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キミとふたり、ときはの恋。【第四話】
いざよう月に、ただ想うこと【4−1】
しおりを挟む「では、立候補者が出ましたので、学園祭の実行委員は投票なしで、こちらのおふたりにやっていただきます」
金曜日のホームルーム。教室内に、チカちゃんの少し高めの澄んだテノールが響いていく。
中間テストが終わり、二学期のメインイベントと言っても過言じゃない学園祭の執行について、学級委員として議題を進めているところだ。
チカちゃんの隣には、副委員長の美也ちゃんの姿もある。
そして、ついさっき、学園祭の実行委員に立候補したふたりも、教壇横に進み出た。
「武田慎吾くん、花宮萌々さん。学園祭の実行委員、及び、この後の議題の進行、よろしくお願いします」
「おう。任せろ、秋田! いぇーいっ! 皆ぁ、高校生になって初の学園祭、めっちゃ楽しんでこーぜ! 俺、実行委員頑張るから皆も協力よろしく! あ、花宮ちゃんもよろしくなっ」
「はっ、はい! あの、これから武田くんと一心同体で頑張る所存です。ふっ、ふつつか者ですが、末永くよろしくお願いします!」
「ぶはっ! なんかプロポーズの返事みてぇだけど、勢いあっていいぞ。ナイスだ、花宮ちゃん」
「お褒めいただき、ありがとうございます。普通に、本気と書いて『マジ』と読む本気ですので、皆さん、どうかお気遣いなく」
「武田くん、花宮さん。明るくて、とても良い挨拶でしたよ。それでは、実行委員として議題を進めてくださいね」
「あっ、はいっ!」
「あっ、はいっ!」
……うわぁ、すごい。
着地点が全然見えなかった武田くんと萌々ちゃんのやり取りに割って入った、穏やかな声色の持ち主。教室の窓側の隅で静かにホームルームを見守っていた担任の先生に、感嘆の目を向けた。
一見、夫婦《めおと》漫才風に横道に逸れたふたりを、『明るくて、とても良い挨拶』って言い切って、そのままさり気なく方向転換したわ。もとい、本来の姿にサクッと軌道修正したのよ。
その場しのぎの横やりじゃなくて、本心からにこにこして言ってるんだとわかる笑顔で。
担任の、佐伯真澄《さえき ますみ》先生。二十四歳。担当教科は、家庭科。念のために付け加えると、男性です。
それから、私とチカちゃんが所属してる料理部の顧問でもある。
失礼だけど、身長はそれほど高くないし、天パのウェーブがふんわりかかった黒髪が縁取るお顔立ちも、はっきり言って童顔。
目はパッチリと大きくて、お料理も上手で女子力は高いし。チカちゃんが大人になったらこんな感じかなって想像しちゃう、とっても可愛くて優しい先生だ。
学校保健部の役職にも就いてらして、私とチカちゃん、それに煌先輩が活動してる保健委員会にも出席されてるんだけど。
この、ふんわり優しい笑顔で必ず何かを褒めながら諭していくパターンで、あの煌先輩ですら、「チッ、真澄うるせぇ」ってボヤキながらも真面目に活動しちゃってるの。ほんと、すごいのよ。
でも、そんな時、いつも疑問に思うことがある。
煌先輩、どうして佐伯先生のこと、いつも下の名前で呼んでるのかしら? しかも呼び捨てで。
佐伯先生も、それについて叱ったりしないし。おまけに、たまに『花宮くん』じゃなくて『煌くん』って呼んでる時があるのよねぇ。
……うーん……うーん。なんでかなぁ?
「あ、もしかして佐伯先生。先生も昔々、実は煌先輩みたいなヤンチャ族だったのかしら?」
「ふはっ! ヤンチャ族って何?」
「え……あれっ? 奏人? え? えっ?」
突然、背後であがった笑い声。聞き間違えようのない、大好きな人のその声が、渡り廊下の柱にもたれて立つ私の耳に届いてきた。
「お待たせ」
そして肩に手が乗り、顔が覗き込まれる。
「今日の独り言も可愛かったよ。帰ろうか」
とっくに見慣れた、優しく穏やかな笑みは、ホームルームでの出来事を思い出していた私の無防備な意識を、一気に相手の色に染めた。
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