拾われにきた獣〜氷の獣人公爵〜

明日葉

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3 森でした

2日目 夜

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「あ、充電、やばっ」


 ふと、スマホの充電が残り20%を切りそうになっているのに気づき、栞里が声をあげた。

「ジュウデン?」

「これを動かすためのものなんだけど…」

「どうにかならないのか」

 ルーシェが眉間にしわを寄せる。栞里の拙い話を驚くほど真剣に、そして答えられないほどの高レベルな質問を交えて聞いていたこの異能の人…いや、エルフは、このままでは使えなくなる、ということはすぐに理解したらしく、もどかしい様子で尋ねる。この道具の助けがなければ、栞里は十分な説明ができない。というよりも。

 栞里がぎりぎり理解できるレベルに噛み砕いてまとめた資料の文字は読めないが、図式などはなんとなく読み取れるわけで。結果、栞里にひたすら読み上げさせながら画面を追う、という作業をルーシェは飽きもせずしていた。小さな画面を見るのに最も効率が良い、と自分の膝の中に栞里を座らせ、背後から画面を覗き込み、栞里が読み上げている説明が示す図は栞里の指が伝えてくれる。
 扱い方も覚えたようで、画面のスクロールや拡大縮小も勝手にやるようになっていた。


「ヴィルにはこっちに持ってこれた時に困らないように試してもらってたんだけど…ああ、そうか」


 残電池の範囲で、発電の仕組みをこの天才的なエルフが理解してくれれば良いのだ。ただ、この世界に電気が必要とは思えず、あまりしっかり調べていない。から、説明もできない。
 調べかけた図式がある程度なのだが。電気を充電して、活用する理屈が、正直、そういうものだ、と思って生活しているからどうにも説明ができない。
 充電を雷魔法で代替できるか、というのはヴィルの宿題にしていて、栞里の端末にはほとんど入っていない。

「獣人にできるのならばできるだろう」
「できるようになってたのかなぁ…」
「確認していないのか」


 呆れたルーシェの口調に、栞里は言い返せない。ルーシェは、いつ栞里が帰ってしまうか分からないからと寸暇を惜しんで話を聞こうとした。栞里は、まだ時間があるだろうと根拠もなく思って、先延ばしにしていた。
 今思えば、どんなにいろいろなことを詰め込んだとしても、それをこちらで何かの記録に起こしたり、誰かが実用化して身につけるまでは最優先で必要なことなのに。


「雷魔法を応用してもらおうと思っていたんだけど」
「…まあいい。帰ったら、きちんとそれもできるようにしておけ。宝の持ち腐れにするつもりか」
「宝?」
「面白い知識だ」
 ものすごく興味はあるのだろうなということは聞かなくても分かるくらいにルーシェは真剣に時間も忘れて聞いていたが、そこまで言ってもらえたことに栞里は嬉しくなる。
「こっちで、いらないものじゃない?持ち込んではいけないものではない?」
「お前が、使い方を間違えることを恐れていた理由も、聞いていて分かった」
 栞里が最初に伝えた薬は、量を間違えたりすると、麻薬になる。それがどういう結果を招くかを伝えながら、こちらではどのような影響が出るかもわからないからとため息をつく。薬に栞里たちにとってはなっている量でも危険かもしれないし、逆に足りないかもしれない。

 それを真剣に聞きながら、抽出方法や精製方法は、こちらのやり方で試そう、と言いながらルーシェは薬草に含まれる成分…というか、どんな効能を求めてその植物を使用していたかを聞く。


「薬を作り出す時、症状に合わせて作るのだろう。その、最初のところは、どうしているんだ」
 感染症の話をした時には、そんなことをまず聞かれた。環境が違う以上、同じ感染症が発生するとは思えない。であれば、薬を作り出すための技術の方を聞きたがった。
 まだそこは、栞里も調べているところで、しっかりまとまっていないところをルーシェの質問に答えようと行ったり来たりしていたところでの、充電わずかな状況だった。



 どうしようか、とルーシェを振り返ろうとした時、すぐそばで涼やかな声が咎めるように降ってくる。
 見上げればそこに、リアが立っていた。ほっそりとした体がなんだか、輝いて見えるから、さすが、月の精、と思っていたのだが。



「お二人とも、こんなところで何をしているのです。こんなに暗くなっても戻られないので、探しにきましたよ」
「暗く?」


 言われて栞里は抱えられたルーシェの腕の中からリアの背後を改めて確認すれば、確かに、真っ暗で。でも、今まで困らない程度に明るかった、と思えば、ルーシェが背にして座っている木の枝から光る球状のものがいくつも垂れ下がっている。

「ルシエール様、興が乗ったのはわかりましたが、食事もさせずにこんなに長時間、シオリを拘束するのはおやめください」


 その言葉を聞いた瞬間、空腹を思い出したように栞里のお腹が控えめではあるが、くぅ、と鳴いてしまい。
 頭の上から押さえたような笑い声がする。押さえていても、振動が体に伝わるからわかるんだけど、と正直で素直すぎるお腹を恨んでこれ以上ならないように押さえていると、ふわりと柔らかく体が持ち上げられた。
「わたしも時間を忘れていた。お前と話すのは楽しいな」
「っルーシェ!おろしてください。歩けます」
「今までくっついていたものを、何を今さら恥ずかしがる。足元が暗い。まあ、照らしてやっても良いが」
「…うぅ」

 葛藤するように唸ったけれど、抱え上げられたルーシェの肩越しにこの森を眺めれば、自然と、おろして、と今度は呟くように言っていた。

「自分の足で歩いて、夜のこの森もちゃんと見たい。なんてきれい」


 星明かりと、月の光。それを受けて光を反射する水の流れ。そして、不思議な、ひかる草花。


「照らしてくれなくていい。この、柔らかい明るさでいい」


 電気の明るさを、明るすぎる、とヴィルが言っていて。きっといらないと思った。やっぱり、いらないと思う。便利になる部分もあるかもしれないけれど、それは多分、魔法で補える部分が大きいから。


「…転ばない自信はないから、手を繋いでいるか、服に捕まっていてもいいですか?」
「ふっ」

 栞里の言い方に、思わずルーシェは笑ってしまう。
 体をそっと地面に下ろし、そのまま、栞里の手をとってゆっくりと歩いた。空腹よりも、この森を見ることを望んだ少女の頭を軽く撫で、その歩みに合わせ、立ち止まり、道を逸れと、しながら。








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