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第6章 龍の後継と、思い出せない記憶
そろそろ、尋問します
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自分を背後から抱え込む大柄な竜族の王子の頭の上でぽんぽんと軽く手を弾ませ。
セラフィナは少し苦しい体勢だけれど首を廻らせ、自分と目を合わせるようにナーガを促す。
気配を察して目をあげたナーガは、面白くなさそうな顔で、セラフィナとしっかりと目を合わせた。微かに舌打ちさえ聞こえる。
「とりあえず、ナーガ」
「ああ」
言いたいことは察しているけれど、自分からは言わない。返事だけをするのに顔をしかめながら、セラフィナはため息を漏らした。
「この間から、いろいろと中途半端に、わたしのこと誤魔化してるでしょう?」
「ほら、黙っちゃう」
不貞腐れた声を出したと思うと、伸ばした手が、容赦なくナーガのヒトより尖った耳を掴んで引っ張った。
耳をさすりながら、ナーガはしっかりとセラフィナを抱え込んでぶつくさと文句を言っている。セラフィナにしてみたら、文句を言われる筋合いはない。
というより、セラフィナの方が言いたいくらいで。緊急避難場所に使わせてもらった上に、心ゆくまで療養させてもらっていたから話してくれるのを待っていたけれど、これは待っていればそれを良しとして話してもらえないやつだと流石に察する。
ついでのようにそこからシファやルーンが姿を隠そうとするから、そちらにもにっこりと笑顔を向けた。抱え込まれて動けないと思って甘くみるなよ、と。
その笑顔に、クレイは寒気がするばかりだ。逆らえないやつだ、と感じていれば、案の定、シファもルーンも身を固くしてその場にとどまる。
無視して逃げたら最後、二度と、というほどのことをセラフィナはできないけれど、しばらく口をきいてもらえないやつだ。
「で。誰がどれから、話してくれる?」
「どれからって?」
「まだとぼける」
抱え込まれていることを諦めたのか受け入れたのか、ナーガが胡座に組んだ足の中に膝を立てて座り向き合ったセラフィナは、手を伸ばしてナーガの頬を抓んで引っ張る。
「お前、あちこち引っ張るな」
「あれこれ隠すな?」
さらりと笑顔で言い返され、もう一本手を伸ばされ、流石にそれはナーガも手首を掴んで引き下ろす。
「じゃ、とりあえず。ナーガでもシファでもルーンでもいいから。なんで、最近わたしの近くに精霊がいないの?シファとルーンがいるから、愛想尽かされたわけじゃないと思うんだけど」
そこにクレイの名前を出さないのは、さすがだな、とナーガは恐れ入る。誰が隠し事をしているか、きっちりと見極めている。
答えを聞くまで、今度は話を逸らされることも、邪魔が入ってもとりあえず動く気もないことは、雰囲気でわかって。
ルーンがため息をついてセラフィナに歩み寄った。これを伝えるのは、シファは気まずいだろう、と。伝えたところで、元から縁の薄い闇の精霊であるルーンには、関係ないと言えば関係ない。
「精霊たちは、お前に怒られたくないんだ」
「怒られるようなこと、したの?」
あの国で、とクレイを見れば、クレイもその目を逸らす。
シノンを罰する場に、クレイもいた。クレイも、容赦はしなかったし、そのことを後悔もしていない。ただ、セラフィナが喜ばないことは、わかっている。
伝えた方が楽で、目を逸らしたまま、クレイは絞り出すような声で伝える。
「シノンを、罰した」
「…どんな罰を?」
説明を聞けば、セラフィナはただ、静かに目を閉じる。それは、不可抗力。シノンがその身に取り込んだあるべきでないものを取り除いた結果、シノンが姿を保てないのであればそれはもう、自らが招いた結果。
むしろ、と、クレイを見上げる。
「嫌な役回りをさせて、ごめんね、クレイ」
黙って首を振るクレイが、堪えるように立ち尽くしているのを見つめ、それからその目をルーンに戻す。
「でもそれじゃ、精霊が近づいてこない理由にならない。あなたたちはそれを、当然だと思っている。精霊が決めた罰だもの」
「皆、拒否しているんだよ」
「?」
「わたしたちの大事な姫を傷つけた国に、その力を注ぎたくはないと。誰が、ではない。それぞれが自分の意思で、あの国を去った。その結果、あの国は今、精霊が不在になっている」
それは、国土が枯れるということ。セラフィナの母国に訪れた状態に近いもの。元々のセラフィナの国のように精霊の恩恵を強く受けているわけではない。それでも、遍く存在する精霊から自然な流れとしてその恩恵は全ての地が本来は受けることのできるもの。
「闇の精霊であるわたしが、いつまでもここにいるほどに、お前は傷ついた」
「…近いうちに、あの国にいく。そうしたら、いやでも精霊は戻るでしょう?」
言った途端に、セラフィナを抱え込むナーガの腕に力がこもる。見上げると、何か言いたげな目に見下ろされていた。
「ナーガ?」
「今度は、俺も行く。それから、伝えることができそうなら、お前が知りたいもう一つも、話してやる」
ヒトでない生き方、という意味を。
どちらにしてもその前に、魔族の地で魔族からも迷惑がられている存在を片付けないといけないけれど。
セラフィナは少し苦しい体勢だけれど首を廻らせ、自分と目を合わせるようにナーガを促す。
気配を察して目をあげたナーガは、面白くなさそうな顔で、セラフィナとしっかりと目を合わせた。微かに舌打ちさえ聞こえる。
「とりあえず、ナーガ」
「ああ」
言いたいことは察しているけれど、自分からは言わない。返事だけをするのに顔をしかめながら、セラフィナはため息を漏らした。
「この間から、いろいろと中途半端に、わたしのこと誤魔化してるでしょう?」
「ほら、黙っちゃう」
不貞腐れた声を出したと思うと、伸ばした手が、容赦なくナーガのヒトより尖った耳を掴んで引っ張った。
耳をさすりながら、ナーガはしっかりとセラフィナを抱え込んでぶつくさと文句を言っている。セラフィナにしてみたら、文句を言われる筋合いはない。
というより、セラフィナの方が言いたいくらいで。緊急避難場所に使わせてもらった上に、心ゆくまで療養させてもらっていたから話してくれるのを待っていたけれど、これは待っていればそれを良しとして話してもらえないやつだと流石に察する。
ついでのようにそこからシファやルーンが姿を隠そうとするから、そちらにもにっこりと笑顔を向けた。抱え込まれて動けないと思って甘くみるなよ、と。
その笑顔に、クレイは寒気がするばかりだ。逆らえないやつだ、と感じていれば、案の定、シファもルーンも身を固くしてその場にとどまる。
無視して逃げたら最後、二度と、というほどのことをセラフィナはできないけれど、しばらく口をきいてもらえないやつだ。
「で。誰がどれから、話してくれる?」
「どれからって?」
「まだとぼける」
抱え込まれていることを諦めたのか受け入れたのか、ナーガが胡座に組んだ足の中に膝を立てて座り向き合ったセラフィナは、手を伸ばしてナーガの頬を抓んで引っ張る。
「お前、あちこち引っ張るな」
「あれこれ隠すな?」
さらりと笑顔で言い返され、もう一本手を伸ばされ、流石にそれはナーガも手首を掴んで引き下ろす。
「じゃ、とりあえず。ナーガでもシファでもルーンでもいいから。なんで、最近わたしの近くに精霊がいないの?シファとルーンがいるから、愛想尽かされたわけじゃないと思うんだけど」
そこにクレイの名前を出さないのは、さすがだな、とナーガは恐れ入る。誰が隠し事をしているか、きっちりと見極めている。
答えを聞くまで、今度は話を逸らされることも、邪魔が入ってもとりあえず動く気もないことは、雰囲気でわかって。
ルーンがため息をついてセラフィナに歩み寄った。これを伝えるのは、シファは気まずいだろう、と。伝えたところで、元から縁の薄い闇の精霊であるルーンには、関係ないと言えば関係ない。
「精霊たちは、お前に怒られたくないんだ」
「怒られるようなこと、したの?」
あの国で、とクレイを見れば、クレイもその目を逸らす。
シノンを罰する場に、クレイもいた。クレイも、容赦はしなかったし、そのことを後悔もしていない。ただ、セラフィナが喜ばないことは、わかっている。
伝えた方が楽で、目を逸らしたまま、クレイは絞り出すような声で伝える。
「シノンを、罰した」
「…どんな罰を?」
説明を聞けば、セラフィナはただ、静かに目を閉じる。それは、不可抗力。シノンがその身に取り込んだあるべきでないものを取り除いた結果、シノンが姿を保てないのであればそれはもう、自らが招いた結果。
むしろ、と、クレイを見上げる。
「嫌な役回りをさせて、ごめんね、クレイ」
黙って首を振るクレイが、堪えるように立ち尽くしているのを見つめ、それからその目をルーンに戻す。
「でもそれじゃ、精霊が近づいてこない理由にならない。あなたたちはそれを、当然だと思っている。精霊が決めた罰だもの」
「皆、拒否しているんだよ」
「?」
「わたしたちの大事な姫を傷つけた国に、その力を注ぎたくはないと。誰が、ではない。それぞれが自分の意思で、あの国を去った。その結果、あの国は今、精霊が不在になっている」
それは、国土が枯れるということ。セラフィナの母国に訪れた状態に近いもの。元々のセラフィナの国のように精霊の恩恵を強く受けているわけではない。それでも、遍く存在する精霊から自然な流れとしてその恩恵は全ての地が本来は受けることのできるもの。
「闇の精霊であるわたしが、いつまでもここにいるほどに、お前は傷ついた」
「…近いうちに、あの国にいく。そうしたら、いやでも精霊は戻るでしょう?」
言った途端に、セラフィナを抱え込むナーガの腕に力がこもる。見上げると、何か言いたげな目に見下ろされていた。
「ナーガ?」
「今度は、俺も行く。それから、伝えることができそうなら、お前が知りたいもう一つも、話してやる」
ヒトでない生き方、という意味を。
どちらにしてもその前に、魔族の地で魔族からも迷惑がられている存在を片付けないといけないけれど。
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