リナリアの夢

冴月希衣@商業BL販売中

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第一章

金髪ハーフのカメラマン【1】

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「おはようございます」

「おはようございます。嶋村さん、メール便が届いてますよ」

「ありがとうございます」

 事務職の竹内から分厚い封筒を受け取り、相手からの笑みに同じものを返す。

 乃亜が就職する遥か以前から考古資料館で勤務しているベテラン事務員には、最近、初孫が生まれた。温和でふくよかなパート主婦は話し上手で、距離感をはかることにも長けている。そのせいか、または失礼ながら年の離れた姉弟に見える年齢的な問題か、彼女相手に乃亜のトラウマは発動しない。

 好きな研究を続けられる職に就いたのだから、本来なら多少の対人関係のトラブルくらい我慢するところだが、竹内の人柄のおかげで居心地良く勤めていられる。ありがたいことだ。

「竹内さん。この資料の確認が終わったら、またすぐに大学に返送しますので、メール便の手配よろしくお願いします」

「わかりました。次の合同発掘調査は大がかりなものになるって館長がおっしゃってましたよ。嶋村さん、リーダーですもんね。頑張ってください」

 竹内から受け取ったメール便は、乃亜の出身大学の考古学研究室からのものだった。通常は電子メールでのやり取りだが、発掘調査に関する打ち合わせ資料は紙媒体でやり取りする慣例がいまだに続いている。

 竹内に激励された通り、翌月に予定されている関西の大学との合同発掘調査で、乃亜は考古資料館側の代表に選出されているため、現在はその打ち合わせと準備とで多忙な日々を送っている。

 誰かに片想いする機会も時間も、皆無なのだ。


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