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第一章

四十五話

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 ミランダさんは母娘の諍いに少し呆れながらも、話の内容に気になるところがあるようだった。

 警戒は崩さないままで会話に混ざろうとする。


「魔物の子供ということは……やはり貴女が産んだ魔物は存在するの?」

「居るわよ。あんなの娘だとは思わなイけど」

「それは、どこに?」


 ミランダさんの眼差しがより真剣なものになる。

 リンナ以外にも魔物がいるならそれも倒さなければいけない。

 居場所を尋ねるのは当然だろう。

 しかしそれを魔物であるリンナが素直に答えるだろうか。


「は?さっきの話聞いてなかッたの」


 だから墓場にいるのがソレよ。

 あっさりとした返答だった。やはりそっくりの外見をしているだけあって彼女はリンナの子供だったのだ。

 ただ素直に娘扱いしないところに何か引っかかる部分があった。

 素直に考えれば魔物の子など自分の子供扱いしたくないということだろうか。けれど本人の方が余程異形の姿になっている。


「お腹が膨らんでイくに連れて、アタシの中から誰かの声が聞こエ始めた。それはアイツの声だッた」


 忌々し気にリンナが話し始める。溜め込んだ愚痴を吐き出すように。

 腹の中から声が聞こえる。普通に聞いていたら幻聴だと判断するだろう。

 腹の中から赤子の声がするだなんて。


「願いを叶える、その代わりに自分を生んで欲しい。生まれルまで願いを叶え続けるから」


 殺さないで欲しい。

 腹の中に埋まった魔物の種はひっきりなしにそう囁き続けたのだとリンナは語った。


「双子草、ってイうの? アイツはそう名乗ッたわ。何が双子よ、なり替わりを企む化け物の癖に」


 異形の姿になったリンナから化け物という単語が出てくるのに何となく皮肉を感じた。

 ただ今の彼女は明らかに怒りを湛えていて、下手なことをいったらすぐに暴れ出すだろう。

 だから私は大人しく聞き役に徹する。それに今話しているものは魔物の情報としてもかなり重要なものだと思った。


「願いを叶える為だと言って、宿主の体を植物の魔物に作り変えルのよ」


 双子草は高位の魔植物だ。人間そっくりに化けられるだけでなく他の植物の種を生み出すことが出来る。

 美しくなりたいと願えば美しい外見を、強くなりたいといえば強靭な肉体を内部からの改造で与える。

 金が欲しいと言ったら希少で高価な花を宿主の掌辺りに生やし摘み取らせる。

 願いを叶える為にと言って双子草は宿主に植物の種を植え付け続ける。

 そしてその体が生きた苗床になり完全に植物に思考を乗っ取られたら、そっくりな外見でその中から生まれてくるのだ。
 

「アタシは地下に閉じ込められて数日経ッた時点で、足がまともに動かなくなッていた」


 願いを叶えると言うのなら、まずこれを治せ。

 それだけでいいのかと問われて、欲望を語った。どうせなら歩けるだけじゃない方がいい。

 好きな時に餌が取れるように、危害を加えられないように、この村のどこにでも入り込めるように。

 父母に復讐できるように、自分がこんな目に遭っている原因を誰よりも不幸にできるように。 

 ならその体を魔植物化し強く便利な姿に生まれ変わろう。

 腹の中からの提案にリンナは承諾したのだと言った。

 それを聞かされた私は正直開いた口が塞がらなかった。
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