甘く蕩けて、スイーツ男子

冴月希衣@商業BL販売中

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転機 【2】

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「真南ぁ、水。喉、渇いたー」

「はいはい、どうぞ」

 念のためにと、ペットボトルをベッドサイドに運んでおいて良かった。

「あー、旨い……寝る」

 喉を鳴らして半量ほど飲み、「寝る」と宣言した人は再びベッドに倒れ込む。無防備な仰向けのその姿に、何とも言えない心地で溜め息が零れ出た。

 そこは、俺のベッド。ベロベロに泥酔してしまった先輩をマンションまで送ったはいいが、どこかで鍵を落としたと言ってドアの前で寝ようとするものだから、俺のマンションに連れてきた。

 秋も深まったこの時期に、外で寝ると言う人をそのまま放っておけるわけがない。

「あ、しわが……触れても大丈夫かな」

 寝ているその人の、少し寄せられた眉間のしわが気になって手を伸ばす。起こさないよう、そっと額を撫でれば、しわはすぐに消えて、いつもの先輩に戻った。

 綺麗な寝顔、だ。

 先輩の寝顔を見るのは、これが初めてだ。

 目を開けていれば、切れ長の瞳が鋭い印象を見る者に与えるけれど、こうして眠る姿は、ただただ静かに穏やかで。その端整な造形に触れたい衝動を抑えられなくなる。

 やばいな、俺。

 シャワー、浴びてこよう。頭を冷やさなければ。

 ベッドに背中を向けたその時、サイドボードに置かれた先輩の眼鏡が視界に入り、ふと目に入ったそれのことが気になった。

「うわ、こんなに指紋ついてる」

 手に取ってみれば、レンズには先輩の指紋がくっきりと、幾つも残ってる。眼鏡ごと手で覆っていたせいだ。

 目元を隠し、唇を噛みしめて失恋の痛みを堪えていた姿がまざまざと思い出されて、胸が締めつけられる。

「先輩。俺だって、ずっと好きなんですよ」

 口内だけで、そっと呟く。

 俺だって、あの中1の出逢いの日から、ずっとあなたが好きなんです。

 嫌われたくなくて、距離を置かれたくなくて、ずっと言えなかったけど。

 これからも伝えるつもりはないけれど。

 俺が好きなのは、あなただけなんです。

「……ふっ……ぅ」

 込み上げてくる涙を隠せるわけもないが、持っていた眼鏡をかけてみた。

 指紋だらけで度も合わない先輩の眼鏡は、少しだけ幅のサイズも合わなくて、フレームが少し下にずれてしまう。

「ふふっ……」

 おばあちゃんの眼鏡みたいだな。

 泣きながら、そんなことを思って、ひとり笑った。

 先輩といると、つらい時もあるけど、こんなことで笑える自分もいるんだと実感する。

 溢れる涙をそのままに、もう一度ベッドに戻る。先輩の傍に。

「一度だけ、です。先輩、一度だけ……だから……」

 許してください。

 謝罪の言葉を心で続けて、大好きな人に近づく。

 眠り続ける先輩は、俺に気づかない。俺の気持ちにも――。

「千葉、先輩」
 
 先輩の眼鏡をかけた泣き顔のまま、形の良い唇に、自分のそれをそっと触れ合わせた。


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