14 / 87
キミの背中に、手を伸ばす。
#6
しおりを挟む――午後4時
臨時のチャイムとともに、文化祭初日終了のアナウンスが流れる。最後のお客様をお見送りすると、教室内の空気が一気に緩んだ。
「おおおおお、終わったぁー! 皆ぁ、おっ疲れさぁーんっ!」
両手を突き上げ、達成感に浸りながら大声でクラスメートへのねぎらいを口にした。
「あー、終わったねぇ」
「うぉ、マジ疲れたぁ」
「だよねー。お疲れさん」
「ほんと、お疲れー」
クラスの皆も、傍にいる者同士、笑顔で互いの頑張りをねぎらい合ってる。まだ明日もあるけど、まずはやれやれだ。
「たーけーだぁ。マジ、疲れたぁ。智穂のために頑張ったぜ、俺ぇぇぇ」
「おー、常陸もお疲れさーん。つか、それは俺じゃなく、兼子にのしかかって言えよぅ」
背後から腕を回し、俺の背中に全体重を乗せてきた常陸の手を軽くポンっと叩き、ねぎらいの言葉をかけた。
「駄目ー。そんなことしたら智穂が潰れちまうから、出来ないー。武田なら何しても大丈夫だから、武田にするー」
「アホか。俺も兼子並みに繊細だっつーの。でも、まぁ今日だけは許す。許しちゃる!」
「許すんかい! なら、やめとくわ。やっぱ、触るなら智穂だ」
「何をー! この浮気者ー! 後でジュースおごったるー!」
「優しさ爆発か!」
うん、マジでおごってやろう。親友の兼子のためとは言え、コイツも幽霊役、頑張ってくれたもんな。
土岐はジュースよりもカフェオレがいいかなぁ……ん? あれ? つか、土岐は?
……どこ?
土岐? どこに居んの?
「なぁ、常陸。土岐は……」
「雪夜! お疲れ様ーっ!」
「おー、智穂! 俺、めっちゃ頑張ったぜっ!」
「ぐえっ!」
肩越しに常陸に尋ねかけたが、兼子に呼びかけられた常陸はあっさり俺から離れていった。俺の後頭部を思いっきり、はたき飛ばしてから。
「いってぇー。常陸のヤツ、平手で思いっきり叩きやがって。てか土岐のこと聞きたかったのに……んだよ、兼子が潰れるから駄目とか言ってたくせに、しっかり抱き合ってんじゃんかよ。両想いかよ、羨まし……」
「武田くん、お疲れ様ー」
「お、秋田」
常陸にはたかれた頭を撫でてボヤいてると、横から秋田が顔を覗かせてきた。その顔を見て、『そうだ、秋田に聞けばいいんじゃん』と閃く。
「お化け屋敷、大好評だったねぇ。好評すぎて、景品のお菓子の焼き上がりが間に合わなくて大変だったよー」
「え、マジ? ははっ! そりゃ、秋田の本格的メイクのおかげじゃね? 焼き菓子作りも大変だったよな。マジ、お疲れさん」
「お菓子作りはチカの専門分野だから、それはいいんだけどね。お化け屋敷は、ちょっと宣伝しすぎたかな。タイプの違うイケメン幽霊三人が揃ってるって前評判で、あっという間に整理券がなくなったからねぇ」
「あははっ! じゃあ、かえって俺らで良かったってことか? なら、大盛況は兼子のおかげだな。――なぁ、秋田。そういえば土岐は? どこに居んの?」
よし、聞けた。不自然じゃなかったよな。
「土岐くん? チャイムが鳴ってすぐに着替えて出ていったよ。なんか用事があるとかで、涼香ちゃんと一緒に出たみたい」
「え……ふたり、で……?」
白藤ちゃんと? ふたり……ふたりきりでっ?
「どこ、行ったん? 用事って? お、俺、ちょっと追いかけてくるっ」
「武田くん、待ちなよ。そんな格好のまま、どこ行くの? 土岐くんに急用?」
「あ……や、別に。えと、助けてくれた礼を言おうかなって」
慌てて幽霊役の格好のまま飛び出しかけた俺の着物の袖が秋田によって引っ張られ、それでやっと我に返る。
やべぇ。動揺しすぎて、うろたえちまった。
「あぁ、なら後でLINEしとけば? 土岐くんも忙しいから、すぐに出ていったんだと思うよ。それに、チカたちも明日の準備しなきゃだし、こっちもまだ色々と忙しいよ?」
「うん、だよな。メッセージ送っとくよ」
よし。強張った顔、ちゃんと元に戻せたぞ。
「実はね、武田くん。女子たちと話し合った結果、明日も武田くんと常陸くんに幽霊役をやってもらうことにしたよ。で、チカが三人目の幽霊役になるね。ということで、ふたりとも! ここに立ってっ」
「おわっ!」
「なっ、なんだっ?」
『ここに』と言いながら俺と常陸をそれぞれ片手で引っ張り、壁に押しつけた秋田がスマホを取り出しながら、にっこりと笑う。小柄なのに相変わらずの腕力と、無言の圧力がこもった笑顔が怖ぇ……。
「明日の宣伝用の写真撮るから、チカの言う通り、じっとしといてねー。はい、手の位置はここ。膝は、こう。顔は、こっちー。あ、武田くんはそのままでいいけど、常陸くんはカメラ目線でお願い。よし、撮るよー」
あれよあれよと言う間に始まった写真撮影。けど俺、なんで常陸と手ぇ握り合ってんだ?
なんで、常陸の膝が俺の股の間にグイッと入ってんだ?
なんで……常陸とほっぺたをくっつけ合って、超絶密着かましてんだよぉ!
マジ、わけわかんねぇ!
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
157
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる