甘く蕩けて、スイーツ男子

冴月希衣@商業BL販売中

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ひりつく、疵(きず) 【5】

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「――あ、真南」


――びくっ

「あ……」

 嘘。なんで?

「おはよう、真南」

 どうして、ここに? しかも、こんな時間に先輩がいるんだ?

「……おはよう、ございます。あの、どうされたんですか? まだ開店時間には早いですけど」

 店の前で俺を待っていたかのような先輩に嫌な予感がしたけど、めちゃめちゃ頑張って目線を合わせた。笑顔、強張ってないかな?

 まともに顔なんて見られないけど、平気なふりをしなくては。

「あぁ、ごめん。ちょっと話があって。昨日さ……」

「……っ……あーっ、すみません! 今日の仕込み、手間がかかるものばかりなんですよ。今すぐ取りかかりたいので、失礼してもいいですか? お話は、また今度ゆっくりということで! すみません!」

「あ、あぁ」

 戸惑ったような声を背で聞きながら、急いで裏口に回った。

 先輩、『昨日』って言いかけてた、今。

 きっと、あの女性ひととのことだ。

 女性の長年の恋が実ったという話だったけど、昨夜彼女は明らかに泣いていて、それを先輩が力強く抱きしめていた。

 女性と恋人との間に、何かがあったんだろう。もしかしたら破局して、そこに先輩が……。

 だから、失恋のことを知ってる俺に報告しに来たんだろうか。

 自分の恋が成就した、と。

「……っ……ふっ」

 そんなの、いいのに。

 わざわざ教えてくれなくても、俺は知ってるのに。

 もう、あなたとともに優しいときを過ごすことはないってことを。

「たった、ひと月……だったな」

 休日の夜に、あなたが訪ねてきてくれることもない。

 俺の隣で寛ぐあなたに、ほっこりすることも。向けてくれる甘やかな笑みに胸をときめかせることもない。

「……あー、でも俺、“知ってた”よ?」

 どのみち俺は、先輩にとって『対象外』。

 愛している女性がいるあの人が、同じ性別の俺に恋情を向けてくれるわけがない。

 たった一度だけ相手をしてくれたのは、先輩の心が乱れてるところに俺がつけ込んだから。

「だから、先月までの俺たちに戻ればいいだけだ」

 俺の作ったスイーツを、愛する女性と食べて笑う先輩。その笑顔のために、ケーキを作り続ける。

 そんな毎日に、また戻るだけ。

 ただ、それだけのこと、だよ。


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