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恋のバカンスは、予言通りにはいかない!?
美味しい定番 #2
しおりを挟む「武田? どうなんだ?」
「えっ? えーと……えと、えーとっ」
曇りのない深い黒瞳で真っ直ぐに見つめられ、あわあわと目線を動かしながら返すべき言葉を必死で探す。
どっ、どうしよう。何て返事したら、いい? これってさ、土岐のことを大好きな俺にとっては、すんごく魅力的な誘いなわけなんだけどさ。でも、一色と高階が一緒にいるところで仲良く『アーン』とか、そんなラブイチャを堂々とかましてたら、おかしいじゃん?
男同士の鎖骨ペロリンはなぜか見逃してくれた高階も、今度こそ絶対に怪しんでくるに決まってるじゃん?
そんなの困る。普段から残念なヤツで認識されてる俺はいいけど、俺の土岐が変な目で見られるのは、すっげ困る。
つーことは、せっかくの土岐からの嬉しい提案だけど、却下に決まっ……。
「ん? 駄目?」
うっ!
一瞬、ふらつきかけた。クラリと眩暈がして。
『駄目?』って! ちょい首を傾げて目元だけをふんわりと緩めた、この『駄目?』って、ナニ?
何なんだよ。この、すんげぇデロ甘ーい『駄目?』は!
「だだっ、駄目っ」
破・壊・力・ば・つ・ぐ・んっ!
「……じゃないっすぅ」
もぉ、どうにでもして!
こんな土岐に会えるんなら、顎が外れるくらい『アーン』してもいい。ヤってやる。何万回だってヤってやる。その辺のラブラブ新婚カプがどん引くくらいのラブイチャを繰り広げてヤんよ!
そういや、よく考えたら、一緒にバーベキューすんのが一色と高階だから大丈夫なんじゃね?
一色執事が差し出す食いもんを当たり前のように『アーン』して食う高階女王の図。幼なじみの俺らは、見慣れすぎるくらい、ずっと傍で見てきたわ。
アイツらのは一色から高階への一方通行だけど、『アーン』に変わりはない。いや、アレこそが、れっきとした『アーン』だ。
つーことは、俺らがどんだけヤらかしても何の問題もなし!
「——行くか?」
「あ、うん」
ん? あれ? 俺ってば、なんか大事なこと忘れてるような……。
「あっ、ちょい待って! 俺さ、お前に言わなくちゃって思ってたことあった」
『アーン』を了承した俺に軽く頷き、手を繋いできた土岐を、慌ててその場に引きとめる。
「あっ、あのさ、土岐。お願いがあんだけど、いい?」
そうだよ。うっかり忘れるとこだったけど、あのことだけはちゃんと釘を刺しとかねぇと!
「やっぱさ。俺、アレはまずかったと思うんだ。えーと、耳のこれ、なんだけど」
でも、いざとなったら少し恥ずかしくて、右耳の後ろを指差して土岐を横目でチラ見することしか出来なかった。やべぇ、顔も赤いかもしんね。
だってさ。キスマークって、なにげに言いづらいワードなんだよぅ。
「こんな見えるとこに痕つけるのは、やっぱ、やめてくんね? その、ここって目立つ、じゃん? で、もしもこれが原因で誰かに変に勘ぐられたりしたら困る、じゃん?」
耳の後ろだから目立ちにくいって土岐が言ってたけど、あんなにあっさり高階に見つかっちまってたんだもん。
「俺たちがつき合ってること、もしも誰かにバレたら困るじゃん? そしたら、お前とこうして一緒にいられなくなっちゃう。そんなの、やだ。すげぇ、やだっ」
土岐の隣にいられない未来なんて……。
「考えただけで怖いんだよ。だからさ、誰にもバレねぇようにしなくちゃ、じゃん? むしろ、さっきは高階がこれを虫刺されの痕って思ってくれたことが奇跡だからさ」
「わかった」
「あっ……んっ」
え? なんで?
「武田。お前、俺の煽り方が絶妙だな」
「ちょ、何っ……ぁっ、んんっ!」
え、煽り方って何? なんで俺、いきなりキスされてんの?
「はぁ……お前、マジで可愛い」
全っ然、わかんねぇ! この状況、どういうことっ?
「次からは、服で隠れて見えない部分につけることにする。それでいいか?」
「ふぁっ……あっ、あんっ」
ひくんっと、身体が跳ねた。抱き込まれてのキスが続く中、土岐の手が俺の腰回りを撫でてきたから。強めに圧をかけた手のひらが、腰から下へのラインをゆるりと辿っていく。
俺が煽ったとか、そんな俺を可愛いとか。なんでそんなこと言われてキスされてんのか、理由はいっさい不明。
「ひゃっ」
全然、何もわかんねぇけど、熱い吐息を俺の唇に降らせながら狂おしげに両手を這わせてくる所作に、身体は自然とくねってしまう。
「お前の希望の場所、この辺り?」
「えっ? そこはっ」
「ふっ。どうした? お前が、ねだってきたんだろう? 見えない場所にしろと。その希望を叶えるなら、この辺りにつけるしかないじゃないか。明日も海に入るなら、サーフパンツで隠れる範囲にしか痕を残せないんだからな。——さ、そろそろ行くぞ」
「んっ」
再度、身体が跳ねる。「もう行かないと遅刻だ」と言った土岐が、最後にもう一度軽いキスを落とした後、俺の尻をするりと撫でたからだ。
えーと、でも取りあえずキスタイムはこれで終了、かな?
よ、良かった。なんで、いきなりキスされることになったんか全然わかんねぇけど、あれ以上続いてたらヤバかった。
あれ以上、キスしながら腰や尻を撫で回されてたらヤバかった。だってさ、土岐のキスってめちゃエロくてさ。おまけに、キスしてる時の声はさらにエロいんだよ。
だから俺、キスだけでアソコがしっかりと反応しちまうんだ。現に今も、下半身がずくんって熱くなってんだよ。これ、どうしたら……。
「あぁ、そうだ。先に聞いておこうか」
なのに、手を引かれて階段をおり始めた直後、いつもよりも低められた艶声が耳朶にくっついてきた。
「前と後ろ。どっちに、より多く痕を残してほしい?」
「ふぇっ……うわぁっ!」
甘いテノールがエロボイスに変わった瞬間の威力、恐るべし。
下半身の『ずくんっ』が一気に増し、腰砕けになった俺が階段を踏み外しそうになったのは言うまでもなかった。
良い子の恋の教訓。階段でエロボイスを聴きながら耳を舐められてはいけない(命の危険と背中合わせだぞっ)
応援ありがとうございます!
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