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ニナとルイ
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(…ヌキ…タヌキ。)
(…ん…。誰?)
眠いし、身体が熱くて少し苦しいんだ。後でいい?
(オレが分からない?)
(あれ…王子??…なんで?)
(屋敷に来ただろう)
(ごめんね、もう行かないようにするから殺さないで?)
(誰かにそう言われた?)
(王子が言ったんだよ)
(言わないよ)
(そっかあ。そうだったかな?もう良くわからない)
(身体が辛い?)
(うん、なんかね。寝たら治ると思うよ)
(こっちに来る?)
(王子の屋敷?)
(違うよ。屋敷には当分帰れそうにないんだ)
(忙しいんだね)
(そうだね。おまえがこんな事になっているのに、気付けない程にはね)
(??そう言えば、オレ、王子と話せてるね)
(俺とタヌキの中には、同じ場所に同じ魔石が入っているんだ。その魔石を通じておまえに話しかけてるんだよ)
(えっ?魔石?何で??)
(タヌキが心配だからだよ)
(オレが心配?どうして?まだ一回しか会ったことないのに)
(さあ。理由なんてないよ)
(…。王子、オレもだよ。オレも王子が忙しくて、倒れちゃったら嫌だよ)
(そうなったら、そばで看病してくれる?)
(当たり前だよ)
(ふふ、ありがとう。…そろそろ終わるからね)
(終わるの?これ?あのね、だったらね)
(うん)
(オレの名前はニナって言うんだよ。タヌキって名前じゃないからね)
(ふふ…ニナ…ニナか…可愛い名前だね。オレはルイだよ)
(ルイ…?)
(ニナ、もうすぐだからね)
(なにが?)
もうすぐだよ。
ピカッと大きく光った場所に、ふよふよと小さな魔獣の身体が現れる。
「殿下…転送は成功しました…」
アティカスが硬い声で呟くように言った。
真っ白でふわふわだった毛は、びっしょりと濡れていて、ところどころ血や泥がついて汚れている。
酷く痛々しい。
苦しそうに短く息をして、寒いのか震えている。
「アティカス」
「はっ」
「アンナ・エバンズを王都へ」
「…承知致しました」
くったりとした、今にも生き耐えてしまいそうな身体を抱き上げ、額に手をあてる。
浮かび上がるのは、ルイの目と同じ菫色の魔石。
フロでのぼせて意識を失う前に言っていた。
王子の目の色、嫌いじゃないよ、と。
だから、それもいいと思った。
なぜ初めから、この魔獣が気になる?
分からない。本当に理由なんてないのだ。
ああ、結局首輪なんて、あまり意味はない。
「ニナ、ごめんね。放し飼いはもう終わりだよ」
(…ん…。誰?)
眠いし、身体が熱くて少し苦しいんだ。後でいい?
(オレが分からない?)
(あれ…王子??…なんで?)
(屋敷に来ただろう)
(ごめんね、もう行かないようにするから殺さないで?)
(誰かにそう言われた?)
(王子が言ったんだよ)
(言わないよ)
(そっかあ。そうだったかな?もう良くわからない)
(身体が辛い?)
(うん、なんかね。寝たら治ると思うよ)
(こっちに来る?)
(王子の屋敷?)
(違うよ。屋敷には当分帰れそうにないんだ)
(忙しいんだね)
(そうだね。おまえがこんな事になっているのに、気付けない程にはね)
(??そう言えば、オレ、王子と話せてるね)
(俺とタヌキの中には、同じ場所に同じ魔石が入っているんだ。その魔石を通じておまえに話しかけてるんだよ)
(えっ?魔石?何で??)
(タヌキが心配だからだよ)
(オレが心配?どうして?まだ一回しか会ったことないのに)
(さあ。理由なんてないよ)
(…。王子、オレもだよ。オレも王子が忙しくて、倒れちゃったら嫌だよ)
(そうなったら、そばで看病してくれる?)
(当たり前だよ)
(ふふ、ありがとう。…そろそろ終わるからね)
(終わるの?これ?あのね、だったらね)
(うん)
(オレの名前はニナって言うんだよ。タヌキって名前じゃないからね)
(ふふ…ニナ…ニナか…可愛い名前だね。オレはルイだよ)
(ルイ…?)
(ニナ、もうすぐだからね)
(なにが?)
もうすぐだよ。
ピカッと大きく光った場所に、ふよふよと小さな魔獣の身体が現れる。
「殿下…転送は成功しました…」
アティカスが硬い声で呟くように言った。
真っ白でふわふわだった毛は、びっしょりと濡れていて、ところどころ血や泥がついて汚れている。
酷く痛々しい。
苦しそうに短く息をして、寒いのか震えている。
「アティカス」
「はっ」
「アンナ・エバンズを王都へ」
「…承知致しました」
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浮かび上がるのは、ルイの目と同じ菫色の魔石。
フロでのぼせて意識を失う前に言っていた。
王子の目の色、嫌いじゃないよ、と。
だから、それもいいと思った。
なぜ初めから、この魔獣が気になる?
分からない。本当に理由なんてないのだ。
ああ、結局首輪なんて、あまり意味はない。
「ニナ、ごめんね。放し飼いはもう終わりだよ」
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