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第一章
六十二話
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そもそも国が魔王討伐に本格的に乗り出した原因は王女を魔王が攫ったことだとエミリアさんが教えてくれた。
別にそのこと自体を責める気にはならない。
大切な家族が誘拐されたなら、権力でもなんでも使って取り戻したくなる気持ちはわかるからだ。
ただ、魔王を倒し無事王女を取り戻したライルは国王から冷遇されたのだという。
その理由の一つは王女を傷ものにしたこと。
そうエミリアさんに話された時私はぎょっとした。だが私が想像するような下世話なことではなかったらしい。
魔王の元から救い出されたエア王女は勇者であるライルに一目惚れしたらしい。
「言葉は悪いですけれど、盛りのついた雌猫のようでしたわ」
そう、うんざりと当時を思い出す女戦士の言葉に私は慌てて周囲を見渡す。
他の客がいないとわかっていても、流石に過激すぎる。
豪奢な貴族令嬢のような容姿のエミリアさんの唇から零れたなら尚更だ。
「ちょっと言葉は選びなさいな。貴女は声自体が大きいのだから」
今日はアディ―ちゃんに頼んで貸し切りにして貰っているけれど、それでも節度は大事よ。
しっかり者の姉のような口調でミランダさんはエミリアさんを窘めた。
そう、実はこの店は暫く前から私が経営している。村の麓の街にある昼は定食屋、そして夜は女性客限定の酒場だ。
リンナが魔物になった事件の後、私の家とライルの家は焼却された。庭に植えられた毒草を完全に除去する為だ。
ふわふわとした種を飛ばす植物の為、家屋の中にまで種子が入り込んでしまっていた。
時間をかけた除去も提案されたが、結果毒草の種が敷地外に多く流出する可能性を考えて私は早期の除去を選んだ。
ライルも私と同じ意見だったと後で聞かされた。
ミランダさんが二つの建物と庭を包み込むように器用にドーム形の結解を張って、その中で一晩かけて私たちの思い出の生家は魔法の炎で燃やされた。
そして焼け跡には塩が撒かれた。こうすることで植物が暫くの年月生えなくなるらしい。
山で暮らしている私たちに塩は貴重品でとても高価なものだ。それが惜しげもなく土に混ぜられていくのを見て少し勿体ないと思った。
ただ家が無くなったことに関しては、奇妙なことに安堵を感じていた。
私はリンナを騙して殺した。本当に手を下したのは私ではないし、ただの村娘である私に魔物となった彼女を倒す力なんてなかったけれど。
それでもリンナの中にある私に対しての『情』を感じて、それを利用して彼女の気を引き続けたのは私の意思だった。
償いというわけでは全くないけれど、家という大きな喪失があったことで何かこう釣り合いが取れた気がしたのだ。
私はリンナを破滅へ導いたけれど、彼女のせいで私も大切な我が家を失くす羽目になったのだと、言い張れる気がしたのだ。
別に誰かに自分の行動を責められた訳でもないのに。
村の人たちはリンナが街で魔物に体を乗っ取られたと聞いて、どこまでも哀れな娘だったと悲しんだ。
そして私とライルについては巻き込まれて大変だったなと労わってくれた。
多分、一番辛い思いをしたのはレン兄さんだ。私が関わらせたばかりに私とライルを狙った魔物の企みで傷つけられた。
亡くなった恋人の姿をした化け物を自らの手で傷つける羽目になった彼は、それでもあの場にいた誰よりも気丈だった
村人たちへの事態の説明も彼が率先して行ったのだと後から聞いた。そして散々荒らされた墓場の補修計画についてもだ。
私とライルは病人扱いされ、綺麗に清掃された空き家を病室代わりに症状が改善するまでミランダさんに看護されていた。
毒草による中毒症状が抜けた後のライルは、けれど以前のような快活さも無邪気さも無くて。
あの日、二つの家が燃える様をあの事件に関わった皆で一晩中見守っていた。レン兄さんが一番辛そうな顔をしていた。
「……俺は村に帰ってこない方がよかったのかな」
そう、私の横でライルが呟いた。
「何で今更そんなこと言うの」
私は年下の幼馴染にそう返した。優しさの欠片もない言葉だなと思った。
多分昔の私なら、そんなことはないと必死になって彼を慰めただろう。
でも、もう変わってしまった。彼への気持ちも、いや私自身が変わってしまったのだ。
そうだ、村から出ようとその時思った。あの事件が起こる前に決意して、それきりだったこと。
私はライルから離れた方がいい。離れたい。その気持ちだけは変わってないことに内心笑った。
そして、私は思い出の家を焼き住み慣れた村を出たのだ。
四か月前のことだった。
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私事ですがアルファポリス様の第13回ファンタジー小説大賞に当作品を応募しております。
宜しければ御投票いただければと思います。
別にそのこと自体を責める気にはならない。
大切な家族が誘拐されたなら、権力でもなんでも使って取り戻したくなる気持ちはわかるからだ。
ただ、魔王を倒し無事王女を取り戻したライルは国王から冷遇されたのだという。
その理由の一つは王女を傷ものにしたこと。
そうエミリアさんに話された時私はぎょっとした。だが私が想像するような下世話なことではなかったらしい。
魔王の元から救い出されたエア王女は勇者であるライルに一目惚れしたらしい。
「言葉は悪いですけれど、盛りのついた雌猫のようでしたわ」
そう、うんざりと当時を思い出す女戦士の言葉に私は慌てて周囲を見渡す。
他の客がいないとわかっていても、流石に過激すぎる。
豪奢な貴族令嬢のような容姿のエミリアさんの唇から零れたなら尚更だ。
「ちょっと言葉は選びなさいな。貴女は声自体が大きいのだから」
今日はアディ―ちゃんに頼んで貸し切りにして貰っているけれど、それでも節度は大事よ。
しっかり者の姉のような口調でミランダさんはエミリアさんを窘めた。
そう、実はこの店は暫く前から私が経営している。村の麓の街にある昼は定食屋、そして夜は女性客限定の酒場だ。
リンナが魔物になった事件の後、私の家とライルの家は焼却された。庭に植えられた毒草を完全に除去する為だ。
ふわふわとした種を飛ばす植物の為、家屋の中にまで種子が入り込んでしまっていた。
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ライルも私と同じ意見だったと後で聞かされた。
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そして焼け跡には塩が撒かれた。こうすることで植物が暫くの年月生えなくなるらしい。
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ただ家が無くなったことに関しては、奇妙なことに安堵を感じていた。
私はリンナを騙して殺した。本当に手を下したのは私ではないし、ただの村娘である私に魔物となった彼女を倒す力なんてなかったけれど。
それでもリンナの中にある私に対しての『情』を感じて、それを利用して彼女の気を引き続けたのは私の意思だった。
償いというわけでは全くないけれど、家という大きな喪失があったことで何かこう釣り合いが取れた気がしたのだ。
私はリンナを破滅へ導いたけれど、彼女のせいで私も大切な我が家を失くす羽目になったのだと、言い張れる気がしたのだ。
別に誰かに自分の行動を責められた訳でもないのに。
村の人たちはリンナが街で魔物に体を乗っ取られたと聞いて、どこまでも哀れな娘だったと悲しんだ。
そして私とライルについては巻き込まれて大変だったなと労わってくれた。
多分、一番辛い思いをしたのはレン兄さんだ。私が関わらせたばかりに私とライルを狙った魔物の企みで傷つけられた。
亡くなった恋人の姿をした化け物を自らの手で傷つける羽目になった彼は、それでもあの場にいた誰よりも気丈だった
村人たちへの事態の説明も彼が率先して行ったのだと後から聞いた。そして散々荒らされた墓場の補修計画についてもだ。
私とライルは病人扱いされ、綺麗に清掃された空き家を病室代わりに症状が改善するまでミランダさんに看護されていた。
毒草による中毒症状が抜けた後のライルは、けれど以前のような快活さも無邪気さも無くて。
あの日、二つの家が燃える様をあの事件に関わった皆で一晩中見守っていた。レン兄さんが一番辛そうな顔をしていた。
「……俺は村に帰ってこない方がよかったのかな」
そう、私の横でライルが呟いた。
「何で今更そんなこと言うの」
私は年下の幼馴染にそう返した。優しさの欠片もない言葉だなと思った。
多分昔の私なら、そんなことはないと必死になって彼を慰めただろう。
でも、もう変わってしまった。彼への気持ちも、いや私自身が変わってしまったのだ。
そうだ、村から出ようとその時思った。あの事件が起こる前に決意して、それきりだったこと。
私はライルから離れた方がいい。離れたい。その気持ちだけは変わってないことに内心笑った。
そして、私は思い出の家を焼き住み慣れた村を出たのだ。
四か月前のことだった。
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