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恋のバカンスは、予言通りにはいかない!?
秘密 #2
しおりを挟むけど、夢みたいに幸せだった時間は、ほんのひと時で終わった。
「武田、次はこれを解いてみろ」
「あ、うん」
教室では、たーっぷりと甘く濃いキスをくれた土岐だったけど。今、俺んちのリビングで隣に座ってるソイツの表情は、そんなコトがあったとはとても思えない完全な無表情。
いや、むしろコッチの顔のほうがテンプレではあるんだけどぉ。仮にも俺たち、ここっ、恋人同士! なわけだしさっ。少しくらい、甘い目線くれてもいいんじゃね?
でも、数学教えてくれてる時のこの厳しい顔つきの土岐もゾクゾクしちゃって大好きなんだけどさ! だから、頑張って解いちゃうんだけどさ!
「できましたっ」
「ふん、解けてるな。よし、次のページもやってみろ」
「あ、この範囲……あの、土岐? 言いにくいんだけどぉ」
「なんだ」
「あ、えーと俺……今日の数学、ちょびっとだけ寝ちゃってぇ。だから、ここはわかんな……」
「あああぁっ?」
――びくんっ!
「は? なんだ、それ。お前、夕方、あんなに熟睡してたじゃないか。その上、授業でも寝てただと? 馬鹿か!」
「ご、ごめん。昨夜、夜中まで英語の勉強を頑張りすぎた反動っていうか……マジ、ごめん」
予想通りの厳しい叱責に目を瞑って謝り倒す。気を抜いて居眠りかましてた俺が悪い。
「おい。まさか授業中にも、あのふざけた寝言かましてたんじゃないだろうな? あ?」
「え? 寝言? 何のこと?」
何だろ? 俺、なんか恥ずかしい寝言、言ってたんだろうか。
「あぁ、そうか。お前、無自覚だったか。だろうな。だからこその寝言というわけか。ふん。尚更、面白くない」
土岐の声色が、低く変わった。俺の大好きな甘めのテノールは、ひやりとするような冷たさを孕んで鼓膜に届いてくる。
何? この、息が詰まるような緊張感と威圧感。
「アイツの夢を見ながらニヤニヤ笑ってたことを追及するのは試験勉強の後にしてやろうと思ってたが、気が変わったぞ」
「……っ」
俺を見る眼鏡の奥の黒瞳が、すうっと細められ、長い指が首元に伸びてくる。
夢って、何? アイツって誰だよ。つか、土岐のこの目! めちゃ怖ぇーっ!
「と、土岐。あの……」
こ、怖ぇ。マジで、怖ぇよ。心なしか、室温まで下がったような気までするよぅ。
「あの、夢とかアイツとか。マジで、何のことか全然わかんねぇんだけど」
「奇遇だな。俺もだ。だから、それを今から聞くんじゃないか――――お前の身体に」
――ぴくんっ
低められた声とともに伸びてきた、土岐の右手。繊細なそれが俺の喉に触れ、中指が鎖骨に沿って、つうっとなぞり上げていった。冷たい指先が艶めかしく動く感触に、身体がぴくりと反応してしまう。
「……あっ、土岐っ」
そのまま開襟シャツの中に入り込み、指先が肩にまで到達する頃には、俺の身体は二度、三度と小刻みに跳ねてしまってる。
「ふっ。相変わらず、敏感だな。だが、まだ手を差し入れただけだぞ。今からこんなことでどうする」
薄く笑った土岐が手のひらをそのままに、今度は左手だけで器用に一番上のボタンを外す。
そうして、緩くくつろげられた制服のシャツの中で、肌にぴたりと添えられていた手のひらが、おもむろに下へと移動を始めた。
あ、えーと、今更だけどさ。『身体に聞く』って言ってたけど、それってさ。
「ひゃんっ!」
下におりた土岐の小指が胸の突起を捕らえ、下から引っ掻くように擦り上げられて、思わず変な声をあげてしまった。
まるで射抜くように、じっと見つめてくる視線に囚われていた思考は、ここに来て初めて自分が置かれている現状を理解した。
あれ? もしかして、これって、やべぇんじゃね?
はっ! やべぇよ。やべぇって! だって、ここ、リビング! うっかり、あっさり、『ひゃんっ』とか感じちゃってたけど、ここは俺んちのリビング!
「あ、あの土岐? えっとさ、ば、場所を考えてほし……」
「感じたか? 俺の指で」
「あっ、ひゃあっ!」
胸の粒に触れる指が、今度は二本になった。たぶん、中指と薬指。二本の指の腹で粒を挟まれ、固く立ち上げたそこをさらにクリクリとこね回されて、また身体が跳ねる。
「お前をこんな風にいつも感じさせてるのは、俺だろ? なら、なぜ他のヤツの夢を見る?」
「あ、土岐。そこっ……あぁ、っ」
あ、駄目。俺、これ駄目。感じすぎちゃうから。
じんじんとした痺れが下腹部におりて、熱いモノが奥に溜まっていくのが、はっきりとわかった。
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