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恋のバカンスは、予言通りにはいかない!?
ビーチボーイズ #10
しおりを挟む「こんなとこ、虫に刺されたのか? 結構赤いけど、痒くねぇの?」
「へっ?」
虫、刺され?
「あっちに救急箱あるから、基矢に薬出してもらって塗ってこいよ」
え? 嘘だろ。もしかして、キスマだってバレてない? 高階、マジ?
「や、いいって。それより、手ぇ離してくんない?」
けど、あんまりじっくり見られたらバレちゃうかもだから、早く離れねぇとっ。
「何、言ってんだ。早めに処置しとけって。うーん、発赤してるだけで腫れてはないな。何の虫だろ?」
うあぁ、じっくり見るなぁ!
「大丈夫! マジで大丈夫だからっ……あっ、うわぁっ!」
「わっ、何してんだよ、お前!」
「冷てぇーっ!」
わわわわっ、最悪! かき氷、こぼしちまったよ。自分に!
耳を摘んでキスマをガン見してくるから身体を捻って逃げようとしただけなのに、持ってたカップを自分にぶちまけるとか、俺はアホかぁ!
「冷てぇし、ベットベトだぁ。最悪ぅー」
「ほら、これで早く拭け!」
――ぴくんっ
首から腹にかけて盛大にこぼしちまったかき氷を取りあえず手で払い落としてたら、高階がタオルを差し出してくれた。
「あっ! じじっ、自分でやるっ」
だけなら良かったんだけど、親切にも拭いてくれようとするもんだから慌てた。
だって、乳首! 乳首の上、めっちゃゴシゴシされてる!
そこ! そこは土岐に弄られまくって敏感になってんだっ。やめてほしい!
そんな風に擦るの、やめてくれぇぇっ!
「たっ、たかっ……高階ぁ、っ」
「――武田」
俺のデッキチェアに片足を乗り上げて拭いてくれてる相手の腕を掴んだ瞬間、名を呼ばれた。
振り向くと、視界の中で白銀色がキラリと煌めいた。俺を呼んだ土岐の眼鏡のフレームに、陽射しが反射してるんだ。
いつから、そこにいたんだろう。恋人が、じっと俺を見つめてる。
「と……」
名前を呼ぼうとした声が、なぜか途中で喉に引っかかった。〝何か〟に押しとどめられでもしたかのように、眩い圧力が俺の身体と意識を縫い止めてくる。
土岐……。
跡形もなく焼き尽くされてしまいそうな、熱く激しい視線。それが、白銀色の砂浜をバックに佇む土岐から向けられていた。
その視線は、目が眩むほどの青白い熱。そして、知った。土岐が放ってくるその灼熱が、俺から声を取り上げていたんだと。
そうして、俺の大好きな相手がゆるりと足を踏み出す。
「高階、どけ」
低く、静かに呟きながら。
陽射しに煌めく、チョコレート色のアンダーリム。流れるフォルムと絶妙な色合いを持つ眼鏡がとても良く似合う相手が目の前に立つまで、ほんの数秒。気づけば、俺は椅子から引っ張り上げられ、土岐の前に立たされていた。
「武田」
俺を見つめ、囁くように名を呼んだ土岐の目線がふっと外され、鼻、唇、そして更に下へとおりていく。
数瞬後、ある一点でその目線は止まった。
「ここ、拭き残してる」
「え?」
——ぴくんっ
無表情での小さな呟きの意味を尋ねる途中で、俺の頬に濃茶色の髪がさらりと触れる。
「あっ」
同時に、生温かく、ざらりとした感触が肌に落ち、それが下から上へとうごめいていった。
「はっ……ぁ、っ」
ビリッとした痺れが肌を走る。相手の腕に掴まったまま背をのけぞらせた俺は、吐息を漏らしながらやっと気づいた。俺の頬に、土岐の髪が擦れてる理由に。
さっきよりも強めに肌に押しつけられた熱が、同じ場所をさらに大胆な動きでなぞり上げてくる。肌に触れる淫らな熱の感触を俺は知ってる。覚えてる。いつも俺をおかしくさせる、とても艶めかしい熱源だ。
「んっ……土岐ぃ」
鎖骨が、舐められたんだ。
イラスト:香咲まり様
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