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キミとふたり、ときはの恋。【第二話】
立葵に、想いをのせて【8−4】
しおりを挟む「あ……」
どうしよう。
一歩うしろに下がってから、奏人の手を自分から放しちゃったことに気づいたけど、これをどうしたらいいのかがわからない。だって、奏人も驚いた顔してるもの。
宙に浮いた私の手を驚いた表情で見て、それから私の顔に目線を移した奏人は、すぐに距離を詰めてきた。
「きつい言い方して、ごめん」
肩と手首が同時に掴まれて。
「ごめん」
身を寄せながら、謝罪の言葉が小さく重ねられた。
「あ、あの……私こそ、ごめっ……」
私も、と慌てて謝った私の言葉は、ふわりと笑って唇を押さえてきた奏人の人差し指に止められて、最後まで言えなかった。
そのまま、じーっと見つめられて。私も、じーっと見つめ返して。
そうして、「俺から離れないで」と、ぽつりと言葉を落としてきた奏人は、全然怖くなんてなくて。だから、目線を合わせたまま、こくりと頷き返した。
そして静かに笑った奏人と、もう一度手が繋ぎ合わされる。しっかりと。
「少し、寄り道するよ」
短く宣言して、また私が頷いたのを確認してから、参道から外れていく奏人。おとなしくその手に誘導され、石畳から砂利道に変わった細い坂道を上っていけば。
「え? ここは?」
小さな御堂と池を囲むように、緑の木々とたくさんの草花が彩る庭園の光景が、突然目の前に広がった。
池の形は、綺麗なひょうたん型。御堂の正面。水辺の一角に、池に張り出すように正方形の露台がかかっている。
「奏人? ここは、お庭なの?」
「んー、庭園の括りには入るんだろうね。ここは、昔、観月台だったらしいから」
露台に近づきながら、私を覗き込んだ奏人に、あぁ、と頷いた。
「あー、わかる! お月見するのに、すごくいい場所よね、ここ!」
夜空の中心には、白銀の輝きを放つ上弦の月。
そこから下に目線をおろせば、綺麗に澄んでいる池の水面に揺らめいて映る、同じ形の月。そのどちらも、本当に美しい。
「涼香もここに座って眺めてみるといいよ」
祭り提灯が控えめに掲げられてる露台は少し大きめのベンチのようで。でもベンチにしては少々高めの造りだったから、奏人が脇を抱えて持ち上げて座らせてくれた。
ううぅ……お父さんに抱っこされた幼児みたいで、ちょっと恥ずかしい。
で、奏人はと言えば、隣には座らず。露台に座って足をぶらぶらさせてる私の正面に立って、膝の横に両手をついてきた。つまり、逃げられない状態での密着体勢。
「ねぇ、俺も知ってるんだよ。大銀杏の木のことは」
「え?」
「涼香をここに誘った時に、当然いろいろと調べてるからね。樹齢八百年の大銀杏がここにあることも、ちゃんと知ってるよ。――わざわざ、他の人に聞かされた情報を教えてくれなくてもね」
低く呟いた奏人が、その目線で私を誘導した先。そこには、青々と茂った葉を風に緩く揺らしている、とても立派な銀杏の木が、その存在を示していた。
「大銀杏? ここに……」
あったの? それに、『他の人』って……奏人、もしかして……。
「あ、あの、奏人?」
「反対側も見てごらん」
「え?」
他の人ってワードに思い当たることがあったけど、私がそれを質問する前に、「こっちだよ」と私の目線を逆側に誘導した奏人の声がとっても優しくて。口元に浮かんでる笑みも、とっても穏やかで。
だからつい、その言葉通り、素直に反対側に顔を向けてしまっていた。
「わぁ、もみじ? もみじの若葉ね?」
そこには、銀杏と同じく、新緑真っ盛りのもみじの木々が、風に葉を揺らしていた。
「ん。青もみじだね。江戸時代の文献に、『錦景の庭』として、この神社のことが載ってるらしいよ」
「ふーん、『錦景』って秋の紅葉の景色のことよね? でも、今のこの青もみじも、とっても綺麗! 私、今日これを見られて良かった。ありがとう、奏人」
「……ん。本当は、涼香に嫌な思いなんかさせずに、楽しい気分のまま連れてきてあげられたら良かったのに……そう出来なくて、ごめん。さっきは……きつい言い方して、本当にごめん。怖かった?」
「奏人……」
あ……また、だ。この声音。
絞り出すような、苦しげな声。さっき水上橋で聞いたのと、同じ声だ。ふわりと包み込んでくれる腕はとても優しいのに、触れた身体から伝わってくる声は、とても痛そう。
そして奏人が私に謝れば謝るほど、この痛みを彼に与えているのは自分なんだと、しっかりと自覚させられていく。だから――。
「奏人? 悪いのは、私でしょ?」
抱きしめてくれる腕に、すがりつかずにはいられなかった。
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