるか分からないが、俊介はこのビルに・・・、いや日本にいないのだ。
あらためて感じる虚しさに、心が壊れそうになる。
会社は、俊介がいないこと以外何も変わらない。
だから、放っておいても優子がやるべきことは山積みで、ボーッとしている暇などないのが唯一の救いだ。
自分の心がいつ壊れてしまうのか分からない。
でも取りあえず今は目の前の仕事をこなすしかない。
優子はこれまで俊介を自分から突き放すたび何度も味わってきた寂しさを思い出す。
その度に、優子を救ってくれたのはやはり仕事だった。
俊介が出発しておよそ一ヶ月が経った。
そんな生活にようやく慣れて来たと思った頃、栗本から電話が入った。
日本の時刻が夜の九時だから、ニューヨークは朝の八時だ。
仕事前だというのに、何か急ぎの用だろうか。
『お久しぶりです、佐竹さん』
『久しぶり、どう、元気にやってる』
あんなにモヤモヤしていたくせに、いざ本人と言葉を交わせば、そんな気配など微塵も感じさせない自分の姑息さが嫌だ。
『ええ・・・、元気は元気なんですけど・・・。その、副社長のことなんですが』
『何か問題でも?』
話が込み入りそうだったので、優子は皆がいるフロアから、使われていない別室へと移動した。
『ええ・・・、それが・・・、まあ、ある程度は予想してたんですけど、まさかこんなに早いとは・・・』
『早い・・・?いったい何のこと・・・』
『佐竹さんなら、いちいち説明しなくても分かると思いますが・・・』
優子の頭に浮かんだのは俊介が自分のことを求めている、それだけだった。
しかし同時にまさか、という思いも湧き上がる。
日本を発つ直前の俊介の決意は固く、こんなすぐにその決意が揺らぐことなどとても想像できなかったから。
『・・・いえ、分かりません』
『そうですか・・・。恐らく分かってらっしゃると思いますが、ご自分からは言い出しにくいものですよね』
栗本の言い方は少し意地が悪い。
自分たちの味方なのか敵なのか分からなくなる雰囲気を漂わせている。
『・・・勿体つけないで、用件を言ってちょうだい。こっちはまだ仕事中なんだから』
優子はつい感情的になってしまった。
『すみません、副社長が・・・、あまりに変わらないので、つい・・・』
『変わらないって・・・。もう、そういう抽象的な言い方じゃなくて具体的に言ってくれない?』
栗本は優子が少しキレそうになっているというのに、電話の向こうでクスクスと笑っている。
『やっぱり我慢できないとおっしゃって・・・。来週の三連休におひとりで一度日本に帰るそうです』
『日本に!まだそちらに行って一ヶ月しか経ってないのに?』
『そうなんですよ。もう少し持つと思ったんですけどね・・・。私もまだまだ副社長のことがよく分かってなかったんですね』
栗本は珍しく少しだけ落ち込んでいるようだ。
『で、私に直接連絡というのは・・・』
『それ、言わないといけませんか?』
やっぱり栗本は意地悪だ・・・。
俊介が一ヶ月もしないうちに、自分のことを求めて日本に戻ってくるということが、優子にとってどれほど嬉しいことか栗本は十分に理解しているのだから。
0
あなたにおすすめの小説
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる